「な、なんやこれ！？　地獄みたいなえげつないにおいがするやん！」

メテオは開口一番に驚きの聲をあげる。

領主の館の近くにある半屋外の建には半徑10メートルほどの大きな池があって、そこからもうもうと湯気を立てている。

メテオじゃなくても驚くだろう。

「ふふふ、これが溫泉よ！　噓じゃなかったでしょ」

「それは認めるけども……」

メテオは溫泉を眺めてブルブルっと尾の先まで震える。

「なによ、なにか文句ある？」

「文句あるわ！」

溫泉を目の前にしたメテオは呆然とした表。

ふふふ、自分の過ちを認めるってわけかしら。

「こんな妙なもんで人が呼べるわけないやん！　この沼の水にれたら溶けるとか、死ぬとか、呪われるとか、そっち方向なんちゃう？」

メテオはそう言って、私の溫泉リゾート計畫に難を示す。

ふぅむ、最初の反応は村人のみんなと似たり寄ったりか。

やっぱり溫泉はらなきゃわからないよね。

「よっしゃ、メテオ。勝負よ！　もし、このお風呂にってみて気持ちよかったら私の勝ち。全然、ダメだったらあんたの勝ち。あんたが勝ったら１０萬ゼニー渡すわ」

とはいえ、ここで押し問答をしていてもしょうがない。

手っ取り早く彼に溫泉の魅力をわかってもらう必要がある。

絶対に勝つ自信のある私はかなりの金額を賭けることにした。

「１０萬ゼニーやて！？　ほほぉ、大きく出たな。ええやろ、儲からせてもらうわ」

メテオは案の定、私の提案に乗ってくる。

たぶん彼はお金が絡むとがぜんやる気を出すタイプだ。

この子の格がだんだん、わかってきた私なのである。

「よぉし、それじゃるわよ！　服、いで」

「へ？　この中にるって、になってるもんなん？　新手の出狂？」

「んなわけあるか！　そもそも、出狂に新手も古手もあるか。さぁ、あんたもぐの。同士だから恥ずかしくないでしょ！」

「ひぃいいい！　辺境の貧乏領主によって新たな世界が開かれる！？」

「開かれるか！」

服をぽいぽいとがすと絶をあげるメテオ。

辺境の貧乏領主だなんて失禮なことを言ってくれるじゃないの、事実だけどさ。

「ほらほら、ってきなさいよ。気持ちいいってば！」

「えぇええ、やっぱり、うちは遠慮しとくわ……。においだけで十分お腹いっぱいやさかい」

「サイコーだってば、本當にがとろけちゃうって！」

「ほんまにこの中にるんか？　死んだりせぇへん？　溶けるん？」

一足早くお湯に先にった私は安全をアピールするのだが、メテオは一向に信じない。

そう言えば、キャットピープルだし、水が苦手とかあるんだろうか。

耳と尾ぐらいしか獣人っぽいところなんてないけど。

でも、このままじゃ勝負にならないわけで。

「メテオ、さらに５萬追加するわ」

「……ええい、しょうがないわ！」

こうなったら論より証拠。私はメテオをお金で釣ることにした。

するとメテオの目にはお金のマークが浮かび、どぼん、と音を立ててお湯の中に突っ込む。

ふふふ、この子のお金に目がないところを利用してやったってわけ。

「こ、こ、こ、これは……！」

溫泉に浸かった彼は何かを言いたげだけど、言葉が続いて出てこないようだ。

それでもをふるふると震わせる様はかわいい。

「ええやん！　めっちゃ、ええやん、これ！　なんかこう、じわじわーっと來るで！　の側からぽかぽかやんか！　にゃはは、これが溫泉いうもんなんか！　ほんまにびっくりや」

そういうとメテオはにへにへ笑いながら溫泉の中にぷかぷかと浮かぶ。

メテオの表は完全にリラックスしきっている。

「気持ちええやん」

「最高やん」

「素敵やん」

そんな言葉を連発するのだった。

ほらね、溫泉に一度でもれてみたら、こうなるわけよ。

「あれ、メテオ、顔の傷跡みたいなのがなくなってない？」

リラックスしている彼を見ていると私はあることに気づく。

さっきまで確かにあったはずの右頬の傷跡がなくなっているのだ。

赤紫になっていた傷だし、見落とすなんてありえないはずなんだけど。

「……はぁ？　な、何言うてんねん、これはただの傷とちゃうんやで……？　冗談も休み休み言わな」

メテオはそう言うと自分のほっぺたをって、ちょっと怒ったような聲を出す。

「いや、消えてるけど？」

しかし、念押しをする私なのである。

人の外見のことを言うべきじゃないってわかってるけど、明らかに傷跡が消えているのだ。

指摘しない方がおかしい。

「メテオ様、こちらをお使いください」

溫泉にらずにそばに待機していたララが、狀況をすぐに理解して鏡を持ってきてくれる。

さすが、できるメイド！

「うちの顔のはそんじょそこらの傷とちゃうんやで。そんな簡単に消えるはずが。……ほ、ほ、ほ、ほんまや、どういうことやねん！！　何が起こってんねん」

手鏡を渡されたメテオは驚きのあまり聲を震わせる。

「うちの顔が治ってもうてるやん！！　うちのパーフェクトにかわいい顔をひっさびさに見た！！！」

メテオはわーとか、きゃーとか、傷跡の閉店セールやぁ、などと高い聲をあげる。

貓耳がぴぃんと張って、目には涙まで浮かばせて喜んでいるようだ。

「ユオ様、領主様、魔様、ありがとう！　めっちゃ、おおきに！　何から何まで、あんたは恩人やで！」

両方の瞳から雫を溢れださせ、謝の言葉を伝えるメテオ。

極まってしまったのだろうか、言葉の最後のほうは涙でぼろぼろになっていて、抱き著かれてしまう。

自分の溫泉が役に立ったのならすごくうれしい。

「ほら、言ったとおりでしょ！　溫泉ってすごいんだから！」

「ほんまやな！　この溫泉があったら天下取れるかもわからんで！」

私とメテオは二人で歓喜するのだった。

うーむ、こういうノリで溫泉でわいわいやるのも案外楽しい。

それにしても、素同士で抱き著かれるのは相當な著。

ふんにゅうとらかいものが當たるわけである。

メテオは小さいつきながら、かなりいいものをもってることがわかる。

ちょっとジェラシー……。

「よぉし、うちもユオ様の野に乗らせてもらうで！　商人の仕事ならなんでも任せてや！」

そう言って右手を差し出してくるメテオ。

つまりはメテオが私の領地計畫に參加するということだ。

これまで素材の売買など自分たちだけで手が回らなかった仕事も多いため、非常にありがたい。

「ふふ、一緒に世界最高の溫泉リゾートつくっていくわよ！　目指せ、世界で一番かな村！」

そういって笑顔でがっちりと固い握手をかわす私たちなのであった。

夕日が沈みかけていて、ちょっといいじの絵になってると思う。

まさに『あの時、マジ天國の湯の歴史がいた！』みたいなじ。

「…ご主人様？　全で何をなさってるんですか？」

的なシーンだったはずなのだが、ララには戸いの聲をあげられる。

ちょっと熱くなり過ぎた……。

私とメテオはちょっと赤面しながら、いそいそとお湯につかりなおすのだった。

【魔様の人材】

・メテオ：貓人族の商人。冒険しながら各地をめぐる肝っ玉の太いの子。鑑定スキル持ち。

「面白かった！」

「続きが気になる、読みたい！」

「素敵やん……！」

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