《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》41.第七王子は婚約者とパーティに參加する(婚約破棄)

ある日のカーター領。執務室。

婚約者の公爵令嬢、サラディアスことサラが、1つの知らせを持ってきた。

「パーティだぁ?」

「はい。國王陛下の生誕記念パーティーですわ」

「いい年こいたおっさんの誕生日パーティーかよ! 行きたくねえ~……」

サラからもらった手紙には、王都で親父の誕生日パーティーが執り行われること。

そして、婚約者と一緒に參加することと書いてあった。くっそめんどうだな。

「めんどーい。なぁサラ、サボっちゃ駄目?」

「…………」

「サラ?」

「ハッ……! へ、あ、えっと……すみません、なんですか?」

サラはどこか上の空のようであった。

まあいいや。

「めんどくせー……いきたくねえ……ん? 待てよ……」

パーティ。

婚約者……くく、そうだ!

「サラ。パーティーには參加するぞ。おまえも準備しとけよ」

「へ? さ、參加……するの、ですか?」

「? ああ。どうした、なんか不都合でもあったか?」

「い、いいえっ! かしこまりましたわ」

ぺこり、とサラは頭を下げると部屋を出て行く。

一部始終を見ていた、白貓のロウリィが近づいてきて、機の上に乗る。

『サラ様、どうしたんすかね? なにか考え込んでたような……』

々悩みあるんだろ。若いんだしな」

『ノア様は悩みとかなさそう……あ、あ、らめ、お腹は敏だかららめー!』

ロウリィのお腹を手のひらでくすぐりつつ言う。

「しかし親父も面倒なパーティー開いてくれるよ、ったく」

『國王主催のパーティーじゃ、參加しないわけにはいかないっすよね』

「仮病で休んじゃおうかな」

『噓が見つかったらそれこそめんどーっすよ』

「だよな。てことで……今回はこれを使った無能ムーヴします」

『そんな3分料理教室みたいなノリで……まあいいっすけど。んで、今回は何するんすか?』

俺はロウリィに概要を説明する。

「パーティー會場でサラに婚約破棄しようかなって」

『ばかちーん!』

ぺちん、とロウリィが貓パンチを食らわせる。

ふにっ、ってなった、ふにって。

『あんたね! あんだけ盡くしてくれている、可い婚約者を、婚約破棄するとかどーゆー了見すか!?』

「いいじゃねーかよ。こんな駄目王子の婚約者より、もっとマシな男と結婚した方がサラも幸せだろう?」

『それは同意っすけども! ……ぬわぁあああああ!』

俺はロウリィの尾を摑んでぐるんぐるんと振り回す。

「俺はパーティー會場で、婚約者の公爵令嬢を理不盡に婚約破棄する。理由はそうだな……浮気とかにすりゃ印象悪いかな」

「めがまわるぅ~……。浮気ってどうするんすか? リスタでもつれてくんすか?」

「あいつと結婚するなら地獄の番犬と結婚した方がまだマシだ」

ふむ……確かに浮気相手は必要だな。

『んも~。しょうがないなぁ~』

ロウリィがチラチラ、と俺に目線を送ってくる。

『ほんとは~。ちょーめんどうで~やりたくないっすけどぉ~。でもぉ~。どーしてもっていうなら~。わたしが~……変して、浮気相手の役、やってあげても、いいっすよ?』

「え、あ、ごめん。なんだって?」

『にゃんでもにゃいよ、このアホ王子ぃいいいいいいいいいい!』

まあサブリーナ辺りを裝させて連れてけばいいか。

どうせその場限りの浮気相手だし。

「つーことで、今回の【お父様のお誕生日會で、バカ王子は婚約破棄、理由は浮気とかマジ?】作戦、決行だ!」

『けー! どうせわたしは、サブリーナちゃんくんみたいに、気ないっすよ、けー!』

「サラディアス=フォン=グラハム! 貴様との婚約を解消させてもらう……!」

王都、王の城。

ホールに響き渡るのは、俺の聲。

聲が反響しやすいように、風魔法で調節してある。ふっ……完璧。

親父の誕生日パーティが開かれている。

パーティ會場にて、サラは……目を丸くしていた。

「こ、婚約を……解消?」

ざわざわ……。

「ノア王子とグラハム公爵令嬢様が?」「いったいどうして……?」

ギャラリーの注目も集まってきているな。

「わるいなサラ。俺は真実のを見つけてしまったんだ。紹介しよう、サブリーナだ」

しずしず……とパーティドレスにを包んだ、商人のサブリーナ(男)が俺の隣にやってくる。

完全に見た目が、だが男だ。

サブリーナ以外は、どう見たって、こいつをと見間違うだろう。

「…………」

一方でサラは目を丸くしたまま、固まっている。

「そういうわけだ、サラ。さっさと実家にでも帰るんだな。爺さんが待ってるぜ」

「!? の、ノア様……【気づいて】らっしゃったのですか?」

「ああ、そうさ。おまえの心の中なんて、お見通しだ」

何に気づいてたのかさっぱりだが、まあ話しを合わせておこう。

「………………わかりました」

あら、隨分あっさり引き下がったな。

「わたくし、これで失禮いたします」

目に涙をためて、サラが立ち去っていく。

よしよし、これでパーティ會場で婚約者に婚約破棄した、バカ王子だと思ってくれるだろう。

……まあちょっと心が痛む。

向こうは何も知らずにいきなりだったからな。

「おいロウリィ。おまえ、サラんとこ行ってやれ」

肩の上に乗っていた白貓に、俺が言う。

『つーん』

「は? おまえ何キレてるの?」

『べつにぃ~』

「あ、そ。いいからサラんとこ行ってやれ」

『ふんだ』

ぴょん、と降りると、ロウリィはスタスタ歩き出す。

こちらを見て、んべーっ、と舌を出して、去って行った。

「ノア様、よろしかったのですか?」

サブリーナ(裝バージョン)が戸いながら聞いてくる。

ちらちら……とサラが去って行った方を心配げにみていた。

「いーんだよ。その方がサラは幸せさ」

こんな駄目王子のもとにいるよりもな、という意味で言った。

「……なるほど、やはり、ノア様は【お優しい】です」

優しい?

……まあ何がかは知らんが、くく……どうやら大功のようだ。

「ノア王子は堂々と浮気なさってたみたいですわよぉ」「んまぁ、なんて破廉恥な」「やはり無能王子ねぇ」

くくくく! ギャラリー達がきっちり勘違いしてる……!

よぉし、作戦功!

ノアちゃん初めて大勝利! やったね!

後日、カーター領にて。

「「さすがです、ノア様!」」

「ふぁ……!? さ、サラ!? それにサブリーナも……どうしたんだよ!?」

笑顔のサラたちが、俺の部屋にやってきた。

え、この間理不盡に婚約破棄したはずなのに、なんでこいつ笑顔なの?

「ノア様……ありがとうございます。おかげで病床の祖父のもとに、駆けつけることができました」

「は? おまえの爺さん、なんか病気してたの?」

サブリーナがうなずいて言う。

「先日から、サラ様のお祖父様、グラハム公爵は心臓の病で倒れ、もう長くないと醫者に言われていたのですよ」

マジで!?

あ、でもだから、最近ちょっと上の空だったのか……。

「ノア様に余計な心配をかけまいと黙っていたのですが……さすがノア様、わたくしごときの演技など、見抜いてしまわれていたのですね」

いや別に見抜いてなんていないし、初耳なんだけど……あ。

『ノア様パーティー會場で、心の中を見抜いてる~的なこと、言ってたっすよ?』

言ってましたねぇ……!

サラは涙ぐみながら言う。

「パーティーの日、祖父は危篤狀態でした。本當は祖父の元へ行きたい……でも、國王陛下の生誕祭をすっぽかすわけにも行きません……」

「そこで、ノア様はサラ様のために、あえて、婚約破棄したんですよね! サラ様が、お祖父様の元へ行けるように!」

いやいやいやいや!

別にそんなこと1ミリも考えてないし!

「しかも……ロウリィさんを派遣なさってくださった。見事な治癒魔法で、祖父を治してくださいました!」

「おいぃいいいい! 白貓てめぇええええええええ!」

俺はロウリィの両の頬をつまんで引っ張る。

『何してくれてるの!?』

『いや、だってノア様が言ったんじゃないっすか。サラ様についてけって。え、あれって、ついてって病気のお祖父さんを治せって意味っすよね?』

『ちっげーよドアホウ! 凹んでるようだったから、球でもらせて、癒してやれって意味だよ!』

『はぁ!? それならそーって初めから言ってくださいよ!』

ったく、使えねえ野良貓だなぁ!

ったようにサラが言う。

「ロウリィさんの魔法は、それはそれは見事な治癒魔法でしたわ。醫者がさじを投げた心臓の病を一瞬で治してしまわれて……」

『まああれくらいならちょちょいと治せますよ……えっへん! どうだノア様、褒めて~』

『褒めるかあほぉおおおおおおお!』

俺はロウリィの尾をつかんで、機の腳に結びつける。

「さすがノア様! 落ち込んでいる婚約者の心を見抜いて、病気のお祖父様のもとへ向かわせただけでなく、きちんと病気まで治してしまうなんて! すごいです!」

「あ、いや……違うんだよ……これは違うんだ……」

サラは熱っぽい視線を俺に送りながら、がばっ、と抱き、そのまま押し倒す。

そして熱的なキスの嵐を降らす。

「好き♡ 好き♡ 大好き♡ ノア様……♡ あなた様が大好き♡」

「あ、ちょ!? だ、だれか……へるぷ!」

『わたしら邪魔者みたいっすね』

「ですね、行きましょうか」

サブリーナはロウリィを連れて、部屋を出て行く。

ちょっと! 味方が! 味方が去って行く。

「たすけてー! ろりえもーん!」

『ノア太くん、ハメ外しすぎちゃダメっすよぉ、ハメるだけに』

「いやぁああああああん!」

……結局、俺とサラの婚約破棄は白紙になった。

そんで、世間では婚約者のためにあえて追放した王子ってことで、談として世の中に伝わる羽目となった(サブリーナのせいで)。

マジで、どうしてこうなるんだよ!

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