《サモナーさんが行く》1325 番外編5 幸せの代償
オレの名はキース。
コードが付記されていてオレはキース・ヤンキーとも呼ばれていた。
プレイしているのはブラッディダンジョン・オンラインだ。
・・・
ゲームに沒頭するオレを妻は奇異な目で見る。
これはもう仕方ない。
必要なのだ。
ただオレは子育てにも手を抜いていない。
だから許されているようなものだった。
問題なのはこのゲームに長時間ログイン出來ないことだろう。
だがオレには裏技がある。
短い時間で膨大な経験値を稼ぐ方法。
それは対戦。
但しその相手が普通じゃない。
例えば魔神ハヤト。
別世界のキース達。
そして數々の英霊達。
時にはキララやコーパルと戯れるかのように対戦した。
・・・アレが戯れか、と言われたら々過激だが・・・
急速にレベルアップしたおで他のキース達に迫る実力は備わった。
いや、元々が前衛職なだけに格闘戦や武を用いて戦うなら既にオレの方が有利だと思う。
まあそれも相手に武技や呪文で底上げされたら簡単に逆転されるのだが・・・
実際、奧の手まで込みで比較するならキース・アルファには全然及ばない。
それは地力だけでもそうなのだと思う。
オレが選択した職業はファイター系、今は剣聖となっている。
職業選択時にはサモナーを、とも考えたが子育てを考えると無理と判斷した。
十分に時間があるならいいが、オレにはない。
己のみであるが急速なレベルアップにスキル取得。
魔法技能も數多く取得し鍛え上げ、英霊召喚だって使えるようになった。
ブラッディダンジョン・オンラインはアナザーリンク・サーガ・オンラインに酷似している。
その點も大いに助かっていた。
オレは格闘戦を好む。
だがやはり刀を使って戦うのが最も好ましい。
対戦相手も剣豪の英霊達が好きだ。
大好きだ!
それにオレには明確に到達すべき場所があった。
爺さんが最後に見せた、あの一撃。
究極の力から放たれた、神速の一撃。
神業としか言い様がなかった。
だがオレは見た。
見たからには目指すしかない。
否、アレを越えねばならない!
だからこそ自らの技を研鑽し続けているのだが・・・
問題がある。
「ヨッ!」
「・・・」
今、オレの肩を叩いたのは?
振り返るとそこにはキース・アルファがいた。
最近、キース達からキース・オリジンとも呼ばれている。
満面の笑みだ。
しかし今のでオレのHPバーは一割程、減っている。
・・・裝備が無かったら即死だったかも?
エンチャント系呪文で強化し武技まで使って肩を叩くのが軽い挨拶か?
オレはログインするのと同時に自己回復呪文のリジェネレートを使う。
そうでもしないとキース達との挨拶でオレは死んでしまう!
「ああ、そうだ。今日は息子の歯が生えたんで記念に寫真を撮ってあってだな」
その一言は絶大だった。
オレのHPバーが一気に回復する。
・・・
キース・アルファよ。
顔が、近い!
近いって!
オ、オレにはそんな趣味はないぞ!
「た、頼むから!」
「み、見せるから!」
「い、今!」
「後でだ! 一斉に皆に披するから!」
一気に寒気が!
周囲に漂うのは、殺気だ。
そうか。
やはりそうか。
オレはキース達の間では羨の対象になっていた。
現実で『彼』と結婚しているのはオレだけ。
オレ以外にもキース・マイクが現実世界で結婚している。
但しその相手は『彼』じゃない。
フィーナ・オスカーが相手だ。
キース・マイクはオレほどにはイジメに遭っていない。
正直、理不盡だと思う。
「・・・そうか」
「・・・オイ、止せ!」
キース・アルファの頭上に拳骨が振り下ろされていた。
後方からの魔神ハヤトの一撃だ!
普段ならまともに喰らう筈のない一撃だろう。
続けてバックドロップ!
キース・アルファは轟沈していた。
「何をしとるか! 隙だらけだぞ!」
「・・・」
返事はない。
キース・アルファは死んでいないようだが・・・
それよりも、マズい。
オレはまた別の脅威を目の前にしていた。
魔神ハヤト。
ハヤト・アルファ。
最近はキース達の間で親父殿と呼ばれる存在。
オレが生まれたばかりの息子の寫真を見せた時、この魔神は號泣した。
周囲の目を憚ることなく、號泣した。
以來、オレから々と息子の話を聞きたがるようになった。
何度も、何度も、同じ話であってもいいからせがむ。
・・・
嬉しそうにオレの話を聞く魔神は微笑ましいとすら言える。
オレだって息子の話をするのは嫌いじゃない。
ただ々と時間が足りないオレには痛ししだった。
対戦する時間が削られてしまうのだ!
今、オレを見る魔神の笑みはもうね。
孫をでるお爺ちゃんそのものだった。
・・・魔神の威厳はどこに行ったのか?
この魔神、まだ子供のキララやコーパルを相手に対戦する時も同様だ。
アレを見て対戦相手にしたいとは思わない。
無論、他のキース達も同様だった。
「おおっ! 來ておったのか!」
「・・・親父殿」
「そうか、うむ! 早速だが話を・・・」
魔神の姿が急に視界から消えた。
地面に黒い影。
落としではない。
影に潛んでいたであろう、バンパイア・デュークの仕業だろう。
・・・
ジュナさん、いや、母さんも常日頃からこの手を使う。
親父殿も油斷さえしていなければこうなったりしない。
バンパイア・デュークとの実力差は格段にあり簡単にレジストしてしまう。
母さんが相手でも大抵は無効化してしまうのが常なのだが。
それがこうも簡単に罠に嵌まるとは・・・
母さんの言ってた通りだ。
「本當にダメなお爺ちゃんよねー」
「本當よねー」
「・・・ママ」
ジュナ・アルファ。
その隣にはジュナ・ブラボー。
二人の後方にはハヤト・ブラボー、キース・チャーリー。
オレは失敗せずに済んだ。
二人のジュナさんは母さんと呼ばれるよりもママと呼ばれたがる。
たまに失敗するキースがいるが、微妙に対応が厳しくなるのが常だった。
「ヨッ!」
「・・・」
またか。
キース・チャーリーに肩を叩かれてオレのHPバーは再び一割程減っていた。
思わず溜息。
そして反撃!
手首を摑むと捻り上げる。
無論、チャーリーも反応して投げを返す。
投げられた勢いを殺さずにを反転、後頭部に右腳で蹴りをれる!
だが不発。
オレの右腳はハヤト・ブラボーに摑まれ吊り上げられた!
キース・チャーリーも同様であったらしい。
オレ達は逆さにされて互いを見るしかなかった。
「ふむ、今日はお前達の相手からしてやろうか」
「・・・まさか、同時に?」
「うむ、このまま闘技場まで運んでやろう」
舐められたものだ!
だが反撃したくとも武技も呪文も発しなかった。
ハヤト・ブラボーは魔神じゃない。
プレイヤーとして研鑽を積み重ね、拳聖の職業を得ている。
それでいて魔法技能も鍛えてあり、近接戦闘では封印を好んで併用する。
魔神ハヤトと比べたら実力では明らかに下であるが、戦闘技量では拮抗すると思われる。
否、使える技能の幅を考えたら別の意味で厄介な相手だった。
実際、対戦でオレはまだ勝てていない。
・・・互いに刀を得にした対戦でも、勝てていない!
オレとキース・チャーリーは互いに溜息。
そんなオレ達をキース・ブラボーが笑って見ていた。
・・・お前、いつからそこにいた?
こいつにオレの息子の寫真は見せるまい。
心の底からそう思った。
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