《【書籍化】悪喰の最強賢者 ~兄のせいで『加護なしの無能は出て行け!』と実家を追放されたけど、最強の力が覚醒したので無雙します。危険度SSランクの魔なら、僕が食べ盡くしましたよ?~》あなたじゃ僕には勝てない
「えっと、一応忠告しておきますが、お金のためならやめた方がいいです。あなたじゃ僕には勝てないと思うので」
「これだから若造は……。自分の力量に自惚れていられるのも今のうちだ。コッパード夫人が俺に依頼したことをあの世で恨むんだな」
この部屋にる前から、僕は自分に速度強化のバフをかけてある。
相手も同じ能力を保持していない限り、人間離れした僕の速さについてくるのは不可能だ。
しかも、速度についてこられたところで、消耗することなく様々な種類の魔法を併用できる僕と渡り合うのは相當難しいと思う。
僕の加護は、はっきり言ってフェアじゃない。
だから一応忠告したんだけれど……。
殘念ながら男は武を構えてこちらに向かって來ようとしている。
走り出す直前、男がスッと短く息を吸った。
その直後――。
「……な、んだと?」
男が茫然と呟く。
「……どうなってる……」
首筋にひんやりとしたを覚えたのだろう。
ピタッときを止めた男が、視線だけを自分の手元に下ろす。
握っていたはずの短剣がないことに気づき、男はゴクリとを鳴らした。
「貴様……一……」
男は正面を向いたまま、真後ろにいる僕に問いかけてきた。
僕が首筋にナイフを押し付けているから、振り返ることができないのだ。
ちなみにこのナイフは男のものである。
「どうやってこの一瞬で、俺からナイフを奪い背後まで移できた……?」
「あなたには一瞬のことでも、僕にはそうじゃない」
「……」
「黙ってこの場を立ち去るか、僕に気絶させられるか選んでください」
男は溜息を吐くと、の力を抜いた。
「たしかに俺に勝ち目はないようだ。割に合わない仕事はしたくない」
それまでやりとりを眺めていた夫人が、ぎょっとした顔で話に割り込んでくる。
「ちょっとどういうつもり!? ちゃんとその子を始末しなさいよ!!」
「この狀況が見えてるか? これ以上悪あがきをしたところで、この若造を倒すことは不可能だ」
「ふざけた事いわないでちょうだい! 今さら引き返せないわよ。どんな手を使っても構わないから、殺してちょうだい! 報酬だって上乗せしてあげるわ!」
男は夫人の言葉には答えず、両手を上にあげると降參のポーズを取った。
「わかってくれたようでよかったです。できれば無駄に人を傷つけたくはないんで」
男の態度を見て、僕は手にしていた短剣を下ろした。
ところが――。
「ハハッ! 騙されやがって! 戦いの最中に気を抜くなんて馬鹿な奴だ」
男は振り向きざまにブーツの中に隠していた剣を取りだすと、顔を歪めて笑いながら襲いかかってきた。
僕は呆れながら、男の剣をわし、僕は再び男の真後ろに一瞬で移した。
そんなに怪我したいのかな。
「あ!?消えた!? どこいきやがった」
「おとなしく立ち去ればいいのに、気絶するほうを選んだってことですね」
「……っ!?」
至近距離から攻撃魔法を放つ。
男は衝撃で吹き飛び、天井に激突した。
それからグシャッという嫌な音を立てて、床に落下した。
気絶だけで済まず、骨も何本か折れていそうだ。
「……っ、役立たずな男……!! これじゃあ侯爵の依頼した三流暗殺者と変わらないじゃない!」
文句を言いながら、夫人が扉に駆け寄る。
逃げられるわけもないのに。
僕は風魔法で、開け放たれていた扉を勢いよく閉めた。
「……わかったわ。は、話し合いましょう? お金ならいくらでも出すから……!」
返事をするのも馬鹿らしい。
僕が冷ややかな目で夫人を見ると、夫人は焦りながら駆け寄ってきた。
先ほどまでの高飛車な態度はどこにいったのか。
僕の足に腕を回す、必死に取り縋ってくる。
「全て侯爵がやったことなの、私は悪くないわ。まさかに暴力を振るったりしないわよね!?」
瞳をわざとらしく潤ませ、上目遣いで見上げてくるだけじゃなく、を僕の足に押し付けてきた。
そう言いながら僕の元へ駆け寄り、目を使ってり寄ってくる。
「侯爵もいなくなったし、私の男にしてあげるわ。冒険者なんてやめて私と暮らしましょう! 私の男になれば裕福な生活をさせてあげるわ」
「はぁ……。これ以上僕を怒らせないでください」
僕は一切相手にせず、夫人を突き放した。
「これからあなたを憲兵隊の所へ連れていきます。罪を認めて償ってください。もし貴族という立場を利用して罰から逃れたら、そのときは僕が法の代わりにあなたに制裁を與えます。レイラさんの殺人未遂、ジェイラスさんの自殺の引き金となったこと、レイラさんたちの研究を悪用しようとしたこと、侯爵の殺人も含めて罰をけてください」
「ゆ、許して。そんな罪を認めたりしたら死刑になってしまうわ!!」
「……」
「そ、そんな、噓でしょ……?」
「あなたはまだ自分のした罪の重さを分かっていない。死にたくないのなら、殺さなければよかったですね。人を殺めた事実としっかり向き合ってください」
夫人は絶のあまり目を見開くと、ぺたりと座り込んだ。
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