《【WEB版】灼熱の魔様の楽しい溫泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の溫泉帝國を築きます~【書籍化+コミカライズ】》52.ラインハルト家の難:ミラージュ、モンスターから襲撃をけて泥まみれで逃走する

「よいか、怪しいものは問答無用で取り押さえよ!」

「ははっ!」

ラインハルト家の三男、ミラージュは辺境近くのヤバス地方に滯在していた。

魔石がどこから流れてくるかを調べるためだ。

ザスーラ連合國から流れていることは確かなのだが、國境を越えて部隊を展開するのは難しい。

そこで一旦はこの辺境で報収集をすることにしたのだ。

彼らは魔石を収集している集団や裏に魔石を運んでいる集団がいないかを探索していた。

しかし、なかなか有益な報を摑めないまま、日が暮れようとしていた。

「ミラージュ様、そろそろ村に著きます」

彼らは一旦、近隣の村にとどまり、休憩することにした。

騎士団の面々は辺境のモンスターとの戦闘で疲労こんぱいしていた。

「村が、村が、消えているぞ!?」

部隊の前方から聲が上がる。

「なぜだ? この場所には村があったはずではないか!?」

ミラージュは自分の目を疑う。

以前まであったはずの村がなくなってしまっているのだ。

誰も住んでいない家々はボロボロになっており、誰一人殘っていない。

確かに貧しい村などなくなってよいとは言っていたが、まさか村人全が逃げ出すなど想定外だ。

「魔よけもなくなっています!」

兵士に調べさせたところ、村には魔を寄せ付けないための魔よけも取り払われているとのこと。

これがないということは村はもはや外と変わらない。

「くそっ、貧民どもが……」

予定していなかった事態にミラージュは歯噛みする。

「ミラージュ様、やはりこの間の魔石狩りがあまりにも無理やりだったからでは……」

騎士団の一人がミラージュを穏便にたしなめようとする。

その人は古參の騎士で、副を務めているのだった。

「何を言うか、この無禮者め! 貧民が夜逃げすることなど、よくあることだ。よし、次の村に向かうぞ!」

彼は自分のミスを認めることは絶対にありえない。

彼は村がなくなったのは魔石狩りの影響ではないと言い張る。

強がりを言っているのではなく、むしろ、本気で信じ込んでいる様子だ。

彼はこの村にほど近い村へと部隊をすすめることにした。

「ミラージュ様、こちらの村もなくなっています!」

しかし、彼のあては外れてしまうことになる。

なんとこちらの村もなくなってしまっているのだ。

つい最近まで人が生活していた名殘はあるものの、魔よけは取り払われ、誰一人いない。

「な、な、なんだと!? 貧民どもめ、揃いも揃って夜逃げしたというのか!」

ミラージュは想定外の出來事に地団駄を踏む。

さらには自分以外への責任転嫁だ。

彼についてきた騎士たちはその様子を辟易した顔で眺めている。

「ミラージュ様、このままでは野宿です。野営の準備は念の為しておりますが……」

は険しい表になってそういう。

確かに、この辺境の土地で野営をするのはかなり危険なことであり、そのことは自信家のミラージュも自覚していた。

「ふんっ、この私にかかれば、辺境のモンスターなど造作も無い」

とはいえ、ミラージュは強気な姿勢を崩さない。

彼は自分自の魔力に絶大な自信を持っていたからだ。

事実、この辺境のモンスターをなぎ倒してきた。

しかし、それはあくまでも晝間での話だ。

彼は夜間のモンスターがいかに危険であるかを知らなかった。

「ミラージュ様、モンスターが群れをなして襲ってきます!」

「暗闇からの攻撃では手も足も出ません!」

余裕しゃくしゃくで野営を開始したものの、部隊はモンスターたちに躙されてしまう。

モンスターたちは晝間の恨みを晴らすかのように波狀攻撃を仕掛けてくるのだった。

「ええい、戦略的撤退だ! 散れぇええええ!」

魔力の盡きたミラージュは、ほうほうのていで逃げ出す。

しかも、我先に。

部下たちはミラージュの名前をぶも、振り返りさえしなかった。

「くっそぉおおお、どうして村が消えてしまったのだ!? 私に恥をかかせるなど、許さぬうぅううう!」

ミラージュは顔を泥だらけにしながら恨み言をぶ。

彼は命からがら逃げ帰るも、父親から強い叱責をけることになった。

さらに今回の彼の失態は王都にまで知れ渡ることになった。

おそらくは騎士団の生き殘りがミラージュの逃げざまを吹聴したのだろう。

「逃げ足のミラージュ」というありがたくない、二つ名さえ與えられるほどだった。

ミラージュは知らない。

彼が潰した村の村民たちはユオの村に移住し、幸せに暮らしていることを。

◇ ラインハルト家の騎士たちの會話

「はぁ、本當に最悪だよ、あのミラージュの野郎、一人で逃げ帰るなんて」

「まったくだ、死ぬかと思ったぜ。あんなのが上じゃ命がいくつあっても足りやしない」

「知ってるか? 副殿は今回の責任をとって辭任するらしい」

「な、なんだって!? ミラージュに意見できる數ない人だったじゃないか」

「しょうがないだろ、ミラージュが副殿に責任を負わせたらしいからな」

「なんていうひどい話だよ。まったく」

「もっとも副殿本人はやっとバカから自由になれるって喜んでいるっていう話だがな」

「はははっ、そうに違いない。自由かぁ、俺も騎士団やめて辺境で冒険者でもやってみっかなぁ」

「いいな、それ。ユオ様の追放された斷の大地にでも行ってみるか?」

今回の失態後、ミラージュの騎士団に対する求心力は一気に低下した。

強な騎士というラインハルト家のもう一つの屋臺骨もしずつきしみ始めていた。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「副殿……」

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