《【WEB版】灼熱の魔様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】》46.【おまけ・スキップOK】C級冒険者ハンスの難:ハンスは相手が剣聖サンライズだとも知らずに勝負をしかけて腰を抜かす

「それじゃあ、男の人達はこちらへどうぞ!」

俺の名はハンス。

ちくしょう、腰が痛む。

それでも、あの恐怖の領主のおすすめの、おんせんなる場所に向かう俺である。

おんせん、とかいう施設の側は思った以上に普通だった。

魔石ライトがふんだんに使われ、かなり明るい。

こんな田舎にどうしてこんなものが?

相當腕のいい職人じゃないと作れないだろうに。

そして、案されたのは『男湯』と書かれた部屋だ。

おんせんで働いている男の話によると、服をいで湯に浸かるということ。

確かに俺達は森で醜態を曬した。

汗と涙と砂埃でドロドロだ。

正直、きれいにしたいとは思っていた。

しかし、湯浴びならわかるが、湯に浸かるだと?

そんな習慣は俺の國にはない。

蠻族か、別の大陸の習慣なのだろうか?

「どうやら、おんせんというのは湯に浸かることらしいな」

仲間の一人は合點がいったらしく、著替えを済ませると溫泉のところに向かう。

さぁ、どんなものが現れるのか。

頼むからこれ以上、俺の腰に負擔をかけないでくれよ。

「こ、これは……!」

俺の目の前には湯気をあげる池があらわれる。

先客がいるらしく、彼らは肩までそれに浸かっているようだ。

「ハンス、吾輩はこんな気持ちいいもの知らんですぞ!」

俺よりも先にっていった斧使いの男はそう言って俺に手をふる。

気持ちいいものなのか?

湯にることが?

「これは……!!!」

早速、湯に使ってみると衝撃的な波が俺のに広がっていく。

湯の程よい熱と、このなんとも言えないお湯の覚。

の芯がじわじわと熱せられて、頭から疲れが抜け出していく。

そして、さっきまで痛んでいた俺の腰が軽くなっていく!

俺の腰が回復していく!

「これはやばい。癖になっちまいそうだ……」

仲間の一人はそう言って、ほぉっとため息を吐く。

わかるぜ、その気持ち。

何もかも手放してしまったような、そんな気持ちだ。

「あぁ、こんなに気が抜けちまったのははじめてだよ」

冒険者として生きてきた俺達は、常に危険と隣り合わせだ。

酒を飲んでいるときでも、常に眉間にしわを寄せて、辺りを警戒している。

眠るときは傍らに剣を置いて眠る。

それなのに、今はどうだ!

俺は完全に素っで、完全に無防備だ。

それなのに、何の危機も覚えていない。

すべてを忘れて、湯の中で漂っている……。

あぁ、俺は今、解放されている……。

こんな気分になれたのは生まれてはじめてかもしれない。

「今日は魔様が……ですなぁ」

「ほぉ、さすがですな」

あたりを見ると、どうやら村人もこの施設を客として使っているらしい。

俺を含めたおっさんどもが湯に漬かっているのを見ると、何やら安心するものをじる。

なるほど、オヤジどもの社場ってやつでもあるのか。

見れば今日、俺達と一緒にいたハンターのオヤジどもがいる。

俺は挨拶がてらに聲をかける。

話のついでに彼らの強さのについて聞き出してみる。

もしかしたら、特殊な訓練をしているのかもしれない。

「トレーニング? ふむ、わしらは別段何もしとらんぞ?」

「溫泉ができるまではモンスターは全部、サンちゃんが狩っていたからなぁ。わしらなんぞ全然、歯が立たなかったなぁ」

「まぁ、今ではサンちゃんだけに負擔をかけるのはイカンということで、俺たちもハンターの真似事をしてるんだよ」

しかし、奴らの答えはいっこうに要領を得ない。

「まぁ、詳しくはサンちゃんに聞いてくれ」

とかなんと言って、おっさんどもは先に出ていってしまった。

サンちゃんだとか言って、上手くはぐらかされてしまったのだろう。

「そもそも、いったい誰なんだよ、そのサンちゃんっていうのは」

「わしに用かな?」

ハンター共が出ていったと思ったら、一人だけ湯に殘っている人がいた。

白いひげを生やした見るからに老人。

このじいさんが、例のサンちゃんなのか?

このじいさんがあの兇悪なモンスターを狩っていた?

たはは、笑わせるじゃねぇか。

「俺たちもナメられたものだ。こんなじいさんに教えを請うほど落ちぶれちゃいないぞ?」

強くなるを聞き出せなかったからか、ちょいとばかり悪態もつきたくなるというものだ。

しかし、それもしょうがないことだろ?

俺は冒険者として油の乗った年齢であり、対するじいさんはかなりの年齢だ。

「ふむ、若者よ。それじゃ、わしに勝てるとでもいうのかの?」

しかし、じいさんは自分に勝てるかなどと言い出す。

確かに眼は鋭い爺さんだが、こんな白髪だらけのじじいと勝負になんぞなるものか。

そもそも、村の重要人かもしれないわけで怪我でもさせてしまったら悪い。

適當にあしらおうと思ったら、

「ふぉふぉ、臆病じゃのぉ。だからが生えておらんのかのぉ」

などと、俺の最も気にしていることを言いやがった。

カチン、と來たね。

正直、キレちまったよ。

言っとくがなぁ、これは剃ってるんだよ!

しは生えてくるんだよ!

敢えて、やってるんだよ!

「表へ行こうぜ……久しぶり……切れちまったよ……」

ぶん毆りたい衝をどうにか抑え、俺は低い聲を絞り出す。

土下座するなら、今のうちだぜ、じじい。

「ふーむ、それなら腕相撲でもするかのぉ」

「腕相撲だぁ? いいだろう、なんでもけてやるよ」

じじいが腕相撲で勝負だとか言うので、けて立ってやることにした。

俺の仲間は止めようとしたが、キレちまったは俺はもう誰にも止められない。

俺は所にある腕相撲に丁度いいテーブルの前に歩み寄る。

タオルを腰に巻き、俺の見事なで威圧してやろうという算段だ。

「謝るなら、今のうちだぜ、じじい」

「ほほぉ、なかなか無駄なが多いのぉ」

ここでもじじいは俺を挑発する。

見れば、爺さんのには無數の傷跡があり、尋常じゃなく大きなキズもいくつかある。

高齢だろうに、かなり引き締まったをしているのもわかる。

なるほど、しは腕が立つっていうわけか。

まぁ、大昔、冒険者でもやっていたんだろうが、年寄りの冷や水ってものを教えてやるぜ。

「それじゃ、神妙に勝負!」

「冒険者のハンスと我らが村長のサンちゃんの一騎打ちだ!」

俺が騒いでいたので、ギャラリーがどんどん集まっていた。

ちくしょう、見世じゃないんだ。

これは俺の意地とプライドをかけた戦いなんだ。

「よぉし、若者にハンデをやるぞい。わしは指一本じゃ」

じじいはギャラリーがわいわい言っているのに気を大きくしたのだろう。

あろうことか人差し指一本のみで俺と腕相撲をすると言い出した。

「アホか、そんなことしたら、人間の指なんざ簡単に折れちまうんだよ!」

いくらなんでもありえない。

もうろくしたじいさんに付き合うつもりはないと抗議するも、

「おぉっ、サンちゃんお得意の指一本!」

周りのやつらは「いつものことだ」みたいに盛り上がっている。

しかも、「かかってこんか」などと、じいさんは俺に手招きをする。

……このじいさん、ボケちゃってるんじゃないよな?

心、空恐ろしさをじながら俺はテーブルにつくのだった。

「はじめっ」

掛け聲とともに、俺は最大限の力を込める。

じいさんには悪いが、俺のことをバカにした代償は大きい。

人差し指は後でリリにでも治療してもらいやがれ。

俺を指一本で相手するだと?

俺の頭に生えていないだと?

男には負けられない戦いがある。

俺のフルパワーを思い知れ!

だが!

だが!!!!!

う、かねぇ!

俺の右手が1ミリたりともかないのだ。

相手は人差し指一本だけだぞ?

まるで巨大な巖を押しているような、そんな覚だ。

なんだ、このじじい!?

「ふむ、これが限界かの?」

じいさんはそう言うとあくびをするポーズまでしやがる。

どういうことだ、腕力だけなら俺に勝てるやつはほとんどいなかったって言うのに。

何が起きてやがる!?

「うおっ!?」

気づいたときには、俺は空中を3回ほど回っていた。

ぐるん、ぐるんっと世界が回る。

仲間たちの唖然とした顔。

村の男達の盛り上がる顔。

ここで頭から叩き落とされたら、俺は間違いなく死ぬ。

「よいしょっと」

しかし、じいさんは俺のことを片手でキャッチするではないか。

重が100kg以上ある俺はまるで赤子のようにじいさんの腕の中に抱かれる格好になった。

それから俺はひょいっと床の上に立たされる。

足はがくがく震え、腰から下に力がらない。

俺は當然、すっ転ぶことになる。

悲しいことだが、本日、三度目の腰砕けだった。

「勝者、サンライズ! 黃昏の剣聖! サンライズ・サマー!」

そして、俺は耳を疑うことになる。

このじいさんがあのサンライズだというではないか。

隣國リース王國を悪竜から守り抜いた、ドラゴンキラー、サンライズ・サマー。

その名前は俺がガキの頃から知っていた。

ガキの頃の俺の英雄の一人だった。

もうとっくに死んでいたと思っていたのに。

どうして、あのサンライズがこんな辺鄙な村にいるんだよ!?

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「村長、サンちゃんって呼ばれてるのか……」

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