《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》シネェ(繊維が強くて容易には斷ち切れないことを示す東と北の間の獨特の表現)

狂騒が、不意に収まりつつあった。

今まで一心不にベニーランドのある方角を目指していた魔たちから、急に殺気が消えたのがわかった。

ぜぇぜぇ……という自分の呼吸音をうるさく思いながら、オーリンは目を見開いて魔たちを観察した。

いまだ斷ち割れたままの海底にいた魔たちが、まるで人間のようにきょろきょろと辺りを見回し、これは一どういうことだというように立ち止まった。

次に、オーリンはマサムネが護る空を見上げた。

今までどれだけ攻撃を繰り返しても怯むこともなかった空の魔たちの隊列が、急にれ始めた。

高度をし、を描き、中にはその場に留まってギャアギャアと不快に鳴き喚くものさえいる。

今まで高度を取っていたマサムネが、魔たちに向かって一聲吠えた。

天地を揺るがす吠え聲を聞いただけで、魔たちは明らかに怯えた。

空にいる魔たちは一目散に頭を巡らしてマサムネから離れてゆき、やがて空の彼方に消えてゆく。

地にいる魔たちも、マサムネの気迫に恐れをなしたかの如く、我先にと元いた陸地へと戻ってゆく。

どうやら――魔たちをっていたが切れたらしい。

それを理解したオーリンは、顔中をしとどに濡らす冷や汗をみどろの手の甲で拭ってから――笑った。

エロハよ、お前(な)は最早(もは)臆病者(じぐなし)などでねぇ。歴代一の大公だじゃ――。

心にねぎらいの聲をかけた途端、がくんとが重くなり、オーリンはその場に膝をついた。

魔力はとっくに盡きて、生命活の維持に使っている魔力までつぎ込んだ結果だった。

もはや口を開く気力まで萎えていた。

空を見上げ、しでも多くの酸素を得ようとぐように呼吸する視界を、マサムネの巨が空を橫切った。

ばさり、ばさり、という羽音とともに吹きつける風に、浮かんでいた汗が気持ちよく引いてゆく。

マサムネが、ぐい、と鎌首を曲げてオーリンを見下ろした。

種族の差はあっても、マサムネが笑っているのがわかった。

オーリンの健闘を稱えるかのように、マサムネは確かに笑っていた。

はぁ、と大きく息を吐き出したオーリンも、やっとそこでマサムネに笑みを返すことが出來た。

「レジーナ……レジーナっ!」

イロハは砂まみれのまみれになって転がっているレジーナを抱え起こした。

その途端、中途半端に開いたレジーナの口から、ごぽりと音がして、大量の鮮が滴った。

口から、から、明らかに致命的とわかる量のが流れ、波打ち際で海と混ざり合った。

を一突きにされたのだ。

もはや手の打ちようなどないことは、イロハにだってわかっていた。

それでも、イロハはレジーナのの気を失った顔を必死にでた。

刻一刻と溫もりが失われていくに、それでしでも溫もりが戻れば――。

思えば絶的な行為だったが、イロハにはそれ以外なすすべはなかった。

「レジーナ、死ぬでない! 返事をしてくれ!」

イロハは小さな一杯レジーナを揺さぶった。

「何故無関係のお前が死なねばならん! 私が、私が悪いのだ……! そなたらを我々兄妹の因縁に付き合わせた。死ぬべきは私であってそなたではないはず、そうであろう!」

そう問うてみても、レジーナが返事を返すことはない。

ただ、奇妙に穏やかな表を浮かべた頭が、イロハのの震えに合わせて揺れるだけだ。

「レジーナ……!」

イロハの両腕から、力が抜けた。

どさり、と、白い砂浜にレジーナが仰向けで橫たわる。

どうして――。

イロハは神に、自分を生み出した何者かに向かって慟哭した。

何故、この心優しき娘が死なねばならぬ。

この者は臆病者の私に、お前ならできると言ってくれた。

私を庇い、命をかけて私を護ってくれた。

死ぬべきは私だった。なのに何故この娘が代わりになるのだ――!

イロハが空を仰ぎ、が引き千切れるほどの絶を張り上げた、そのときだった。

ズズズ……という不穏な音――否、神経の表面を逆でされるような、不思議で不快な覚をイロハは覚えた。

激しくしゃくりあげながらその不快の出処を探ったとき――イロハの目が信じられないものを映し出した。

が、白い砂浜に流れていたレジーナの鮮が、逆(・)流(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

見間違いではなかった。

砂浜を汚し、海をに変えていたが、まるで映像を逆再生するかのように、ある一點を目指して戻り出した。

それだけではない。どくどくと傷口から滴っていたの表面が急にぷくりと盛り上がり、見ている間にいくつもの瘤になる。

その瘤は重力法則に逆らうようにして、その出処――レジーナの命を斷ち切った傷口に集まり出した。

イロハは一瞬、涙を忘れた。

なんだ、一何なのだ、この景は。

私は一何を見ている。何を見させられているのだ?

あまりの景にイロハがその場にへたり込んだ、その瞬間――。

を震わせていた不快な覚が一層強まり、レジーナのの傷口から何かが飛び出してきた。

「っ――!?」

思わず、イロハはその場に餅をついた。

ズルルル……! という音とともにレジーナのから飛び出し、まるで手の如くびてゆくもの――。

これは――イバラの蔦か。

イロハは生まれて初めて、生理的な嫌悪に吐き気を覚えた。

口に手をやり、はっ、はっ――! とぐ間にも、レジーナのからびた赤紫のイバラの蔦はぐねぐねと蠢き、のたうって、見る間にレジーナのを包み込んでゆく。

不規則に並んだ棘はまるで生きているもののように地面をこすり、蛇が如くにレジーナのにまとわりついていって――遂にレジーナのが見えなくなった。

だがイロハが悲鳴を上げる前に、イバラの蔦が再び蠢いた。

先程の景と同じ、まるで時間そのものが逆行するかのように、レジーナのを包み込んでいたイバラの蔦がレジーナのに吸い込まれてゆき――。

十秒ほどの後、やがて全てが幻だったかのように、すっかりレジーナの中に消えていった。

イロハの頭から、音を立てての気が引いた。

どくっ、どくっ……という心臓の音とともにこめかみが脈し、気分が悪くなる。

なんだ、一何なのだ、今のは。

イロハは今しがた自分が目撃したものが信じられなかった。

イバラが――まるで意志あるもののように脈する蔦が、人間のから生えて、消えた。

あまりの景に絶句しているイロハの目の前で――やがて、ぱちり、とレジーナの目が開いた。

「……ぉが?」

間抜けな一言とともに、レジーナが目だけで辺りを伺った。

やがて、伺っても狀況が飲み込めなかったらしく――レジーナはもっくりと上を起こした。

起こしてから、ふあぁ、とレジーナは凄まじく巨大なあくびをひとつかまし、ボリボリと頭を掻き毟った。

「ああ……んええ、ぺっぺっ……! やだ、砂噛んじゃった。気持ち悪い……!」

レジーナは大袈裟なほど顔をしかめて、何度か砂粒を吐く作を繰り返した。

やがてとりあえず人心地がついたらしいレジーナは、そこで初めてイロハを見つめた。

「あっイロハ! あなた大丈夫!? あの優男はどこ行ったの!?」

レジーナは放心しているイロハの肩を摑んでまくし立てた。

「絶対に負けちゃダメだからね! あんなカミだのだのってしつこく連呼する男にロクなやつがいた試しがないんだから!」

先程まで確実に死んでいた人間とは思えない圧で、レジーナはイロハに切々と説いた。

「あなたももうし大人になればわかるんでしょうけどね、本當に頼れる男ってのはオーリン先輩みたいな口下手だけどやることはちゃんとやる男なの、ね! いい、のプライドをかけてあの優男を否定しなきゃダメよ! ああいうのはほっとくと次もまたなんかやらかすんだから! いっぺん立ち上がれないぐらいボコボコにするのがなの、わかる!?」

ねぇ! とレジーナはイロハの顔を見つめた。

それでも反応がないことを不審に思ったのか、レジーナはイロハの顔を覗き込んだ。

「イロハ……?」

とりあえず、イロハは震える右手で傍らを指差した。

えっ? と不思議そうにレジーナが見た方向に……文字通り、立ち上がれないぐらいにボコボコにされ、ズタボロの有様のアルフレッドが転がっている。

あれ? とレジーナが聲を上げると、いつの間に意識を取り戻したのか、アルフレッドが首だけを起こしてレジーナを見つめていた。

その目にはいつぞや見たときのような異様なが戻り、震える聲でアルフレッドは「見つけた……」といた。

「見つけた、見つけたぞ……! お、お、お前が……!」

アルフレッドの表が一瞬、怒り、悲しみ、無表……とそれぞれバラバラの表を紡ぎ出し――最終的に、どこかが壊れたかのような笑みになった。

「やはり我らが神は私を見捨てなかった……! だからお前を私のすぐ側にお遣わしくださったのだ! 人間は遂に死さえも超越する、それがお前だ!」

あは、あはははは……とアルフレッドは狂人そのものの聲で笑った。

それを見たレジーナが、すっ、と立ち上がり、喚き続けるアルフレッドに向かって歩き出した。

「お前、我らと一緒に來い! お前が、お前こそが我らの希、殉教者たちの救いそのものなのだ! お前が拒否しても我々はお前のことを決して諦めんぞ! 全く、お前が今の今まで誰にも見出されずにいたとは……! この世界の人間はよくよく無能だな! そのせいで我々は……!」

レジーナが、思い切り足を振り上げた。

つま先を固定し、踵を立てて――そのままアルフレッドの後頭部に鋭く振り下ろした。

ゴツッ! という、人間の意識を斷ち切る重い音がした。

ぶぇ! と、アルフレッドが砂浜に顔を押し付け、再び沈黙する。

それを見下(みお)ろした――否、見下(みくだ)してから、レジーナは顔を引きつらせて吐き捨てた。

「カミカミうるさいのよ。いい歳ブッこいて……」

吐き捨ててから、レジーナは心底軽蔑したというように短く付け足した。

「ヤギじゃないんだから」

「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「レジーナ・マイルズ、復活」

そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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