《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第41話 お風呂だよ! 全員集合②

「はあ、マジで極楽だ……」

「ああ、ほんといいもんだ……」

「この村でこんな早くから風呂にれるようになるなんて、思いませんでしたね……」

浴中に魔の襲撃でも発生したら大事なので、男の従士たちは浴のタイミングを分散するようにしていた。

今日の前半組であるユーリとバートが風呂から上がり、現在はペンス、ラドレー、エドガーたちの順番が回ってきている。

傭兵として都市部に滯在することがあったペンスとラドレーも、村長家の出であるエドガーも、風呂にった経験はある。

しかし、それぞれ居場所である傭兵団や故郷の村を失ってからは、浴の機會からは遠ざかっていた。彼らにとってもこの公衆浴場の存在はありがたいものだ。

「……はあ」

「どうしたあペンス、ため息なんかついて」

「いや、俺もそろそろ嫁さん見つけねえとなあと思ってよ」

ここでも語られるのは、やはりこうした話題だった。

「まあ、やっとこさ落ち著ける領地も見つけて、おまけに今じゃ従士で、おまけに農地まで持ってるからなあ。あとは嫁さんだけか」

「そういうお前だって俺と同じだろ、ラドレー」

ペンスはそろそろ30歳の大臺が近づき、ラドレーは既にその大臺を超えている。2人とも結婚を急ぐ年頃だった。

「いやあ……それがよお、実はよお、」

「はっ!? お前まさか相手が見つかったのか!?」

ペンスは驚愕の表でラドレーの方を振り向く。

ラドレーははっきり言って醜男である。それなりに年も食っている。今ちょっと照れたように笑っているその表も、正直お世辭にも魅力的とは言い難い。

そんなラドレーがを匂わせる発言をしているのだ。同じ獨仲間のつもりだったペンスとしては凄まじいショックである。

「ほら、俺あ仕事でよくリックとダントの面倒見てやってるだろ? そんでよお、世話になってるからってあいつらの家族に晩飯に呼ばれることがあるんだよ」

ニヤニヤと楽しそうに笑いながら話し続けるラドレー。

ちなみに、リックは若いながらも既に妻と子どもがおり、一方のダントはまだ未婚で姉と2人暮らしである。ラドレーはそんな彼らの夕食にたまに招かれているらしい。

「そんでよお、ダントの姉のジーナ、あいつから自分と結婚しないかって言われちまってよお。あいつは量のいいだし、こんな年食った不細工のところに嫁に來てくれるって言うし、俺でよければ喜んでって返事したんだよ」

「ああ、ジーナですか。確かに快活で面倒見もよくて、いいですね。おめでとうございますラドレーさん」

「へへ、ありがとよおエドガー」

農民たちのまとめ役として全員の顔をしっかり覚えているエドガーは、ラドレーの妻になるというジーナをそう評する。結婚相手を褒められたラドレーも嬉しそうな顔を見せた。

一方のペンスは、未だにショックをけた表のままだ。

「……マジかよ、お前が俺より先に結婚かよ」

「なんだあ、祝ってくれねえのかよ」

「いや、めでたいとは思うがよ……なんで俺にはいい相手が現れねえんだ」

「おめえは何でも卒なくこなせるからな、可げがねえんだよ。から見ても面倒見る甲斐がねえんだろうよ」

「そんなことは……否定できねえな」

自分の長所でもあり、短所でもある部分を指摘されてどんよりと落ち込むペンス。

「私はペンスさんはいい男だと思いますけどね。きっといい相手がすぐに見つかりますよ」

「うっせえ、お前だってアンナといい雰囲気になってやがるくせによ」

「なっ……そ、そんなことないですよ」

「誤魔化しても無駄だぞ。會議のときにお互い意識してチラチラ見てんのが丸わかりだ」

「そうですか……バレてましたか……參ったなあ」

そう言いつつも、エドガーはどこか幸せそうだ。

「けっ。どいつもこいつも惚気やがってよ……はあ、従士長もマイと結婚したし、バートの野郎もレトヴィクでモテてるって聞くし、あと殘ってるのは俺だけかよ……」

男の孤獨を共有できる仲間がいなくなってしまい、哀愁を含んだため息を吐くペンスだった。

・・・・・

浴場で話にふけるのは男陣だけではない。浴日には、浴室は華やかで明るい話し聲に包まれる。

「マイさんはが引き締まっててもピチピチでいいわねえ、従士長さんもこんな若くて綺麗なお嫁さんがいて幸せねえ。さぞ仲睦まじいんでしょう?」

「やだ、うちの夫婦の話は止めましょうよ、恥ずかしいじゃない」

風呂でマイに親しげに話しかけるのは、隣でお湯に浸かっているジーナだ。彼はダントの姉であり、ラドレーの妻になる予定でもある。

マイも従士の一人として、領民のたちとはできるだけ打ち解けるようにしていた。その努力の甲斐もあって、今ではこうしてそれなりに親しく話せる相手が増えている。

「それに比べてあたしはねえ、お腹もおもポヨポヨになってきちゃって」

「あら、でもふくよかで包容力のあるが好きって男も多いと思うわよ? ラドレーさんもそうじゃないの?」

「きゃあっ、どこで聞いたんですか?」

甲高い聲を上げ、顔を赤くして手をパタパタと振るジーナ。

「領民の陣の間で2人のことはすっかり話題になってるわ。おめでとう」

ラドレーもジーナも自慢げに周囲に話すので、2人の結婚のことは既に村にかなり広まっていた。ジーナが照れて驚いたところで今さらである。

「うふふ、ありがとうございます……ラドレーさんって優しくていい男なんですよ。ちょっと不用そうなところも素敵だし」

「そうね、あの人はいい人よね」

ラドレーはその個的な顔と訛りの強い口調のせいで誤解されがちであるが、ごく普通に優しくていい男だとマイも思う。

一方のジーナも明るくて優しいであるし、顔立ちだってがあって可らしい。ラドレーがいい結婚相手を見つけたことを、マイも傭兵時代からの仲間として嬉しく思っていた。

こうしてマイとジーナが話していると、他の陣も集まり、結婚が決まったジーナを囲んでからかったり祝福したりと賑やかに話し始める。

アールクヴィスト領のたちは、皆このように良好な関係を築いていた。

領民たちの會話を微笑ましい気持ちで眺めるマイに、次に聲をかけてきたのはアンナだ。

「ラドレーさんも結婚が決まったんですね。おめでたいです」

アンナは住み込みの従士としてノエインの屋敷に個室が與えられており、屋敷の浴室を使うこともできるが、領陣とも仲良くなりたいからと公衆浴場が開く日はこちらへ來ていた。

「そういうアンナはいつエドガーさんとくっつくの?」

「えっ……それは、ちょっとまだ分からないでしゅ」

顔を真っ赤にして思わず噛んでしまったアンナ。彼がエドガーとお互いを意識していることは、マイにはとっくにバレて指摘されていた。

「早く結婚を決めちゃわないと、他のの子にエドガーさんが目移りしちゃうかもしれないわよ?」

「そ、そんな! エドガーさんはそんな人じゃありません!」

むきになってそうエドガーを庇う時點で、アンナが彼にベタ惚れなのはマイから見てバレバレだった。

「そう思うなら、早くくっついちゃいなさいよ」

「う、うぅ……でもなんて言えばいいか……」

ブクブクとお湯に口を沈めてうつむいてしまったアンナに、マイは苦笑しながら言う。

「そんなに悩まなくても、正直な気持ちを飾らない言葉で伝えたら大丈夫よ。そしたらエドガーさんだってちゃんとけ止めてくれるわ」

「……そう、ですよね。分かりました。私、頑張ります」

「ええ、いい報告を聞けるのを楽しみにしてるわ」

・・・・・

「ういぃ~、極楽だねえ」

お湯に浸かり、おっさんのような想をらしたのはノエインだ。

彼がいるのは自の屋敷の浴室。ここは小さな屋敷の浴室としてはなかなか広く、2人ほどが余裕をもってることができる。

期から風呂好きだったノエインは、自分の屋敷を建てるにあたって浴室には特にこだわり、予算も割いていた。その果がこれだ。

溫かいお湯がたっぷりと張られた湯船の中で、後ろへともたれかかるノエイン。そのけ止めたのはマチルダだった。

ノエインはキヴィレフト伯爵家の離れで暮らしていた頃から、彼と一緒に浴していた。その習慣は、當然今も続いている。

「あったかいし、らかいし、天國だね」

「私ので喜んでいただけて嬉しいです、ノエイン様」

兎人の種族的な特徴として「が大きい」という點が挙げられる。もちろん、マチルダもその例にれない。

なのでノエインは、広い風呂の中でマチルダのかな雙丘の間に後頭部を埋めて極楽気分に浸るという、他人には見せられないくつろぎ方をしていた。

これは昔からのノエインの浴スタイルであり、彼を心の底からするマチルダも當然これをれ、むしろ彼にを預けられることを喜んでいる。

尊敬すべき領主様がこのような浴姿を毎日くり広げているなど、他の従士や領民たちは知る由もない。これはノエインとマチルダだけのだった。

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