「失禮いたします」

「どうぞ」

立派な執務室の扉を中継ぎの方に開けてもらい、私はバルク卿と対面した。聲は落ち著いている男の聲だ。

中にいたのも男だが、これが、何といえばいいのだろう……男に人とは言わないな。丈夫。うん、しっくりきた。

褐のに燻んだ質な銀髪をばし後ろで一つにまとめている。肩が広くが厚い所は騎士然としているが、モノクルをかけて書類を見ている姿は実に僚らしい。私より５つは年上だろう。

武か文かいまいちわからない方だが、今日からお世話になる人だ。追々分かればいい。

「本日よりお世話になります。クレアです。よろしくお願いいたします、バルク卿」

「……！　これは、挨拶もせずに申し訳ありません。私はパートナム・バルク。伯爵位を戴いております」

彼は書類から顔をあげようともしていなかったが、私が名乗ると慌てて振り返った。驚いたように私を見てから、誠心誠意の禮をして名乗ってくれる。

この方とこれから毎日仕事をする事になる。にっこりと(自分なりに、にっこりと)笑って、さっそく一緒に文が働く場所から見に行った。

今日明日は視察で終わりそうだ。これだけ大きな國だし。

「この國の稅制などはご存知ですか？」

「はい。祖國で資料は拝見していました。特に問題があったようには見えませんでしたので、お仕事の様子を直に見られればと思います」

稅収はバラトニア王國からフェイトナム帝國へも上がってきていた。さらには國の帳簿の寫しも一緒にあがってくる。金の流れに不自然な事がないように、これもまたフェイトナム帝國から文が派遣されて１から指導する。

今はもう、フェイトナム帝國に収める稅はいらない。國の管理だけで充分だ。

それを踏まえて、こちらです、と案された部屋を見て……早々な改革が必要だと思った。

まず、部署が分かれていない。擔當者が人頭名簿と易の収益を掛け持ちしている。人も足りていない。

數代前のフェイトナム國王によって屬國にくだったはずだから、フェイトナム帝國と文字と數字は一緒。

文の悲鳴と怒號飛びう仕事部屋は、紙が無いせいで木簡と羊皮紙がり混じり、各人の機の上が大慘事で、しかも資料棚も木簡でギチギチで……。

(た、耐えられない……！)

「今すぐ仕事を中斷してくださーい！」

私のびにぴたりときを止め、文さん方が私の方を見る。

これは……ダメだ。問題が多すぎる。待って、全ての部署を視察と言っていたけど、部署はまだあってどこもこの調子なの……？

私は早急に立ち上げるべき部署と人員を頭の中で計算しながら、目の前の文たちに、『１ヶ月の通常業務止』と『資料を年代年月別にまとめておく事、紛失している資料があれば一覧にしておく事』を指示して、最優先でまずは整理整頓を申しつけた。

本當に１ヶ月も仕事を止めてもいいのか？　と顔を見合わせていたものの、バルク卿が笑っている所を見てさらにポカンとした文たちは、かしこまりました、と言って整理整頓から始めて行った。

その際、ここの部署……稅に関する部門だった……を３つのスペースに分けるように機を並べ替える事も指示して、私は次の部署に向かった。