「にぎゃあああああ！」

「なんだ、こいつ！　陸ドラゴンの亜種じゃないのか！？　どうしてこんなところに！」

私とララ、それに村のハンター數名と冒険者の皆さんで森をしばらく歩き始めた時だった。

私たちの目の前に「トカゲ」と呼んでいる２足歩行のモンスターが現れる。

３〜４メートル程度の長で、群れで狩りをするモンスターだ。

ちょっと恐ろしい外見だけど、尾部分は村で大人気の食材だったりもする。

切りにしてステーキにするととてもおいしいのだ。

シュガーショックも大好であり、いつもレア気味のステーキをはっふはっふと食べる。

私は牛型のモンスターののほうが好きだけど。

しかし、今はそんなことを言っている場合じゃない。

意気揚々と森の中にっていった冒険者の皆さんは、ここいらの凡モンスターであるトカゲ相手にめちゃくちゃ苦戦している。

早い話、歯が立たないのだ。

剣も、斧も、弓矢も魔法もどうにもこうにも當たらない。

「ひぃいいいい、やっぱり來るんじゃなかったぁ……！！！！」

特にヒーラーのの子なんか腰を抜かして口をパクパクさせてしまっている。

「お、お前ら気合をれろ！　死ぬ気でいけ！」

「無茶言うな！　かなうわけ無いだろ、あれドラゴンだぞ！」

「こんな話、聞いてないぞ！」

うーむ、新米冒険者の彼はいいとして、腕に自信のありそうだったハンスとそのお仲間まで歯が立たないってことがあるかしら。

あれを「ドラゴン」って呼んでるぐらいだし、もしかしたらトカゲの類いが苦手ってこともあるかもしれない。

たしかにそういうのあるよね。

私も蟲型のモンスターとか嫌いだし、見つけたら一発で＜＜蒸発＞＞させるもの。

苦手なモンスターといつまでも格闘させるのは悪いよね。

そう判斷した私は冒険者の皆さんに救援を送ることにした。

「シュガーショック、やっちゃいなさい！」

私が號令を出すと控えていたシュガーショックが大きな白い狼へと変！

そのまま、トカゲの元に食らいつく。

彼はぶるんぶるんとトカゲを振り回し、辺りの木にぶつけるのだった。

トカゲはそのまま沈黙してしまう。

「よぉくできました。えらい、えらい！」

命令を達し、嬉しそうに近づいてくるシュガーショックに骨を與えると、ばきばきっと音を立ててその場で食べ始める。

かわいい。

犬が何かを食べている様子は和むんだよなぁ。

「どう、シュガーショックって強いし、かわいいし、賢いでしょ？」

「ひ、ひぃいいいい、エサにしないでくださいいぃぃい」

場を和ませようとヒーラーのの子に話しかけてみるものの、腰を抜かしたまま恐怖に歪んだ顔をする。

うーむ、巨大化させたのがまずかったのか。

それとも、犬が苦手とかなんだろうか。

このリリって子は私と同じぐらいの年頃だし、の子といえば「もふもふ」が好きなはずなんだけど。

気が合うと思ったのになぁ。

「予定ではこの先の虛ろの森のり口まで行く予定ですが、皆様、いかがいたしましょうか？」

ララが冒険者のみなさんに今後の計畫のお伺いを立てる。

けれど、半分以上、顔を青くしている。

そりゃそうだ、明らかにトカゲ型のモンスターが苦手っていう様子だったものね。

しかし、リーダーのハンスさんだけは「まだだ！　まだ進むぞ！　今度こそ俺たちの実力を見せてやる」と気炎をあげ、パーティのうち何人かはそれに同調する。

確かに彼らの言うところの「大活躍」はまだ見せてもらっていないし、トカゲ以外のモンスターなら楽勝なのかもしれない。

とはいえ、ハンターがいうところによれば、まだまだ森深くとは言えないそうだ。

この間のトレントみたいなのは出てこないらしいので、冒険者の顔を立てるためにも進むことにする。

いざとなったらハンターさんもいるし、シュガーショックもいるから大丈夫だろう。

◇

「ひぃい、4匹も出てきやがったぜ……」

ハンターが虛ろの森と呼んでいる場所にると、木々の姿が変わり始める。

どうもこうも禍々しい雰囲気で、太のも弱まっているじがする。

気づいた時にはまたもやトカゲが４あらわれる。

他の種類のモンスターだったらよかったのに、彼らも運が悪い。

シャアァアアア……！

トカゲのモンスターは唸り聲をあげる。

私達を前後左右からの挾み撃ちするつもりらしい。

案外、知恵が回ると聞かされていたけど、想像以上だな。

一はシュガーショックがやっつけるけど、三は私たちに大きな口を開けて迫ってくる。

「ひぎゃああああ！」

「ここで死ぬのはいやああああ！」

「助けてくれぇええ！」

冒険者の皆さんは応戦するけど、手も足も出ない。

ヒーラーのの子だけでなく、他の冒険者も大きな聲でぶ。

ほとんど泣きそうな顔しているし、やっぱりトカゲが苦手なんだなぁ。

普通に考えたら絶絶命。

護衛役のシュガーショックがもう１を倒す間に私たちは襲われてしまうだろうから。

「ユオ様、私たちにお任せください！」

しかし、私たちだってバカじゃない。

『もしも』のときのために、一応の策を練っておいたのだ。

ララは氷魔法で、ハンターは弓矢でそれぞれトカゲをやっつける。

氷漬けになったり、弓矢で抜かれたりして、ばたりと地面に伏していくトカゲたち。

まぁ、これぐらいならハンナや村長さんがいなくてもやっつけられるよね。

ララも自主練で強くなっているし、ハンターのおじさんたちもどういうわけか強くなっているし。

「まだです！　ユオ様、上から跳んできます！」

そんな風に思ったのもつかの間、ララの鋭い聲が響く。

なんと前後左右からさらに４も跳んできたのだ。

今回に限っては彼らが一枚上手だったということだろうか。

トカゲたちはすさまじい反神経でララたちの迎撃をかわしてしまう。

シュガーショックはかろうじて一匹をやっつけるも、殘りは三。

「ひぎゃああああ！？　もうお終いですぅううう！！？」

敵は明らかに冒険者のうち戦闘向きでないメンバー、すなわちリリに狙いを定め、大口を開ける。

か弱いの子を狙うなんて、なんて卑怯な奴なんだろう！

「みんな、伏せて！」

ここでさらなる奧の手を発させる。

護として私がララと訓練していた、とある技を試してみるのだ。

その名も熱視線（ヒートアイ）。

すっごく簡単に言うと、私の視線の先に細い熱線を出すという技なのだ。

その熱線はめちゃくちゃ高溫で、石ぐらいなら簡単に溶かしてしまう。

まぁ、本當はおを切るための家庭的な技なんだけど。

私は視界にったトカゲの首に視線を飛ばす。

赤く細い熱の直線が私の視線の先に現れる。

そして、音もなく、まるでのような速さでモンスターへとびていく。

モンスターは一切、警戒することもなく、その赤いにれてしまう。

「グ……」

次の瞬間！

空中にいた三のモンスターの首とが一瞬で分離してしまう。

どたどたっとトカゲの切りが地面に橫たわる。

うひぃ、ちょっと殘酷だけど、か弱いの子を泣かせた罰だし。

冒険者の皆さんはこういうのも慣れてるよね。

「よっし、狙い通り！」

ちょっとだけびっくりしたけど、やっぱり相手はしょせんトカゲ。

私達はやすやすと完勝してしまうのだった。

「なにが起きてるんだ……」

「おうちに帰りたい……」

「陸ドラゴンをバラバラに斬りやがった……」

「ば、化けだ……」

「こ、こ、こ、殺され」

振り返ると、冒険者の皆さんは地面に腰を落として呆然としていた。

ヒーラーのの子なんか卒倒寸前になっていて、他の冒険者も口をぱくぱくさせている。

私からすれば、熱視線はトカゲを切るためだけのとっても家庭的な攻撃なのだ。

発させたり、蒸発させるのより、よっぽど。

「怪我はない？」

新米冒険者のの子に手を差し出すも、「ひぃいいい、分離しないでくださぁい」と怖がられてしまう。

あれ？　思ってた反応と違う？

もうちょっと謝されると思ったんだけど。

そうこうするうちに、

「さすがはご主人様！　お見事です！　発させるよりも素材の回収に向いてますね」

「いやぁ、ララさんに言われて魔様に獲を殘しておいた甲斐がありました！」

ララやハンターの面々が魔様、魔様と褒めたたえに來るではないか。

やたらと盛り上がって私を上げにでもしそうな雰囲気だ。

「ちょっと、待ってよ。別にを切るのと同じ要領だったわけだし、ただのトカゲでしょ？」

言い訳しても、彼らはわいのわいのうるさい。

その傍らで冒険者の皆さんは口をあんぐり開けている。

あっちゃあ、一番、まずいパターン。

っていうか、私の力を印象付けるために敢(・)え(・)て(・)モンスターを殘してたわけ！？

「ララ！　どーしてくれるのよ！　冒険者の皆さんが明らかに引いてるじゃん！」

「いえいえ、実力を見ることも大事ですよ、見せつけることもね！」

「見せつける必要なんかないっての！」

森の探索を切り上げた私はララに猛抗議するのだった。

だが、ララは相変わらずの何食わぬ顔で私の抗議をあしらうのだった。

【魔様の発揮した能力】

・熱視線：目から赤い熱線を出して焼き切る。ある程度コントロールすることで、対象を高速で抜く、または切り裂くことができる。超高溫で焼き切るため、當たれば両斷される。超高溫のため、當たっただけでも致命傷になりうる。

「面白かった！」

「続きが気になる、読みたい！」

「全然、家庭的な攻撃じゃない……」

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