《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》54話 応報

ケルベロスのから、完全に力が抜ける。

同時に突き刺さった剣も、その役目を終えたように消滅した。

(……次はもっと、綺麗な魔法を創りたいな)

自分だけの魔法を生み出したい。

その願いを葉えられた喜びと、お末なものしか創造できなかった悔しさ。

けれど、自分の魔法でこの強敵を確かに撃退できた。その達と共に、ケルベロスに背を向けて歩き出す。

「……エル」

途中で、カティアが立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。

「倒した……のよね?」

「ええ、確かに絶命したことを確認しました。──僕たちの、勝利です」

彼の言葉で、ようやく彼の表にも安堵と喜が浮かんだ。

そのまま二人で歩いて行って、兵士たちの元に戻る。

兵士たちは未だに困していたみたいだったが、二人の表とケルベロスが立ち上がらない様子を見て、徐々に実が湧いてきた様子で。

「勝った……我々は、助かったのか……」

「良かった……これで、家族の元へ……」

「あ奴らが……いや、あの方々が倒してくれたおかげだ……本當に……!」

力が抜けてへたり込むもの、安堵の涙を流すもの、こちらに崇拝に近い視線を向けてくるもの。

けれど二人はそれらに構わず、もう一人の功労者の元に歩いて行く。

「……あ……」

サラは、疲労困憊の様子ながらも立ち上がってこちらを見る。

そんな彼に向かって、カティアが微笑んで告げる。

「お疲れ様、サラ。そしてありがとう──あなたがいなかったら、絶対に勝てなかった」

「……~~っ」

その言葉に、サラは涙ぐみ。極まった様子でカティアに抱きついてきた。

カティアが學園を出て以降、すれ違い続けてきた二人。今ようやく、ゆっくりとかつてのように歩み寄ることができる。

穏やかに、らかくカティアもサラを抱きしめ返した。

溫かい空気が流れる。周りの兵士たちからも今までのような敵意は消え失せて、こちらに対する謝と祝福の心だけをじた。

戦いは終わったんだと、ようやくエルメスも実できるような素敵な雰囲気を。

「──よくやった、お前たち!」

無粋にも、叩き壊す聲がした。

「…………アスター殿下」

サラの抱擁を解き、先ほどまでとは打って変わって冷たい視線を浴びせるカティア。エルメスの方も似たようなものだ。

しかしそんな彼らの視線など當然のように意に介さず、立ち上がって歩み寄ってきたアスターは。

今まで倒れていただけのことなど忘れたかのように、こう続けた。

「よくぞあの魔を打倒したものだ。まあ偶然に偶然を(・・・・・・)重ねての(・・・・)結果だろうが(・・・・・・)、それでも倒せたことは賞賛に値するだろう」

今の言葉で、彼のがまるで変わっていないことは容易に察せられた。

「……まあ、そうですね。偶然による部分も多いでしょうが、アスター殿下であればどんな奇跡が起きようと倒せなかった相手を打倒しましたので」

「ふん、何を言う! 俺とて同じ條件であれば問題なかった、むしろ俺が真っ先に率先して立ち向かったからこそ、後に続く貴様らの助けとなったのではないか!」

エルメスの皮混じりの反論に、一瞬不機嫌そうに顔を歪めつつもそう返すアスター。

続いて彼は、カティアの方を向いて。

「カティア、お前もよくやった。信じていたぞ──お前なら(・・・・)俺が(・・)いくら(・・・)手酷く(・・・)扱おうと(・・・・)、必ずや(・・・)立ち上がって(・・・・・・)自分の強さを(・・・・・・)証明してくれると(・・・・・・・・)!」

「…………は?」

なるほど、そうきたか。エルメスは心中で嘆息する。

アスターは自分の間違いを決して認めない。自らの中には清廉で高潔なものしかないのだと信じて疑わない。

けれど今回、自分が欠陥だ欠陥だと言い続けた人間が自分でも勝てない魔を打倒してしまった。自分の間違いを、この上なく明確な形で証明されてしまったのだ。

故に、『本當にそう思っていたわけではない』と。

『手酷く言い続けたのはお前たちを思ってのもの、お前たちに與える試練だった』と。

そういうことにしようとしているのだろう。

アスターは尚も続ける。自分が絶対だと。今なお、この場の主役は自分であると信じきっている、信じ込もうとしている聲で。

「やはり俺の見立ては正しかった! お前こそ俺の言葉を盲目的にれるだけでなく、正しいことを自ら考え実行できる人間だ!」

きっとその『正しいこと』とやらも、自分にとって都合の良いことの言い換えでしかないのだろう。

「よくぞ、真に俺を支える令嬢に相応しい姿を見せてくれた! さあ──」

「……もういいです、殿下」

だから、そんなものを彼れるはずもなく。

今となってはもう、何を遠慮する事もない。その考えのもと、今度はカティアが口を開く。

「不本意ながら5年も居たんだもの、殿下の言うだろうことはもう分かります。私を婚約者──は流石に外聞が悪いから人として取り込み、あとはついでにエルも勧するつもりかしらね」

「え、僕?」

「な──」

「文言はそうね──さっきと同じ、『俺の試練に負けず力を証明した勇者』として、悪い部分は全部フレンブリード家に押し付けて。あなたは昔からそうでしたね。自分よりも優れていると思ったものは強制的に排除するか、無理なら自分の配下として取り込む。『立場が上だから俺はこいつよりも優れている』と自分を納得させるんですよね、劣っていると絶対認められないから。サラを新しい婚約者としたのだってそうなんでしょう?」

一気呵に、今まで積もり積もった全てをぶつけるように。

それが図星かそうでないかは、青ざめたアスターの表が全て語っていた。

「大合っているみたいなので、まとめてお答えしますね。

──全部お斷りします(・・・・・・・・)。私はあなたの元に戻る気はないし、エルも……私のよ。誰にもあげるつもりはないわ」

微妙に後半言葉に詰まったっぽいが、それでも正面から否を突きつけたカティア。

斷られるとは……本気で思っていなかったらしく、みるみるうちにアスターの顔が怒りに染まる。

「ッ貴様! 誰に向かって口を聞いているつもりだ! この俺は──」

「……エル、言ってあげなさい。このお方は誰?」

「え? えーと……カティア様に無様に負けた挙句、あの魔に無謀な突撃をして瞬殺された自稱最強の魔法使いさん、ですかね」

「完璧ね。一分の隙もないわ」

カティアの言いたいことを理解して、あとは諸々の恨みも込めて素直に答えたエルメス。

主従による、恐ろしいほど息の合った貶しように益々の紅を見せるアスター。

「ッ、だからそれは──」

「どう言い訳しようと、結果が全てです。それに殿下……確かエルに助けられた時はっきり『敵わない』と仰ってましたよね?」

冷徹な視線で、この上ない証拠をぶつけられ。

咄嗟に反論が出ず黙り込んでしまうアスターだったが、今度は。

「──サラァ!」

それを誤魔化すように、比較的與し易そうなに聲をかけた。

「お前ならば分かるはずだろう、こいつらの言っていることは全てデタラメで、俺が正しいと! なぁ、誰よりも本質を見抜くに長けていたお前ならば!」

急に聲をかけられたサラは、今までの経験からかびくりとを震わせる。

心配してそっと手を添えるカティア。だが彼はそれをやんわりと押して、大丈夫だと言うように頷きを返して。

「……い、いいえっ、殿下」

まだ微かに恐怖を滲ませつつ、それでも吹っ切れた表で、顔を上げて言い放った。

「で、殿下が、間違いだと思います。気づいていないのは殿下だけ……いいえ、誰もが気づいていた上で……まだ、認めようとしないのが殿下だけなんです」

「なッ」

「……これまでの私は、それを言うことが怖くて。きっと誰かが正してくれると思っていました。今は度が過ぎているけれどいずれは、きっと尊敬できる王子様になってくださるんだと。……でも、気付きました」

そして彼は。

にもアスターの言う通り本質を見抜くに長けたは、その察眼で以て斷言する。

「もう、誰の言葉も貴方には屆かない。そして──貴方の言葉も、もう誰にも屆きません」

「……な、に」

言われて、アスターは周囲を見渡す。

今まで自分にとって不快な態度をとり続けたエルメスとカティアは當然のこと、今まで自分に従順だったサラさえもどこか哀しげな──まるで痛ましく思いつつ、それでも決定的に自分を(・・・)見限った(・・・・)ような(・・・)視線を向けてきて。

あまつさえ。

その周りにいる兵士たちでさえ──自分に猜疑と不信、失を向けてきている。

「──なん、なんだ貴様らその目はッ!! 兵士の分際で、この俺に──」

「殿下。あなたはこれまで、どれほど傲慢で獨善的な言をしても許されてきました」

アスターの怒聲を遮るように、再度カティアの聲が響く。

「何故か。それは単(ひとえ)に、あなたが強かったからです。あなたの魔法が誰よりも強力で、あなたに任せれば國を脅かす最大の脅威は取り除くことができたから。故にあなたは過剰な特権を許された。……それが正しいとは、とても思いませんが」

一方的な決めつけ。獨善的な思想。過剰な思い込みに、攻撃的な悪意。

それらのあまりに稚な人格を立場と、何より実力で全て誤魔化してきたのがアスターという男だ。

「誰もが見ました。あなたが敗北し、恥も外聞もなく逃げ回る姿を。誰もが聞きました。あなたの王者としてはあり得ない、聞くに耐えない言葉を」

ならば、そのメッキが剝がれてしまえば。

現れるのは、子供のまま育ってしまったただの醜い人間の姿。

「そして、誰もが理解しました。あなたを上回り、あなたが倒せなかった魔を打倒し、あなたよりも民を守るものとして相応しいのは。私たちであり、何より──ここにいる、エルメスなんだと。あなたが自分よりも上だと認められず、嫉妬のあまり追放させたエルだということを」

「──な、それを」

「分からない訳ないでしょう。私が婚約者として來た開口一番『エルメスのことは忘れろ』なんて言って、その後もしつこくエルのことを話題に出してはこき下ろして。正直その時ばかりは殺意が湧いたわ」

呆然と、アスターはエルメスを見つめる。

カティアは誇らしげに彼の肩に手を置いて。サラは控えめながらも、確かな憧憬を含んだ視線で彼を見て。

そして周りの兵士たちもれなく、揺るぎない敬意と謝を彼に向けている。

(なぜだ……)

周囲の人に尊敬され。自分の婚約者だったしい二人からも、確かな信頼を得て。

その景は、自分のものだったはずだ。その場所は、自分の特権だったはずだ。

そう認識した瞬間、アスターの中で黒いが湧き上がる。

あいつが、奪ったんだと。

自分のものである(・・・・・・・・)民を煽して(・・・・・・)敵意を向けさせ(・・・・・・・)、自分のを(・・・・・)騙して(・・・)傍に(・・)侍らせている(・・・・・・)。

あの悪魔を(・・・・・)倒さなければ(・・・・・・)ならない(・・・・)。

これは決して(・・・・・・)嫉妬ではない(・・・・・・)。

何もかもあいつが悪い(・・・・・・・・・・)。

自分こそが正しい(・・・・・・・・)。

そうでなければ(・・・・・・・)、ならない(・・・・)。

「貴ッ様ぁあああああああああああ!!」

最後まで、自らだけを盲信し。

怒りと、憎悪と、妄念と──様々な彼自にも分からないの本流に突きかされるまま。

「お前が、お前が全ての元兇だッ!!」

アスターは、エルメスに飛びかかった。

既に魔力は無い、故に扱うのは自らの拳。

だが問題ない。エルメスとてそれは同じ。

そしてエルメスは、実の所これまでアスターと直接相対したことは一度もないのだ。

きっと俺を(・・・・・)恐れて(・・・)避け続けて(・・・・・)いたからに(・・・・・)違いない(・・・・)、ならば(・・・)俺が(・・)負ける(・・・)はずはない(・・・・・)。

そんな、何の拠もない確信に突きかされるままアスターは勢いよく拳を振りかぶる。

一方のエルメスは、対照的に溫度の無い瞳で。

「……ものすっごく戦いたくないんですが」

「は! 俺に恐れをなしたかッ!!」

呟かれた言葉も都合よく解釈し、一切の迷いなく振りかぶった拳を顔面に向けて突き出して。

「違いますよ」

エルメスが、軽い首のきだけで拳を躱し。

そのまま腕を取って背中から懐に潛り込み。

アスターの腕を起點に、ぐるりと縦に一回転。その勢いのままアスターを背中から地面に叩きつけた。

「がッ」

しかし、そこでは終わらない。

叩きつけられた反で地面から一瞬浮くアスター、その反を利用してもう一度腕を取って跳ね上げると。

「なんで」

丁度いい位置に來た鳩尾に全重を乗せた肘打ちを叩き込み。

「せっかく、強敵と気持ちの良い戦いをした後に」

フラつくアスターにたっぷりと溜めを作ってから顎を垂直に蹴り上げて。

「わざわざ、下衆の相手を」

足払いで再度勢を崩し。

「しなくちゃ、ならないんだって」

後ろ向きに倒れ込むアスターの頭上で、右足を天高く振り上げて。

「話です──よッ」

天地を割るような全力の踵落としを、容赦なく顔面に叩き込んだ。

悲鳴すら無かった。

まぁ正直ボコボコにされるんだろうなと予想していたカティアですら青ざめるほどに過剰な、けれど華麗かつ強烈な

「……なるほど、初めて會った時の師匠はこんな気分だったんですね」

気絶したアスターを、表面上は無表に見下ろして呟くエルメス。

そして何かに気付いた様子で、カティア達の方を向いて。

「……あ。す、すみません、やり過ぎました。ちょっと思った以上に苛立ちが來まして」

「い、いえ、むしろよくやったわエル。……ていうかあなた、そんなことも出來たのね」

実際、効果はあっただろう。

サラも、兵士たちも唖然と見守る先。この戦いで初めてアスターと直接対決し、魔法でこそないが圧倒したエルメス。

地面に頭をめり込ませたアスターと、それを無に睥睨して立っている彼の姿は。

明確な結末と、アスターの終わりを象徴しているかのようだった。

最後の最後は直接ボコられる王子様でした。

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