《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》40.悪魔、本の化け達に怯える(寢ぼけて)

第七王子ノアが、サイン會を終えたその日の深夜。

カーター領、領主の館にて。

大悪魔であるナベリウスは、裏庭で一人跪いていた。

『ソロモン様。ご報告がございます』

ナベリウスの眼前には1枚の大きな鏡が浮いている。

これはこの悪魔が影で作った魔法の鏡だ。

遠く離れた場所にいる、悪魔達の親玉を映し出す。

黒づくめの男が、椅子に悠然と腰を下ろしていた。

頭から黒い布をすっぽりかぶっているため、その表はうかがえない。

『……ナベリウスよ。なんだ、その犬みたいな姿は』

『こ、これには深いわけがございまして……』

ナベリウスは主であるソロモンに、詳細を語る。

『なるほど……ノア・カーター。悪魔すら従えるか。やはり……我らの邪魔になるな』

『ソロモン様。この後は、どうすればよいでしょう』

『うむ……ちょうど良い。貴様、ノアに近づいて隙をうかがえ。そして寢首をかくのだ』

確かに、契約したことで小間使いみたいなポジションになってしまったが、逆に都合が良い。

ターゲットに近いということだから。

『契約してしまった以上、ナベリウス、貴様はノアの言いなりとなるほかない。だが今は眠って意識がない。つまり命令はできない』

『なるほど……文字通り、寢ている間に始末すればいいだけですね。さすがソロモン様……』

にやり、とナベリウスは邪悪に笑う。

『ナベリウスよ。ノアを殺すのだ。よいな?』

『ハッ……! お任せあれ! このソロモン様の72の悪魔の1柱、ナベリウスが、必ずやヤツの息のを止めて見せましょう!』

『うむ。期待して居るぞ……』

鏡の中の映像が不鮮明となって消える。

ナベリウスはを解くと、鏡が泥のように崩れ去る。

ずず……とうごめく黒いそれは、ナベリウスの影だ。

そう、この悪魔は影を自在にる力を持つ。

『ノアめ。オレ様をこんな屈辱的な姿にしよって……! ただではすまないぞ!』

ずんずん、とナベリウスは夜の屋敷を闊歩する。

すると……。

「うむ! だれだ!」

『! しまった見つかったか!』

廊下を巡回していたのは、騎士ディーヴァだった。

たらり……とナベリウスは汗を流す。

悪魔にはわかった、このが、なかなかできるやつであると。

悪魔の気配にいち早く気づき、近づいてきたのだ。

じり……とナベリウスは構える。

「おや……」

すっ……とディーヴァが近づいてくる。

反撃だ! と思ったそのときだ。

「ノア様の子犬ではないか」

よいしょ、とディーヴァは黒い子犬姿のナベリウスを持ち上げる。

「お腹でも空いたのか? よしよし、では私が何かつくってあげよう!」

……脅威判定されていなかった。

むしろ、完全にノアの新しいペット扱いされていた。

『ち、ちが……! は、放せぇ!』

ジタバタと暴れるが、しかし謎のパワーで全くきが取れない。

「遠慮するな! さぁ! 私が朝食用に作ったご飯があるのだ! それを食べてくれ!」

ディーヴァは有無を言わさずナベリウスを廚房へと連れて行く。

臺所からは……紫の煙を発生させる、なぞのがおいてあった。

『お、おい貴様! なんだこれは!?』

「うむ! 私のの籠もった手料理だ!」

『料理!? これが!?』

鍋の中には、ヘドロとしか思えないっている。

匂いを嗅いでるだけで倒れそうになった。

「未來の旦那様であるノア様に、食べてもらおうと作ったカレーだ!」

『いやこんなの食えたもんじゃねえよ!』

「食えるぞ! ほら!」

ディーヴァは一口スプーンで掬って、ぱくり、と食べる。

「なっ!」

『ほ、ほんとだ……無事みたいだな』

「さぁ! お腹空いてるなら、たんとおたべなのだ!」

……正直さっさとノアを葬りたい。

だが腹が減っては戦はできぬと言う。

『本當にこれ食べて大丈夫なんだろうな?』

「心配ないぞ! 今まで何度も私は食べてきたが、へいちゃらだからな!」

『そうか……では、ぱく………………………………お゛■■■■(※自主規制)』

突如としてナベリウスは口から■■■■■■(※自主規制)を■■■■■■(※自主規制)した。

あまりの■■■■■■(※自主規制)は■■■■■■(※自主規制)の■■■■■■(※自主規制)して、■■■■■■(※自主規制)、■■■■■■(※自主規制)た。

「うむ? どうした、どうした子犬殿! おおぅ!」

……その日、ナベリウスは暗殺に失敗した。

4日後、ナベリウスはふらふらになりながら、ノアの寢室へとやってきた。

『なんだ……この屋敷……ヤバい奴らしかいないのか!』

ディーヴァによる毒攻撃をけたナベリウス。

その後、魔道士団長ライザ、魔王ヒルデ、勇者ユリアンと遭遇した。

そのたびに四バカ四天王と遭遇しては、酷い目にあった。

全てを記すと■■■■■■(※自主規制)だらけになるため割とする。

とにかく酷い目にあい続けたのだ。

『ノア・カーターめ! なんと恐ろしい部下を従えているのだ……! くそっ……!』

だが今夜は四バカ四天王に會うことなく、寢室に潛り込むことに功した。

『敵の懐にってしまえばこちらのもの! 見てろよノア・カーター!』

ナベリウスは寢室にしのびこみ、ベッドへと向かう。

「ううーん……やめて……こないで……リスタ……サラ……くるな、くるなぁ……!」

ノアが苦悶の表で眠っている。

この領主が怯えるほどの存在……。

よほどの大悪魔だろうか。

『りすた……さら……そんな悪魔いたかな?』

まあいい、とナベリウスは思い直す。

『とにかく寢ている今なら、殺れる!』

ナベリウスは尾をばす。

この悪魔のもまた、影でできていた。

尾の先がびて、1本の槍へと変化する。

『死ね……!』

と、そのときだ。

スッ……とノアが手を上げる。

そして人差し指を、ナベリウスに向けた。

『なっ!? バカな……! 寢てるはず……!』

「……です、びーむぅ」

その瞬間、ノアの指先から、真っ赤な閃がほとばしる。

必死になってをねじる。

線は屋敷の窓を貫き、カーター領の外へと飛んでいき……そして……。

ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!

『……なん、だ……あれは……』

カーター領の外に広がる、死の森……【奈落の森(アビス・ウッド)】。

広大な敷地を持つ森が……消し飛んでいた。

燃えているとかそういうのではない。

まるで、何かに空間ごとえぐり取られたかのような、大(クレーター)ができあがっている。

『あば……あばば……』

ぺたり、とナベリウスはへたり込む。

なんて恐ろしい攻撃だ。

『こ、こいつ……気づいて……お、オレ様……ころそうと……』

と、そのときである。

ぱっ……! と大が、なんと一瞬で元に戻ったのである。

『ふげぇええええええええ!? あ、あの大が、一瞬で治っただとぉお!?』

ノアのビームも恐ろしい威力だったが、なぞの力によって、その全てが元通りになった。

『こ、これもノアの魔法か……?』

『違うっすよ?』

剎那、背後に【死】を覚えた。

ナベリウスが見上げるそこにいたのは……真っ白な1匹の竜だ。

『あ、あ、あ……』

ナベリウスは、先ほどのノアのビームを見たとき以上の、恐怖の表を浮かべる。

『お、お、おまえ……まさか……【原初の七竜神(ピュア・カラーズ)】!?』

……ナベリウスはその白い竜を、知っている。

『【原初の七竜神(ピュア・カラーズ)】……ああ、懐かしい呼ばれかたっすね』

呼ばれたロウリィ本人は、さして興味なさそうにつぶやく。

『あ、あ、ありえない!? 神がこの世界を作ったとき、最初に生み出した7柱の最強の魔神! その1柱、【白のロウリィ】が、どうしてこんなところに!?』

『まあ……々あったんすよ』

ガタガタ……とナベリウスのが震える。

ノアの放った、破壊の魔法。

そして……今この場に、いるはずのない……最強の魔神の一柱。

原初の七竜神。

あれほどの大魔法の傷跡を、一瞬にして元に戻すほどの、人の理を超えた恐ろしい治癒魔法。

そんな規格外の力を持った魔神が……殺気を込めて、自分をにらんできている。

それだけで……息が苦しくなる。

『あんたが何もんか興味ねーっすけど……わたしの邪魔するな。いいな?』

『ひぎぃいいいいいいいいいい!』

ナベリウスは窓ガラスをぶち破って、外に逃げる。

『ヤバいヤバい! ノアやばい! 配下にヤバい奴らを加えて、さらにあいつ自もヤバい! うぎぃあぁあああああああ!』

……泣きびながら逃げていくナベリウス。

……さて、一人取り殘されたロウリィはというと。

『ったく、ガラス割るんじゃねーっすよ。風邪引いたらどーんするんすかね』

やれやれ、とため息をつきながら、割れた窓ガラスを治癒の力で戻す。

ぽんっ、とロウリィは白貓の姿へと戻る。

「うーん……ううーん……リスタぁ……くるなぁ……くるなぁうう……」

『まーた悪夢(リスタ)にうなされてるっす……そのたびに寢ぼけて、デスビーム打たれても困るんすけどね』

……そう、ノアは決して、ナベリウスの接近に気づいて攻撃したわけじゃない。

単に悪夢にうなされ、寢ぼけて攻撃しただけだ。

それをナベリウスは勘違いしただけである。

『毎晩治すわたしのにもなれっつーのまったく……』

ロウリィはノアの隣に、お座りする。

そして自分の前足を、ノアの手の上に乗っける。

するとノアはロウリィの手を握って、球をぷにぷにとる。

途端、彼の表が一転し、安らかに寢息を立て出す。

『やれやれ……困ったご主人っす。貓の球がないと、睡できないなんて……ふふっ』

ロウリィはノアの顔の前で、とぐろをまいて、座り込む。

『あぶねーあぶねー……こんなとこ、他人に見られたら、恥ずかしくて死ぬとこだったっす……さっきの犬は……まあ、いっか』

単にロウリィは、主人と一緒に添い寢する姿を、誰かに見られたくなかっただけ。

ナベリウスを追い払ったのは、ノアの命を奪うやからを、排除したわけではなかった。

ロウリィもまた目を閉じ、主人と供に、安らかな寢息を立てる。

……一方でナベリウスは半べそかいていた。

『ち、チクショウ……! ここは化けの巣窟だった……だが! オレ様はあきらめないぞ! ノア・カーター! それに、白のロウリィ! てめえら全員ぶっころしてやるからなぁ!』

ナベリウスは遠吠えをする。

だが足はがくがく震え、そしてチビってしまっている。

……その姿はまさに、負け犬そのものだったのだった。

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