ファディの方はこれでいいだろう。

殘るは、リツィアレイテの方だ。

「次は貴ね」

「は、はいっ！」

茶髪でにしてはし背が高め。

それでいて彼は驚くほどに背筋が綺麗であった。

ピシリと立つその姿は典型的な優等生が漂い、真面目な格が存分に醸し出されていた。

「ふふっ、そんなに張しなくてもいいのよ」

ヴァルトルーネ皇が嗜めるが、リツィアレイテの表は強張ったまま。

先程までのやりとりを見て、リツィアレイテはし警戒しているようだ。

ファディがヴァルトルーネ皇との話し合いで圧倒されていたのをでじていたのだろう。

でも、彼に関してはそういう心配の必要はないと思う。

ヴァルトルーネ皇が彼を言葉責めにするとかは考えにくいからだ。

「それでリツィアレイテ……貴には」

何故なら、彼にはヴァルトルーネ皇が前世でかなりお世話になったから。そして俺も彼のことがとても印象に殘っている。

「私が新設する特設新鋭軍の指揮になってしいの」

ヴァルトルーネ皇の言葉にリツィアレイテは目を見開く。

「私が……ヴァルトルーネ皇殿下の創設する軍の……指揮、ですか⁉︎」

「そうよ。貴に頼みたいとずっと思っていたのよ」

「ええっ⁉︎」

ヴァルトルーネ皇がリツィアレイテに傾倒するのはなんら不思議なことじゃない、

だって、彼は前世で──。

ヴァルトルーネ皇の専屬騎士を務めていたのだから。

▼▼▼

『私はリツィアレイテ、ヴァルトルーネ皇殿下の専屬騎士です。覚悟はよろしいですか？』

彼とは戦場で度々ぶつかり合うことがあった。

俺の振るう剣がまともに効かない相手は、ヴァルトルーネ皇を除けばリツィアレイテだけだったと思う。

彼は本當に優秀な人だ。

騎竜にりながら、リーチの長い槍を使って俺の接近を許さなかった。死角に潛り込もうと何度挑んだことか……ことごとく防がれ、決著は最後までつかなかった。

ヴァルカン帝國で言えば、間違いなく最強の騎竜兵。

そんな彼は平民、という分からか、戦爭の終盤から臺頭してきた將軍であった。

『また、引き分けですか』

『……そのようですね』

『なるほど。我が主人が気にるのも頷けますね。貴方の剣はとても洗練されている。敵にしておくのは本當に惜しい』

あの時の俺は、彼の言葉に罪悪をじながらも敵としての立場を貫いた。

『俺は……レシュフェルト王國の騎士だ』

『ええ、分かっています。貴方が味方にならないのは、我が主人より耳にタコが出來るほど聞かされているので』

だからこそ、彼はそのクールな面持ちを崩し、とても殘念そうに項垂れたのだろう。

『貴方の剣が私の槍を掠める度に思います。もし、貴方が味方であったのなら、どれほど心強いのだろうかと。背を合わせ、戦うことが出來たなら……きっとどんな強大な敵にも勝てる、そんなことを考えてしまいます』

『そんな未來は……ない。俺は、ヴァルトルーネ皇の味方をしてやれない』

と行の整合が取れていなかった。

當時の俺はかなり苦しんだ。

祖國のために戦う相手が、自分にとっての恩人がいる國。

ヴァルトルーネ皇との敵対関係を認識することがあれば、心が締め付けられるように痛かった。

『そんなに苦しそうな顔をしないでください。貴方の事は我が主人も理解しています。なので──』

敵ではなく同じ武人として、リツィアレイテは俺の目を見て告げた。

『遠慮などせず、これまで通り全力でぶつかってきてください。この命が盡きぬ限り、貴方の剣は私が全てけ止めます』

対立する者であった彼もまた俺に優しかった。

その一言で、俺の心がどれだけ救われたのか……それは計り知れない。

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