レシュフェルト王國とヴァルカン帝國は、現在休戦狀態にあった。

何故休戦中だったのかというとレシュフェルト王國の第二王子であるユーリス=レト=レシュフェルト王子。

彼がヴァルカン帝國の皇であるヴァルトルーネ皇との婚約関係を結んでいたからであった。

両國の王族と皇族が深い繋がりを持ち、互いの國に侵略しないという暗黙の了解を作り出したことで、一時的な平和が両國に訪れていたのだ。

──そんな平和は約十年で崩れ去ったが。

「婚約破棄っ⁉︎　皇様をあのゴミカス王子が振ったってことすか⁉︎　最低、士學校では皇様を無下に扱った挙句、自國の聖だかに熱を上げていたあのゴミカス……アイツの末な棒切れがもげればいいのになぁ」

うん、ミア……その通りなんだけど、言葉遣いが酷過ぎる。

ヴァルトルーネ皇が婚約破棄に至った全容を話したせいで、ミアの中でのユーリス王子の評価は地に落ちたみたいだ。

まあ、それ以前に士學校でのユーリス王子は、その勝手な振る舞いから多くの帝國民に好かれてはいなかった。

ミアが『ゴミカス王子』とつい言っちゃうくらいには、嫌われてるのである。

「ユーリス王子との婚約破棄は數ヶ月前から察してました。なので、ミアさんがそこまで怒るようなことじゃないです」

「え〜、絶対あの聖だかに誑かされたじっすよ。悔しくないんすか！」

「うーん、私自、ユーリス王子のことを特に好きでも無かったので……」

だろうね。

というか、ヴァルトルーネ皇は、人生二周目。

婚約破棄も前回経験済みなのだから、心構えも出來ていたことだろう。彼は目先の不利益に心を痛めてはいない。

常に前を向き、進み続ける彼はヴァルカン帝國の行く末を案じている。

「ヴァルトルーネ皇殿下は、ミアが想像しているよりも強いんだ。それに、今更そんなことを話していても、意味がない」

補足するように俺が説明するとヴァルトルーネ皇も頷いた。

「アルディアの言う通り、今はユーリス王子のことはどうでもいいの。今考えるべきは、ヴァルカン帝國の未來のみ」

俺とヴァルトルーネ皇の頭の中はきっと、レシュフェルト王國をどうやって打倒するかで一杯だ。

ミアにはまだそれが分からないだろうけど、いずれ彼を含め、俺はあいつらを──大事な友人を巻き込むことになるだろう。

「なぁ、ミア……」

「ん？」

「今の話を聞いて、俺がどうして……みんなをヴァルカン帝國に行かせようとしたのか分かっただろ？」

ミアはゆっくり頷く。

彼の出は元々ヴァルカン帝國だから、俺がわなくても帝國側に付いたはずだ。

けれども、レシュフェルト王國出の友人も俺には多かった。

だから、ミアは俺の意図を理解した上で笑っていた。

「分かるよ。アルっちは、私たちが戦うような未來が來ないようにしたかったんでしょ。アルっちはレシュフェルト王國出だから、どうしてヴァルカン帝國側に全員寄せちゃったのかはちょっと分かんないけど」

レシュフェルト王國にミアを含めた帝國出の友人を引きれる未來もあったことだろう。でも、それでは多分、幸せな未來は訪れない。

「でも、アルっちがそういう選択をしたのは……皇様がいたから、なんだろうね！」

「まあ、な」

俺の今生は、ヴァルトルーネ皇と共にある。

だから、どんなに苦しい狀況になったとしても、俺は彼に付き従い続ける。

きっとその意志は変わらない。

▼▼▼

「んじゃ、私は自前の騎竜で帝國に向かうから！　皇様、アルっち、また帝國で會おうね！」

その場から駆け出すミアを見送り、今度こそ俺とヴァルトルーネ皇は二人っきりになった。念のため周囲を見回すが、誰もいない。

ミアがいたこと自がイレギュラーなことだった。

今度は、こういう前世に関する話をする際は、周辺にしっかり目を通しておくことにしよう。

「行ってしまいましたね」

「はい、そうですね」

ホッと一息……なんてものは存在していない。

俺とヴァルトルーネ皇は瞬時に次の行へと移る。

「それで、ヴァルトルーネ皇殿下。俺たちは今から何をするのですか？」

「アルディアは察しがいいのね。……とっても大事なことよ。今から打つ一手によって今世の世界勢は、前回とは大きく異なるものになるはずだわ」

戦爭も始まらないこの時期にヴァルトルーネ皇は何をしようというのだろうか。

彼の口に注意を向ける。

「ねぇ、アルディア。レシュフェルト王國とヴァルカン帝國はどうして戦爭を開始したと思う？」

不意に飛んできた質問。

的な意図も摑めない。

だから！そんなことを聞かれても、今俺の中にある知識で言えることなどある程度決まっていた。

「えっと、ヴァルトルーネ皇とユーリス王子が婚約破棄したから……ですか？」

既存の知識では、これくらいの答えにしか辿りつかない。

ヴァルトルーネ皇は苦笑いを浮かべ、

「そうね、これまでのことを考えるとそういう考えに至るわよね」

含みのある言葉遣いをする。

──この反応……どうやら違うみたいだ。

戦爭の原因として、ヴァルトルーネ皇とユーリス王子の婚約破棄がトリガーとなったのは間違いない。けれども、本格的に王國と帝國が対立した理由が他にあるのだと、ヴァルトルーネ皇は示していた。

そして、その理由は、

「教えてあげるわ。レシュフェルト王國とヴァルカン帝國の戦爭の直接的な原因は──」

前世の俺ですら知らなかったことであり、

「レシュフェルト王國の方が先に、ヴァルカン帝國領への侵攻をしてきたからなのよ。聖レシアのための聖地を奪還するという見當外れな名目でね」

俺がレシュフェルト王國を徹底的に叩きのめすのに十分な機に繋がるものであった。

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