《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》36.領民、闇の教団と戦う覚悟を決める

第七王子が闇の教団を撃破してから、しばらく経ったある日のこと。

カーター領大會議室では、現在、首脳陣が集まって、會議が行われようとしていた。

集まっているのは、婚約者のサラディアス。

領民の代表としてリスタ。

外部勢力として魔王ヒルデガルド、勇者ユリアン。

さらに帝國から、ガルシア皇子とノアの姉メイシェン。

さらにノアの兄のダーヴァ。

商人のサブリーナ。

そのほか、ノアに関係の深い、重要人たちが、集結している。

彼らはみな深刻極まる表で、會議が始まるのを待っていた。

『なんすか、このヤバい奴らのオールスターズは……』

そんななかで、白貓のロウリィだけが、困していた。

「ノア様ご不在の中、座長はわたくし、サラことサラディアス=フォン=グラハムがつとめますわ」

バッ……! と領民達が頭を下げる。

『サラ様、ノア様抜きで、みんなで集まって、何を會議するんすか?』

サラはうなずいて、言う。

「闇の教団……ダークノワール・ブラックシュバルツ団の脅威に、どう対抗するか、という會議です」

『ブッ……!』

……言うまでもなく、ダークノワール・ブラックシュバルツ団とは。

前世のノアが、若かりし日に作った妄想日記、それを【福音書】と勘違いした一団が作った、闇の教団(笑)である。

だがその事実を知っているのは、この場においてはロウリィだけだ。

「ディーヴァ様、この闇の教団について、ご説明を」

騎士団長ディーヴァが、深刻な顔つきでうなずくと、立ち上がる。

一方でロウリィは『はわわ、やべーよこれ、またノア様抜きで、暴走するパターンっすよ!』と大慌てだ。

「先日、我々の領に、怪しげなビラを配る黒づくめの集団がいた! ビラは【ダークノワール・ブラックシュバルツ団】の、信者を集める旨の書かれたビラだ」

バンッ! とディーヴァが機の上に、先日のビラを提示する。

「これをごらんになったノア様は、相を変えて出て行かれた!」

「そんな! あのだいえいゆう、のあさまが!?」

ガルシア皇子が戦慄する。

彼らは、ノアの圧倒的な強さを知っている。

そんな強さを持つノアでさえ、脅威とじる相手。

「相手はそうとうヤバい敵ってことかよ……くそ! おれのするノアがピンチだってのに! 何もできなかった! くそっ!」

『駄馬兄さんもノア教に信して、すっかりブラコンの兄貴にジョブチェンジっすね……ちょっと引くわ……』

ダーヴァが心から悔しそうにしている様子を見て、ロウリィはドン引き。

だが魔神以外の人間達はみな、ダーヴァと同様に歯がみしていた。

『しまった異教徒(のあきょう)のなかじゃ、わたしのほうがむしろ異端者なんすね……こっわ』

サラは比較的冷靜さを保っている。

だがその表い。

「ディーヴァ様、ノア様は……闇の教団、ダークノワール・ブラックシュバルツ団に、ひとりで、立ち向かわれた……そうですね」

『サラ様、やめて、真面目な顔でそんなみょうちきりんな名前呼ばないで、シリアスかギャグかわかんねーっす』

「ああ……我らがノア様は、たったひとりで、あの強大な敵……ダークノワール・ブラックシュバルツ団のもとへ、お供をつけずに向かわれた」

『あんたらダークノワール・ブラックシュバルツ連呼しすぎっすよ! それ全部黒、黒、黒、黒って意味っすよ!? ちょっとは妙なネーミングって思わないんすか!?』

だがロウリィのびは、領民達の耳には屆かない。

そんなものはどうでもいいのだ。

問題は……。

「ノア様……ひとりでなんて、水くさいでござるよ!」

「くく……そうだ。相手は闇の軍勢……つまりは組織だ。個で立ち向かう相手ではない。我らを頼れば良いものを……」

勇者ユリアン、そして魔道士団長ライザが、やる気十分で言う。

ふたりとも、いや、この場に集まっている全員が、ノアのために死力を盡くす覚悟はできている。

だが……。

ディーヴァは悲痛な表で首を振る。

「ノア様は……このディーヴァに、こうおっしゃった。足手まといだと」

「「「そ、そんな!?」」」

『いやノア様はついてくるなって言っただけっすよ』

「そしてこうもおっしゃった……足を引っ張った結果、俺を殺す気かと」

「「「なんだって!?」」」

『いやたぶん黒歴史を領民の前で公開処刑されたら、はずかしくて死ぬって意味だと……』

魔王ヒルデが、だんっ! と機を強く叩く。

それだけで會議室の大きな機が消滅した。

魔王の持つ消滅の魔法である。

「わしらですら……足手まといレベル……なんと、なんという強大な敵を、ノア様は相手なさっているのじゃ!」

『やべえよ……敵がどんどん強大になってるっすよ……』

勇者、魔王、そして騎士団長、魔道士団長。

ここに集まっている四人は、この世界においてはトップクラスの強さを持つ。

そんな彼たちですら、足手まとい。

ノアでさえ、脅威とじる。

……結果、ロウリィが言ったとおり、ダークノワール・ブラックシュバルツ団の格が、もりもりと上がっていってしまった。

「う……うぐ……ぐすん……」

『さ、サブリーナちゃんくん、どうしたんすか、急に泣いて……?』

「わたし……悔しいです……ノア様の……役に立てないなんて……」

サブリーナはボロボロと涙を流す。

ロウリィは困する。

周りを見ると、領民達がみな、號泣していた。

『え、ええー……このひとら、ガチ泣きっすよ……こわ……』

中でもとりわけ……泣いていたのは、婚約者のサラだった。

「わたくしたち……みなノア様に恩義があるのに、ノア様がおひとりで、巨悪に立ち向かうなか……ただ、見てるだけしかできないなんて……あの人の妻、失格ですわ……」

『そんな泣かなくて良いっすよサラ様。ノア様が立ち向かってるの、巨悪じゃなくて自分の過去となんすから……』

すでにロウリィの冷靜な突っ込みはみなの耳に屆いていない。

彼らのなかでは、敬する領主が、領民たちを守るために、巨悪に立ったひとり立ち向かう……。

そんなノア英雄譚が絶賛上映中だった。

「皆さん! 泣いてるだけじゃ、駄目だと思います!」

「「「リスタさん……」」」

領民代表のリスタだけが、涙を堪えていた。

『やばいっすよこの流れは……ヤバい方へいくんじゃないっすか……?』

「わたしたちも、立ち向かいましょう! 闇の教団と! ノア様だけに戦わせるのではなく!」

『ああほらやっぱりー!』

リスタの提案に、しかし、みな不安げな表を浮かべる。

「ぼくたちで、たちむかえるでしょうか……」

ガルシア皇子が小さくつぶやく。

そう、ノアは強い、だが一方で……自分たちは弱い。

「ガルシア皇子。戦う前からあきらめてはなりません!」

リスタは強く、若き皇子を鼓舞する。

「立ち向かえるかどうか不安な気持ちはわかります。相手は我々の想像を絶する……巨悪。ですが! だからといって、ノア様を孤獨にしていいのですか!?」

「「「!?」」」

「ノア様は今必死になって、傷を癒し、次の戦いに備えております!」

『いや単に黒歴史を暴されて神的にショックけてるだけっすけど……』

ロウリィの言葉(しんじつ)になんて誰も耳を貸していない。

みなの目は……燃えていた。

そこにうかがえるのは、ノアへの、絶大な忠誠心。

「戦いましょう、みなさん! 立ち上がるときです!」

『こえぇ……完全にヤバい宗教の教祖さまっすよこの子……』

ノア教の一番の信者であるリスタは、みなをい立たせる。

たちの悪いことに、そこに悪意が一切ないということだ。

「戦いましょう!」

「「「応ッ!」」」

「戦いましょう!!!!!」

「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

會議室は、熱狂に包まれている。

彼らはかつてないほど、やる気に満ちていた。

「みなで一致団結し! 邪教徒を倒すのです!」

『いやあんたらもやってること邪教徒っすよ……!』

「人材を募り、兵を育て、武を、兵站を、集め……大戦に備えるのです!」

リスタの熱弁に、みなが拳を振り上げてぶ。

「やるぞ! やるぞぉ!」「闇の教団め! ぶち殺す!」「ノア様に仇なす敵は絶やしにしてやるぅうううう!」

『はわわ……邪教徒(のあきょう)と邪教徒(くろれきし)が……ぶつかり合おうとしてるっすぅ~……』

サラディアスは涙をふいて、リスタの手を取る。

「見事ですわ……リスタ様。ノア様への海より深い……わたくし、服いたしました」

「サラ様ほどではありません! わたしなんてまだまだです!」

『いやリスタがバリバリ最強ナンバーワンでやべーやつっすよ!』

がしっ、とサラとリスタがく握手する。

「ともにノア様をするとして、死力を盡くしましょう。力、貸してくださります?」

「よろこんで! われらカーターの民は、ノア様にも心もささげております! 死ねと言われれば死にましょう、死ぬ気で鍛えろと言われたら、腕がもげても鍛え続けます!」

『むしろこいつらのほうが邪教徒なんじゃねーっすかね!』

會議を行ったことで、その場にいた全員が、前を向いていた。

……ただし、明後日の方向を向いている。

ノアがまったくんでいない方向へと、事態がこうとしている。

「のあさまのため、ぼく、いちど、帝國にもどって、おとーさまにじょりょくを、ねがいでてきます!」

ガルシア皇子は皇帝の息子、つまり皇帝に力を借りようとしている。

「おれも王國に一度戻って、この世の至寶である弟ノアが、ピンチであることを父上に知らしてくる」

ダーヴァ第六王子は、國王の息子、つまり王國に力を借りようとしていた。

「われら銀商會も、全國に仲間を呼びかけてきます!」

サブリーナは全國に支店を持つ、商業ギルドのトップだ。

『や、やべえよ……ノア様のお遊びが、帝國、王國……全國に飛び火しようとしてるっす……! こ、これ止めないと!』

ロウリィは勢いよく會議室を出ると、ノアの寢室へと向かう。

ドンドンドンドン!

『ノア様ー! 起きてー! ノア様ぁ!』

『うるせえ! ロウリィ! 俺は引きこもってるの!』

『そんな暇ねーっすよ! 今、世界がヤバい狀態になりかけてるっす!』

『世界の危機なんて知ったことか! 俺はもうぜーーーーーたい外に出ないもんね!』

ロウリィの呼びかけに、ノアは応じなかった。

事の重大さをノアは理解していないのである。

今……ロウリィだけが、本當の意味で、狀況の危うさを理解していた。

ロウリィはその場にしゃがみ込んで、主人と同じセリフを言う……。

『ああもう! どうしてこうなるんすかぁあああああああ!』

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