「おい、平民……し付き合え」

仕事の移をしている時のことであった。

肩を強く摑まれ、振り向けば見覚えのある男がいた。

鋭い瞳。

そして、俺を嫌いしているのが丸分かりな態度を取る騎竜兵の男。

ヴァルカン帝國に俺たちを送る時。

唯一反対したやつ。

「貴方は確か」

「リーノスだ。リーノス=フォン=ゲルレシフ」

「はい、リーノス卿」

俺が名を呼ぶと、リーノスは「ふん」と鼻を鳴らす。

相當俺のことが気にらないみたいである。

ヴァルトルーネ皇の懸念が當たっていたことが今こうして証明された。

さて、あとの問題は、

「それで、俺に何か用ですか？　リーノス卿」

彼がどんな意図で俺に聲をかけてきたか、だ。

剣は常に帯刀している。

非常時の襲撃などに備えてのことだ。

もし、今この場で彼が攻撃を仕掛けてきたらと考える。帝城でを流すのは不本意なことだが、そうなったら仕方のないことだ。

『貴方のは、貴方自にしか守れないわ』

ヴァルトルーネ皇からの忠告をしっかりと思い出す。

ピリついた空気を味わいながら、俺はリーノス卿が口を開くのを待つ。

彼は面倒臭そうな顔でため息を吐いた。

「アルディア=グレーツ。貴様を呼んでいる者がいる。大人しく付いてこい」

彼の目的は俺の呼び出しであった。

▼▼▼

「連れてきたぞ」

連れて行かれた先は、帝城にある人気のない置倉庫の近くであった。

リーノス卿はガシガシと頭を掻きながら、目の前にいる人にも眼をらせる。

帝國の兵士らしき者が數十人。

明らかに俺に敵意を持ってるのをでじる。

リーノス卿の放つものとはまた違う。嫌いとかそういう生優しいものではない。

敵意の種類が悪辣なじだ。

よくよく観察すれば、反皇派の貴族もチラホラ。

なるほど、ヴァルトルーネ皇の権威を損ねるために、まずは専屬騎士の俺を潰しておこうということか。

「ありがとうリーノス卿。もう帰ってくれていい」

集団のリーダーらしき男はリーノスの肩に手を置いて、そう不敵に笑う。

リーノス卿はそのまま同調して頷く……かと思いきや、男のことをキッと睨みつけた。

「馬鹿言え、この平民に何をするかと思えば……多人數で痛め付けるなんて、帝國貴族としての誇りをじられないな」

どうやらリーノス卿はそういうことに加擔する気はなかったようだ。俺みたいな邪魔者を排除するなら絶好の機會だと言うのに。

「おいおい、リーノス。お前もこの平民が気にらないって言ってたじゃないか。貴族と平民の違いというものををもって教えてやるだけだぜ？」

「口の利き方に気をつけろよ、セニス卿。家督は継げないが、俺は由緒正しきゲルレシフ公爵家の者だ」

「おお、これは失敬。申し訳ないね、リーノス卿よ」

「ちっ！」

め……というわけではないな。

リーノス卿は普段からこいつらとは連んでいない。

というか、リーノス卿のゲルレシフ公爵家は皇派。

普通なら相対することのない者たち。

──平民の俺が気にらなかったから、呼び出すことに協力したのか。

それにしては、呼び出し後の話が雙方で噛み合っていない。

「俺はお前たちがこの平民と話がしたいというから、取り次いだに過ぎない。馬鹿なことをする気なら、こちらも強手段を取るしかないんだが」

セニスという男は、リーノス卿のドスの効いた言葉に屈することなく、むしろ嘲笑うかのような表を浮かべる。

「おいおい、冗談はよしてくれ。この人數差……いくら、騎竜兵隊副隊長のリーノス卿であっても、無理があるだろうに」

多數で數の敵を叩き伏せる。

卑怯だが、確実な手段。

數の暴力とは古來より強いものだ。

──有象無象が寄り集まって、強者に挑む。ヴァルトルーネ皇のことを陥れるためにご苦労なことだな。

「リーノス卿、その平民をこちらに差し出してもらおうか」

「ふざけるな。帝城での理不盡な狼藉を許すわけがないだろ」

なんというか、リーノス卿が嫌なやつではなく、俺を庇う正義役みたいになっている。

そんなことしなくてもいいのにな。

──し前から、視線をじていた。

この場所からはそれなりに離れている。

けれども、確かにこちらを見ている目があった。

──ヴァルトルーネ皇と皇帝グロードの二人だ。

彼はこちらで俺たちがめている様子をじっと見ている。

助けを寄越すつもりもなさそうだな。

──俺自に解決しろってことだろう。

皇帝グロードの見ている前。

敵は數十人の兵士と貴族。

退けることができれば、ヴァルトルーネ皇の選択が正しかったと証明できる。

これは、ピンチなどではない。

チャンスだ。

「リーノス卿、もういいです」

「おい、アルディア=グレーツ。お前もどういうつもりだ！」

「彼らの相手をします。幸い、得は常備しているので」

リーノス卿は驚愕の表を浮かべる。

「お前……この數を相手取るつもりか？」

「無謀だと思いますか？」

「當たり前だ。こんなのは一方的な暴力に過ぎない」

──まあ、普通ならそう考えるだろう。

この人數差を覆せるほどの力量が俺にあるなんて、リーノスは考えていない。

何故なら、彼自が俺のことを認めていないから。

平民、そして多分、俺の経歴もある程度知っているだろう。

士學校での績は特別秀でていなかった。

平凡な平民、それがヴァルトルーネ皇の専屬騎士。

俺が彼の立場であっても、何かの間違いかと思う。

──けど、この好機は有効活用させてもらう。

「へへっ、落ちこぼれの平民ごときがヴァルトルーネ皇殿下の専屬騎士になるなんての程知らずもいいところだ！」

「おいおい、殺すなよ。泣きながら皇様に泣き付くところを見るんだからさぁ」

「ははっ、それは傑作だ。専屬騎士でいることを恥じるまで痛め付けてやるよ！」

ゾロゾロと前に出てくる集団。

彼らは予め用意していたであろう剣や槍などを構える。

「おい、逃げるぞ」

リーノスに服の裾を強く引かれる。

だが、俺は彼の思に反して、彼らの方へと一歩踏み出す。

迷ったわけじゃない。

──ちゃんと勝てるから、こうして前に出ることができる。

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