《【書籍化】悪喰の最強賢者 ~兄のせいで『加護なしの無能は出て行け!』と実家を追放されたけど、最強の力が覚醒したので無雙します。危険度SSランクの魔なら、僕が食べ盡くしましたよ?~》黒幕
宿を出た僕は、夜の街を歩いて目的地まで向かった。
侯爵の家からそんなに離れていない貴族の邸宅が並ぶ地區の外れに、その屋敷はあった。
僕は飛翔魔法を発させると、木の上に飛び乗った。
窓から中を覗いて回り、家主がいる部屋を探す。
人のいない寢室、ゲストルーム、よくわからない品の展示された部屋。
ここでもない、ここも違う。
そのたび、隣の木へ飛び移る。
何度か同じ行を繰り返していると、ようやく人のいるリビングに行き當たった。
屋敷の主は、ソファーの上に足を上げ、くつろいだ勢で橫になっている。
口付近には、姿勢よく立った黒ずくめの男の姿がある。
男の醸し出す雰囲気は、昨日路地裏で僕らを襲ってきた暗殺者たちとよく似ていた。
ついている。
もともとの計畫では、すでに手にしている報をもとに揺さぶりをかけ、自白させるつもりだったのだけれど。
もしかしたら、このままここで聞き耳を立てていれば、こちらにとって都合のいい話を聞けるかもしれない。
僕は以前雑貨屋のレディが見立ててくれた新人冒険者キットの中から、魔法録音機を取り出し、しばらく様子を伺うことにした。
屋敷の主は、窓が覗ける木の上に耳をすませている者がいることなどまったく気づかないまま、満足そうに笑っている。
「――それで? すべて計畫通りにいったのよね?」
屋敷の主であるが、扉の橫に立った男に問いかける。
複雑にまとめ上げられた巻き髪、きらびやかなロングドレスと、首や指を輝かせる寶石類。
とにかく派手な印象を與えるだ。
男の方は全を黒ずくめでまとめていて、冷酷そうな顔つきをしている。
角張った郭と刈り上げた短髪が特徴的で、よりは年上に見えるが、分は明らかにの方が上のようだ。
そうは言っても、男のほうも過剰にへりくだるような態度を取っているわけではない。
むしろ、直立不でいるわりに、表は憮然としていて、心の中では貴族を見下している様子が伺えた。
「コッパード夫人。自分は殺しのプロだ、抜かりなどない」
男がの名を呼ぶ。
この名前を聞くのは二度目。
以前、研究員の話の中にちらっと出てきた名だ。
このは侯爵の人で、レイラさんたちの研究を支援するよう、侯爵に進言したという人である。
コッパード夫人はソファーからしを起こすと、疑い深そうな流し目で男を捕えた。
「どこまで信じていいのかしら。侯爵だって、あなたと同じような殺し屋を雇って、あの冒険者たちを始末しようとしたのよ。それなのに結果はどう?」
「ふん。侯爵が雇ったような連中と一緒にしないでいただきたいですね。どうせ侯爵は金を惜しんで三流に依頼したんでしょうよ」
「はした金を惜しんだ結果、冒険者なんかに嗅ぎ回られることになるなんて、本當に馬鹿な男」
「侯爵が手にれてきた研究ノートをけ取った段階で、さっさと殺しておけばよかったんですよ」
「簡単に言うわね。わたくしだってできれば殺しを依頼なんてしたくはなかったのよ?」
「そのわりに今日はあっさり侯爵を始末するよう命じたじゃないですか」
「當然じゃない。あの足手まといを生かしておいたら、いつかわたくしまで疑われそうなんですもの」
やっぱり今日はついている。
自分たちに都合よく事が運んでいると思い込んでいる二人がベラベラしゃべってくれたおかげで証拠をばっちり摑めた。
僕は、手の中に握っていた魔法道を鞄にしまうと、窓ガラスをけ破って室へ飛び込んだ。
「きゃああッ!? ……あなた何者なの!?」
コッパード夫人が誰何している間に、黒ずくめの男がコッパード夫人の前に移する。
「コッパード夫人、こいつが侯爵を嗅ぎ回っていた冒険者のうちの一人ですよ」
「……! ……ふうん、そういうこと」
さすが強かなだ。
突然の侵者の登場に驚いていたコッパード夫人は、狀況を理解した途端落ち著きを取り戻し、高飛車な笑みすら浮かべてみせた。
「よくわたくしのところまで辿り著いたわね」
「最初からあなたに疑いを持っていたので」
「最初?」
「侯爵の家を初めに訪れた時ですよ」
コッパード夫人は予想外だったのか、細い眉をぴくりと吊り上げた。
「あの時、あなたは侯爵の家にいましたよね? そして、侯爵に指示を出した。あなたはこう言ったはずだ。『尋ねてきた冒険者たちが無能そうか確認してから依頼を出すのよ。有能な冒険者はだめ。わたくしたちの計畫を見破られる恐れがあるのだから』と」
コッパード夫人の顔が驚きから恐怖へと変わる。
「なぜ知ってるの!? あのとき尋ねてきた冒険者は、わたくしたちのいた部屋とは別の階で待たされていたはずよ……!?」
「そうですね。でも、僕の耳にはあなたたちの會話がしっかり聞こえていたんで」
あのとき、僕とホランドさんは侯爵にさんざん待たされた。
ホランドさんは、貴族によくあることだと言っていたけれど、僕は正直、訪問していることを忘れられているのではないかと疑ってしまった。
その結果、かに聴覚強化魔法を発させ、侯爵がどこで何をしているのか探りをれたのだ。
しかし、そのおかげで侯爵をそそのかすコッパード夫人の存在を知ることができた。
「聴覚強化魔法!? ……そんな魔法が存在しているの!?」
揺したコッパード夫人が詰問するような聲で黒ずくめの男に問いかける。
「……無能な冒険者に使える類の魔法ではないはずですけどね」
「どういうことよ!? 侯爵はこの子のことを無能だって言ってたじゃない!?」
「侯爵の人を見る目が節だったってことでしょうね……」
「……っ、あの男、どこまで足手まといなの……!!」
ヒステリックな聲でコッパード夫人がぶ。
「そういうわけで、僕は侯爵の貴族らしい傲慢な振舞のおかげで、侯爵の後ろで糸を引いているあなたの存在を知ったわけです」
僕は先ほどしまった魔法録音機を取り出し、コッパード夫人の前にちらつかせた。
「先ほどのお二人の會話はしっかり録音してあります。ありがたいことにあっさり自供してくれたので、僕が詰める必要もなくなりました。どうします? 自分で憲兵隊のもとへ出頭しますか?」
コッパード夫人は魔法道を見つめながら、白い額に青筋を立てた。
「やっぱり馬鹿なお子様ね。そんな機械もあなた自も、消してしまえばなんの意味もなさない。さあ、やっておしまい!」
「というわけだ。一人で乗り込んでくるなんて馬鹿なことしたな小僧」
黒ずくめの男が舌なめずりをしながら、短剣を構える。
やれやれ。
相手をするしかなさそうだ。
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