「はぁはぁ……」

「っ！」

大男との勝負の行方。

滴り落ちる赤い。

地面は真っ赤な水溜まりが出來上がり、ズルズルと足下がりやすくなっていた。

「……ぐっ………かはっ、ん！」

大男の振り抜いた棒は──。

「クルルッ」

騎竜の前足にガッチリと摑まれていた。

止まった時間。

その中で俺はポツリと呟く。

「終わりだ。狂騒の強者よ。お前の戦いはこれで終幕。ゆっくりと眠れ……」

リツィアレイテの槍は大男の心臓部分を貫き、俺の剣は彼の首半分にまで食い込んでいた。

絶命は確実。

「……がっ…………⁉︎」

安堵の息がリツィアレイテかられた。

俺もそれに次いで、ゆっくりと肩の力をしだけ抜く。

これは俺だけの勝利ではない。

リツィアレイテと二人で摑んだ勝ちである。

剣と槍を引き抜けば、大男は崩れるように膝から落ちる。

大きな音と共に溜まりを広範囲に撒き散らす。

大男はそのままうつ伏せに倒れ、ピクリと痙攣した後……完全にかなくなった。

──なんとか、終わったな。

「アルディア卿、お見事です」

リツィアレイテからの賞賛に俺は首を橫に振った。

「いえ、リツィアレイテ將軍のご助力がなければ、こんなに早くやつを倒すことは出來ませんでした。ありがとうございます」

「ふっ、倒せなかった……とは、言わないのですね」

「────っ！」

「やはり、アルディア卿はお強い。私の目標とすべきお方です」

言葉一つで更に盛り上がってしまった。

リツィアレイテに隨分と懐かれたものだ。

向こうはあまり話すようなタイプじゃない。だから、彼がこんなにも俺に話しかけてくるのが意外である。

「リツィアレイテ將軍、本軍の方もだいぶ戦しているようです。我々は先にリゲル侯爵のいるであろう、邸宅へと向かうとしましょう」

「はい。いよいよ大詰めのようですね。初陣の手柄にしては上々の出來！　この調子で進みましょう」

殘る仕事は、リゲル侯爵を捕らえ、彼をヴァルトルーネ皇の前に連れて行くこと。

もうここまでの猛者はいないと願いたい。

彼が彼を罰することで、初めてこの戦いは終わりを迎える。

──リツィアレイテ將軍の言う通り、大詰めなのだ。

「アルディア卿、お疲れ様であります。周囲の敵兵は無力化致しました」

「報告ありがとう。騎兵隊は引き続きここ、中央広場の警護を。本軍の到著を待ちつつ、左翼側の兵たちと協力して、怪我人の手當てを行え」

「はっ！」

指示出しも終わり、俺とリツィアレイテは視線を同じ方向へと向ける。

中央広場のその先──リゲル侯爵はすぐ目の前だ。

「行きましょうか」

「はい。背中はお任せください」

悲願のための第一歩。

それをし遂げるまであとしだ。

リゲル侯爵は殺さない。

その罪を裁くのは俺じゃない。

──ヴァルトルーネ皇だからだ。

前へと進む。

目の前を塞ぐ敵兵が見えたが、進行速度を落とすことはない。

リツィアレイテと二人。

數鋭にも程があると思ってしまうが、彼となら並みの兵士の大群になど負けるはずがない。

「敵はたったの二人だ、さっさと殺せ！」

──侮るなよ。その慢心、後悔させてやる。

リツィアレイテと目配せし、俺はしだけ進行速度を落として、リツィアレイテを先に行かせる。

彼の騎竜は敵兵の目前で止まると、その大きな巨を見せつけるように持ち上げ、ぶ。

「ギャァァァァッ！」

──分かっていても、ビビるよな。

戦場において兇暴な騎竜を前にしたら、誰しもが多なりとも恐怖をじる。

けど、その戸いが命取りになるんだぞ。

騎竜の影から、俺は飛び出す。

「──っ！」

斬り伏せた敵兵の首が宙に浮かぶ。

そのまま近くにいた兵士たちも同じように薙ぎ払った。

手足、脇腹、元、頭頂部、様々な箇所に重傷を負う敵兵は嘆き倒れていく。

「ああ、俺の腕がぁ！」

「目が……何も見えない。助け……ぐぇぇっ！」

苦しみのびを聞いて、敵兵の顔が一気に青ざめるのを見逃さなかった。

付け込む隙は作り出す。

人というものは、心がある限り必ず揺を見せる生きだ。

「はぁっ！」

更に剣を振る。

鮮が飛び散り、顔に返りが付著するがそんなことを気にしている暇はない。

一回でも、一秒でも速く剣を振れ。

無駄なきを徹底的に排除して、最短で片付ける。

きっかけを作った。

その機を見計らい、リツィアレイテも槍を振り敵を吹き飛ばし始めた。

「な、なんなんだよ……あの二人。あんなの……人間じゃねぇぞ！」

人外扱いされるのも、悪くないな。

武人である俺たちからしたら、それは褒め言葉にる。

「リツィアレイテ將軍、このまま押し切るぞ」

「ええ、後方からも続々と援軍が來ています。本軍到著も近いですよ」

俺とリツィアレイテはたった二人で數十名の敵兵を倒し、活路を開く。

さあ、最終戦だ。

リゲル侯爵まで本當に後し！

「全て薙ぎ倒しましょう！」

振るわれた剣と槍は、多くの飛沫と斷末魔を生み出して、

真っ赤なレッドカーペットを作り出す。

金屬と金屬がぶつかり合う音が、響き続ける。

……そして。

いつしか、その金屬音すら消えた──。

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