《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》風邪 その2

「もう、何なんですか! せっかくもうちょっとだったのに! ちょっと文句言ってきます!」

怒っているにしては可らしい口調で黒咲は階下に降りていく。

二人とも完全にあの雰囲気に呑まれていたしな、むしろ思わぬ來客に救われたかもしれない。

しかし、他にこの家に用がある人間なんて想像つかないんだが、一誰なんだろう。

もしかすると、今度こそ本當に宗教か何かの勧かもな。だとしたら、黒咲を守るのは俺の仕事だ。いつでもけるように準備しておかなければ。

「……で…………ですか!」

靜かに様子を伺っていると、訪ねてきた人間と相対しているであろう黒咲の聲が微かに聞こえる。

二階にある俺の部屋まで聞こえるって、なかなか大きい聲で喋ってるな!?

よくよく聞いてみると聲のトーンはし荒々しく、言い合っている……?

そう疑問に思っているのも束の間、下の階からドンドンとこちらへ近づいて來る足音が聞こえてきた。

そのすぐ後ろには、もう一つの移音。誰かが歩くのを誰かが追いかけているというじの騒がしさ。

音の様子から推察している間にも、それは俺の部屋に真っ直ぐ近づいてきて――

「宮本君、大丈夫!?」

「ちょっと、なに勝手にってるんですか!」

……淺川がいた。

「……で、宮本君はそのメイドさんとやらと水族館デートをしたんだね」

「いやほら、大切なのは片山の相談であって今は――」

「水族館、楽しかった?」

「そりゃあ楽しかったけど、別に今それは関係ないんじゃないか?」

この返答に何の効果もない事を、自分で言っていてもよく分かる。

あれ、なんか非常に既視があるぞ。ループの主人公ってこんなじなのかもしれないな。

再び現狀の説明をしておこう。

突然家を訪ねてきた淺川の勢いに押されるまま、俺は看病されているというわけだ。

黒咲は以前のように白目を剝いて死にかけているし、俺は俺で暇を持て余しているので雑談がてら淺川にも巖城さんについての意見をもらおうと思ったのだが。

その結果、もはやそんなに気にしてもいないが、俺のには本日二本目の剣が刺さっていた。

ただ、もともと凜々しい顔立ちの淺川に睨まれると、流石に萎してしまうな。

「先輩は……渡しま……せ……」

あっちはあっちでまだまだ回復しなさそうだし、同じように淺川にも疑問をぶつけてみるとしよう。

「淺川、今授業中なんだけど」

「朝のホームルームで宮本君が風邪だって聞いたから、看病してあげようと思って。風の噂で家に一人だって知ってたからさ。それがまさか、この子がいるなんて」

その心遣いはありがたいが、風の噂ってなんだよ。風邪とかけてんのか?

やかましいわ。

「あ、ありがたいことに黒咲も俺を心配して來てくれたんだよ。淺川は今からでも授業をけたほうがいいんじゃないか?」

「心配してくれてありがとう。でも、世界で一番大切な人が苦しんでるのに集中なんてできないよ」

うわ、強さの中に優しさをじさせる微笑みのおかげで臭いセリフが中和されてる。

ちょっと本當に、場合が場合ならコロッと落ちてしまいそうな威力だな。

「それはなんていうか、ありがとな? 理由は分かったから、片山の話について聞いてもいいか?」

「……んっ。そうやって話を逸らされるのも意外と良いかも。片山君の話だったら、私に良い考えがあるよ」

……良い考えとはなんだろう。

何故嬉しそうにを捩ったのかにはれないでおくとして、彼の策を聞いてみるか。

「その良い考えっていうのはなんだ?」

「それは次のロングホームルームでのお楽しみだよ。片山君には興味ないけど、そういうって面白そうだし、私も手伝うよ」

「あれ、淺川って意外とバナとか好きなタイプなのか?」

「好きだよ。特に馴染とかの話が好きかな。やっぱり馴染が一番の理解者だと思うし、友達から人に向かっていく様子が堪らないよね。私もそういうしてみたいな」

「…………俺はあんまりバナしないかはわからないなぁー」

どこがとは言わないが、會話の中から恐ろしい圧をじるので話を強引に終わらせる。

理由はともかく、淺川は顔も広いし巖城さんの報を仕れてくれるかもしれない。そう考えると、協力の申し出はとてもありがたいだ。

「それじゃあ、々やることができたから私はこの子とお粥を作ったら帰るね」

「え!? 私はまだ先輩と一緒にいたいんですけど!?」

淺川が黒崎の腕を摑むと、そこからヤバいでも注されたのか彼は元気を取り戻した。

「あんまり付きっきりだと宮本君も疲れちゃうと思うし、私もこれから毎日の楽しみを邪魔したくないんだけど、それでもここにいたい?」

いやもうバリバリ脅しである。

自分を巻き込む提案になんとか抵抗する黒咲だったのだが、ここまで言われては流石にキツいものがあるだろう、俺に助けを求める眼差しが向けられる。

「二人のおでだいぶ元気になってきたし風邪うつしても嫌だから、俺は一人で大丈夫だよ」

「うぅ……。辛かったらいつでも連絡してくださいね? 飛んで行きますから!」

「うん、ありがとう黒咲。淺川もありがとう」

「気にしないで。ほら、茜ちゃんだったよね、行くよ」

「やっぱ嫌です! 助けてください! せーんぱーい!」

「……頑張れよ」

魔王に引きずられる形で黒咲は退場していった。

二人のおで元気も出てきたことだし、早いとこ治すとするか。

ちなみに、お粥はめちゃくちゃ味しかった。

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