《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》門番の挑戦
「私はカノエ、ワンダール公爵に近づく不屆きな人を追い返すのが仕事なの」
まるでメディ達がそうであるかのように、カノエは皮を込めた。上機嫌でカノエは裝束の側から瓶を取り出す。
ドス黒い紫に染まった禍々しいがっていた。全員が眉をひそめて、そのに嫌悪を抱く。
「私の趣味は毒薬の生でね。本業もそうなんだけど、すっかりハマっちゃったの」
威勢がよかったベイウルフも、カノエに引いている。彼も実力者である以上、カノエの得の知れなさを警戒していた。
仮に爭いになった場合、勝てるかどうか。賞金額だけで半生は遊んで暮らせる賞金首を葬ってきたベアウルフでも、カノエには関わりたくないとじていた。
「毒って素敵よね。生のはあらゆる侵者を撃退できるように作られているのに、それを簡単に壊すのよ。そうはならないように作られたはずのなのにねぇ……」
カノエが楽しそうに笑う。瓶を指でつまんで揺らして、のきにうっとりしている。
公爵家の門番とはいえ、いささか騒ではないか。一同のほぼ誰もが思うことだ。
エルメダがメディの手を引っ張る。
「なんか危ないよ、あの人」
「うーん……」
カノエはメディに微笑んで、瓶を握らせる。
「テストはね。この瓶にっている毒を中和して飲むこと。でもこれだけじゃフェアじゃないわよねぇ。これはタツマビキといってね。竜を間引く、だったかしら? そんな由來を持つ毒なの」
「ドラゴンも殺す毒ですね。知ってます」
「そう、一滴で數百人は殺せると言われている毒よ。あ、でもね……」
カノエがまた笑みを浮かべる。もういい加減にしろと一同には不快が募っていた。
「それだけじゃつまらないでしょ? だから私なりにし改良したの。タツマビキ改ってところかしら」
「あの猛毒を更に!?」
「これはいわばあなたと私の勝負よ。無事、毒を中和されたら私の負け。でもそうじゃないなら……」
溜めたカノエはメディの耳元で囁く。
「あなたは、見た人が誰にも話したがらない逝き方をする」
そのどこか妖艶な囁きは近くにいたエルメダの耳にもった。どう考えてもけるべきではないとエルメダがメディを止めようとした時だ。
「わかりました」
「メディ!」
「エルメダさん。大丈夫です、私は薬師です」
エルメダは自の心臓の高鳴りをじるほど張していた。カノエから瓶をけ取ったメディは調合釜をバッグから取り出す。
気を利かせたカノエがいつの間にかテーブルを用意していた。ニコリとほほ笑んで、どうぞと無言で促す。
「ありがとうございます。では始めますね」
「えぇ、どうぞ」
エルメダは葛藤していた。ここでメディが死ぬようなことがあってはならない。
薬師としての損失もそうだが、何よりエルメダはメディのおかげで立ち直ったのだ。
恩人でもあり、厚かましくも友人でいたい。そんなエルメダにとって、友人を死地に見送るなど出來ない。
エルメダが今一度、メディの腕を握って止めた。
「やめて。こんなことまでする必要ないよ」
「エルメダさん、心配してくれて嬉しいです。でも私を信じてください」
「タツマビキの原料になる草が群生している場所には魔一匹いないと言われてるんだよ! こんな悪趣味な人を雇ってるワンダール公爵も普通じゃない!」
「……大丈夫ですっ!」
メディが瓶を開封する。そして一同が見守る中、メディは口をつけて一気に飲んだ。
「なっ!?」
「……メディ!?」
メディがふらりとテーブルにもたれかかる。青ざめたエルメダがメディを支えてんだ。
「メディ! メディーー!」
「あらあら……」
「あんたッ! あんたのせいだ! 殺してやるッ!」
ベイウルフにもじなかったカノエが初めて構えた。エルメダから放たれる魔力に、腕に覚えがある冒険者も慄く。
町全を包み込んで圧倒するかのように、エルメダの魔力は瞬時に膨れ上がった。
ベイウルフは唯一、防姿勢を取ったが他の者達は逃げ腰だ。が――
「おはようございます」
「え?」
メディが上を起こして、ケロリとしている。全員、目が點だ。
「メ、メディ。生きてたの?」
「これ、フルーツジュースです」
「ふるーつじゅーす?」
「毒なんかってませんよ」
エルメダの怒りの熱が急速に下がる。よっこいしょ、とメディが調合釜を片付けた。カノエも武を収める。
「ふぅ、見事ね。バレバレだったかしら?」
「すぐにわかりました。それに本のタツマビキなら、そんな瓶で管理できません。栓かられ出た臭気だけで人を破壊します」
「うふふふ! ご名答! じゃあ、倒れてみせたのは私への當てつけ?」
「しだけ意地悪したくなりました。だから二度とこんな事はしないでくださいね?」
メディの目は珍しく笑っていなかった。偽とはいえ、カノエは毒を遊び半分で誇示したのだ。
薬品、ましてや人の命を奪う毒に対する姿勢として正しくない。悪ふざけでは済まないのだ。
メディでなければ、中和を試みただろう。或いは諦めて引き下がっただろう。そんな薬師の努力をあざ笑う行為でもある。
「約束です。皆さんをワンダール公爵に會わせてあげてください」
メディの聲は低かった。エルメダも、ここまでを見せるメディを見たことがない。
いつも笑顔で薬を出してくれる優しい薬師さんがそこにいないのだ。メディにここまでさせたカノエにエルメダは怒りを再燃させる。
「カノエさん。今回はメディに免じて許すけど、次にこんな事したら殺すからね」
「えぇ、私もぬるま湯に浸かっていたせいね。本の怪を見極められなかったわ。ごめんなさい」
頭を下げながら、カノエはメディに言い知れぬを抱いた。
いくら偽だとはわかっていても、普通はし躊躇するはずだ。萬が一という可能もある。
自分の目と鑑定結果を疑いもせず、メディは偽の毒を飲んだ。その神を冒険者の等級に換算するならば、一級と遜ない。
「ではどうぞ」
カノエはメディから意識と視線を逸らせなかった。
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