《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》20.セバス、第七王子を真の領主だと認める

無能王子ノアが勇者を弟子にした。

それから程なくしたある日。

カーター家筆頭執事セバスチャンはひとり、事務処理をしながらため息をついていた。

「ふぅ……」

「セバス様? どうなさったのです?」

領民にして、メイドとして働くリスタが、小首をかしげる。

「いや……時にリスタ。この領地、以前と比べて良くなったと思うかね?」

「それはもちろん! ノア様が來てくださったおかげで、森の魔に怯えずに日々を送れています!」

「そうか……そうだろうな……」

「前領主ムノーダ様はこちらがいくら嘆願しても、モンスターはほっとけ、結界があるからと取りってくれず……あ、す、すみません!」

「いや……良い。ありがとう。自分の仕事に戻りなさい」

リスタは申し訳なさそうに何度も頭を下げて部屋を出て行く。

セバスは先ほどの彼の言葉を思い出す。

カーター領は奈落の森(アビス・ウッド)に隣接している。

領民達は常にモンスターに怯えて生きていた。

だが前領主は、それを解決しようとしなかった。

勇者の結界に頼り切って、防衛費をそのまま著服していた。

「……昔と比べ、今、領民達はみな幸せそうだ。これは……みなあの小僧の功績か」

ノアが領主として著任したことで、この地は恐ろしいほど発展した。

ムノーダのときは、このまま緩やかに滅び行くだけの大地だと思っていたのに……。

と、そのとき、リスタが再び顔を出してきた。

「セバス様、お客様です」

「わしに、客? ……まあいい、通しなさい」

「よぉセバス! 久しぶりじゃあねえか!」

「! これは……ムノーダ様!」

部屋にってきたのは、太っちょのはげた男……。

前領主ムノーダ・カーターである。

正確には領主ではなくなったため、ただのムノーダであるが。

「これはこれは! お久しぶりでございます! 息災であられましたか?」

「まあ……ぼちぼちな」

ややあって。

ソファに腰を下ろす、ムノーダの前に座る。

「セバス、おまえに一つ頼みたいことがあるんだよ」

「頼みたいこと……とは?」

「おれと手を組んで、現領主……ノア・カーターを追い出そうぜぇ」

突然の前領主からの提案。

ノアの追い出し。

それは……セバスのむべきことだった。

しかし……。

「あ? どうしたセバス……? すぐにこの話に乗ってくれると思ってたんだがよぉ?」

「あ、え、えっと……よ、よいですね! わたくしめもあの小僧には手を焼いていたところ!」

「だろぉ〜? このカーターの地は、だいだいおれや親父が守ってきた土地。つまりおれの族が正當なるここの領主、だよなぁ?」

「も、もちろんでございます! あんな……無能王子なんて……この地にふさわしくありません!」

……そう言いつつ、思い出すのはリスタの笑顔だ。

そのほか、屋敷の外で笑っている領民達を見ていると……。

ノア・カーターが、この地に相応しくない。……果たして本當だろうか。

そう思う気持ちも、なくはない。

だがそれでも、セバスはノアを認めたわけではなかった。

「して、ムノーダ様。どのようにあの小僧を追い出すおつもりですかな?」

「ようするにあのガキが無能だって事を証明すりゃいいわけだ。んで……これを使う」

ムノーダが懐から取り出したのは、小さな小瓶だ。

中には紫の毒々しいっている。

「これは特別な魔法薬でな、飲み水に混ぜるだけで激しい下痢・嘔吐・めまいを引き起こす」

「……こんなものを、どうするのですか?」

「アインの村の近くに、飲み水に利用されている川があっただろ? ……あそこにこの毒を混ぜてこい」

「なっ!? 何をおっしゃっているのですか!?」

ムノーダからの恐ろしい提案に、思わずセバスは聲を荒らげる。

この男は、ノアを追い出すために、領民達が飲む川の水に毒を混ぜろといってきているのだ。

「そんなことしたら領民に被害がおよぶではありませんか!」

「大丈夫だって。腹痛とか起こすだけだ。死にやしない」

「しかし……守るべき領民の平和を、領主自らすようなマネを……」

「ア゛? んだよセバス、おれの言うことが聞けないっていうのか? なぁ? てめえはおれの家に代々仕えてきた筆頭執事だろ? 領主(おれ)の命令は、絶対だろぉ?」

前領主が村を歩いていたら、さすがに怪しまれる。

だがセバスなら、怪しまれず川に毒を混ぜることは可能だろう。

「領民が原因不明の病に苦しむ。なにもできない無能領主は追い出せ! そうなれば空いた椅子はおれが座り、この地は前のようにおれが治められるって寸法よ」

「…………」

「なぁセバス、おまえなら協力してくれるよなぁ? ノアより、長年そばで仕え続けた、おれのほうが領主に相応しいって……そう思うよなぁ?」

……確かに長い年月、セバスはムノーダ、そしてその父、と仕えてきた。

彼がどんな人間かは、よく知っている。

……だが同時に、ノア・カーターがなしてきたこともまた、知っている。

どちらが領主に相応しいか?

そんなの……。

「……ムノーダ様。し、お時間をください」

ムノーダからポーション瓶をけ取った、その日の夜。

セバスは、領主の部屋にて、思い悩んでいた。

ノアが手をつけず置いていった書類を片付けながら、一人考える。

「…………」

確かにノアは駄目な部分が多い。

橫柄な態度、やる気のない立ち居振る舞い、どれをとっても領主になんてとてもふさわしくない。

……だが、彼が來たことでこの領地は、更なる発展を遂げた。

リスタ達領民は、みな笑っている。

モンスターの脅威はきえた。

ボロボロだった街が再生したのは、ノアが連れてきた有能な人材がいたからこそ。

第七王子ノア。

その名前と悪いウワサはよく知っている。

初めてこの地に來ると知ったとき、セバスはこう思った。

自分が、領民を守らないと。

無能のせいで、これ以上領民達が苦しむのは見ていられないと。

……そう、セバスのなかにあるのは、する領民達に対する、守りたいという純粋な気持ちだ。

「……ノアを追い出したい気持ちに噓はない。だが……領民を傷つけるわけには……いかん」

と、そのときだった。

「おいセバス、何やってんの?」

「の、ノア様!?」

ノアは窓からってきていた。

「おまえまた仕事してるの? 好きだね仕事」

「うるさい! ……ノア様こそ、こんな時間までナニをなさっていたのです?」

「ちょっとアインの村の近くまで散歩」

……この領主は目を離すとすぐにサボる。

やはり、領主には相応しくない……。

「んで、川で泳いでたらよ、こんなやつ見つけてさ」

ひょいっ。

どさっ。

「なっ!? む、ムノーダ様!」

白目を剝いてムノーダが倒れている。

その手には……セバスが持っているのと、同じ瓶が握られていた。

「!? ど、毒瓶は、2本あったのか……」

すでに瓶の中はなかった。

おそらくはセバスと別れた後、ムノーダは一人でこっそりと、川に毒を混しようとしていたのだろう。

「川に毒混ぜてきやがってさ。ムカついたからボコってやった」

「ど、毒は……どうしたのです?」

「あ? 浄化したに決まってるだろ? ったく、迷千萬だぜ」

……それを聞いたセバスは、涙を流していた。

この男……ノアは。

領民に毒の魔の手がびないように、浄化の魔法を使って、守ったのだ。

領民達が病に苦しまないように。

「ど、どうしたんだよ……?」

「いえ……わしが、間違っておりました……」

セバスは背筋をただすと、直角に腰を曲げる。

「ノア様、今までの數々のご無禮、どうかお許しくださいませ!」

「お、おう……急にどうした?」

「わたくしは間違っておりました……この地に相応しい領主は、あなた様でございます……ノア様」

態度はどうあれ、領民の暮らしを向上し、そして何より……。

領民達を守るために、毒を浄化してみせた。

その姿は、この地を守り、治めるに相応しい……。

……しかし。

セバスは一つ勘違いをしていた。

それは、ノアが毒を浄化した理由だ。

単に彼は、川遊びをムノーダが邪魔してきたのが、ムカついただけ。

だから原因であるムノーダをボコったし、毒に汚染された川を魔法でなおした。

それは単なる腹いせと、それと自分が泳ぐ場所を綺麗にしただけ。

つまり別に領民のためなんて、これっぽっちも思ってなかったのである。

しかしセバス視點では、毒を混ぜ、領民を苦しめようとした悪人を、ノアが退治した。

そういう風に寫ったのである。

「ノア様、あなた様に忠誠を誓います。前とする領民達のために、骨砕、働く所存!」

「え!? ちょっ!? セバスさん!? 忠誠って……いやいやいいよ! 俺のこと嫌ってくれよ!」

「民を思い行するあなた様を、嫌うわけがございません!」

「はぁ!? ど、どうしたセバス!? 頭でも打ったのか!」

……ノアからすれば、セバスの改心はんでいなかった。

以前ならば。

ノアはこの地から離れたい。

セバスはノアをこの地から追い出したい。

ふたりの利害は合致していた。

だが前領主の悪行によって、セバスはノアを認めてしまったのだ。

「お気遣い謝いたします、ノア様。さすが、部下思いの最高の領主様であられます」

「やっぱおまえ頭打っただろ!? おい目を覚ませ! セバス! おまえだけが頼みだったのに! セバスぅううううう!」

……かくして、ノアに忠誠を誓う領民が、また増えてしまったのだった。

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