溜まりにボトリと腕が落ちた。

周辺にあった草木には、飛び散ったが付著し、周囲は大慘事と言える狀況。

暗殺者のように目立たず戦うなんてことをしない弊害だ。

俺はただ、最大限の効率だけを重視する。

だから、自らの裝いがや汚で汚れることや、景観への配慮などは自然と疎かになる。

「……か……はっ」

暗殺者の首をギュッと握り、そのまま自分の頭頂部よりも高い場所に持ち上げる。

必死に俺の手を解こうとしているが、次第にその力も弱くなっていく。

「言い殘すことは？」

「…………し、ねっ！」

ゴキッ！

ああ、思わず首の骨を折ってしまった。

暗殺者に言われた言葉に怒ったわけじゃない。

完全に反的行だった。

しかし、最後の言葉が「死ね」……？

言い殘すなら、他にも々と言うことがあったはずなんだが。

と、悠長に考え事をしていると、背後から漂う殺気が濃くなった。

なるほど、まだ殘っていたか。

どう対処してやろうかと、思いつつ取り敢えず回避する。

敵の刃が俺の服に接するかもしれないという僅かなタイミング。

くるりと避ければ、最後の暗殺者は顔を真っ青にしていた。

「言い殘すことは？」

再び同じ文言を暗殺者に向けて言い放つ。

「────！」

しかし、その暗殺者は返事をする間もなく、を吐いた。

殺したのは、俺ではない。

「──穢らわしい輩に言など、必要ないだろ」

暗殺者の心臓を貫く短剣。

形狀から見るに、俺が殺した暗殺者の持ち。

そのまま生き絶える暗殺者を見下すように佇む。

──彼とは最近よく出會うな。

「リーノス卿」

「ふん、品のない殺し方だな。アルディア=グレーツ」

救援に現れたリーノスは、俺のことを大層煩わしそうに睨みつけていた。

飛び散ったがそこらじゅうに転がっているのが気にらないのだろう。ため息を吐いた後に俺に指を差し告げる。

「ヴァルトルーネ皇殿下の専屬騎士の癖に、優雅に戦うことも出來ないのか、貴様は」

「効率を重視したまでです」

「気にらない！　そんな野蠻な殺し方……平民上がりの程度が知れる」

また平民と。

平民に親でも殺されたのか？　……というくらいに、彼の言葉は語気が強かった。

「くれぐれも、ヴァルトルーネ皇殿下の名に泥を塗らないことを考えろよ。貴様の一挙手一投足は、常々見られている」

彼からの言葉は、嫌味のように聞こえるが実はそんなものではない。純粋に俺へのアドバイスのようであった。

「そうします」

俺がそう返事を返せば、リーノスは再び暗殺者の死に目を向ける。

無慘に切り刻まれた死。

全部、俺がやったんだけども。

そういえば、後片付けのことを考えていなかった。

放置するわけにもいかないだろうし、どうしたものか。

俺の考えを察したのか、リーノスは炎系統の魔を手のひらに宿す。

「死は焼け。どうせ、こいつらと繋がっている奴を追い込む手札はもう持ってるんだろ？」

「はい、一応」

軽くけ答えをすれば、フンッと鼻を鳴らし、リーノスは魔を暗殺者の死に向かって、魔を飛ばす。

死はメラメラ燃え上がる。

後にはきっと焦げ炭しか殘らないだろう。

「全く、しは事後処理のことを考えろ。お前は平民だが、今、その立場に甘んじることは許されない。専屬騎士としての振る舞いを忘れるな」

再度の忠告。

俺はただ頷くしかなかった。

彼の言っていることは至極正しい。

「専屬騎士の責任は、貴様が考えている以上に大きい。ヴァルトルーネ皇殿下に選ばれたのなら、その責務を背負い続ける覚悟をしろ。學生気分では困るからな」

言い添えられた言葉を聞き、俺は再度頷く。

「そのつもりです」

彼に盡くすと決めた。

彼に運命を託すことを選んだ。

運命共同。

ヴァルトルーネ皇が滅ぶ時、俺も滅ぶ。

だからこそ、彼に破滅という未來を見せる気はない。

「生半可な覚悟で、國を捨てたりはしない」

「ふん、そうか……」

「ポッと出の俺が専屬騎士なんて、認めたくない人は多いだろうけど」

「當然だな。俺も貴様なんぞが専屬騎士になったなんて認めたくない」

焼き焦げた死を瞳に映しながら、彼は首を振った。

「でも」と付け加え、彼はすっと俺の元に拳を叩きつける。

「お前は選ばれた。なくとも、あの方に認められたのは、お前が初めてだ」

誇るべきことであると。

彼はそう言っているような気がした。

ヴァルトルーネ皇が初めて選んだ専屬騎士。

前世ではリツィアレイテ。

けれども、そんなことを知るのは俺とヴァルトルーネ皇だけだ。

今世でヴァルトルーネ皇に俺は確かに選ばれた。

「俺はあの方の決斷を信じている。だから──俺を失させるなよ。アルディア=グレーツ」

彼の言葉は棘だらけ。

皮の一つは必ず挾まれる。

貴族としての誇りが顕著に現れている証拠であった。

けど、今回は……。

──初めて、彼と向き合えているような気がした。