ヴァルトルーネ皇との再會を果たした。

そして、劇的な展開としては、彼もまたあの忌まわしい時の記憶が殘っていることだろうか。

「アルディア……貴方、まさか」

衝撃をけているのは、俺も同じだ。

まさかヴァルトルーネ皇もまた、死ぬ以前の記憶を持っているとは思わなかったのだから。

彼は今世(・・)という言葉を使っていた。つまりそれは、前世も存在していると言うことを暗に示していた。彼にとっては無意識に出てしまった言葉だろうが、俺はそれを聞き逃さなかった。

「皇殿下が想像されている通りです。俺も貴と同じく苦い記憶を持つ者です。あの時は、貴の味方になってあげられなかった。でも、今はもう違います」

「そんなこと……」

「そんなこと、あるんです。私は──レシュフェルト王國の騎士でしたから」

俺個人の考えだが、

前世での唯一の汚點は、ヴァルトルーネ皇に仕えてあげられなかったことだと思う。

彼と親しくなれたのは、全てが手遅れになってからのこと。

ヴァルカン帝國が崩壊した後のことだった。

今回は違う。

まだ戦爭すら起きていない。

ヴァルトルーネ皇は今目の前でちゃんと生きている。

「皇殿下……私は、この世界で貴に忠誠を誓います。迷いなんてありません。俺は貴を守る盾として……ヴァルカン帝國の軍にります。それが……俺が貴からけた恩に報いるための唯一してあげられることなのですから」

返せなかったあの時の恩を今──返す時だ。

そもそも俺は平民だ。

レシュフェルト王國に骨を埋めるというような貴族みたいな気概はないし、王國のために戦っていたのも、友人や家族を守らなければという一心だった。

でも、今となってはそんなことに縛られる必要なんてない。

友人は土下座してでも俺が引き抜く。家族には、戦爭が始まる前に移住して貰えばいい。

今はまだ何一つとして始まっていない準備段階。

これから起こることに対して、早い段階から対策を立てていけば、上手くいかなかったことだって功に導けるはずだ。

「ありがとう。アルディア」

謝なんてしなくていいのにな。

謝したいのは、俺の方だ。

彼に仕える機會を與えられて、今度は敵としてではなく、味方として存分に暴れることができる。

俺とヴァルトルーネ皇は暫くの間、傷に浸っていた。

落ち著いた頃合いで、俺とヴァルトルーネ皇は再度握手をする。

「ヴァルトルーネ=フォン=フェルシュドルフよ。改めてよろしくお願いするわ」

「アルディア=グレーツ。微力ながら、貴様のお力になることをお約束致します。この命盡きるまで、貴のためだけの剣となり盾となりましょう」

士學校卒業式。

この日、世界の運命は大きく揺らいだ。

レシュフェルト王國とヴァルカン帝國の対立。

そして、ヴァルカン帝國の皇が引きれた目立つことのない平民騎士は──蘇る前の知識を活かして、彼に盡力する覚悟を決めた。

ヴァルカン帝國消滅も、

ヴァルトルーネ皇の処刑も、

全ての大切なものを失う経験も、

……今世では、決して起こさない。

──彼の敵は、全て打ち滅ぼすのみだ。

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