《【書籍化】悪喰の最強賢者 ~兄のせいで『加護なしの無能は出て行け!』と実家を追放されたけど、最強の力が覚醒したので無雙します。危険度SSランクの魔なら、僕が食べ盡くしましたよ?~》君だけには本當の気持ちを話せるみたい……
懐にかなりの余裕ができた僕は、商店街の隣で開かれている市場で晩飯用の食材を購してから、アリシアの店へ帰った。
「おかえりなさい! アガサばあさんの腰、大丈夫そうだった?」
「うん、布は渡してきたけど、問題ないみたいだったよ」
「よかった! それで、君の素材のほうはどうだった?」
さっき戻ってきたときは、布をけ取ってすぐ出かけてしまったので、まだ買取については話せていなかったのだ。
「それが、信じられないぐらい高い値段で買い取ってもらえて……」
「ふふふ! でしょう? 白蓮魚の素材は本當にレアなんだから」
「アガサばあさんを紹介してくれたアリシアさんのおかげです。今後どんな素材でも持ち込んでいいって言ってもらえて、本當にありがとうございました」
「あのアガサばあさんがいつでもこいって言ってくれたの?」
「はい」
「すごいじゃない!? 彼、とっても素材に詳しくて、買取以外にも様々な知識を與えてくれるから、冒険者の間で大人気なのよ。そのせいで、すごくレアな素材じゃないとなかなか買い取りの機會が回ってこないんだけど。そっか、君は特別に顔パスかあ」
「それで、これは解してくれた分なのでけ取って下さい。買取価格の半分で平気ですか?」
「ちょっと、何言ってるの!? け取れるわけないじゃない……!」
「だめですよ。そこはちゃんともらってください。アガサばあさんもアリシアさんの解の腕がいいから、素材に傷がついていないって褒めてましたし」
「君はもうすでに鱗を何枚も譲ってくれたでしょう!? 買い取りによって、あれですらとんでもない価値があるってわかったはずよ! してもらい過ぎるのは絶対だめよ」
「だけど……」
「だけどはなし! まったく、君がお人好し過ぎて心配になっちゃうわ」
「お人好しというか、アリシアさんがお禮をさせてほしいと思える人だからですよ」
「……そのうえ人たらしだし、もうっ……」
なぜか彼の頬が赤い。
ていうか、人たらしってなんのことだろう?
「さあ、お金の話は終わり終わり! それより、その君の敬語なんだけど、やめにしない? しばらく一緒に生活するんだし、他人行儀なのも寂しいじゃない」
言われてみれば、たしかに。
「アリシアさんさえよければ」
「『さん』もなしよ」
「はい、あ、じゃなくて、うん。えっと、それじゃあ改めてよろしく……」
なんだか気恥ずかしくて照れながら頭を下げると、アリシアはくすくす笑いながら「こちらこそ」と言った。
「それにしても、素材屋さんに認められるほど解の腕まで優れてるなんて、すごいね」
「ふふ。実をいうと、すでに用意されている素材を調合することより、薬の素材となる魔を自分で取りに行って、解してるほうが好きなのよ。でも、今はこのお店を姉さんの代わりに守らないといけないから、もっぱら店番ばっかりなんだけど。姉さんが帰ってきたら、お店は任せて冒険に出たいと思ってるんだ」
「それじゃあアリシアも冒険者ギルドに登録してあるの?」
「ええ。薬師として登録済みよ。実際、登録してから姉さんが留守にするまでの半年間は冒険者として活していたし」
「お姉さんは今どこにいるの?」
アリシアは笑顔のままよどみなく答えた。
「姉さんは新薬の開発を行うメンバーに選ばれていて、一年の契約で王都に行っているわ。今ちょうど半年経ったぐらいね」
「それは寂しいね。姉さんと君はすごく仲がいいんだろう?」
「……!」
不意にアリシアが言葉を詰まらせる。
笑顔がしだけれて、彼の瞳は心の揺を表すように揺れた。
「寂しいとか、仲がいいとか、どうしてわかったの……?」
「え? だってほら、このお店の名前。さっき君はお姉さんがお店を開いたって言ってたのに、店名は君の名前になってる」
今度は途端に顔が真っ赤になった。
僕よりし年上らしいアリシアは、これまでずっとしっかりとした自立したというじで振舞っていた。
でもこういう顔をすると、途端に子供っぽくなる。
これが本來の彼なのかもしれない。
「姉さんに可がられてたなんて、子供っぽくて恥ずかしいんだけど……。年が離れてるせいか、姉さんは私のことを貓可がりしてたのよ……。自分の店なのに、妹の名前を付けるなんてどうかしてるわよね」
真っ赤な顔でもごもごと愚癡るアリシアに、微笑みを返す。
「……君は嗤ったりしないのね」
「なんで嗤うの? 家族仲がいいなんてすごく素敵なことだと思うよ」
自分の家がひどい有様だったから、むしろ尊敬の念すら覚える。
アリシアは僕の反応が意外だったみたいで、ホッとしたように肩の力を抜いた。
「……姉さんが王都に一人でいくって言いだしたとき、本當はすごく寂しかったの。でも、素直に気持ちを伝えることができなかった」
「うん」
「強がったまま、今日までずっとお店を夢中で守ってきたから、誰にもこの気持ちを打ち明けたことなかったの。寂しいって認めるのが怖かったのかも」
アリシアは俯いていた視線をあげ、僕を見つめてきた。
「……なのに、どうして君には話せちゃったんだろう」
ふっと表が和らぎ、親しみのこもった微笑みが現れる。
「君って不思議。昨日會ったばかりなのに、素直に気持ちを打ち明けられるの。君が醸し出す穏やかな雰囲気のせいかな?」
僕は照れてしまって、返す言葉を見つけられなかった。
アリシアははにかみ笑いを浮かべると、そのを誤魔化すように立ち上がった。
「おなかすいてるでしょ? 食事を用意するわね」
「あ! 食材を買ってきたんだ。もしキッチンを貸してもらえれば、僕がチャレンジしてみるけど――」
「チャレンジ? ふふっ、さては料理したことないわね」
「う、うん」
「それなら今日は私に任せて。疲れているだろうから、料理は今度教えてあげる」
ニコニコ笑いながら食材を確認したアリシアのきがぴたっと止まる。
「ディオくん!? この中に白蓮魚のおがってるけど!?」
「ああ、そうなんだ。アガサばあさんが味しいって教えてくれたから、三人前避けてもらって持って帰ってきたんだよ」
「これとんでもなく高級な食材よ!?」
「うん、だからこそせっかくだし、一緒に食べてみたいなって思ったんだ」
アガサばあさんから教わった調理法を説明しつつ、「本當に私までご相伴にあずかっていいの……?」と聞いてくるアリシアを説得した。
「こんな高級食材をしれっと差し出すなんて、ほんとディオくんには驚かされるわね……。じゃあ気合をれて料理してくるわね……! ああーっ、張する!!」
僕から食材をけ取ると、アリシアは腕まくりをしながら部屋を出ていった。
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