《悪役令嬢の中の人【書籍化・コミカライズ】》悪役令嬢にならなかった◯◯

「はじめまして……あの、わたし……ピナ・ブランシェっていいます、何も分からなくて、ほんとたくさんご迷おかけすると思うんですが、よろしくおねがいします。頑張ります!」

會うまでは不安だった私のハラハラした気持ちは見事に吹き飛んだ。

ほんのし、ウィルがヒロインを好きになっちゃったらどうしようって思ってたの。ゲームのストーリーの強制力とかあるかも、って。

でも実際、一人の人として「ピナ」と向かい合った私はそんな考えがどんなに失禮なものだったかよく分かった。ウィル達のことだって、ゲームみたいに決まった行をとるって、人格を認めてなかったって事だもんね。

私は自分を恥ずかしく思うとともに、口に出して謝罪できない分行で示そうと心に誓った。

ウィル達も、突然貴族社會の中で暮らすことになった星の乙をとても気遣っている。自分たちがフォロー出來ない、特にしか分からないような面のサポートを頼んできたのだ。

「當然引きけます……と言いたいところですが、サポートだけでよろしいのかしら」

「というと?」

「殿下の婚約者として、『わたくし』がメインでピナさんの生活のサポートを擔當した方が良いと思うのですが。王族の庇護は大切ですが、やはり異というだけで張するところもありましょう」

「確かにな。責任者は僕が勤めるが、表に立つのはレミリアの方が相応しいかもしれない。中心となって実際にいてもらう事が多いだろうが、頼めるかい?」

「ええ、もちろんですわ」

澄まし顔でやりとりする私とウィルを不安そうに見ていたピナさんに向かい合うと、社用の仮面を外した私は思いきり笑顔を浮かべた。

「私は……レミリア。レミリア・ローゼ・グラウプナーって長い名前だけど、是非レミリアと呼んでください。こちらこそよろしくお願いします、ピナさん」

「あっ、あの……よろしくお願いします」

いきなり口調が変わった私に驚いてる様子の彼に、ウィルが苦笑する。

「レミィの素はこっちだから。ピナさんも堅くならなくていいよ」

「ええ、ぜひ友人から始めさせてしいから……さっきのは、よそ行きの顔なので。気にしないで」

いながら握手をれるピナさんに、私は自分の行を説明する。

「よそ行き……?」

「ええ、ピナさんだって、子供に聲をかける時と、大人に聲をかける時は違う口調になるでしょう? それと一緒で、私はよく知らない人達には、こうやってウィル含めたなじみを相手に見せるような態度は取らないの」

そう言うと、納得したのか手をつないだままコクンと頷いてくれる。頷くだけで可いとかほんと悶絶ものね、やっぱり可いわ。

「だから、ピナさんもこれから々マナーや言葉遣いを覚える事になるけど、本來のピナさんを変える必要なんて無いって言いたかったの。突然星の乙なんて言われて、とても不安だと思う。でもその力を持った人が悪意から守られて安全に過ごすためには國の保護がどうしても必要で、國に保護されて生活するためにはかしこまった場所に出る事は避けられなくて……」

実は、私の「よそ行きモード」は原作レミリアたんを參考にしている。社の場で一人稱を変えるのもそのせい。やっぱり、禮儀正しくてかっこよくて、ゲームの中では間違っちゃったけど私の中では最高の「令嬢」なんだよね。もちろん「悪役」となるようなことをする予定はない。

私は、レミリアたんが、ほんのを知ってたらきっとこんな素敵なの子になってたはずって、それをイメージして人前では過ごしている。でも本來の私は変わってないし、心にも無い事を言ってる訳でもない。

自分でもなんて伝えたら正解なのか分からない。ピナさん側からしたら、こんな國側の事なんてすごい勝手な話に聞こえると思う。でも星の乙の力は周知されてしまって、悪意から守るために本人の協力が必要なのも紛れもない事実なのだ。

「……なんとなく、分かりました。わたしも、自分の力がすごいものだとかよく分からなくて、でも怖いことに使われちゃうかもしれないから、そうならないように勉強はしたいと思ってます」

「! ありがとう……急に々変わっちゃってすごい大変だと思うけど、出來るだけ力にならせてね」

そう言うと、この場に來たときはこわばっていた表はやっとふんわりとほぐれた。

ああ、良い子だなぁ。星の乙を王都まで連れてきた役人さんの報告書によると、やっぱりゲームの時のように家族にはあまり恵まれてなかったらしいから。主人公にはあまり幸せじゃない期が、なんてマンガやゲームではよくある設定だったけど、現実として向かい合うとがきゅっとなる。

家族の代わりなんて私はなれないだろう、けど友人として彼が楽しいって思って一緒に過ごせるといいな。

それから當然私達はすごく仲良くなった。どれくらいかって言うと、時々ウィルがヤキモチを妬くくらいに。常に一緒にいる私達を見て、「君の婚約者は僕のはずだったと思うけど?」なんて口をとがらせるウィルはかっこいいのに可くて、ピナが気を遣って久しぶりに二人きりになった時は悶えそうになるくらい顔が熱くなっちゃったくらい。

そんな心優しいピナはやっぱり可くて頑張り屋で、好かれる要素しかないのを見て想像できる通りに々な男の子から好意を寄せられている。

でも本人は「星の乙の名前に引かれてるんじゃないか」って思いこんでて、すごくごとには臆病なまま。そりゃあ一部そんな下心のあるヤツはいるだろうけど、見てたらピナ本人に惹かれてるってすぐ分かるのに! そう憤慨していると、ウィルがあきれ顔で「君がそれを言うの?」と私に言う。何だかからかわれた気がする。

それでなくともピナは「星の乙」の重責を誰よりも理解していて。それに悩んでいた。友人や、ましてや人なんて気軽に作る訳にはいかないって思っているみたいで、流もあまり持とうとしない。

急に王宮に保護されることになった星の乙に、周りは戸いつつも親しくしようとしているがやっぱりいじめっ子ってどこにでもいるし。今は私とか、付けてもらった護衛の騎士さんが守れてるから大丈夫だけど……

もちろんクラスの子達とピナは仲がいいけど、心を許してくれてるのは私と、マリーくらいしかいないように見える。

ちなみにマリーは序盤のシステム説明とか攻略キャラの好度とか教えてくれるお助けキャラとしてゲームには登場する。ピナを王都に連れてきた役人さんの娘さんだ。 當然、ゲームなんて関係ない友を築けているけど。

ゲームで起きたイベントとかも起きたけど、ピナは誰ともいい雰囲気になる気配すらない。バナを振っても「うーんわたしはまだそういうの良くわからないから……それにレミィと一緒にいる方が楽しくて」って言われて嬉しくなっちゃって途中から話がうやむやになっちゃった。

でも私だってピナが誰かとつき合うことになったら、私「親友を取られた」ってショックけちゃいそう……なんて思いもした。

イベントだけじゃなくて、原作の知識で上手く導して、はるかに早い段階で魔國に渡ることも功した。そのおかげで、原作では當初敵対してた魔國ととても良い友好関係を結ぶことが出來て。レミリアたんと同じ、どのルートでも命を落とすアンヘルの弟を助けることが出來たの。

でもクロードのお父さんは私が助けても結局亡くなってしまったから……クリムトさんもそうなったらどうしよう、浄化はしたけどアンヘルに一度目の狂化がゲーム通りに起きたら……ゲームの強制力を不安に思ってしまう自分の呪縛から、いつまで経っても逃れられない。自分で自分を呪っているのと一緒だって分かってるのに、いつまでも長出來なくて。

でも、禍(わざわい)をもたらす問題は一つ一つ解決しているはずなのにずっと不安に思ってる私のことをウィルが救ってくれた。夢で見たって事にして話す私のゲーム知識を一切否定せず、

「じゃあ一緒に考えよう、大丈夫だよレミィの無茶には慣れてるから」

って言ってくれたの。

その時、改めて好きになり直しちゃったんだ……きっと、何が起きても、ウィルと一緒だったら乗り越えて行けるはずって思えて。私はこの時初めて前世が完全に過去のものになったってじた。

後ろ向きな気持ちを解決して、その後すぐに墜ちた創世神の浄化も出來た。魔族も含めてみんな救えて、めでたしめでたし。

やっと話を進められる、私とウィルの結婚についてもみんな祝福してくれて、ちょっと嬉しく思いつつもなんだか気恥ずかしい。

土地の浄化についてはピナが中心となっていて、魔國に何度も行く関係から「アンヘルとの模様が見れるかも……?」とドキドキしたけど一切そんなは無いらしい。お互いに。ちぇ。

全く問題がないって訳じゃないけど、無事平和になった世界で私はレミリアとして生きている。レミリアたんに恥ずかしくない立派な王妃になれてるかな。なれてるといいな。

本來のレミリアたんだった魂というか人格は、多分私の中にもういない。去年子供が産まれた時に、気が付いたらこの世界で目を覚ましたときから私の中にずっといた存在が消えていた。

でもね、何となくだけど分かるの。私の中からいなくなっちゃったけど、レミリアたんだった子はここにいるって。

「リリィ、今日はいい天気だから風が気持ちいいね」

「んまー」

こうして抱っこしてると、ずっと私の中から見守っていた存在と同じ暖かさをじる。故意ではないけど私が人生を奪ってしまった形になったかつてのレミリアたん……まだ頼りないお母さんだけど、人生2回分くらい幸せにしてたっくさんしてあげたいな。

「それがウィリアルドの娘か」

「ああ、最近お披目したんだ。リリィだよ、可いだろう」

今日は同盟相手の魔國の王、アンヘルさんが訪れている。

魔族の中でもとくに魔力の高い彼は、あの浄化の旅が終わってから8年経つけど外見は変わっていない。けど平和になったんだから國の安定をって、クリムトさんやミザリーさん含めて側近の方達からいつも伴や未來の世継ぎなんかの話をされているそうだ。

魔族は壽命が長いし、本人の意志が大事とは言いつつ、一國の王だし周りの心配も分かる。ピナとの仲を一時期待されてたけど、どっちもそんな風に見れないってはっきり否定してその話は消えた。ピナ曰く、「頼りない兄くらいにしか思えない」だそうだ。

今のピナはあちこち回ってそこで起きてる様々な問題を解決するのが楽しいって、人助けを生きがいにした彼はいろんな國からよく手紙をくれる。自慢の親友だ。王宮侍になったマリーと、彼の活躍が屆くのをいつも楽しみにしている。

今ではアンヘルさんと無二の友人になったウィル曰く、今回の親善外もそのお説教から逃れるためにアンヘルさんが言い出したらしい。クリムトさんからは「ついでにお嫁さん見繕ってきてくださいよ」と釘を刺されているようだが。

もう仕事の話が終わったらしく、すっかり親バカになったウィルが娘自慢をしたくてプライベートな場に招いたらしい。アンヘルさんはとてもリラックスしている。慣れすぎじゃないかしら、ほんとにただ友人の家に來た普通のお兄さんだわ。

「お久しぶりですアンヘルさん、第一王になる娘のリリィです」

「うー」

「この子が……前この國に來たときはまだ夫人の腹の中だったな。時が経つのは早いことだ」

二人に近付いて、アンヘルさんに見やすいようにひょいと抱いていたリリィの顔を向ける。興味深そうにアンヘルさんを見上げたリリィは、まるで何かを求めるようにちっちゃな手のひらを出してろうとしていた。

「あら、アンヘルさんが気にったのかしら」

「?! ダメだ……ダメだよアンヘル! リリィは嫁にやらないよ!」

「落ち著けウィリアルド、まだ赤ん坊じゃないか。何言ってるんだ」

「リリィはまだ赤ちゃんだけどすでにこんなに可いんだぞ! アンヘルみたいに魅了される輩が出てもおかしくない……!!」

「ごめんなさいねアンヘルさん、ウィル最近リリィに會う男の人には毎回これをやるのよ。娘を自慢したいからって自分から會わせておいて」

「まったく迷な奴だな……こんな赤子に俺がどうこう思うわけないだろう」

リリィをおこさないように、用にも小聲で怒るウィルに、やれやれと呆れた様子のアンヘルさんが指をさした、その指先をリリィがぎゅっと握る。

「おっと……」

「アンヘル、君……うちの可い娘に手を出すとは……!」

「変な言い方をするなよ、赤ん坊に指を握られただけだろう」

「ウィルも落ち著いて。リリィが結婚するなんて二十年近く先の話よ? そりゃあアンヘルさんは魔族だから二十年先でもこの貌と若さを保ってるだろうけど。あらリリィは華やかな人になりそうだしお似合いかもねぇ」

「?!! リリィ!! 絶対お嫁になんてやらないからね! アンヘル、いつまでれているつもりだ!」

「俺は指を握られてる側だぞ。いや、夫人もウィリアルドを煽るような真似をしないでくれ」

「ふふっ」

強引にほどいたらリリィが泣いちゃうかも、って気を遣ったままウィルに文句を言われているアンヘルさんがおかしくて、つい笑ってしまった。

年の差が、なんて騒いでるウィルの嘆きは話半分においておく。だって選ぶのは本人だもの、リリィが心から好きになった相手なら誰でも良い。幸せになってくれるなら、それで。

困ったパパですね、って心で娘に話しかけた私は王様同士とは思えないやり取りをする仲の良い二人を外野から眺めていた。

「……ミ、エミ、どうしたの、大丈夫?」

「ん……あれ、お兄ちゃん……?」

「悲しい夢でも見てたの?」

「え?」

「泣いてたから」

お兄ちゃんの言葉に顔をると、言われたとおり私は寢ながら泣いていたようでほっぺがビショビショだった。

「怖い夢だった?」

「わかんない……忘れちゃった……けど、優しくて、幸せで……でも悲しい夢だった気がする」

お兄ちゃんがハンカチで顔を拭いてくれる。「こんなとこで寢てたら風邪引いちゃうよ」って言われてを起こすと、庭園にある一番大きな木の本だった。あたりには花が散らばっている。そうだ、ママにあげる花冠を作りたくて、庭師さん達にお願いして花を摘ませてもらったのに……作ってる途中で寢ちゃったみたいだ。

「お花……ママに冠作ろうと思ったのに……」

「ちょっとクタッとしちゃったから冠はもう無理かなぁ。そうだドライフラワーにしようよ。二人だったらお洗濯ものに使う、水分奪う魔法と乾かす魔法いっぺんに使えるから作れるよ」

「! うん、そうする!」

お兄ちゃんに手伝ってもらって綺麗なドライフラワーを作った私は、ミザリーさんのところに行っていらないガラス瓶をもらうことにした。そこにれて、香油をふってリボンをかけてママにあげるの。でも一人分じゃあまるかなぁ、一緒に作ったお兄ちゃんの分も作って……殘ったらパパにも作ってあげようっと。

「もう悲しくない?」

「? 何が?」

「夢の話だよ」

「うーん……忘れちゃった!」

「そっか、なら良かった」

お兄ちゃんにくしゃくしゃと頭をでられた私は、ハンカチに乗せた小花達で両手を埋めたまま歩き出した。

三人とも喜んでくれるかな、ってウキウキして、起きた時に殘っていた夢のはもう忘れていた。

番外編の投稿にお付き合いいただきありがとうございます!

良かったら評価の⭐︎をぽちってってくださると嬉しいです。

明日、2/2に今作「悪役令嬢の中の人」が発売日を迎えるので是非よろしくお願いします!

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