《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》30.駄馬兄、手柄を立てようと魔に挑んで失敗

第七王子ノアが大活躍をくりひろげる、一方その頃。

ノアの兄、第六王子ダーヴァは、お供を連れて王都郊外の森にいた。

「くそ! ノアのやつ……! おれより目立ちやがって! くそ!」

ダーヴァが腹を立てる理由、それは、ノアが各地で活躍しているからだ。

弟の偉業はカーター領の外にもとどろいている。

大災害を未然に防いだ、盜賊団に1人果敢に立ち向かった等……。

しかも最近、帝國の皇子の病気を治しただけでなく、帝國の懸案事項だった、ドラゴンを退治して見せたという。

ノアが活躍すればするほど、ダーヴァの怒りは増していった。

それにさらに気にくわないことに、ノアの評価があがるたびに、父である國王から弟を連れ戻せとウルサく言ってくるのである。

『ノアの方がダーヴァより優れていたか』

父が自分の居ないところで、そう言っていたのを、偶然ダーヴァは耳にした。

耐えきれなくなり、彼は武勲を立てようと、こうして森へやってきた次第だ。

「おれのほうがすごいんだ! それを証明してやるんだ!」

「だ、ダーヴァ様……本當に森へ行くのですか? 危ないですよ」

従者が心配そうにそう言ってくる。

ダーヴァは不機嫌そうににらみつけ、聲を荒らげる。

「うるさい! おれに命令するな! おれがやると言ったらやる!」

「しかし森の魔は非常に強いので……」

「……貴様、おれが剣聖のスキルを持っていると知って、そんな無禮な口をきいているのか?」

ダーヴァは従者に、殺意を向ける。

ガタガタ……と従者はを震わせた。

「貴様、今日限りでクビ。とっとと失せろ」

「そ、そんなぁ!」

従者は泣きながらダーヴァにすがりつく。

「……ひでえ」「……ただ心配して忠告しただけなのに」「……なんてやつだ」

ダーヴァはほかの護衛達にも、同じように怒りのまなざしを向ける。

「いま口を言ったやつらも全員クビだ! クビ、クビ、クビ!」

「「「なっ!? そ、そんな……!」」」

「黙れ! これは王子の決定だ! 逆らう奴らは首をはねるぞ!」

クビを宣告された護衛達は、青い顔をして、しかし肩を落としてきびすを返す。

殘りの護衛達はを震わせながら、ダーヴァの不興を買わないようにと、口を閉ざしてうつむく。

「ふんっ! 愚民どもが。おれは最強なんだ。だって剣聖なんだぞおれは? それなのに、どいつもこいつもノア、ノア、ノア! むかつくんだよ!」

ダーヴァは自分のスキルに絶対の自信を持っていた。

剣聖。それは最強剣士の稱號でもあり、最強の剣につけることのできるスキル。

この最強の力を持って生まれた自分こそが選ばれし偉大な存在である……と彼は固く信じていた。

あんな何も持たない無能の弟なんかより、自分の方が優れているのだと。

だからこそ、これから魔を倒し、それを証明してやる……と思ったのだ。

「待ってろ森の魔どもぉ! この剣聖が、貴様らを絶やしにしてやるからなぁ!」

「ひぎぃいいいいいいいい! お助けぇええええええええええ!」

30分後、ダーヴァは涙を流しながら森の中を必死に走っていた。

「はぁ! はぁ! く、クソ! き、聞いてないぞ! 森の魔が、こ、こんなに兇悪だなんてぇ……!」

彼が最初に遭遇したのは、白狼(ホワイト・ファング)というモンスターだった。

強さのランクで言えばD、中堅冒険者ならまず負けないような相手だ。

當然ダーヴァは調子に乗って白狼を1匹倒した。

しかし死に際に、仲間のモンスターを呼んだのだ。

白狼は群れをなし、襲ってきた。

1匹ならまだしも、殺意むき出しのモンスターの集団を前に、ダーヴァは完全に怯えてしまった。

結果、無様に逃走した次第だ。

「だ、ダーヴァ様!」「お待ちください!」

護衛達が息を切らしながら、ダーヴァの後についてくる。

どうにか白狼たちをまけた様子だった。

「お怪我はございませんか?」

ビキッ……!

ダーヴァは護衛の頬を毆り飛ばす。

「け、ケガだと!? こ、この剣聖が、最強の力を持つおれが、ケガなどするわけがないだろうが!」

倒れ臥す護衛に、ダーヴァは怒りのまなざしを向ける。

「貴様もクビだ! ほかの連中もだ!」

「だ、ダーヴァ様、いまはそんなことをしている余裕はありませぬ! 早く逃げないと!」

「黙れぇええええ! おれに指図するなぁああああ!」

しかし……。

「「「アオォオオオオオオン!」」」

「モンスターだ! くそっ、追いついてきやがった!」

「囲まれてるぞぉ!」

ダーヴァも護衛達も周囲を見渡す。

白い狼の群れが、自分たちをぐるりと一周するように囲んでいた。

「くそ……! くそぉ!」

かたかた……とダーヴァの手が震える。

自分の力は最強のはずなのだ。

……だが、どうしてが震えるのだ!?

力を持っていれば、こんなザコなんて怖くないと思った。

だがあの恐ろしい牙が、まなざしが、自分に向けられた瞬間……が震えてしまうのである。

「て、撤退だ! お、おい貴様らぁ! おれが逃げる囮となれぇ!」

「「「…………」」」

「所詮貴様らなんぞ平民の命、死んだところで大した価値は……へぶっ!」

護衛のひとりが無言で、ダーヴァの足を払う。

ほかの護衛はうなずくと、ダーヴァに手を向ける。

「【麻痺(パラライズ)】」

「がはっ! ま、まひの……スキル……だとぉ……」

護衛は冷ややかな視線を駄馬兄に向けて言う。

「そんなに囮がほしいなら、自分が囮になってろ」

「な……! て、てめえらぁ~……」

「「「「アォオオオオオン!」」」」

白狼はいっせいに、ダーヴァたちに襲いかかる。

護衛達は力を合わせてなんとかその場から逃走に功。

「ま、待って! 待ってくれ! お、おれをおいてかないでぇ!」

ダーヴァはただ一人取り殘され、けなく涙を流す。

だが護衛達は振り返らない。

白狼たちの興味は、けずに地面に転がっている(ダーヴァ)に向けられている。

「おれは第六王子だぞ! この國の寶だぞ! それを見捨てていいのか貴様らぁ!」

護衛の一人が立ち止まると、冷ややかに、こう言い放った。

「この國の寶は、第七王子のノア様だよ」

「……の、あ……?」

「ノア様も確かにちょっとアレな格してるけど、でも、あんたみたいに、自分が助かるために、他人の命を犠牲にするような、最低な振る舞いは絶対にしなかった」

そして、決定打となる一言を言う。

「あんたじゃ、ノア様の足下にも及ばないよ。この最低の無能王子が」

……無能王子。

それはノアにつけられた蔑稱だったはず。

「ち、ちがうんだぁ! ちがうんだよぉおおおお! お、おれは、おれはぁあああああああああ!」

無能じゃないと否定しようにも、今この狀況が何よりも、彼が使えない人間であることを語っていた。

強大な力を持ちながらも、低級モンスター程度に臆して、そして味方を平気で犠牲にしようとする。

まさに無能王子とは、ダーヴァのことであった。

「いやだぁああああ! 死にたくないぃいいいい! たすけてぇえええ! たすけてぇえええええええ!」

白狼がダーヴァの腕や足にかみつく。

彼の悲鳴が森の中に響き渡るのだった。

……その後、なんとか命からがら逃げ出すことには功した。

だがその頃には、ダーヴァはも心もボロボロになっていた。

「ち、がう……おれは……むのうじゃない……ちがうんだぁ……おれはぁ……」

夜の森。

巨木のっこの間にはさまって、ダーヴァは震えていた。

モンスターに見つからないように、を小さく丸めている。

「おれは……無能じゃないんだ……あいつが、ノアが……ノアのせいで……ノアが……」

と、そのときだった。

「おやおや、お困りですかぁ~?」

ふと、ダーヴァが見上げる。

そこにいたのは、黒いマントでをすっぽりと覆った、謎の人だ。

「だ、誰だ貴様ぁ!?」

「わたくしは、あなた様に素晴らしいご提案をしにきたものですよぉ」

「素晴らしい提案だと?」

「ええ。ええ、強くなりたい。そんなあなたに……これをプレゼントしようかと」

その手に握られていたのは、どす黒いった小瓶だ。

「これは大昔、【闇の大賢者ノアール】という、魔導を極めた最強の魔法使いが作った、【闇の超人薬】というものです」

「闇の大賢者ノアール? 超人薬……だと?」

「ええ。飲めばたちどころに闇のパワーがについて、最強の力が手にる……大賢者ノアール様が作った魔法薬のひとつですよぉ」

どう見ても怪しげな薬だ。

だが……。

「……それを飲めば、ノアをぎゃふんと言わせられるんだな?」

「ええ、もちろん。賢者さまのお墨付きです」

「…………」

一瞬の逡巡の後、ダーヴァは超人薬とやらを手に取る。

そして口にした瞬間……。

「うぉおおおおおおおお!」

彼のから闇の力が湧き上がる。

「すごいぞおお! この薬ぃいい! 大賢者ノアールぅううう! なんて素晴らしい薬を作ってくれたものだなぁああああ! どこのどいつか知らんが謝するぅううう!」

かくして大賢者ノアールの作った薬によってパワーアップしたダーヴァは、

復讐のために、カーター領に向かうのだった。

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