《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第63話 VS盜賊②
「くそっ! 何なんだこの領地は! ただのちっぽけな村じゃなかったのかよ!」
隠れる場所もない農地ど真ん中で大量の矢に狙われて、先頭にいた盜賊たちは薙ぎ払われるように倒れた。
ゴズリングは自分に飛んできた矢を咄嗟に切り払うと、近くで倒れた子分の死を盾にする。
どう考えてもおかしい。ここは人口200人そこらの小さな村のはずだ。それなのに矢の勢いから考えて、敵側には50人規模の弓兵がいる。
おまけに飛んでくる矢も妙だ。普通のものよりも極端に短い。
「敵は妖かなんかか? 畜生!」
訳の分からないことだらけで苛立ちながら、ゴズリングはそう悪態をついた。
「お、お頭!」
「おう、生きてたか」
聲をかけられた方を見ると、副がゴズリングと同じように近くの死を盾にしていた。
「意味が分からねえ! 何なんですかここは!」
「馬鹿、俺だって分かるか!」
「と、とにかく、このままじゃ全滅しちまいます! 退いた方が――」
次の瞬間。
「びゅおんっ」と一際大きな音が空気を切ったかと思うと、副の上半が盾にしていた死ごと千切れ飛んだ。
・・・・・
「あ、當たったー! 見ましたか今の! すっごい威力! すっごい威力ですよ! が真っ二つだあ!」
「分かったから、し落ち著け……」
門の前で大はしゃぎし始めたダミアンは、ユーリにそう窘められた。
ダミアンが構えているのは、手持ちではなく地面に據え置いて使う大型のクロスボウだ。これもとある英雄譚の戦士の名にちなんで「バリスタ」という名前が付けられていた。
その矢は杭のように太く、弦を引くには大柄な男2人がかりの力が必要だった。
1か月ほど前、まだ時間に余裕があったときにダミアンが作った試作品を今回いきなり実戦投し、こうして見事に戦果を上げたかたちだ。
「というか、お前はたちと避難しててよかったんだぞ? どうせろくに戦えないんだから」
「何言ってるんですか! 俺の開発した武が初めて実戦で使われる記念すべき日に、立ち會わないわけにはいきませんよ!」
「……そうか」
熱く語るダミアンに、ユーリは呆れながらそう返す。
彼らがそう言葉をわす間にも、木柵の上に配置された領民たちは次々に矢を番え、撃つ。
「凄い凄い! 俺のクロスボウでどんどん盜賊が死んでいきます! 皆いいぞー頑張れー!」
手を振り回しながら興するダミアンの聲援を聞いて、近くに配置されていた何人かの手たちは苦笑しながらも矢を放ち続ける。
こうして矢の雨にきを阻まれた盜賊たちの中に、再びノエインがゴーレムを突っ込ませたことで、戦場は阿鼻喚の巷と化した。
死の影でじっとしていればゴーレムによって毆り殺され、かといって盾にしている死を捨てて移すれば矢の雨にさらされる。
一方のゴーレムは、矢の雨の中でも平然とき回り、盜賊たちのど真ん中で暴れる。
盜賊の誰もゴーレムに火を放つ余裕などなく、ゴーレムの一方的な殺戮がくり広げられていった。
やがて盜賊たちは耐えかねたように引き下がろうとする。頭領らしき男が「下がるな! 前進しろ!」と必死にんでいるが、ほとんどの盜賊は指示を聞こうとせず背中を向けて走り出す。
「……そろそろバートたちの出番だな」
ユーリがそう呟くのとほぼ同時に、森の中から飛び出してきたバートたちの隊が盜賊の退路を斷った。
それを見屆けたユーリは、門の前で剣や槍、斧を構えて待機していた男たちに言う。
「挾み撃ちで一気にけりをつける! 俺たちも出るぞ!」
「「おお!」」
・・・・・
「敵が逃げてきたな、よし行こう!」
森の中、ノエインや盜賊たちが抜けてきた街道周辺よりもさらに外側に潛んでいたバートは、自が率いる15人ほどの領民たちを率いて森から飛び出し、盜賊たちの退路を塞いだ。
街道を挾んでバートたちの反対からは、リックとダントに率いられたこちらも15人ほどの領民たちが飛び出して盜賊たちを包囲する。
矢の雨とゴーレムによって完全に戦意をくじかれた盜賊たちは、後ろからも迫ってきた敵を見て絶的な表を浮かべた。
「武を捨てろ! 投降するなら殺しはしない! 武を捨てて膝をつけ!」
バートだけでなく、リックもダントも他の領民たちも、口々にそうぶ。
「殺しはしない」という言葉を聞いた盜賊たちは、先を爭うように武を手放すと膝をつき、命乞いの言葉をらす。
バートはそんな投降者たちのみぞおちを蹴り飛ばし、顔を毆り飛ばし、念のために彼らの意識と抵抗力を奪っていった。
他の領民たちもバートの真似をしていくが、いかんせん戦い慣れていない。
強く毆るのをためらって鼻を流させるだけにとどまったり、逆に「その一撃でそいつ死んだんじゃない?」と思うほど頭を強く毆ってしまったりしているのはごだろう。
バートたちが盜賊たちを無力化していく一方で、矢の雨が一旦止み、領都の門から鬨の聲とともに男たちが流れ出してくる。
ユーリ、大工のドミトリ、そしてノエインの奴隷ザドレクといった偉丈夫たちを先頭に、アールクヴィスト領でも特に屈強な男たち20人ほどが突っ込む。
暴れるゴーレムから逃げるだけで一杯だったところへ駄目押しの突撃をけて、最後まで抵抗を続けていた盜賊たちも総崩れになった。
・・・・・
「お、お頭ああ! 助けてええぎゃあっ!」
「ああっ! もう駄目だ! 駄目だああっ!」
周囲を固めていた鋭の部下たちも次々に討ち取られ、ゴズリングは負けを確信していた。こんな小さな村を相手に、完全無欠のボロ負けだ。
「くそっ! くそっ! くそおおっ!」
このままこんなところで終わる。
冗談じゃない。自分たちをコケにした敵にせめて一矢報いてから死んでやる。
そう決意したゴズリングは、自分たちの敗因を作った相手、この戦いで最も憎しみを抱いた相手――傀儡魔法使いのガキに目をつけた。
門の前で、相変わらず周囲をと男2人の護衛に守られた魔法使いに狙いを定め、ゴズリングはここぞという場面でしか使わない技を――魔法を発させる。
ゴズリングの魔法は不完全だ。発させれば數分だけ能力を高められるが、魔法が切れればそれまでの負荷が一気にかかってまともにけないほど疲労する。
だが、どうせこの場で死ぬのなら関係ない。あの魔法使いのガキを仕留められればそれでいい。
ゴズリングが念じると同時に頭の中がカッと熱くなる。
発的な勢いで地面を蹴って魔法使いの方へと駆け出す。
行く手を阻もうとした敵の一人を毆り飛ばし、さらに邪魔をしようとしてきた敵を蹴り飛ばし、魔法使いに薄する。
「死ねええっ!」
絶しながら剣を突き立てようとしたら――恐ろしい速さで目の前に飛び出してきたに顔を蹴り飛ばされた。
蹴りをまともに顔面に食らうが、魔法で高めた能力に任せて足を踏ん張り、なんとか耐える。
「ちいっ!」
立ち塞がったは兎人だった。兎人の瞬発力は普人を遙かに上回る。魔法を使ったゴズリングとも、スピードだけなら互角に張り合えるだろう。
さらに、両側からは護衛の男たち――不細工な男と鋭い目つきの男が切りかかってきた。
「くそおおおおっ!」
ゴズリングは全の魔力を振り絞るように発揮して、かつて経験のないレベルまで魔法の効果を高める。
脳が焼けるほどの痛みに襲われ、鼻からも目からも耳からもが流れてくるが、構わず限界まで魔法を発する。
常識を超えた速度で剣を振るい、両側の男たちと正面のの3人を相手にしながらも互角に立ち回る。
「そいつを殺させろ! 殺させろ! 殺させてくれええええ!」
「――駄目です」
顔をまみれにしながら悪鬼のような表でぶゴズリングに、兎人のは冷たく言い放って回し蹴りを放った。
それを躱し、一歩退いて距離を取るゴズリング。
『上だっ!』
と、そこへ不意に聲が響く。何故か頭の中に直接響いてきた聲につられて思わず上を見るが――そこには何もない。
「くそっ!」
罠か。
そう思って後ろを振り返った瞬間、ゴズリングの視界は回転した。
世界が上下逆さまになり、下を見れば空が、上を見れば首のない自分のがある。
そして前を見れば、そこには頭を剃り上げた髭面の大男がいた。
剣を橫に振りぬいた勢の大男はし驚いたような表で、まるで古い知人に出くわしたかのような表でこちらを見ている。
(こんな知り合いがいたっけか?)
ゴズリングの脳裏に最期に浮かんだのは、意外にもそんな呑気でどうでもいい思考だった。
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