《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》12.第七王子は不幸な暗殺者を救う(無自覚)
ある日の夜。
俺はベッドに腰を下ろし、人が來るのを待っていた。
窓際で寢そべっている、白貓ロウリィが問うてくる。
『ノア様なに待ってるんすか?』
「娼婦だよ。サブリーナに手配させたんだっ」
『娼婦? なんでまた?』
「これもまた無能ムーブの一環だよロウリィくん」
『娼婦を呼ぶことが?』
「そう! に溺れる領主って、無能っぽいだろ?」
『だからってあんな年端のいかない男の娘に娼婦用意してくれって頼んだんすか?』
「そうよ。サブリーナの俺への心象をさげ、さらに遊びにふけることで、周りからの評判も落とす。完璧な作戦だね」
『まあこの作戦ならいくらノア様でも、無能のフリして実は有能をさらすってムーブできないっすね』
「そゆこと。さぁて、どんな子が來るんだろうなぁ」
『ノリノリっすねあんた』
「いやいや、別に? 俺は娼婦を呼んで評判が下がれば良いから? その後のことは副次的なことであってね、別にね楽しみじゃないよ」
『はいはい。じゃあ、邪魔しないようにわたしは外行ってるっすねー』
ロウリィが窓から飛び降りていく。
殘された俺はひとり、娼婦が來るのを待つ。
サブリーナは『わ、わかりましたっ。最高の娼婦をご用意させていただきます!』と言っていた。
最高の娼婦。
どんなものだろうか。
俺も男だ。
だってある。
俺の周りは狂信者(リスタ)とか脳筋(ディーヴァ)とか白貓(ロウリィ)とかで、抱きたいって思うほどのはいないんだよな。
と、そのときだった。
「ん? 明かりが消えたな……」
いつの間にか部屋においてあった魔法燈が切れていた。
まあだからといって部屋の中が見えないわけじゃない。
俺は知魔法が使える。
目には見えなくともそこに誰かがいるのはわかる。
だから……。
「おっ、來たな。いらっしゃい!」
「!?」
俺は後ろからやってきたその子に、ぎゅっと抱きつく。
「……よ、ヨナに、なぜ……気付いた?」
「ヨナちゃんって言うのか。俺はノア。よろしく」
暗がりであっても知魔法で、俺は抱きついているその子の姿が見える。
し日に焼けている。
真っ白な髪のに、赤い瞳がキュート……ではあるんだが。
「これが最高の娼婦……?」
なにせつきが子供そのもの。
10歳にも屆いてないんじゃないだろうか。
そりゃ、抱いたときらかいがあった。
けどまだまだガキじゃねえか。
サブリーナめ。
適當なやつをよこしやがってっ。
なにが最高の娼婦だよ。
「ガキは趣味じゃねえんだよ! ったく……で、どうする? 俺とやるか?」
「……ああ。ヨナ。負けない。死ね!」
するりとまるで蛇のようにヨナが俺の腕から逃げる。
おっと、なかなかなしてるな。
しゅるん、とまたしても蛇のごとききで俺に抱きつこうとする。
なかなかに熱的だ。
しかし……。
「そんなんじゃ男は捕まえられねえぜ」
「! またヨナのき……避けたッ?」
俺はヨナの小さなをギュッ、とハグする。
まあガキを相手にする趣味はねえけどさ。
向こうには仕事で來てもらってるんだ。
やる気はないけど……ま、しは相手してやんねえとな。
だがやたらと彼は、ジタバタとまるで魚のようにく。
「はなせ! ばか! ばかっ!」
彼は俺を突き飛ばし,
素早く拳を振るってきた。
けれど……。
「ば、ばかな!? 音もなく死角から急所をつく攻撃、なぜよけられる!?」
「もうそのきは見切ったぜ。俺から逃げられると思うなよ」
しかし結構気の強いだな。
さっきから的確に急所を攻撃しようとしてくる。
だがそのことごとくを予測し、をよじって避ける。
最初は許してやろうと思っていたが……。
我慢の限界だった。
俺はヨナをくるんと反転させ、背中に人差し指を立てる。
「! ま、まったく……けない……。重心を……抑えられてる。だからけない。……すごい、見事」
「おまえね、だめだろー? 金もらっているのに、仕事しないなんてさぁ」
おそらくだが、このヨナっては新人娼婦だろう。
金をもらっているのに、男を愉しませようとしてこない。
つまり、三流ってことだ。
「……うぐ、グス……うわっぁあああああああん!」
「お、おいおい、いきなり泣くなよ」
「ヨナ……ぐす……仕事、失敗……だめなのに……ヨナはぁ、ヨナはぁ……お仕事以外、なんのとりえもないクズなのに……仕事しなきゃ、だめなのにぃ〜……」
娼婦としてデビューしてまだ日が淺いのだろう。
だというのに、いっちょ前に仕事にプライドを持っているわけか。
まじめなやつだな。まあ、金をもらってるのに男を愉しませられない三流娼婦ではあるにしろ。
三流なりの矜持があったのだろう。
「なぁ、別によくね、仕事なんてしなくても」
「ふぇ……? どーゆーこと?」
「いいか仕事なんてもんはね、本來しなくていいものなのよ」
「! そ、そー……なの?」
「ああそうさ。昔人間はお猿さんだったんだ。そのときに奴らは仕事なんてしてなかった。それが進化の過程で余計な知恵をつけちまった。その弊害が仕事とか金だ。けどな……別に仕事も金も、自分が必要としないのならしなくていいんだよ」
ヨナは俺の前で正座し、真面目にオレの言葉に耳を傾けている。
まー、あれだ。
うん、プレイ時間があまってるからね。
時間つぶしよ。
さすがにこんなガキ抱けないからな。
俺はヨナ相手に適當な雑談をする。
特に意味はない。
だが……。
「のあさまの、ゆーとーり! 労働は……くそ!」
「そーそー! そうなんだよ、労働はクソだ! わかってるねえヨナくん。將來大になるよ。知らんけど」
「ありがと、のあさまー!」
きゅっ、とヨナが俺に抱きついてくる。
趣味じゃねえが、ま、相手はガキだし邪険にはできない。
「のあさまのおかげで、ヨナ、目がさめたっ。もうお仕事辭める。あんさつしゃ、はいぎょーするっ」
「おうそうか。……ん? 暗殺者……? 廃業……? どゆこと?」
と、そのときだった。
ばりーん! と大きな音を立てて、窓ガラスが割れる。
中にってきたのは騎士団長ディーヴァだった。
「ノア様ー!」
「うぉお! ディーヴァ! お、おま……窓からってくんなよ!」
「大変だぞ! ノア様、伝説の暗殺者【沈黙のヨナ】がノア様の命を狙っているとの報を摑んだ!」
「伝説の暗殺者……? 沈黙のヨナ……?」
なんだそりゃ……?
ってか、ん、ヨナ?
暗殺者って……まさか?
「何百人もの要人をその手で始末してきた殺人機械(キリング・マシーン)だ。あらゆる武蕓者が挑んでも駄目だったらしい。そんな危険な暗殺者が近々命を狙うと確かな報筋から……って、ノア様、その子は?」
「ヨナは、ヨナ! お仕事、あんさつしゃー」
「そ、そんな!? 伝説の暗殺者がこんな子供だなんて。しかも……」
ディーヴァが俺と、そしてヨナを見やる。
ヨナは俺に抱きついて、頬ずりしている。
なんだかとっても嫌な予が……。
「す、すごいぞ! ノア様! あの伝説の暗殺者を手なづけてしまうとは! すごすぎる!」
「あ、いや……別に手なづけてないし……なぁ?」
「ううん。ヨナ、目がさめた。ヨナ、これからノア様の奴隷(どれー)になる」
「おお! 殺人機械と恐れられしヨナの心を改心させるとは!」
またキラキラした目を向けてくるディーヴァ。
ヨナもまた、同じ眼をしていた……。
「ウワサによると子供の暗殺者は暗示を使って、無理矢理ターゲットを殺させると聞いたぞ! おそらくこの子もだろう。自分の意思ではやっていなかったのだろう。それを、その暗示を解いて、さらに心をれ替えさせるなんて……! なんとお優しいのだ!」
「のあさま、おやさしー!」
またか! また俺やっちまったのかよ!
くそぉおおおおおおお!
どうしてこうなったああ!
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