「ええっ！　じゃあ、リツィと昨日飲みに行ったんですかぁ！」

心配で見にきたら、リツィアレイテの同僚らしきに捕まってしまった。

どういうこと？

昨日の酔い潰れ方が気になり、立ち寄ったらこのざまである。

倒れるリツィアレイテをなんとかけ止めて、そのままベッドに寢かせたところで目の前の子から質問責めにされている。

「はい、飲みに行きました」

「で、リツィを酔わせてお持ち帰りしちゃったと！」

「それは違います」

変な誤解をしないでしい。

割と早い時間に切り上げることになった上に、彼を部屋まで送り屆けてから、俺はまた仕事をすることになった。

『悪いアル、ちょい手伝ってくれ』

偶然仕事中のスティアーノと會い、大量の荷を運ばされたのだ。

──今日はついてないとか思っていたが、今にして思えば、事実無の噂を抑止するためのアリバイ作りになったな。

「昨夜はリツィアレイテ將軍と一時間程飲んでから、すぐにお開きとなりました」

「えぇ、それだけなの！」

「はい。その後リツィアレイテ將軍を部屋まで送り屆け、そのまま俺は仕事をすることになりました。歩兵部隊のスティアーノに確認をしていただければ、事実であると分かるはずです」

説明を終えて、なんとかなったと息を吐く。

これであらぬ誤解も解けて、怒られることもないだろう。

そう思いつつ、目の前のの顔を見てみると──。

「む〜」

何故か膨れていた。

え？

「あの、どうかされましたか？」

聞き返すと、ビシッと人差し指をこちらに突き付け、

「なんでお持ち帰りしないんですかっ！」

とんでもないことを言われてしまった。

いや、なんでその部分を咎められなきゃならないんだ。

紳士的に対応したのに、怒られ……彼の言う通りにしたとしても、それは最低な行為である。

「理不盡な怒りを向けないでいただきたい」

「だって、リツィはこんなに人さんで。無防備なままいたら、普通は襲いたくなるものじゃないですか！」

「襲いたくなったとしても、襲わない人だっています」

「それは男じゃありません！」

別否定された。

泣いて良いか？

確かにリツィアレイテは整った顔立ちをしている。

普段はクールで格好いい彼が酔ってふにゃふにゃになっていたあのギャップは確かに可いとじた。

けれども、それで『襲おう』なんて思うようなやつは本當に節のないクズでしかない。

「それとも、リツィに魅力がないとでも！」

「そんなこと……」

「言ってるんですよ。可いの子が酔い潰れていて……その據え膳を食わないということは、リツィに魅力をじていないってことと同じなのです！」

暴論だ。

早くなんとかしないと、ヒートアップし過ぎて外にまでこの下品な會話がれてしまう。そんなことになれば、俺に非難の視線が殺到すること間違いなし。

だから、

「リツィアレイテ將軍はとても魅力的なです。手を出す気はありませんが、彼の貌やしっかりとした人間を俺は高く評価しているつもりです」

ベタ褒めしとくことに決めた。

もちろん、噓は言っていない。

リツィアレイテ將軍は本當に魅力的である。それは誰の目から見ても明確だろう。

俺が彼に手を出さないのは、心を抱いていないから。

いや、抱いていたとしても、同意なしに手は出さない。

「じゃあ、リツィを襲いなよ！」

「襲いませんよ」

「はぁ……」

ため息を吐きたいのはこっちだよ。

何故論點が襲う襲わないなんていう極端なところにあるんだろうか。こういう人間関係はそんなに単純じゃない。

「俺はリツィアレイテ將軍のことが好きですよ。尊敬もしています」

「…………」

「彼も俺を信頼してくれていると思います。だからこそ、この関係を壊したくはない──信頼は積み上げるのに時間がかかりますが、崩れるのは一瞬なんです」

大切な人には常に誠実でいたい。

信頼を損いたくないし、誰も失いたくない。

全てを失った頃の俺は心に大きく空いたを埋めることが出來なかった。

無気力なまま殺された。

「リツィアレイテ將軍は、俺にとって同志みたいなものなのです。ヴァルトルーネ皇殿下に仕える……同じ志を持つ絶対に失いたくない仲間なのです」

「うん……そっか」

「今はただ、ヴァルトルーネ皇殿下に忠誠を誓う者同士、手を取り合い、ヴァルトルーネ皇殿下の進むべき道を切り拓くため、共に戦う……そういう関係なのですよ」

今はなんてしていられない。

ヴァルトルーネ皇の悲願を就させるために。

俺はリツィアレイテと共に戦場を駆け抜けたい。

そこまで言い切ると、は大人しくなっていた。

分かってくれたみたいだ。

そのの頭を軽くで、見上げてくる瞳をじっと覗いた。そして、眠るリツィアレイテの方に視線を移す。

「リゲル侯爵領での戦いで、彼は本當に頑張ってくれました。今日くらい休ませてあげましょう」

「そうですね。私！　リツィの看病します」

「では、俺はリツィアレイテ將軍の仕事を分擔するように特設新鋭軍の者たちに伝えてきます」

去り際、部屋から聞こえてきた言葉があった。

リツィアレイテに向けて、そのが告げた言葉。

「よかったねリツィ。素敵な仲間ができて」

──こちらこそってじだよ。

俺は過去の世界でヴァルトルーネ皇とリツィアレイテの言葉に救われた。

だから今世では、

俺が彼たちの助けになれるようにしたいのである。

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