《【書籍発売中】【完結】生贄第二皇の困〜敵國に人質として嫁いだら不思議と大歓迎されています〜》11 労りのミルクティー
「ずいぶんお疲れのようだね」
「はい。……陛下も殿下も怒ってませんか? 私、かなり勝手をしていますが……」
私が各部署に指示を出すたびに、容の報告は上がっていた筈だ。バルク卿と話したことも今頃食後の陛下に伝わっていることだろう。
全部署を1ヶ月止めて整理整頓、配置換えさせます! なんて無茶を嫁いできたばかりの小娘に指示されたのだ。きっと嫌な気分に違いない。
夕飯の時は楽しい話をしたが、サロンに腰を落ち著けたら頭の中で草案が回り出してしまって、難しい顔になってしまったらしい。殿下に気を遣わせてしまった。
「いや、ちょうどいい機會だったよ。戦後処理もそうだし、改革はしなきゃいけない。君の指示ならと、私も父も全幅の信頼を置いているよ」
「あ、はは……、あの、私、実務経験は何も無いので……失敗したら……」
乾いた笑いがれてしまった。
そうだ、私は頭でっかちなだけで実務経験が無い。が、今日の慘狀は凄慘たるものだった。あれは整理整頓して紙に資料をまとめ直す所からだ。それから現場の聲を聞かないと、しっちゃかめっちゃかになる。
とはいえ、失敗したらと思うと怖い。
暗い考えに落ち込んで俯く私の手の中に、ほんのり溫かい化した薄茶ののったコップが渡された。
立ち上ってくる湯気からは珈琲の香りはしない。不思議に思っていると、殿下が、あぁ、と思い至ったようだった。
「フェイトナム帝國ではお茶といえば烏龍茶か緑茶だったね」
「これ……お茶ですか?」
「そうだよ。紅茶、といって……緑茶と同じ茶の木の葉から採れるお茶だよ。製造過程が違うんだ。香りがいいだろう?」
「はい、……これがあの、紅茶」
本の中では読んだことがある。我が國では茶の木の栽培はされていて、お茶はよく普及しているのだが、殺菌作用があると言われている不発酵狀態の緑茶か、たまに半発酵狀態まで発酵させてしまった烏龍茶が主流だ。
屬國が多くなりすぎて、とにかく回転率を重視するので、紅茶まで仕上げる茶の木の農家が殆ど無いのだ。
同時に淹れ方も本の中だけに忘れられていった。時々珍品として上がってきた紅茶は、あまり良い匂いでも無ければ味も渋かった。
バラトニア王國では紅茶が主流らしい。この國に著いてから最初のお茶である。
それにしても、ほんのりミルクの香りもする。蜂の香りもだ。
「疲れた時には効くよ。特に頭を休めるのには」
「いただきます」
アグリア殿下の勧めで口をつける。
口の中いっぱいに香りと甘みが広がり、鼻から抜けていく芳香と口の上をる蜂の甘みに、目が丸くなった。
溫度もし溫いくらいだ。ちょうど良くて、私は思わず黙々と味わってしまった。
「頭の中、しは考え事が吹き飛んだかな?」
「はい……! びっくりしました、とっても味しいです。甘いですし……、はぁ、もうなくなってしまいました」
「暫くは夕飯の後はミルクティーにしようか? ふふ、クレア、可いね」
「へ?」
唐突に可いと言われて驚いて殿下を見ると、殿下の手がびてきて私の上についたミルクティーをぬぐ、ぬぐわ、うわぁぁ?!
い、今拭こうとしてたんです! 殿下! 何を!
大混の私の前で、拭った指に口付けないでくださいますか?!
「明日も頑張ろうね。……浮気はダメだからね?」
「もう! 殿下! しませんし、しりません!」
私は恥ずかしさのあまりに赤い顔を背けて口を尖らせた。子供っぽいと思って慌てて口元を引き締めると、手を拭った殿下が頭をでてくる。
「おかわり、飲む?」
「……いただきます」
もう一杯ミルクティーを飲み終わる頃には、私の頭の中はすっかり落ち著いていた。
【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】
◎アーススターノベル大賞にてコミカライズ大賞と審査員賞を頂きました。6月1日に書籍が発売されました!第二巻も出ます! 「魔力ゼロのお前など辺境に追放だ!」 魔法の使えない公爵家令嬢のユオは家族から『能なし』と疎まれていた。 ある日、彼女は家族から魔物がばっこする辺境の領主として追放される。 到著した貧しい村で彼女が見つけたのは不思議な水のあふれる沼だった。 彼女は持ち前の加熱スキル、<<ヒーター>>を使って沼を溫泉へと変貌させる。 溫泉の奇跡のパワーに気づいた彼女は溫泉リゾートの開発を決意。 すると、世界中から様々な人材が集まってくるのだった。 しかも、彼女のスキルは徐々に成長し、災厄クラスのものだったことが判明していく。 村人や仲間たちは「魔女様、ばんざい!」と崇めるが、主人公は村人の『勘違い』に戸惑いを隠せない。 主人公の行動によって、いつの間にか追い込まれ沒落していく実家、ラインハルト公爵家。 主人公は貧しい領地を世界で一番豊かな獨立國家に変えるために奮闘する。 全ては溫泉の良さを世界に広めるため! ビバ、溫泉! 自分の能力に無自覚な主人公最強のスローライフ領地経営+バトルものです。 戀愛要素なし、ギャグタッチで気軽に読めるようにしています。 ※R15は念のためとなっております。 誤字脫字報告、ありがとうございます! 感想は返信できておりませんが、とても勵みにしています。感謝です。 現在は月曜日・水曜日・土曜日に更新しています! ※書籍化に合わせてタイトルを変更しました。舊タイトル:灼熱の魔女はお熱いのがお好き?魔力ゼロの無能だと追放された公爵令嬢、災厄級の溫めスキルで最強の溫泉領地を経営する~戻ってこいと言われても絶対に嫌です。あれ、気づいたら実家が沒落してた~
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