《反逆者として王國で処刑された隠れ最強騎士〜心優しき悪役皇様のために蘇り、人生難易度ベリーハードな帝國ルートで覇道を歩む彼を幸せにする!〜【書籍化&コミカライズ決定!】》【49話】騒は収まったものの……
リゲル侯爵の捕縛劇は実に呆気ないものであった。
あの兇暴な大男を倒して、ヴァルトルーネ皇の特設新鋭軍が中央広場を占領したという報が相手方に渡った時點で勝敗はほぼ決した。
抵抗していた兵士も、勝ち目がないと悟った途端に武を捨てほとんどの者が降伏。
最後まで抵抗を続ける敵兵には、然るべき対処をした。
不要な殺しはしたくなかったが、それは仕方のないこと。
……せめてものけ。
立ち向かってくる彼らの名譽のために正面から斬り伏せた。
「アルディア卿、ここ一帯を完全掌握致しました」
「ああ。次は殘黨がいないか洗い出しをしてくれ、降伏勧告も忘れずにな」
「はっ!」
リゲル侯爵領は完全にこちらの支配下。
敵兵もこちらに寢返るなり、リゲル侯爵の柄を素直に引き渡してくれた。
不要な爭いを起こす手間が省けたことがなによりである。
「くそぅ、裏切りおって……この役立たず共がぁっ!」
……そして、目の前のリゲル侯爵は現在進行形で暴れているし、凄く騒いでいる。ちょっとうるさいし、うんざりしていた。
「……弁解の余地……は、ないんだろうなぁ」
自分の置かれた狀況がとてもつもなく危ないというのに、リゲル侯爵は未だに悪態を吐く。とんでもない肝の座り方である。
「ヴァルトルーネ皇殿下に、彼を捕まえたとの報告が行きました。すぐに到著すると思います」
リツィアレイテがこちらに來て、簡潔にそう告げる。
次にリゲル侯爵の方に視線を向け、しばかり眉を顰めた。
「じゃあ、それまで彼とし話しておくか」
リツィアレイテと共に俺はリゲル侯爵の前に立つ。
彼は俺とリツィアレイテがこの軍の要職に就いていると気がついたのか薄汚い笑みを浮かべる。
「おい、そこの二人。……どうだ、私と組む気はないか? 金なら弾むぞ。なにせリゲル侯爵領は巨萬の富を築き上げた領地として有名だからなぁ」
「…………」
「…………」
「金だけで不満なら……はどうだ? そっちの嬢ちゃんにはとびっきりの男を用意するぞ。なぁ、悪くない條件だろぅ?」
──はぁ、なんというか。想像通りと言えば想像通りなのだが……思っていたよりも酷いな。
リツィアレイテがゴミを見るように視線を向けている。
相手が貴族であるにしても、流石に許容範囲をオーバーしたらしい。
何も言わないのは、怒りのあまり言葉すら出てこないからだろう。彼の神狀態に悪影響だと判斷し、俺はそっとリツィアレイテの肩に手を置いた。
「──はっ!」
「リツィアレイテ將軍、向こうのほうで事後処理の指示をお願いします。こっちは俺がやりますから」
リツィアレイテは俺に申しわけなさそうに頭を軽く下げた。
そして、
「気を遣わせてしまって、申し訳ありません」
そう謝罪の言葉を口にする。
まあ、こんな反省の全く見えない態度を見たら、怒りたくなる気持ちも分かる。
リツィアレイテは特にそういう部分に厳しそうだし、彼の態度が癪にったようだ。
當然のことだろう。
だから、俺は首を振りつつ、笑顔を向けた。
「気にしないでください。適材適所ですから」
「そう言っていただけると、大変助かります。では、私はこれで」
その場を早く離れたかったのだろう。
リツィアレイテは早足でその場から遠くへ歩いて行った。
「ちっ、あの……せっかくこの私が高待遇で迎えてやると言っていたのに」
まだ言うか……。
ここからの大逆転劇など、天地がひっくり返らない限り起きたりしない。
市街地に殘された市民への狀況説明などは著実に進んでいた。
領主の犯した大罪もしっかりと周知させて貰った。
彼の味方をしたがる者など狂信的な者でない限り皆無だと思う。
「おい、そこの騎士。私の話を聞かんか!」
ああ、まだ話していたのか……もう本當に面倒だなぁ。
ヴァルトルーネ皇が到著するまで、この無駄話に付き合わなきゃならないのかと思うと、本當にうんざりする。
「はぁ……」
「なんだそのため息はっ!」
「いえ、貴方はその……ご自の置かれた狀況をもっと冷靜に把握したほうがいいかと思いますが」
「私は冷靜だ! リゲル侯爵領はこの先も繁栄し続ける! だから、この手を縛る縄を解いて私を逃すのだ!」
それで冷靜、か。
それともただの馬鹿なのか……。
ヴァルトルーネ皇、早く來てください。
そう願いつつ、俺はリゲル侯爵の戯言を延々と聞かされ続けた。
4章は次話でラストです!
お楽しみください。
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