《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》37.第七王子は本気を出す(1%)
ある日のこと。
俺は領主の館の、寢室で丸くなっていた。
「ああ、引きこもり生活最強……」
この頃には俺の心の傷は徐々に癒えていった。
忘れていた俺の過去、黒歴史。
それをダークノワール・ブラックシュバルツ団とか言う、バカみたいな奴らが2000年後の現代に復活させやがった。
忘れていた過去が復活したせいで、俺の心は深く傷ついた。
しかし何日も引きこもって、甘いものを食べていたら、心がなんとか回復した次第。
「心の安寧に甘いものと睡眠は大事ね。さて……そろそろくかー」
俺が寢室のドアを開ける。
ぐにゅっ。
『ぎゃんっ……!』
「おお、ロウリィ。なにやってるだそんな床で寢て」
『ノア様! やっと出てきた! なんでずっと無視したんすかー!』
ふしゃー! とロウリィがを逆立てて言う。
こいつ魔神だよね? 完全に挙が貓なんですがそれは……。まあいいや。
「だっておまえうるさいんだもん。発期の貓ですかこの野郎?」
『ちっげーよ! バカ王子! あ、あ、やめて、両足もって逆さ宙づりはやめて~』
「で、なに? なんかようなの?」
俺はロウリィを宙づりにした狀態で尋ねる。
「言っとくけど俺、傷心から立ち直ったばっかりだから、あまりショックの大きいことは言わないでしいんだよね」
『ごめん、それは無理っす』
「は? え、なに……また厄介ごと……?」
と、そのときだった。
「「「「ノア様!」」」」
「げぇ……! 四バカ四天王!」
『騎士団長(ディーヴァ)、魔道士団長(ライザ)、勇者(ユリアン)、魔王(ヒルデ)……カーター領の強い人そろい踏みっすね』
ここに右腕(リスタ)と左腕(サラ)が加われば、カーター領の特にヤバい奴ら筆頭となる。
「な、なんだよおまえら……?」
ざんっ、と四バカは跪いて、俺に言う。
「「「「準備は、整っております!」」」」
「は? 準備? なんの……?」
『ノア様、あれみてあれ』
ロウリィが窓枠に座り、尾で外を指す。
俺は外を見て……。
「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああ!」
領主の館の前には、武裝したカーター領の民たちがいた。
いや、え、え……えええ!?
「ど、どないなっとねんロウリィはん!?」
『誰がロウリィはんやねん。あんたが引きこもってる間に、領民たちは闇の教団との大戦に備えとったんやで』
「なんやてぇええええ!?」
領民たちは目が……ギラギラ輝いている。
やる気……否、殺る気に満ちあふれていた。
「なんで! そんな! 重要なこと……早く言わないんだよこのバカ貓ぉおお!」
俺はロウリィの尾を摑んでぐるんぐるんと振り回す。
『言ったっすよぉおおおおお! でもあんたでてこないしぃいいいい!』
ああ、俺が引きこもっている間に、事態がとんでもないことになってやがる!
ユリアンが一歩前に出て言う。
「ノア殿! 領民達は、我ら四天王が直々に訓練し、全員が凄まじい武力を手にれてるでござる!」
いらねええええ!
なにしてくれてんの四バカ四天王ぅうううう!
魔王が申し訳なさそうに言う。
「ノア殿よ。王國、帝國にも助力を願ったのじゃが、どちらの國も信じてくれなかったのじゃ、すまぬ……」
『いやそれが普通の反応っすよ。闇の教団信じてるの、うちの領地だけっすよ』
ほんとそれな!
しかし……とんでもねえ事態になっちまった。
闇の教団VSノア率いるカーター領民。
異常者同士による、かつてない規模の、大戦が始まろうとしている……。
『んで、どーすんすか、ノア様。この事態に……?』
「…………仕方ねえ」
俺はため息をつく。
「ほんとは、嫌でしょうがねえけど……出すか」
『出す? なにを?』
「し、本気出す」
おお……! と四バカどもが歓聲を上げる。
「ノア様が本気を出せば、闇の教団などいちころですなぁ!」
「くく……そこにパワーアップした我ら闇の軍勢が加われば、彼奴らなど一網打盡よ……」
『ライザさんひょっとして前世ノア様ととても波長あうんじゃ……あ、らめ、尾は敏だかららめー!』
俺はロウリィを放り投げて、マントを翻す。
「俺が先陣を切る。おまえたちは後からこい」
「「「ハッ……! お待ちしております!」」」
俺は窓から飛び降りると、飛行魔法を使って空へと昇る。
『的に何するんすか? 本気出すって言ってたっすけど……?』
ロウリィが白竜の姿でついてくる。
「世界を……改変する」
『せ、世界の改変!? い、いったいどんな大魔法を使うんすか?』
「ま、これ正直めっちゃ疲れるから、使いたくなかったんだけどね」
パンッ……! と俺は空中で柏手を打つ。
その瞬間、俺の足下に、極大の魔法陣が展開した。
『す、すげえ……こんな大魔法を、無詠唱で! それになんて魔力量……これが、ノア様の、本気……?』
「まあ全力全開じゃあねえがな。だいたい本気の1%くらい」
『1ぱーでこれとか……』
「普段なんてもっと手抜いてるぞ?」
『もうあんたが魔王で良いっすよ』
俺は……魔法を発させる。
魔法陣が強く輝くと……砕け散った。
破片が周囲に広がり……やがてそれは……。
『の……チョウチョ?』
青く輝く無數の蝶が、周囲に広がっていく。
「さ、いってこい」
★
第七王子ノアが、大魔法を発させた、一方その頃。
闇の教団ダークノワール・ブラックシュバルツ団の主要メンバー達が、集って會議を行っていた。
なにもない闇の空間に、13枚の大きな鏡が設置されている。
『我ら大幹部、【13使徒】……一人たりとも欠けずに揃ったこと、まずは嬉しく思う』
鏡の中には黒いマントをにつけた、13人の男がいた。
彼らはみな、闇の大賢者ノアール(前世のノア)の信奉者。
団の中でも、とりわけ信仰心の強い13人である。
『議題は先日あらわれたという、謎の魔法使いについてだ』
『13使徒がひとり、ツヴァイの腹心が、魔法使いのこの年にやられたという。真であるか?』
ツヴァイはうなずくと、魔法を発。
鏡に當時の映像が再生される。
黒髪にけだるげな表、そして赤いマントが特徴的。
『この男は近くのカーター領の領主……ノア・カーターという男らしい。やつは恐るべき力を発揮し……そして、信者たちの記憶を消去して見せた』
おお……! と13使徒たちは歓喜の表を浮かべる。
『そこまでの強い魔法の力……ま、まさか!』
『そうだ。ノア・カーター。彼こそが、2000年前に存在した、闇の大賢者ノアール様の生まれ変わりに違いない!』
大正解であった。
この世界において、ノアの前世を知っているのは現狀ロウリィだけだった。
しかしここで、最も頭のおかしな連中が、正解にたどり著くことができたのであった。
『これから我らがするべき事は、理解しているな……? 諸君!』
『『『ノア様をお迎えいたすこと!』』』
彼らにとってノアは、この教団があがめる神に等しい。
ノアールの復活、そして、そこから始まるのは、闇の勢力による躙活……。
『ただちにノア・カーターを見つけ出すのだ! 我ら闇の勢力が猛威を振るうときが來た! みなのもの、決起の刻だ! ……だ……だ……………………………………』
と、そのときだった。
ツヴァイと呼ばれた男が、急にうつろな目をしだしたのだ。
『ど、どうした、ツヴァイよ!』
『………………え? なにこれ、怖っ』
急に、ツヴァイが真面目な顔に戻った。
『え、なに? なんでみんな変なマント著てるの? きも……』
『『『どうした、ツヴァイ!?』』』
ツヴァイの豹変に戸う13使徒たち。
『ツヴァイってなんですか? 私はそんな名前ではありませんけど? なんなんですあなたたち?』
『きゅ、急におかしなことを言うな! 我ら13使徒は仲間ではないか!』
『……13使徒って、だっさ。意味分からないですよ……さよなら』
そう言って、ツヴァイは唐突に通信をきると、その場から立ち去っていった。
『どうなってるんだ……?』
そのとき、座長を務めていた男の前に、一羽の蝶が橫切る。
ぱぁっ……とはじけると、青いが彼を包み込む。
その瞬間……憑きものが、おちたような顔になる。
『うわ! なにこのマントださっ!』
『ひぃい! 部屋中なんか変な道であふれてる! きもちわるい!』
13使徒たちが次々と、につけていたマントをぎ捨てる。
『こ、これはまさか……【神干渉魔法】!?』
神干渉魔法とは、文字通り、相手の神に作用する、超高度な魔法のことだ。
相手の記憶を読み取ったり、あるいは、相手の記憶を改ざんしたり……。
『だ、だがあり得ない! 神に作用する魔法は恐ろしく高度で、この世界で使えるものは絶無……しかも大規模な神作魔法なんて、もはや伝説の中でしか存在しない……使えるのは……ま、まさか!』
そう、ひとり、いる。
彼らが知る中に、神干渉魔法の使い手が。
しかも……離れた場所にいる13使徒、全員の神に、同時に作用するほどの……
凄まじい規模の魔法を扱える人を、彼らは……知っている。
『闇の大賢者さま! どうして! 我らの記憶を消すのです!? どうして……どうしてぇええええ!?』
……だが、答えが還ってくるはずもない。
結局、13使徒、および世界中に隠れ潛んでいた闇の教団員たちは、ノアの魔法で全員、記憶を失うことになる。
……その様子を、遙か上空からロウリィとノアが見つめていた。
『世界を改変って、こういうことだったんすね』
白竜姿のロウリィが主人に言う。
「俺の魔法。【忘卻彼方ノ胡蝶(マインド・ボム)】これで世界中のみんなの記憶から、闇の大賢者のことは綺麗さっぱり忘れてるよ」
『え、それって……教団員だけじゃないく、文字通り全世界の人を対象ってことっすよね。す、すごすぎる……』
「ついでに俺のことを、領民たちの記憶から消しといた」
『んな!? なんでそんなことを……』
「ま、そのほうがいいだろ。俺と関わるってことは、余計なしがらみも増えるってことだしな」
ノアは前世に賢者、前々世に剣聖の過去を持つ。
彼によって倒された巨悪は數しれず。
今回は相手がお遊び集団だったからまだしも、倒された敵の中には、本當に恐ろしい存在もいるのだ。
彼らがノアの復活を知れば、被害がおよぶのは領民達。
「俺に関わらない方が、みんな幸せになれるよ」
『ノア様…………………………本音は?』
「これで嫌なことから解放された! 最初からめんどくさがらず記憶消しときゃよかったよ!」
『ああ、うん……あんたそーゆーひとっすよね……』
呆れたようにロウリィがため息をつく。
「さて、これでリスタ含めた領民達は、俺のこと綺麗さっぱり完全に、絶対に、間違いもなく、100%……忘れたわけだ」
『でも、わたしは憶えてるっすよ』
「バカヤロウ。おまえは俺の舎弟なの。死ぬまでついてこい白貓」
ロウリィは目を丸くする。
だが……ふっ、と微笑むと、1匹の小さな貓に戻り、ノアの頭の上にのっかる。
『んも~しかたねーっすなぁ。どこまでもついてくっすよ、たとえ、みんなが貴方を忘れても』
かくして、ノア・カーターという存在は、カーター領の誰の記憶からも消えた……
★
「「「さすがです、ノア様!」」」
「なんで憶えてるんじゃぁあああああああああ!?」
後日、俺が宿屋で休んでいると、リスタたち領民が、俺の部屋にやってきたのだ。
「闇の教団をお一人で倒してしまうなんて!」
「うむ! やはりノア様は超凄い領主さまなのだ!」
俺がここに居ることは、たぶんリスタのギフトでわかったとしても……。
え、なんで!?
なんでこいつら俺を憶えてるの!?
「ノア様、申し訳ございません」
「サラ……」
婚約者のサラが、泣きそうな顔で言う。
「わたくしのギフト、【完全記憶領主(ノアサマアイシテル)】が発現しましたの! これは、ノア様関連のことなら全てを記憶でき、永久に忘れることがないというギフトですの!!」
「『こえぇえええええええ!』」
俺とロウリィ、抱き合って震えるの図。
「人の記憶とは不思議なもので、ふとしたきっかけで、忘れていたものを思い出すことがありますの。わたくしの言葉を聞いたカーター領の皆さまは、ノア様の存在を思い出したのですわ!」
よっけいなことしやがって!
しかも……。
「ノア様……水くさいぞ! 闇の教団の脅威に震えずにすむようにと、おひとりで敵と戦い、その記憶を消して一人立ち去るなんて……!」
「なんて……なんて素晴らしい英雄なのでしょう!」
領民達、號泣の図。
『これまずいっすよ。ノア様、周りに迷をかけないよう、一人で強大な敵と戦い、みんなの平和を願って記憶を消し立ち去った……スーパーヒーローになってるっす』
「「「「大英雄ノア様、萬歳……!」」」」
「うわぁああ! こんなつもりじゃなかったのにぃいいいいい! どうしてこうなるんだよぉおおお!」
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