《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》小學生推參
日間5位&月間4位になっていました!
10000ptももうすぐそこまできました!
沢山の応援、ありがとうございます!
「お兄ちゃんが…………小學生になっちゃった…………?」
俺のアバターを見た真冬ちゃんが、信じられないというように頭を押さえてく。普段の俺とかけ離れたその姿にどうやら衝撃を隠し切れないようだった。無理もない。
「かっわいいでしょー? ほら真冬、これがアンタの新しいお兄ちゃんよ」
靜がニヤニヤしながらノートパソコンを持ち上げ、真冬ちゃんに近づける。真冬ちゃんはそれをまじまじと見つめて…………信じられない言葉を発した。
「…………確かに、可いかも」
「でしょー!? 絶対人気出るわよー」
「マジかよ…………」
真冬ちゃんはディスプレイを見つめると頬を緩ませた。一どうなってんだ。
「なんだか、昔のお兄ちゃんみたい」
「そうかあ? 昔の俺って、もうし渋みが滲み出てたような気がするけど」
「全然そんなことないよ。優しくて…………かっこよかったもん」
「…………そうか」
俺はこっ恥ずかしくなって顔を反らした。昔の事を言われるのは、今の事を言われるよりむずい。
「ちょっとおふたりさーん、私がいない時代の思い出に浸るのは止めてくださーい。可い靜ちゃんを除け者にするのはよくないぞー?」
靜がうざったいきで視界を荒らしてくる。可い靜ちゃんという存在が見當たらなかったので俺は頭を振って探したが、見つかることはなかった。
「それにしても…………ついにラフが出來たかあ。デビューまでもうしだね」
「そうなのか?」
「普通は外部に委託するからここから何ヶ月もかかるんだけどね。うちは社に絵師さんとかエンジニアさん抱えてるから一ヶ月も掛からないよ」
「…………マジか。もうそんな近いのか」
そういえば電話口で麻耶さんが「もう3Dモデルを作り始めている」って言ってたっけ。きっと現場は超特急で作業を進めてくれているんだろう。
「なんか張してきたな…………」
「私も初配信はめちゃくちゃ張したなー。確か2萬人くらい來たんだけど、後から見返したら聲震えてたっけ」
「仕方ないって。俺なんか全然喋れる気してないもん」
2萬人…………凄すぎて現実味がない。頭がまだ理解しきれていないじ。きっと本番になって初めて事の大きさに気が付くんだろう。
俺が刻一刻と近付いてくる初配信に思いをはせていると、靜が思いついたように言う。
「うちの會社の方でもある程度レッスンとかする事になると思うけど、試しに今練習してみよっか」
◆
「えー…………なんだ…………あの…………よ、よろしく? お願いします? …………みたいな?」
「聲が小さーい!」
「何が言いたいのかよく分からない」
「うぐっ…………」
本番だと思ってやれ。
そう命令された俺はリビングの壁際に立たされていた。テーブルに著くふたりは審査員のように厳しい眼で俺を非難してくる。
「なんだお前ら、ヤジを飛ばすなヤジを」
「ちょっと、ちゃんとやりなさいよ」
「ならちゃんとしたコメントをくれ」
「ちゃんとしたコメントをしてるじゃない。聲は小さいし何が言いたいかもよく分からなかったわよ」
「理路整然としてたと思うけどな」
「ないない。私の初配信の方がなんぼかマシだったわよ今のは」
靜は呆れて顔の前で手を振った。真冬ちゃんも珍しく靜に同意して小さく頷いている。
「マジか…………というかさ、こういうのって普通キャラ設定みたいなのあるんじゃないのか? 特徴的な挨拶とか語尾とかさ。靜だって一応清楚系なキャラな訳じゃん…………中はこんなだけど」
「うっさいわ! …………確かに普通はそうなんだけどさ。でも麻耶さんがキャラ作りしなくていいって言ってたし、蒼馬くんはそのままでいいんじゃない? それにキャラ作ったままチャット捌くのって普通に難しいよ? 麻耶さんがそういうのやらなくていいって言ったのは蒼馬くんが初心者なのもあると思う」
「なるほどな…………」
確かに、普通に喋れないのにキャラ作ったまま喋れるわけもないか。
「私からアドバイス出來ることがあるとすれば…………そうね、見ている人全員が、自分の事大好きで大好きで溜まらないって思うこと。絶対に嫌われることないって思いこむこと。そうすれば、張なんてしないでしょ? だって何言ってもいいんだもん」
「絶対に嫌われない…………? なんだそれ、家族みたいに考えろって事か?」
何気ない俺の一言に、靜は目を丸くする。
「────それいいかも。リスナーは家族。そう思ってやってみてよ」
「…………実際に家族が見ています」
「真冬ちゃんは妹じゃないからね」
小さく手を挙げる真冬ちゃんを軽快に捌く。お、何かいいじかもしれない。
リスナーは家族…………リスナーは家族…………
「じゃあ────いくぞ」
小さな心持ちひとつかもしれないが、俺は飾ることなくすらすらと喋ることが出來た。
◆
2週間後の休日。
「ちょっとちょっと蒼馬くん! バーチャリアルのツブヤッキーみた!?」
リビングにあがりこんでくるなり靜がぶ。
「騒がしい奴だな…………ツブヤッキーがどうかしたのか?」
料理する手を止めリビングに移すると、靜がスマホを押し付けて來た。畫像が表示されている。
「何だこれ────ぶふっ!」
「ねwwヤバいよねこれww」
とんでもないものを見せられ思わず吹き出す。
表示されていたのは────バーチャリアル男部門メンバー発表の畫像。
宇宙空間のような黒ベースの背景に、4人のキャラが思い思いの決めポーズを取っている。それはある一點を除けば普通のキービジュアルだった。
どうにも見過ごせない、その一點とは────
「なんで蟲取り網が追加されてんだよ!」
────そう、俺だった。
なんと俺以外の3人は黒いタキシードにを包み、髪をカラフルに染め、今すぐどこのホストクラブに行ってもトップになれそうなビジュアルをしていた。セクシーな決めポーズとその妖艶な笑みで、數多のをイケナイ領域に連れ去ってしまいそうだ。
…………そして、そのすぐ隣には蟲取り網を力強く掲げたシャツと短パン姿の小學生が並んでいる。俺だ。
…………浮いているどころの話ではない。
質の低いコラ畫像染みたその畫像は────確かに公式がアップロードしていた。
「蒼馬くんのキャラめちゃくちゃ話題になってるよ。『小學生おるwww』って」
「そりゃそうだろ…………こんなのに並べられたら…………」
自分のスマホで検索してみたら、いや検索するまでもなく大量のツブヤキが表示される。
『バーチャリアルのメンズ一期生攻めすぎwww』
『まってこの子めっちゃ可いんだけど』
『小學生、どんなじのキャラなんだろ』
『他のイケメンの話題全然なくてワロタ』
『一期生の推し決まりました』
「マジかよ…………」
一期生の話題はその殆どが俺だった。
悪ノリではしゃいでいる奴が大半だが…………ちらほらとガチっぽいツブヤキを見かけ俺は戦慄した。
「ねーだから言ったでしょ? 人気になるって」
したり顔の靜はこうなる事が分かっていたみたいだった。俺の頭上にはハテナマークが大量に生され、それは暫くの間消えることはなかった。
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