ぐわっと、飛竜が顎を開いた。

コオオオ……というガスが噴出するような低い音が発して數秒、猛烈な火炎が迸った。

「【拒絶(マネ)】！」

その詠唱とともにオーリンが鋭く蹴った地面を、一瞬後に巨大な火柱が舐め盡くした。

じゅう……という空気が焦げる不気味な音と匂いが発し、地面に叩きつけられた熱波がレジーナの髪を焦がしながら吹き抜けてゆく。

う……！　とレジーナはその凄まじさにいた。

これに巻かれれば、どう考えても「熱い」では済むまい。

まるで溶巖が発するような猛烈な輻熱は、ざっと百メートル程も離れたここにいても、その殺傷能力を想像させて有り余った。

レジーナが前を向くと、跳躍したオーリンは虛空に浮かび上がった魔法陣を蹴った。

そのまま、連続で詠唱を続けて虛空に魔法陣を出現させながら、カエル跳びの要領でぐんぐんと大空を駆け上ってゆく。

「凄い――あんな方法があるなんて……！」

通常、魔法にはある程度の詠唱が必要であり、なおかつ者は魔法効果を発揮させ続けている間は魔力を消耗する。

魔法陣を足場にする――それはほぼ詠唱時間が存在しない無詠唱魔法の使い手だからできる方法に違いなかった。

アレもアオモリでは農作業用の魔法なのだろうか――などとレジーナが考えていると、飛竜がばさりと翼を羽ばたかせた。

飛竜が耳障りな咆哮を上げ、がつがつと歯を鳴らした。

どう考えても、生意気にも自分の領域に駆け上ってきた卑小な人間の存在に苛立っている。

ぐん、と頭を巡らせ、既に百メートルほどの高度に到達していたオーリンに向かい、ぐわっと口を開いて攻撃勢を取った。

「【極大防・転《ノッツド・マネ・ベオン》！】」

バッ、と盾のようにオーリンが右手を翳し――飛竜が咆哮した。

太のさえ圧するとともに火球が放たれ、容赦なくオーリンを飲み込んだ。

あっ、とレジーナが悲鳴を上げた途端、オーリンを包み込んだ火球が矛先を変え――あろうことかそれを放った飛竜の側に、まるで逆再生映像のように跳ね返される。

ドラゴンにとっても、この現象は予想外だったらしい。

人間のようにぎょっと虛空で制をかけたドラゴンは、慌てて翼をはためかせ、すんでのところで火球を躱した。

じりじりと空を灼きながら空中を疾駆した火球は、王國道四號線の遙か向こう――だだっ広い草原地帯に著弾し、猛烈な火柱が上がった。

「魔法反――！」

レジーナは呆然と空を見上げた。

魔法を反することは防魔法の基本ではあるけれど、それにしてもあれ程の攻撃を跳ね返すとは――。

一、自分は今何を見ているのだろうという思いに駆られているレジーナの前で、今度はオーリンが仕掛けた。

再び魔法陣を蹴ったオーリンの全が虛空に踴った。

ぐん、と膂力を総員して空中でを捻ったオーリンの一喝がここまで響いた。

「【水鏡刃(ウルガス・デヴァ)】！」

瞬間、ぐわっと空間が歪むように収斂し、そこから飛び出したのは二対の水の刃だった。

空を切り裂く甲高い音とともに殺到した水の刃は、ドラゴンの皮に容赦なく直撃して散した。

バシャアッ！　という強烈な音とともに、周囲に雨のように水飛沫が上がり、空中にしい虹のを描く。

「グオオオオオオオオ……！」

ドラゴンは苦悶するようにを捩り、翼で顔を覆うようにする。

効いた――！　レジーナが目を瞠ったのと同時に、オーリンは再び魔法陣を蹴った。

刃を喰らったドラゴンは挙が遅れ、一瞬ににも満たない間、空中で靜止する。

そこに向かって大きく魔法陣を蹴り、オーリンは貓のような軽さでドラゴンの背中に飛び乗った。

「うわ、乗っちゃった！」

レジーナが思わずんだ途端だった。

揺れくドラゴンの背中の上で危うく勢を整えたオーリンは、鱗の一枚を左手で摑みながらドラゴンの首によじ登り――まるで脳天を砕くかのように右手を振り下ろす。

「【極大防・獄《ノッツド・マネ・デヴァ》】！」

途端に、空中に數十枚、數百枚の魔法陣が垂直に踴り――積み重なり、折り重なって、虛空に巨大な魔法陣の円柱が出現する。

その魔法陣はまるでオーロラのような極彩に輝きながら、次の瞬間、目標を逸する事なくドラゴンの脳天に吸い込まれた。

ゴォン……という、金屬製の扉を一撃したような、重苦しい音が発した。

ゲェ、と、踏み潰されたトカゲのような聲を上げ、ドラゴンの目からが消えた。

だらん、と弛緩した顎からベロリと真っ赤な舌を垂らすと、ドラゴンの翼から揚力が消失した。

羽ばたくことをやめたドラゴンは、次の瞬間には重力法則に従い、地上へと真っ逆さまに墜落を始めた。

「や、やった――！」

レジーナが快哉をぶと、腕の中に黙って抱かれていたワサオも、ワン！　と嬉しそうに吠えた。

そのまま、首を下にして落下するドラゴンの首にしがみついたままのオーリンは、地面に接する直前にドラゴンを蹴った。

オーリンがやはり貓のような軽さで地面に危なげなく著地したのと、ドラゴンが土塊を巻き上げながら地面に激突したのは同時だった。

吹いてきたそよ風が土埃を吹き散らすのを待って――ようやくレジーナはオーリンに駆け寄った。

「先輩！　オーリン先輩！」

レジーナにひと聲かけられて、オーリンも安堵したかのように、ほう、とため息をついた。

「ややや、上手ぐ行ってよがったではぁ。金玉だっきゃみ上がったったねや」

「すっ、凄いです！　先輩！　まさかドラゴンまでやっつけちゃうなんて！」

レジーナは思わずオーリンの両手を取り、ぶんぶんと上下に振った。

その挙に驚いたように、え？　とオーリンがレジーナを凝視した。

「な、なにすてるんだばレズーナ。すげぇって何がえ？」

「なに謙遜してるんですか！　まさかドラゴンまで撃墜するなんて十分存分に凄いですよ！　さっすがです！　私、オーリン先輩のパーティでよかった！」

思わずに思わずを重ねて褒めちぎると、途端に、オーリンが顔を逸らした。

うぇ？　とレジーナが目を丸くすると、オーリンはぼそぼそと言った。

「なも――そった褒めるんでねぇよ。全く、俺(わ)ば慣れでねぇんだがらや、こういうのには――」

なんと――照れているらしいのだ。

この反応に驚いたレジーナは、そこでやっとオーリンの両手を握っている自分に気がついた。

赤面するオーリンから遅れること數秒、やっとレジーナにも當然の恥心が湧いてきて、レジーナは慌てて両手を離した。

「あ――すみません、なんか盛り上がっちゃって――」

「言うなえ。全く、人前で全く恥ずかしい(しょしい)ごどを……」

ぶつくさと口を尖らせたオーリンは、ゴホン、とわざとらしい咳払いをして、さて、と話題を変えるように言った。

「次はドラゴンだな……こいづもどうやら、ワサオど同じ理由で滅茶苦茶やったすぃがらな」

え？　とレジーナはオーリンを見た。

オーリンは地面にびているドラゴンにのしのしと歩み寄り、地面に投げ出されているドラゴンの顔に歩み寄った。

「先輩――？」

「頭さ飛び乗ったどぎにわがったんだ。見ながレジーナ。このドラゴン……片目(メッコ)だの」

その言葉とともに、オーリンはドラゴンの瞼をぐいと両手で押し上げた。

その下から現れた紋章を見て、レジーナはハッと息を呑んだ。

ひときわ大きな円を囲む合計九つの意匠――。

ズンダー大公家の家紋であるという《クヨーの紋》が、ドラゴンの眼球にべったりとり付いていた。

こごまで読んでもらって本當に迷ですた。

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「まっとまっと読ましぇ」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ（★★★★★）がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。