《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》風邪

「ぶぇっくしょい!」

何というか、予想していなかったわけではないが、全に水を浴びた影響が出てしまったようだ。

幸いなことに熱は高くないが、學校へ行くのは難しいだろう。

ユイちゃんも風邪をひいていないか心配だったのでメッセージを送ってみたが、彼はピンピンしているようだ。

「めちゃくちゃ微妙にだるいな……」

こういう時、一人ではし寂しさをじる。

黒咲には今日は休むと連絡しておいたし、のんびり療養するとしよう。

『ピンポーン』

その時、家への來客を知らせるインターホンが鳴り響いた。

普段は誰も來ないっていうのに、調が良くない時に限って一誰だ。

しょうがない、用件を聞きに行くか……。

重いかして、やっとのこと玄関に辿り著くと、鍵を外してドアを開ける。

「……黒咲?」

「先輩! 大丈夫ですか!?」

宗教の勧かと思えば、買い袋を片手に持った後輩の姿があった。

「……で、先輩はあのメイドさんとデートしたわけですね?」

「いやほら、大切なのは片山の相談であって今は――」

「水族館、行ったんですよね?」

「行きはしたけどな? 別にやましい事は何もしてないぞ?」

この返答に何の効果もない事を、自分で言っていてもよく分かる。

現狀の説明をしておこう。

突然家を訪ねてきた黒咲に困するままに寢かされ、看病をけているのだ。

會話もできないほど衰弱しているわけではないし、雑談がてら彼にも巖城さんについての意見をもらおうと思い、一応ユイちゃんの意見を伝えてみたのだが……。

全く迂闊だったというか、黒咲がどう思うか考えていなかった自分の落ち度だ。

その結果、風邪の時に向けられるには威力の高過ぎる視線が俺を貫いている。

「あーあ、私も行きたかったなぁ水族館。先輩がってくれたらいつでも飛んで行くのになぁ。こんなに可い後輩を差し置いてデートに行くなんてなぁ」

「うぐっ……」

こちらの反応を橫目で見ながら、不貞腐れた素振りで會話を続ける後輩。

別に付き合っているわけでもないのに、何故か罪悪じてしまう。

「く、黒咲は行きたいところとかないのか? 風邪が治ったら行こう」

「私ですかぁ〜? 私は水族館に行きたかったなぁ〜」

「ご、ごめんな? じゃあ、水族館行くか?」

水族館は何回行っても楽しいし、実は年パスを買うのも視野にれていた。

一度行ってしまったので新鮮な反応ができないのが殘念だが、黒咲に申し訳ないし一緒に――

「ぷふっ、冗談ですよ。水族館はまた今度にして、他のところに行きたいです」

「そうか……? リクエストとかあったりする?」

「じっくり考えておきます!」

「お手らかに頼むな」

わざわざ看病にまで來てくれたんだ、大抵のお願いは聞いてやらねば割りに合わないだろう。

というか、俺にはいくつか疑問があるんだが。

「黒咲、學校はいいのか?」

「はい! どうせ行っても、先輩が心配で授業にりませんから」

「申し訳ないな……」

「気にしないでください! 今日は私が先輩の面倒見てあげますから、安心してくださいね?」

「ありがとな。で、もう一つ重要な質問なんだが。何で黒咲は俺の家を知ってるんだ?」

「えっ!? そ、それはですね……」

そう、俺は黒咲に家の場所を教えた事はないのだ。

だから何故彼が家に來れたのかが全く分からない。

當の本人はとても居心地が悪そうに、どうにか話を誤魔化す方法を考えているように視線を左右にかしている。

「……噓ついてもバレるぞ」

「あ、あの……引かないでほしいんですけど」

「約束はできないが言ってみろ」

「それがですね……この間、出來心で跡を付けてしまったというか……」

「……黒咲も割と変態だよな?」

「ごめんなさいです……」

まぁうん、別にいいか。

は異常と言えば異常だが、そのおで俺は今孤獨をじずに済んでいるわけだし、彼も迷がかからないようにストーキングしていただけだし。

言葉だけ聞くと全然安心できないな?

「まぁいいよ、今回のことは不問にしよう」

「本當ですか!? ありがとうございます!」

「でも悪用するなよ。あ、それと片山の話はどう思う?」

忘れかけていた相談の答えを聞いてみる。

黒咲は手を顎に當てながら考えているようだ。もう片方の腕は反対側の脇の下へとびており、を持ち上げるようなポーズになっていて、自然と大きな膨らみに目が吸い寄せられてしまう。

「……先輩? 言ってもいいですか?」

「はい。よろしくお願いします」

「えっとですね、先輩の友達の事はよく分からないですけど、話を聞く限り悪い人じゃなさそうですし、私もゆっくり距離を詰めていけばいいと思います」

「やっぱりそうだよなぁ。地道に頑張るしかないか」

「そうですね。何かきっかけとかがあればいいんですけど」

「きっかけか……。とりあえず考えてみるよ、ありがとう」

ふむ、ユイちゃんと同じように、ゆっくり距離を詰めていくのがいいという結論だ。

無難だが、だからこそ一番可能がありそうな方法だもんな。

後は風邪が治って、この意見を片山に伝えてから考えるとしよう。

「それで先輩、私の見てましたよね?」

「……いや、熱で視點が定まってなかっただけじゃないか?」

「そうなんですかぁ? 私の目見てもそんな事言えます?」

そう言うと黒咲はぐっと距離をめ、俺の目を見つめてくる。

二人顔は10センチも離れておらず、首をばせばれてしまいそうな危うさ。

の気の強そうな目はしとろんとしていて、何故かとても妖艶な雰囲気を纏っていた。

「く、黒咲……?」

「先輩……私……」

黒咲の手が俺の寢ているベッドに置かれる。

徐々に前屈みになる彼と、しずつまるの距離。

そのまま二人の影は重な――

『ピンポーン』

プロのバスケ選手も真っ青なカットが、黒咲のきを止めた。

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