《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》薬師ランドール

「カノエさん。メディのお話ってなに?」

深夜、アイリーンの家にて三人の會をしている。アイリーン、エルメダ、カノエ。

村人が寢靜まった時間帯を選んだのはカノエだ。メディから買ったリラックスハーブティーを味わいながら、もったいぶって話を進めない。

エルメダはじれったさをじて、アイリーンはただ靜かに待った。

「二人とも、メディの父親の名前は聞いた?」

「うん、確かランドールだよね。聞いたこともない薬師だよ」

「そうよね。私も知らないわ」

「は……?」

エルメダはカップに口をつけたまま、きょとんとする。

カノエの目つきは鋭い。メディに見せていた優しいではなかった。

の空気が一気に張りつめる。蟲一匹の気配すら消えて、鳴き聲が止んだ。

「カノエ、まだるっこしい話はなしにしよう。メディの父親に見當がついているのだろう?」

「賢者アクラ」

「……とんでもない名前が出たな」

「え、なになに?」

エルメダには見當がつかないが、アイリーンの表で悟った。

ほどの人が表を強張らせているのだ。

「とある國の宮廷魔導士だったアクラは王族のの病を斷ち切り、長壽として繁栄させる。推定死者數が萬に屆く伝染病の終息、抗の開発……。賢者とすら稱されたアクラ。エルメダちゃん、あなた知らないの?」

「ごめん。里から出してもらえたのがつい最近だから……。それでその賢者がメディちゃんのお父さんなの?」

「いえ、たぶん違うわ。でもこのアクラにはがあってね」

?」

「アクラは魔法なんか使えなかった」

本來であればも葉もない話とアイリーンは切って捨てるが、カノエの口調がそう思わせない。

としてはカノエの正に迫りたいほどだ。もし真実であれば、カノエはまともな場所にを置いていない。

話を聞きながら観察するほどカノエがどこに屬する人間か、確信に近づく。

「カノエ、軽々しい発言ではないだろうな。私も信者ではないがアクラを尊敬している。多くの者達も同じだろう」

「気を悪くさせたなら謝るわ。でも、せめて話半分で聞いてほしいの」

「わかった」

アイリーンは今一度、腰を落ち著けた。

「アクラの魔法には一つ、特徴があってね。アイリーン、あなたならわかるでしょ?」

「アクラはただの水を萬病を治す聖水に変えられる」

「そう、多くの人達が目撃したと思うわ。でもアクラは常に傍らにいる召使いから瓶にった水をけ取っていた。手をかざして、に包んだのよ」

「待て! それは初耳だ!」

「伝染病を終息させた際には川の水を聖水に変えたなんて話もあるけどデマよ。実際は大量に用意されていた水を各地に送り屆けた」

「そんなバカな!」

アイリーンは興を落ちつけようと必死だ。カノエの口から出た言葉でなければ逆上していたところだ。

會ったばかりのカノエであるが、言葉の一つに得の知れないドス黒い空気を帯びている。そんなイメージさえ持っていた。

「仮に……その話が本當だとしてもだ。なぜそんな事をする必要がある? その水は一誰が……」

「アクラの一族は代々、宮廷魔導士として王族に仕えていた。ところがアクラは魔法の才能に恵まれなかった……相當、焦ったはずよ。ところがアクラは宮廷魔導士として仕えることになった。一人の召使いを従えて、王族にも認められたわ」

「ただの水……予め用意された薬を魔法に見せかけたのか? バカバカしい……そんなもので欺けるわけが」

「王族も薄々気づいていたのかもしれないわね。でも聖水の効果は認められた。彼らとしてはそれで十分だったのかもしれない」

「國の面か?」

カノエが無言で肯定した。アイリーンもエルメダも、カノエの言わんとしてる事をすでに理解している。

「……アクラが召使いを従えていたという話も聞いたことがない」

「大衆の視線はアクラに注がれていたからね。召使いなんて背景としか思われてなかったんじゃない?」

「その召使いがメディの父親だと言うのか?」

「可能があるとしたら、召使いの彼しかいないというだけ。何せ誰も名前を知らない上に突如として姿を消した」

三人は沈黙した。荒唐無稽なカノエの話だが、これまでのメディの調合は薬師を逸している。

アイリーンやエルメダは何度、魔法に例えたかわからない。その魔法がアクラので実現していたとしたら。

とある王國の民が魔法と信じていたとしたら。もし自分が民であれば、見破れるかどうか。

育ちも思考もまるで違うアイリーンとエルメダだが、ここまで思考がリンクするのも珍しかった。

「……カノエ。お前は何者だ?」

「私はワンダール公爵に雇われたしがない元門番よ」

「話す気はなさそうだな」

「あら、ひどいわ。まさか裏稼業とでも?」

「そう思っておこう」

アイリーンとて、カノエに翻弄されるのは本ではない。詮索したところで答えなど出ないのだ。

ほどの人すらメディに興味を示したとなればこの先も気をつける必要がある。ワンダール公爵のような善意の権力者だけではない。

アイリーンは今一度、自の剣で本當に守るべきものを見定めた。

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