《ひねくれ領主の幸福譚 格が悪くても辺境開拓できますうぅ!【書籍化】》第66話 要求と懐②
「それでは……この王國北西部の貴族の派閥に私をご紹介いただき、そのに加えていただきたい。閣下に仲介役をお願いしたく思います」
「……なるほど」
ノエインの要求を聞いて、アルノルドは唸るように呟く。
王國の各地域では有力貴族たちによる派閥が形されており、この王國北西部にもひとつの派閥がある。この派閥にれば、軍事的・経済的な協力関係のに加わることができる。
新興貴族がこうした派閥にるには、手土産となる手柄を示した上で、既に派閥に屬する貴族に紹介してもらうのが一般的な手段だ。
ノエインは既に「盜賊団を討伐した」という大手柄を立てている。あと必要なのは紹介役だけだが、その役割をアルノルドに頼みたいらしい。
「ご存じの通り私の領はまだまだ人口も経済規模も小さいので、また今回のような危機に見舞われたらと思うと……こうした事態に備えるためにも、大きな派閥に屬して安寧を得たいと考えた次第です」
ノエインのような小領の領主にとって、貴族閥にることは大きな後ろ盾を得ることに繋がる。
ついでに言えば、同じ派閥に屬することになるアルノルドが、今回のようにアールクヴィスト士爵領に盜賊をけ流すような真似もできなくなる。それは重大な裏切り行為になり、延いてはアルノルド自の首を絞めるからだ。
「貴殿の気持ちは分かる。私でよければ、喜んで貴殿を北西部閥に紹介させてもらおう」
アルノルドはノエインの要求をけれることにした。北西部で一応は大貴族としてそれなりの立場にいるアルノルドならば、ノエインを派閥に紹介することなど大した手間ではない。それで今回のことを許してもらえるなら安いものだ。
「ありがとうございます。閣下のお心遣いに心から謝いたします……他にもお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「な、何かね?」
気を抜きかけたところで切り出されて、アルノルドは慌ててもう一度気を引き締める。
「先ほどお見せしたクロスボウですが、畫期的な武だと自負していますので、領外にも広めたいと考えているのです。まずは他の貴族に先駆けてケーニッツ閣下に買っていただきたいと思っています」
「売るのか? それほど強力な武を匿もせずに?」
ノエインの提案を聞いてアルノルドは目を見開く。
先ほど見せられたクロスボウを見て、その有用を知って、どうにかしてこれを手にれたいと思っていたのだ。それをノエインはあっさりと金で売ってくれるという。
「はい。これは発想自は畫期的なものですが、仕組みは一目見れば多くの者が理解できるでしょう。いずれ世の中で知られ、真似て作る者も出ると思います。そうなる前に、まずは仲間――これから私が所屬する北西部閥に技を広めてしまいたいと思いまして」
ノエインの考えを聞いて、アルノルドは黙り込む。
これほどの新兵ともなれば、貴族の派閥に加わる手土産としては十分どころの話ではない。これを持ち込めばノエインは派閥の貴族たちから諸手を上げて歓迎されるだろう。
おまけに、他の貴族閥に先駆けてクロスボウが普及すれば、北西部閥の力はより大きくなり、これからその一員となるノエインの立場もより安泰なものになる。
ノエインにとっては、どうせいつか広まるクロスボウの技を無理に匿するよりも、自分の手柄としてさっさと提示してしまった方がメリットが多いということか。
そしてアルノルドにとっても、他の貴族に先駆けていち早くクロスボウを売ってもらえるというのは喜ぶべき提案だ。
「それに、この武が普及すれば、今回のような盜賊団が発生しても各貴族領で容易に対応できるようになるでしょう。私も守るべき領地を持つですので、治安の向上に貢獻できるのであれば喜ばしいです」
微笑みながら善人ぶった臺詞を吐くノエインだが、これはつまり「強い武をやるから、次からは盜賊が出ても自分でどうにかしろ」とアルノルドに言っているのだろう。
アルノルドは短い思考の末に、ため息をつきながら言った。
「……分かった、買わせてもらおう。幾らかね?」
「ありがとうございます。技を開示することにもなるので、1あたり5萬レブロでお譲りしようかと」
ノエインの提示額は武としては異常な高値だが、クロスボウを手にれて詳しい構造を解析し、自領で生産し、軍事力を飛躍的に高められると考えれば安い投資だ。
「いいだろう。ひとまず5ほど買いたい」
「かしこまりました。數日中には私の領からお屆けします」
こいつには勝てそうにない、とアルノルドはノエインとの駆け引きを放棄しつつあった。
今回のやり取りでアルノルドは確信した。ノエインはずば抜けて優秀な若者だと。小領の領主に収まるではないと。
ノエインはこの調子でこれからも果を上げ、人脈を広げ、自分の領だけでなく周辺地域や社會そのものに影響を與えながら躍進していくのだろう。
アルノルドもそれなりに有能な領主であるつもりだが、それは「先代からけ継いだ領地の安寧を守る」という平凡な評価基準での話。おそらく今後も、ノエインのような異才には敵わない。
これから自分にできるのは、ノエインの才覚をいち早く知った者として、彼の好意的な隣人であり続けることだけだ。それがケーニッツ子爵家にとって最も良い選択になるだろう。
「ああ、それともうひとつお願いが」
「ま、まだ何かあるのか」
アルノルドが顔を引きつらせると、ノエインは彼を安心させるように言った。
「いえ、大したことでは……領都ノエイナとレトヴィクを結ぶ街道を整備していただきたいのです。アールクヴィスト領の方は整備を終えていますが、ケーニッツ子爵領の方はまだ平原のど真ん中を進んでいるような狀況でして」
「ああ、そんなことか……分かった、うちから人手を出して道を整えさせよう」
「ありがとうございます」
アールクヴィスト領までの道を作るだけでノエインの機嫌を取れるのなら大したことはない。アルノルドは二つ返事で了承したのだった。
・・・・・
アルノルドがノエインの要求の數々を飲んだことで、張のある話し合いは終わった。最初は殺気さえ放っていたノエインも、護衛のマチルダとバートも、今は普段と変わらない空気を纏っている。
そのことに安堵しながらアルノルドが次に話題にしたのは、北西部の貴族閥へノエインを紹介する的な方法だ。
「晩餐會ですか?」
「そうだ。北西部閥の絆を確かめ合う……という名目で、年に一度開かれることになっている。まあ、実質は互いの近況を報告して報を換する集いだ。派閥に屬する全ての貴族が集まるから、そこならアールクヴィスト卿を紹介するのにうってつけだろう」
「なるほど、確かに仰る通りですね。それで、その晩餐會が開かれるのはいつ頃でしょうか?」
「12月の半ばだな」
アルノルドの言葉にノエインはし驚く。12月の半ばともなれば、もう真冬と言っていい時期だ。
「それは……移が大変な時期に思えますが」
「庶民ならな。だが、北西部閥に屬するほどの有力貴族ともなれば、皆「暖房」の魔道を備えた高級馬車くらい持っている。真冬ならほとんどの領主の予定が空いているから、一堂に會するのにかえって都合がいいのだよ」
スケジュールを調整しやすいという理由で冬に晩餐會を開き、高価な暖房付き馬車に乗って移する。平民から見ればなんとも贅沢な話だが、人脈や報がときに領地の運命をも左右する貴族にとっては、これも必要経費なのだろう。
ついでに言えば、暖房付きの馬車も持てない貧乏貴族は大きな派閥にる資格がないというところか。
「なるほど、事は理解しました。ですが……恥ずかしながら、私は貴族家としての馬車を持っていません」
し困った表でノエインは言った。
まだ爵位を得て2年目で、村ひとつを領有するだけのノエインは、貴人が乗るような馬車を所有していない。
今は10月も半ばを過ぎた時期。2か月後までにアールクヴィスト士爵家として公の場で乗るような高価な馬車を仕立てられるかとなると、微妙なところである。
「そのことについては心配はいらんよ。うちの馬車を1臺、安く譲ってやろう。多の改修をして塗裝を変えれば十分に使えるはずだ」
「よろしいのですか?」
アルノルドの思いもよらぬ申し出に驚くノエイン。
「ああ、構わない……うちには貴族家の人間が乗るための馬車が2臺あるが、はっきりいって1臺で事足りるのだよ。先代ももういないし、子どもたちもほとんど家を出ているからな」
ケーニッツ子爵家は2男4を抱える子沢山だ。しかし、継嗣である長男は王都で軍人として経験を積んでいる真っ最中であり、次男も他の貴族領で僚として就職。たちも末の娘を殘して嫁に出てしまったという。
さらに、先代當主――つまりアルノルドの両親は既に他界している。
かつては大家族だったケーニッツ子爵家だが、今となっては2臺目の高級馬車は無用の長と化しているらしい。
「それに、息子の代になる頃には、どうせ今の馬車も作り直すだろう。なので今うちにある2臺目は本當に不要なのだ。遠慮なくもらってくれ」
「……ありがとうございます。それでは、ご厚意に甘えさせていただきます」
思わぬかたちでアルノルドの親切をけて、ノエインは素直に禮を述べた。
「馬車を引く馬は足りているかね?」
「はい。盜賊との戦いで戦果として何頭か手にれましたので」
盜賊の所持していた財産は、もとの持ち主に関係なく、討伐した者が得る。これは貴族や傭兵ができるだけ積極的に盜賊退治に臨むよう促すための慣習法だ。
そのため、ノエインは盜賊団の持っていた裝備や金品、そして6頭いた馬のうち戦闘に巻き込まれず無事だった4頭、さらに生け捕りにした盜賊たちを奴隷として売り払った代金を得ていた。
「ならば問題はないな。今日にでも馬車を持ち帰れるように準備させよう。晩餐會の詳しい日取りなどは追って連絡する」
「何から何まで謝します」
「構わんさ、私のせめてもの誠意だと思ってくれ」
不穏な気配を纏ってケーニッツ子爵家の屋敷にやって來たノエインだったが、こうして帰りは笑顔でアルノルドと握手をわして退出したのだった。
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