《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》42.悪魔、困する(全てに)

第七王子ノアが、婚約者との関係を修復してから、しばらく経ったある日のこと。

ノアの使い魔となってしまった大悪魔ナベリウスは、森の中で主と會話していた。

『ナベリウスよ。ノアを抹殺する手立ては整ったのか?』

『ハッ! もちろんでございます、ソロモン様!』

ナベリウス、黒い犬の姿をしているが、立派な悪魔である。

正面には影で作った鏡があり、その向こうには主であるフードの男が座っている。

ソロモン。悪魔を率いる、謎の人だ。

『して、ナベリウスよ。どのようにノアを殺す? 前回の暗殺は失敗に終わったのだろう?』

『寢込みを襲うのは、無理でした。ヤツが強いから……しかし! 強いのはノアただひとり!』

『くく……そうかナベリウスよ。領民を使った人質作戦だな?』

『その通りでございますソロモン様! やつは領主。領主とは領地に住むものたちを大事にするはず……つまり! 領民を人質に取れば、さしもノアも言うことを聞くことでしょう!』

……ナベリウスもソロモンも、一つ大きな誤解をしている。

だが、それをただすものはこの場にはいない。

『オレ様の影で作ったモンスターを使い、領地の各地にばらまきました。ご覧ください』

ナベリウスの前に、別の影の鏡が出現する。

5メートルは超えるだろう、影の巨人たちが、カーター領の奈落の森(アビス・ウッド)をうろついていた。

ノアに敵対する、魔族の殘黨どもが、影の巨人にれた瞬間に飲まれていった。

それどころか、森の木々も、影がれている部分は全て飲み込まれていく。

れたものを必ず影の沼に沈める力。それを持つ影の巨人は、無敵の軍勢でございます!』

『くく……なるほど。影の巨人の軍勢を使って領地を制圧、領民達を人質に、ノアの首を取る作戦なのだな』

『そのとおり! あの影の巨人を倒せるとしたら、ノアただ一人! 領民達では絶対に倒せない!』

……ナベリウスもソロモンも、一つ大きな誤解を(以下略)。

だが、それを(以下略)。

『ではナベリウスよ。手はず通りにな』

『ははー! 吉報をお待ちください!』

影の鏡が消える。

ナベリウスは邪悪に笑う。

『ノアぁ……! 今日こそ貴様の最後だぁ……! ぐわははははぁ!』

悠々とナベリウスは歩いて行き、ノアの屋敷へと戻る。

領主の部屋へとやってきた。

「…………」

ノアは、窓際に立っていた。

彼は大魔法使い、おそらくは影の巨人軍に気づいたのだろう。

『おやおやどうしたのですかぁ、ノアさまぁ?』

白々しく、ナベリウスは尋ねる。

「……どうやら領地が攻撃されているらしい」

やはりノアは襲撃に気づいている様子。

彼の肩が、震えている。

怒りか、悲しみか。

「……領地を完全に占拠された。このままでは……やつらの手に領民達が落ちるだろう」

ぎゅっ、とノアの拳が握りしめられる。

「……ロウリィ。今から俺が行って、何かできること、あるかい?」

機の上で座っている白貓ロウリィが、ふるふると首を振る。

『ないっすね』

……さしも原初の七竜神(ピュア・カラーズ)の一人、白のロウリィであっても、完全占拠された影の巨人たちにはかなうまい。

いや、真正面から戦ったら負けるかも知れないが、もう占拠が完了している。

向かっている途中で、殺される。

つまり……チェック・メイト。

ナベリウスの完全勝利なのだ。

「……そうか。………………」

落ち込むノアを見て、ナベリウスは……

「『わーーーーはっはっはっはぁ! ざまぁみろぉおおおお!』」

……否、ナベリウスとノアが、全く同じことを言ったのだ。

『ふぁ……!?』

當然、ナベリウスは困する。

いや、おかしい。

勝利を確信したナベリウスが言うならわかる。

煮え湯を飲まされたノアが敗北するのだから、勝ち誇るのはわかる。

ではなぜ……どうして、ノアは笑っているのか。

「よぉっしゃあ! ラッキー! くぅ……! これでカーター領はお仕舞いDeath★」

……なんだ!?

なんだこの異様な喜びようは!?

バカな、あり得ない。

領民を人質に取られ、なぜこの領主は平然……いや、喜んでいる!?

『り、理解できない……理解しなければ……!』

ナベリウスは必死になって頭を回転させ、ノアの行を理解しようとする。

『脳みその無駄使いっすよナベちゃん』

いつの間にか移してきた白貓が、尾でポンポンと叩いてくる。

「ふはははぁ! おいおい見たかロウリィ! あの大量の化けどもをよぉ!」

『あー、はいはい見ましたよ』

「くく……では今回は、アレを使った無能ムーヴをしようじゃあないか」

無能ムーヴってなんだ!?

ナベリウスは思わずびそうになる。

聞いたことのない単語だった。

『あー……またっすかぁ。もーノア様も好きねぇ~』

『一般常識だと!?』

ロウリィも、無能ムーヴとやらを理解しているようだった。

この場において、知らないのは……ナベリウスただ一人。

(なんだ、無能ムーヴって!? オレ様だけが知らない、暗號かなにかなのか!? くそっ! なんだ、ナニをするつもりだノア・カーター!)

この場においてノアを理解していないのは、ナベリウスだけだった。

……言うまでもなく、ノアは別に領主をやりたくてやっているわけではない。

ノアにとって領民とは、厄介な邪魔者。

別に人質に取られようが関係ないのだ。

「今回はそうだな……【謎の軍団に領地を占拠された! そのとき領主は我がかわいさに、領地捨てて一人逃げる。さいてー領主様】作戦だ!」

『最低だ! 見そこなったぞノア・カーター!』

『いやあんたがツッコむんすかナベちゃん……』

「俺はあえて何もせん! ここで……待つ!」

理由はわからないが、どうやらノア・カーターが自分一人だけ逃げようとしているらしいことがわかった。

これでは人質作戦が効かない……どうしようと頭を悩ませていた、そのときだ。

「「「「さすがです、ノア様……!」」」」

「ふぁ……!?」

部屋に、4人の達がってきたのだ。

『お、おまえらはこの間の、四天王!?』

ナベリウスの前にいるのは、騎士団長ディーヴァを初めとした、カーター領で最も強い力を持つ4人だ。

魔道士団長、勇者、魔王、そして騎士団長。

これらをまとめて……。

「何しに來たんだ四バカ四天王!」

『いつも思うけど四バカ四天王って、四と四がかぶってるっすよノア様?』

ロウリィの突っ込みを無視して、ノアが言う。

「領地が影の軍勢に襲われてる中、なにこんなところで油を売っている! さっさと倒してこい!」

『いや、おまえが言うなよノア・カーター!』

『あんたが言うなっすよナベちゃん。意外と常識人っすねあんた』

しかし四バカ四天王は、どこか誇らしげだ。

その中の一人、騎士団長ディーヴァが言う。

「ノア様! 影の軍勢は、たったいま、全滅しました!」

「『な、なにぃいいいいいいいいい!』」

ノア、そしてナベリウスが、全く同じタイミングで驚く。

ロウリィはその様子を冷ややかに見ていた。

「ば、バカ言うな。あんなデカい、しかもなんかヤバそうな敵を、領民達が倒せるわないだろ!」

『ノア様、さっきからあんたのセリフ、やられてる敵側のセリフっすよ?』

ライザがかっこつけながら言う。

「ふっ……我が眷屬ノアよ。忘れたか。領民達はわれら四天王の力によって、パワーアップしているということを……」

「拙者達が指導した結果、魔法も剣も大幅に上達してるのでござる!」

「それにノアの眷屬となったことで、みなが恩恵(ギフト)をもっておるからな。あの程度では、死なぬよ……」

四バカは誇らしげにを張る。

一方でノアは愕然とした表を浮かべる。

「『あり得ない……化けか?』」

『ナベちゃんとノア様の脅威のシンクロ率パねえっす』

ディーヴァは涙を流しながら拍手する。

「見事ですぞノア様! あなた様は信じていたのですよね! 領民達の強さを!」

「あ、えっと……」

「くく……さすが我が眷屬よ。時に先陣を切って萬難を排除し、時に部下を信じて、吉報を待つ……リーダーに相応しい素質」

「そのあの……ち、ちが……」

「そうじゃよな。ノア殿ほどのお方が、領地の異変に気づかないわけがない。こんなところで油を売ってるわけがない」

「つまりここに居るということは、我らと領民達を信じて待っていたということでござるなぁ!」

「「「「さすがです、ノア様!」」」」

「どうしてこうなるんだぁああ!」

ぶ領主、目を輝かす部下達。

……異様な景だった。

領民達が、影の軍勢を倒してしまったことにも驚かされた。

だがそれ以上に……なんだ、この景は。

『ノアは領民を見捨てようとしたのに……なぜこいつら、良い方に勝手に勘違いしてるのだ!?』

『そーゆー頭のオカシイ人たちの、集まりなんすよ』

ぽんぽん、とロウリィが尾で、ナベリウスの肩を叩く。

『駄目だ理解できない……理解できないぃいいいいいいい!』

おおよそれがたい現実の連続に、ナベリウスの脳はパンク寸前だった。

頭を抱えた狀態で地面にゴロゴロと転がり、もだえする。

ロウリィはその様子を見て、呆れたように吐息をつく。

『あんま深く考えちゃ駄目っすよ。まともに考えるだけアホっす。もっと肩の力を抜いて、バカになんねーと、もたないっすよ?』

『うがぁああああああ! くそぉおおおおおおお! ノア・カーターめぇえええええええ!』

がばっ、とナベリウスは立ち上がる。

『高度な神攻撃をしかけてきよって! これで勝ったと思うなよぉおおおおお!』

ナベリウスはまたも負け犬の遠吠えをすると、部屋から出て行く。

ただ一人、ロウリィだけが狀況を理解していた。

『あの悪魔、バカそーだしほっとくか。ま、いざとなったらわたしがフォローすればいいでしょ。……やれやれ、手の掛かるご主人っす』

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