《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》32話 二人だけのサバイバル
無事、監獄から抜け出すことに功したエルメスとカティア。
そのまましばらくの間走り続けたが、いくらエルメスと言えど統魔法を長時間維持したまま疾走を続けることは難しい。加えて近くにある大きな町に留まるのも追手を考えるとリスクが高いので。
「すみませんがカティア様、本日はここで野宿になります。劣悪な環境になりますが、早急に改善を考えるのでお許しを」
「……分かったわ」
彼は流石に元気こそないものの、比較的はっきりとした様子で頷いた。早速エルメスは彼を降ろし、近くの小枝をかき集めて魔法で點火、焚き火を作る。
それから持ち出してきた荷の中より鉄棒と布を取り出し、簡易なテントを作。中にも布を敷き、下の地面を軽く耕す。流石に公爵家のベッドには劣るだろうが、こうしておけば多はまともな寢心地になるだろう。
次は食べるものだ。調理と材料を取り出し、水筒にっている水を鍋の中にれて溫め始める。
「……手慣れてるのね」
大人しく焚き火に當たっていたカティアが、しの驚きと興味を持った顔でこちらの手元を覗き込んできた。
「ええ、それなりには。僻地で泊まり込みの迷宮攻略をすることも珍しくありませんでしたから」
師ローズの元にいた5年間、戦闘経験を積み、魔法を習得するために多くの迷宮に潛った。
その際にある程度のサバイバル技もにつけたし、その時もこうして師匠に工夫した料理を振る舞ったものだ、と昔を思い返しつつ、彼は調理を続ける。
味のベースとなるのは安定の干し。だがそれ単だと旨味はあるが同時に臭みや雑味も多く出てしまうし味も単調になる。その辺りの欠點を改善するために、彼は獨自に発見した香草の組み合わせで嫌な部分を消し、そして干し野菜を投。これは出の味に深みを持たせるのに有用だと分かり、師匠にも好評だった。
後は塩をはじめとした調味料で味を整え、比較的安価だが味の良いスパイスをほんのしだけれてアクセントに。
程なくして良い香りが漂ってきたスープをよそい、カティアに振る舞う。
「! ……あなた、本當に料理上手なのね。うちのシェフが喜ぶだけのことはあるわ」
「こ、栄です」
とは言っても保存と手軽さを重視した簡易料理、公爵家で一流のコックが作るものに慣れ切っている彼の口に合うかは自信が無かったが。
カティアは一口スープを含むと目を見開き、若干の呆れを滲ませた聲で稱賛してきた。
どうやら、なくとも賞味に耐えうる出來のものは作れたらしい。
そして、ようやく彼も落ち著いてきたようなので。彼は深く腰を落ち著け、現狀を話し始めた。
「さて、カティア様。現在貴はアスター殿下の手によって冤罪をかけられ、それを口実に追われる狀態になっています」
「……ええ」
「けれど、向こうのやり方は急かつ杜撰だ。時間さえあれば必ず綻びが見つかるし、現在それを見つけるために公爵様が全力でいてくださっています。だからそれまで貴を守り、追手から逃し続けることが僕の意思で、公爵様に與えられた役目です」
故に、この逃避行において人目のつくところにるのは極力避けたほうが良い。アスターは仮にも王族、その権力を全力で用いれば捜査範囲は膨大なものとなるだろうから。
かなり行は制限されるが、それでも彼ならば問題ない。サバイバル技にも長けているし、いざとなれば強力な統魔法の數々で逃げに徹しさえすればそうそう捕まることはないだろう。
「ご安心を。唯一貴にはしばらく不便な思いをさせてしまいますが、公爵様ならば必ず貴の無実を証明してくださいます。だからそれまでのご辛抱を」
「そう、ね……でも……私は……」
けれどカティアは、尚も迷うように視線を彷徨わせる。
……無理もないのかもしれない。彼がここまで逃げ出してきたのは、あくまで自分の死を避けるためであって。肝心の彼が抱いた迷いは未だ答えが出ていないのだから。
だから、彼は。
「今は休んだほうが良いと思うよ、カティ」
「え?」
そう忠言する。彼に言われたように、二人だけの時なので口調を昔のものに戻して。
「が疲れている時はね、心も良くないことばかり考えてしまうものなんだ。心相関、って師匠は言ってたかな」
そのような時に考えたことは、大抵の場合過剰なほどネガティブに寄る。真っ當な判斷力も無くなっていることが多いのだ。
「だから今は、何も考えずに休むのが得策だ。大丈夫、きっとすぐに答えを出さないといけないわけじゃない」
「……うん」
カティアは素直に頷いて、用意したテントの中に潛り込む。
「どうかな。流石に寢心地は良くないと思うけど、眠れそう?」
「大丈夫……だと思うわ」
「分かった。じゃあ、燈りを消すね」
布団の中に潛り込むのを確認してから、彼は焚き火に手をかざす。
明日になれば向こうも捜索に本腰をれてくるだろう。その前にできる限り距離を離しておきたいので、早朝すぐに行するためにも早めに休むのが得策だろう。
そう考えて焚き火を消した、その瞬間だった。
「ッ!?」
テントの中で、カティアが驚愕と共に跳ね起きる気配がした。
「え、エルッ!?」
「え、ど、どうしたのカティ」
「い、いるのよね? そこにいるのよね!?」
「そりゃあいるけど……?」
「い、いるならこっちに來て、早く!」
どうしたのだろう。周囲に魔の気配もないし、テントの中に害蟲等がいないこともきちんと確認したのだけれど。
そう思ってテントの中にり、聲をかける。
するとカティアが近寄ってきた。あたりをまさぐるように手をばし、その指先がエルメスの腕にれる。
「! ……エル、よね?」
「エルだけど……」
「ッ!!」
するとその瞬間──カティアが抱きついてきた。
「!?」
唐突に至近距離で著するらかく暖かなに、さしものエルメスも揺のあまりが固まる。
鼻先を掠める彼の髪の芳香に若干思考をされていると、當のカティアが涙聲で。
「エル! み、見えないわ、何も!!」
……ああ、とようやく理解した。
彼は慣れていないのだ。本當の純粋な暗闇(・・・・・・・・)、というものに。
カティアは生まれてからずっと王都で暮らしてきた。王都では夜であっても街燈や見張りが使う魔法の燈りである程度の源がどこにでもあり、多の視界は確保できる。
けれど、この夜の森は違う。
源など當然無く。月明かりや星明かりも木々に遮られてここまでは屆かない。故に王都では滅多にお目にかかれない、目を開けてさえ何も見えないほどの暗闇が出來上がっているのだ。
「だ、大丈夫よね!? 私の目がおかしくなったんじゃ……!」
「だ、大丈夫だから。ちょっと待ってて──」
エルメスは多慣れているのでぼんやりと周囲を把握はできるのだが、カティアにとっては本當に急に目が見えなくなったようなものなのだろう。彼のパニックを落ち著かせるために彼は再度焚き火をつけようとするが。
手をばそうとを捻った瞬間、何故かカティアがぎゅっとより強く抱きしめて引き留めてきた。
「……あの。けないんだけど……」
「や、やだ……離れないで……」
「いや、ちょっと燈りをつけるだけだから」
「こ、こわいわ……お願いだから……!」
「……」
さらにきつく力を込めて著してくるカティア。
どうやら、余程この夜闇が恐ろしいらしい。流石にこのままだと々とまずい。
仕方ないのでエルメスは抱きつかれた勢のまま、強化汎用魔法で生み出した火球を後ろ手で放ってテントの隙間から放出。
そこからカーブをかけて焚き火に著弾させ燈りをつけるという無駄にテクニカルな魔法作を披しなんとか源を取り戻す。
「あ……」
「ほら、決して君の目がおかしくなったわけじゃ──」
そして源が取り戻されれば當然、現在の二人の位置関係的に至近距離で目が合うことになり。
焚き火に照らされた、不安げなを湛え庇護を掻き立てる彼の貌。そして涙で濡れて輝くらしくも妖艶な瞳がばっちりと視界にり、息を呑む。
だが次の瞬間。
「~~~~ッ」
燈りと共に正気も取り戻したカティアが、先程までの自分の振る舞いを自覚して真っ赤になり、ぱっとを離してその場に蹲った。
「いっそ殺して!!」
「今その言葉は冗談にならないからやめようか……」
しかし、焚き火を點けたまま休むのは延焼とかのリスクで々と危ない。
かと言って何も燈りをつけないのは夜闇に慣れない彼にとって眠るどころではないと判明したので、折衷案として。
「これくらいの量でいいかな?」
「え、ええ……」
カティアが寢付くまでの間、エルメスが魔法を用いたで軽く辺りを照らすことにした。
あまりに明るすぎると周りの魔に勘付かれたりするので、ぎりぎり夜目が効くくらいに抑えてのもの。
そして、それに加えて。
「……」
「……何よ。笑うなら笑いなさいよ!」
エルメスが魔法を用いているのとは逆の、自の左手を見やる。
その先には、布から出た彼のほっそりとした指先が。
──つまるところ、彼が寢付くまで手を握っていてしい、という要である。
「いや、笑いはしないけれど……いいのかな、と思って」
「いいって……何がよ」
「その……の子が、寢付く時に異に見られるってのはあんまり落ち著かなかったりするんじゃ……」
「……なんだ、そんなこと」
こんな狀況になっている時點で今更な問いだ。カティアは軽く呆れを滲ませて。
「別にいいわよ、今更だし。それにあなたなら……むしろ、安心するわ」
「っ」
普段は比較的勝ち気な彼の、珍しく純粋に甘えるような聲に軽く心臓が跳ねる。
けれど続けて彼はこう言ってきた。
「それに……今は、こわいの」
「怖い?」
「一人でいると、私が分からなくなりそうで……このまま、夜闇の中に溶けて消えちゃうんじゃないかって……だから……」
「!」
捕まる前、彼に何があったのか詳しいことは聞いていない。聞ける狀況でもなかったから。
けれど、大凡の想像はついていた。きっと今まで自分がやってきたことを手ひどく否定され、自分を見失いかけているのだろう。
「……大丈夫」
呟いて、握った手に力を込める。
「君はきっと間違ってないし、僕はここに居る。……ほら、もう休んで。じゃないと僕が魔法を解除できない」
「……そうね。……あり、がと」
軽い苦笑と共に、彼の瞼が緩やかに落ちる。
(……本當に)
何を言われ、どんな目に遭えばあれだけ真っ直ぐだった彼がこうなってしまうのか。
聞いていない以上想像しかできないけれど、何が彼をこうさせたのかだけは確信していたから。
「……許したくは、ないなぁ」
小さな決意を込めた、彼の呟きと同時に。
穏やかな彼の寢息が、傍から聞こえてきたのだった。
しばらく重めの話が続いたので、息抜きにカティア様の可い回。
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