《【書籍化】學園無雙の勝利中毒者 ─世界最強の『勝ち観』で學園の天才たちを─分からせる─【コミカライズ決定!】》第25話 何人がかりで來ても同じ
プルルルと、生徒端末から長くコール音が鳴り響く。
學長室を後にした霧生は、ある生徒に通話を掛けていた。
その生徒の名前はスタンズ・ヴァン・モール。
エルナスの側近として働く男である。
霧生がスタンズに通話を掛けている理由は明白だった。エルナスについて深く知るためである。
彼との勝負はもはやファーストフードを食らうように手軽に摑んで良い勝利ではない。
主観的にではなく客観的に見て、霧生が喫したたった一度の敗北は、エルナスの17年と比べるとあまりにも軽い。
だからといってその敗北を呑み下せるほど、霧生の勝負に対する信條はやわではなかった。
霧生は自分の勝利への拘りが、エルナスの17年に劣っているとは微塵も思っていない。
で勝ちを譲ろうなどという気は頭ないのだ。
故に、こんな時は踏まえ無ければならない。
自分が一何を背負った相手に勝利するのかを。
そんな思いから、霧生はエルナスの私を多は知っていそうなスタンズから話を聞こうとしていた。スタンズの齢も24であるので、エルナスとは同年代だ。
長い長い呼び出し音を鳴り響かせる。
霧生は彼の生徒端末を奪ったことがあり、その時に見たIDを暗記していたので、スタンズに通話を掛けることができた。
そして6度目の掛け直しにして、ようやく通話が繋がる。
『しつけぇな! 誰だテメェ!?』
開口一番に怒號を響かせるスタンズ。
「ああもしもし? 俺だよスタンズ」
霧生は馴染みの友人とでも言わんばかりの落ち著いた口調で話す。
『だから誰だ!? 俺が誰か分かってんのか!? ぶち殺すぞ!』
「杖霧生だ。今どこにいる?」
霧生が名乗ると、生徒端末の向こうの怒聲はピタリと止まった。
『テメェ……、何の用だ……。誰から俺のIDを……』
「ちょっと話が聞きたい。俺の方から向かうから居場所を教えてくれ」
ーーー
スタンズから居場所を聞き、霧生が向かうのは武區のはずれ。
塔剣山を抜けたその先にあったのは、夕暮れ過ぎからオレンジのナトリウムランプが目立つ工場地帯だった。
(確かこの辺では武を作ったりしてるんだったか)
端末で學マップを表示し、スタンズが指定した場所へ向かうと、そこは廃工場のような建であった。
工場敷地を立止の標識ロープが囲ってあり、道の古さを見るにしばらく放置されている土地のようだ。
周辺の街燈は割れていて、午後5時過ぎにもなると薄暗い。
(こんな場所もあるんだな)
霧生は新しい足跡を辿り、半開しているシャッターを潛(くぐ)った。
古い油のにおいが漂う工場の中へと進んでいく。
「スタンズ、出てこい。かくれんぼのつもりならむところだが」
霧生が聲を放つと、暗がりの奧から巨漢が現れた。
スタンズだ。
「……よう」
スタンズは霧生から10歩程離れた所で止まる。
離れてできるような話でもないので、霧生はその距離を無造作に詰めていった。
「待て、止まれ」
「電話でも言ったはずだが話をしに來ただけだ。どれだけ警戒してるんだよ。こっちは何もするつもりはないぞ」
霧生は周囲を見回しながら笑う。
8人。當然、工場にる前から霧生は辺りに潛むスタンズの手下達の存在に気づいている。
まず呼び出された場所が場所だ。
霧生は短い時間でこれだけの戦力を整えたスタンズに心した。
「馬鹿か? 何もするつもりはないのはお前だけだ」
「だろうな」
一歩後ずさったスタンズだが、霧生が目の前にやって來た所で持ち直す。
どうやらスタンズは、數の有利を確信しているらしい。
技能者同士の戦いに限った話ではないが、"數"とは絶対的な力である。
しかし、霧生が多対一の戦闘を得意とすることはスタンズの知るところではなかった。
「スタンズ、お前はエンタメ神に富んでいてとても良い」
スタンズから笑みが消えるのと同時、彼の巨腕がびた。
その手は霧生の首をがっしりと摑み、常人なら首の骨が折れてしまう程の力で締め上げてくる。
それを皮切りに、周囲からぞろぞろと柄の悪い生徒が姿を現す。
「あんまりナメてんじゃねェぞ」
スタンズはもう片方の手も使い、霧生を締め上げる力を一層強めた。
そんなスタンズの手首に、霧生は右手を添える。
「OK。勝負だな」
そして力を込めた。
「ぐゥアァいッ!?」
ミシミシと、スタンズの太い骨が悲鳴を上げる。
その手は堪らず霧生の首を離し、もう片方の手も霧生の手を引っ剝がそうと応戦する。
「ぅぅぅがあぁぁ!」
スタンズが腕を摑み、目一杯の力で引いても霧生は手首を摑む力を弱めない。
霧生は徐々にその手を捻っていき、巨はその力を逃がそうとを捻り、どんどん小さくなっていく。
やがて霧生はスタンズを完全に組み伏せた。
「な、何しでやがる! 早く助けろ!!」
組み伏せられたスタンズがび聲を上げると、周囲の手下達が一斉にき始めた。
直後。タァンと、乾いた銃聲が工場に響く。
拳銃を構えた手下の1人が、霧生へ向けて発砲していた。
同時に、放たれた弾丸を、霧生は《抵抗》を纏った手の甲で払っていた。
「うそだろ……?」
誰かが驚愕の聲を上げる。
攻撃する、という意識にはどんな達人でも必然的に《気》が伴ってしまう。
それを察知する《》という技能を得し、尚かつ十分に反神経を鍛えていれば、死角外からの発砲も対応可能だ。
霧生が銃弾を防いだ隙を狙い、脇に潛り込んで來ていた男が低い姿勢から鋭角で掌底を放って來る。
を大きく反らし、それを避けるのと同時に霧生は上段蹴りを放った。
鋭い上段蹴りは男の首に吸い込まれ、その時點で意識を刈り取ったのを確認すると、即座に足を引き、霧生は四方から迫りくる手下4人に対応するべく振り向きざまに空(くう)を指先で切った。
依然関節を決められたままのスタンズを強制的に立ち上がらせ、きに付いてこさせる。
「いぎぎぎ!!」
霧生は立ち上がらせたスタンズを壁にして拳銃の線を切りつつ、言葉を紡いだ。
「《流意雀(るいすずめ)・番(つがい)》」
言い終えたのと同時。
小さく巻き起こるように現れた"煙霧"が二匹の雀を形作り、霧生の指先を追って、踴るように飛翔を始める。
《流意雀》は相手の意識をほんのしの間だけでも奪うことを主目的とした攻撃の無い魔。
空を切るという一挙式と、魔名を告げるという詠唱式が組み合わさることで、
魔の効率と度は底上げされている。
霧生の周りをパタパタと飛び回る二匹を警戒し、手下達はとっさに足を止めた。
しかし切り替えは早く、弾戦から転じて魔戦へ以降するべく彼らは式を練り始める。
その援護として距離を詰めてきた手下の片方を蹴り飛ばし、もう一人の突進を関節を決めたままスタンズを振り回すことで突き返す。
「ぐあぁ!?」
そして霧生は勢を崩して転びそうになったスタンズの左足を、足の甲で弾くことで持ち直させた。
「クソォ!! 離しやがれええええ!!」
良いようにられて怒り狂うスタンズ。
反して霧生の方は彼を傀儡にした戦闘に趣をじ始め、楽しくなってきていた。
一方、霧生を囲むスタンズの手下達は式を完させつつある。
霧生は二匹の雀を魔力で導し、雙方向へ向かわせた。
構えた手下達の前で二匹の雀は下降し、煙霧へと還る。
その煙霧を象式として起點にし、霧生は魔を発させた。
突発的な魔戦はどれだけ式を簡略化できるかという點が重要視される。霧生はその點において特化していた。
故に、式の展開から魔の発までの速度が尋常でなく速い。
「《桎梏(しっこく)・襲(かさね)》」
學初日、ニースにも使ったこの魔は対象の自由を奪うもの。
地面の塗裝が盛り上がり、無數の手が手下達にびる。
それらを躱すこと自は難しくない。
妨害さえなければ。
「針となれ」
霧生は側頭部から髪のを數本引き抜き、それらに息を吹きかけ、『重み』と『鋭さ』を定著させる。
これも一挙式と詠唱式が組み合わされた高度な技能。
指先から垂れていた髪は途端にピンと張り、霧生はそれらを四方に連続投擲する。
それが手下達のきを封じ、彼らは次々と床からびた手の餌食となっていく。
闘技場の時とは違い、今度の"手"はコンクリートで形されたもの。一度捕まれば振りほどくのは困難である。
5人が《桎梏》による拘束をけ、1人は気絶。何より主導者であるスタンズが真っ先に戦闘不能となっているとなると、殘った手下2人の戦意は一目瞭然であった。
「くっ……強すぎないか……」
立ち盡くす手下の一人は拳銃を手放した。それは降參の合図。
霧生は笑みを浮かべ、握り拳を作った。
「砕。もうし多対一を勉強した方がいい。全員実力を出し切れていなかったぞ」
勝利宣言のついでに霧生はアドバイスを付け加えておく。
「ハァ、ハァ……杖、分かった、負けで良いからもう離してくれ……!」
散々振り回され、頼みの手下が戦意を失ったのを見て、スタンズは肩を押さえながらとうとう弱音を吐く。
彼は息を切らしていた。
そんなスタンズを解放してやり、霧生は言った。
「じゃあ話を聞かせてもらおうか、スタンズ」
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