《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》ワンダール公爵 3
「蟲が出た」
ワンダールが抑揚のない聲で告げる。エルメダやカノエが反応できるわけがない。
待機していた使用人など口元に手を當てて、異常事態であるかのように怯えている。
「出ましたか! よかったです!」
「あんなものがオレのにいたというのか!? いつの間に!」
「ワンダール公爵はおが好きなんですね。たぶんそこからシュラ蟲に寄生されたんだと思います」
「シュラ蟲だと?」
今度はエルメダが青ざめる。冒険者であれば蟲程度で怯まないが、の寄生蟲となれば別だ。
野営して狩りをした獲を食べる事もある。要するに他人事ではない。すぐ様、メディにすがった。
「メ、メディ! 寄生蟲ってどういうこと!」
「ワンダール公爵のにいたシュラ蟲は生きのに寄生している事が稀にあります。お料理の時に気をつけないといけないのですが、小さくて見逃しやすいんですよね」
「か、かか、加熱とかで殺せないの!?」
「シュラ蟲は生命力が強くて、しの熱では死にません。そして寄生してしずつ宿主の栄養を奪っていくんです」
エルメダがお腹を押さえて心配すると、大丈夫ですよとメディのお墨付きをもらった。
遠方の國で崇められている悪神に準えた名前であり、または靜かなる暗殺者とも呼ばれている。
宿主の栄養をわずかに奪っていき、決して一気に殺さない。ただし健康であっても壽命がむ上に問題は弱った時だ。
シュラ蟲にとって弱った宿主に利用価値はなく、すぐに命を奪う。ワンダールのような強靭なを持つ者など絶好の宿主だ。
長く健康で生きてくれたほうがシュラ蟲にとっても都合がよかった。
「ワンダール公爵。最近わずかに疲れやすくなったり、作が面倒になってませんでしたか? 先程、ソファーを立ち上がる時ものっそりとしたきでしたから……」
「……今だからそう自覚できる! 全がスッキリして今にでも走り出したいほどだ!」
「ワンダール公爵は他の方よりも強いをお持ちなので、寄生されてもより自覚癥狀が表れません。ですが確実に命を奪っているので、取り除けてよかったです」
「お前はポーションで蟲を殺したというのか?」
「はい。グリーンハーブはうってつけなんです。飲んだ時の刺激は駆除する為に必要な分で、ワンダール公爵には特別に多く出しました。おがお強いので、普通の方より楽でしたねぇ」
ワンダールの傍らでカノエは言葉を失っていた。
シュラ蟲は決して有名な寄生蟲ではない。多くの治療院でも、原因が特定できずに患者の命が奪われているのだ。
ポーションだけで済む問題ではなく、その知識の源泉はどこなのだとカノエは訝しんだ。
何よりずっと近くにいた自分が気づけなかったという自責の念に駆られている。
「ワンダール公爵、この私がいながら申し訳ありませんでした……」
「お前の専門じゃねえだろ。そもそもあのガキがおかしいんだよ。普通、気づくかぁ?」
自のに自信を持っていたワンダールだが、それが驕りだと気づかされた。
エルメダのメディに対する評価に噓偽りなどない。冗談など一切抜きでメディならばもしかしたら、と思った。
――治癒師推進制度がひっくり返ります
「ククッ! こりゃ世間様に知れたら大変だわなぁ」
有力貴族が訪ねてきた時ですら笑わず、時には吠えて突き返す。決して想など振りまかず、びない。
それ故に一部の王家や貴族からは煙たがられているが、尚も公爵として居座れるほどワンダールの力は大きい。
カノエや使用人はこれほど楽しそうにしている當主など見たことがなかった。
ワンダールは愉快で仕方ない。これほどの逸材を導いてくれて謝する、と普段は気にもかけない神へ謝した。
「メディとかいったな。お前、オレの専屬薬師になれ」
「えっ……!」
「ちょ、ちょっと! それは」
「オレはメディと話してるんだ」
エルメダの制止をワンダールが睨んで収める。さすがのメディもこのいは意外で、答えを返せない。
「オレが知る限り、お前以上の薬師はいない。治癒師の中にお前以上の癒し手がいるかも怪しいな。どうだ? 専屬になりゃレスの葉だろうが魔力水だろうが使い放題だ。最高の研究室も用意してやる」
「あ、ありがとうございます。私をそんな風に評価していただけて……」
「お、おい? なんで泣くんだよ?」
「いえ、すみません……」
メディが堪えきれず涙をこぼす。公爵ほどの者に自がスカウトされた事実がたまらなく嬉しかった。
治療院で濡れを著せられた時を思えば考えられない。
その魅力的ないに応じたいと思うが、メディは覚悟を決めて答える。
「すみません。私、その……。やるべきことがあるんです。辺境の村には私を待ってる方々がたくさんいます。あの村にはまともな醫療施設もなくて……。だから」
「それじゃ代わりの奴を派遣してやるってんならどうだ?」
「でも……」
「あのですね! ワンダール公爵! あの村はメディの居場所なんです! あまり困らせないでください!」
エルメダはつい熱くなったことを後悔した。相手は公爵だ。不敬も甚だしい。
「……半分冗談だよ。その気になったらいつでも來い。今はせめてレスの苗木なんていくらでもくれてやる」
「レ、レスの苗木を!?」
「それと待たせている他の奴らとも會ってやる。今日はすこぶる機嫌がいい」
「あ、ああああ、あり、ありがとうございますぅ!」
メディは何度も頭を下げた。今しがたヒヤリとしたエルメダも安心してソファーでリラックスする。
彼から見て、ワンダールのいは半分どころか本気だった。あそこで止めなければ、下手をすれば押し切られていた可能がある。
微力ながらメディの役に立ててよかったと今は自己満足した。
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