《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》51.第七王子は遭難した皇子を懸命に勵ます(キャンプ)

ある日の事。

俺は馬車に乗って、帝國に向かっていた。

「ノアさま! ありがとうございます! きてくださって!」

馬車の正面には、ガルシア皇子が座っている。

彼は皇帝の息子。

しかも、俺の姉上(メイシェン)の結婚相手だ。

なぜ彼と一緒の馬車に乗って、帝國に向かっているのか?

それは、皇帝陛下から招集されたからだ。

なんでも今度ガルシア皇子の誕生日パーティを開くから、ぜひ來てほしいとのこと。

本當はめんどくさくてめんどくさくて仕方ないのだが……子どもの純粋なまなざしには勝てなかった。

「ありがとう、ノア。殿下もとても喜んでますわ」

「いいってこった、メイシェン姉上。俺も堂々と領主の仕事さぼれるし、好都合でもあったよ」

ガルシア皇子の隣には、姉上が座っている。

皇子の膝の上には、白貓のロウリィがお座りしていた。

『なんだかんだ言って子供にやさしいノア様、わたし好きっすよ?』

「や、やめろよぉ、子どもが見てるじゃないかぁ。ロウリィも、あきれつつもなんだかんだついてくるとこ、結構好きだぜ?」

『ば、ばかぁ~。んもぉ~子供が見てるじゃないっすかぁ。照れるっすぅ~』

と、そんなふうにばかやっていたその時だ。

「あ」

『あ? ってなんすか?』

「ロウリィ、ジャンプしないと死ぬぞ?」

『ふぁ!?』

俺はガルシア皇子とメイシェン姉上の首っこをつかんで、窓から飛び降りる。

「ノアさま、なにを!?」

「!? 馬車が……きゃぁあああああ!」

狀況を説明しよう。

帝國に向かって、山道を走っていた馬車が、がけから落ちてしまったのだ。

たぶんカーブを曲がり切れなかったのだろうな。

荷臺部分だけが、がけ下に落ちていっている。

馬と者は崖上にあった。

とまあ、がけから落ちつつ、俺はそんな風に狀況を確認。

素早く著地。

もちろんガルシア皇子と姉上は無事だ。

『ぎゃあああああああ! 死ぬぅううううううう!』

ロウリィは顔面から激突……する前に、風の塊(クッション)を地面に置いておいた。

ばうん、と跳ね返り、ロウリィは顔から地面に落ちた。

『ふぎゃっ、! いったいすぅ~……』

直撃してたら死んでたが、風のクッションのおかげでたいしたケガなさそうだ。

『ノア様……その、ありがとっす』

もじもじ、とロウリィが顔を赤らめながら、をよじる。

な、なんか改めてお禮言われると、き、気恥ずかしくなるな。

「べ、別にあんたのために助けたんじゃないんだからね! 勘違いしないでよね! ふん!」

『え、きっしょ……ふぎゃああ! 雑巾絞りやめてぇえええええええ!』

さて……狀況を整理しよう。

俺、皇子、姉上、そしてロウリィの三人は、がけから転落した。

俺のおかげで誰もケガしていない。だが……。

俺は落ちてきた崖を見上げる。

かなりの高さがあった。

よじ登っていくのは不可能だろうな。

周囲を見渡す。

森が広がっているな。だが助かるためにはこの崖を上る必要がある。

『まあ、ノア様は魔法で登れるし、余裕っすよね』

俺は笑顔でうなずいて、言う。

「大変だガルシア皇子! 俺たち、遭難しちまったみたいだぜ!」

ロウリィも、そしてガルシア皇子たちも目を剝く。

『ちょ、あんた何言ってるんすか? 魔法で飛べる……もがもが』

俺は白貓の口をふさいで言う。

「すまねえ皇子。普段なら飛行魔法が使えるんだが、あいにくさっきの墜落からを守るときに魔力を全部使っちまって、しばらく魔法は使えないんだ」

『もが……噓つけ』

うん、噓である。

ほんとは無盡蔵の魔力があるし、なんだったら大気中から無限に魔力を生できる。

『ならなんで……あ、ま、まさかあんた……』

思念でロウリィが語り掛けてくる。

『くくく、さすがろりえもん。気づいたようだな?』

『あ、あんたこの狀況下で……無能ムーヴしようとしてるんすか?』

『ロウリィ、100點』

『いやノア様……狀況分かってる? 急事態なんすよ!? 遭難しかけてるのに、無能ムーヴなんてどうしてするんすか!?』

『ばっか。こういうときだからこそだよ。いいか、今回の作戦はずばり【ノア様って魔法が使えないと非常時には全く役に立ちませんね】作戦だ!』

つまり、この狀況下、俺は魔法を使っての出等はしない。

皇子と一緒に救助を待つ。

『救助を待つしかない無力な俺を見て、ガルシア皇子はさぞ落膽するだろう……くく! 今回は何もしなくても評判が落ちる! なんて楽な作戦なんだ!』

『ノア様の作戦って、基本上手くいったためしないのに、どうしてそんな自信満々なの……もぎゃー!』

ロウリィのしっぽをチョウチョ結びする。

さぁ、レッツ★遭難!

俺たちはがけ下で絶賛遭難中。

「ふぐ……ぐす、うぇええええええん!」

ガルシア皇子は大泣きし出す。

そりゃまあ、この狀況が不安なんだろうな。

姉上はガルシア皇子を抱きしめて、よしよしと背中をでている。

だが姉上もまた不安そうにしていた。

「ノア、なんとかできないのですか? あなたなら……」

「期待されてるとこもーしわけないけど、魔力がない以上魔法は使えない。助けを待つほかないな」

姉上は肩を落としてがっかりする。

くく、いいぞぉ。俺の評価がガンガン落ちてる音がするぜぇ。

『……ノア様、やっぱかわいそうっすよ。わたし、竜になってお二人を崖上まで運ぶっス』

ロウリィが、泣いてるガルシア皇子を見て、申し訳なさそうにそういう。

ちっ! 一人だけいい子ちゃんぶりやがって!

『やめとけ。竜化したら散する呪い掛けておいたからな』

『鬼! 悪魔! 無能王子!』

『ふははは! 罵倒が心地よい!』

まあ呪いなんて噓なんだけどね。

殺すわけないじゃん。

俺のウソにころっと騙されよって。

所詮は貓よ。くくく……。

「この先、わたくしたちどうなるのでしょう。まもなく夜になりますし、食事だって……」

ここから人里までは結構かかる。

者が無事だったとしても、救助が來るまでに數日は覚悟しないといけないだろう。

その間、食べも飲みも、ここにはない狀況だ。

「姉上。俺、森にいってきますね」

「の、ノア! どこへいかれるのです?」

「ちょっとお花を摘みに」

俺はメイシェン姉上とガルシア皇子を殘して、森へと向かう。

『ノア様ぁ、どこいくんすか?』

「腹減ったし飯」

『め、飯ってなにを……』

と、そのときである。

「ブギィイイイイイイイイイ!」

森の奧から、巨大なイノシシが出現した。

『こ、こいつ魔っすよ! そうかここは魔のテリトリーなんだ! こちらに突進してくる……! ノア様、どうするんすか!?』

「てい」

びたーん!

「よし、ゲット。え、なんだって?」

倒れ伏すイノシシから、ロウリィに目をやる。

『あ、あの猛烈なスピードで突っ込んできた、巨大なイノシシを、びんたで即死させたなんて……』

「はぁ? あんなの遅いだろ。蚊が止まるかと思ったわ」

剣聖時代は、もっと早い魔と戦ったことがあるからな。

「ロウリィ、夕飯なにがいい? カレー?」

『いやあの……え、なんでそんな落ち著いてるんすか? 遭難してるんすよわたしら?』

「待ってりゃ助け來るんだから、焦ることないだろ。ほら、さっさといくぞ」

『い、いくって?』

「夕飯の材料をとりにだよ。やっぱキャンプはカレーだな」

『いやキャンプって……この死どーすんすか?』

俺はイノシシの死を亜空間に収納する。

「よし」

『いやよしじゃねえよ! なにしたんすか今の!?』

「え、手刀で空間を切り裂き、その裂け目にイノシシを収納しただけだぞ? こんなの必須技能だよな?」

亜空間切斷。剣聖時代に付けた技だ。

俺レベルの剣士になると、たとえ素手でも、なんでも切ることのできる。

空間すらも切れるのである。

亜空間では時間が止まっているので、の鮮度を保ったまま収納が可能となる。

『忘れてた……この人たとえ魔法が使えなくても、ちょー有能なんだった……』

「ぐずぐずすんなよー。もうすぐ日が暮れる、その前に々準備しとかねーとな」

その後、俺はあちこち回って、キャンプの準備を整える。

ややあって、日暮前に、俺はガルシア皇子たちのもとへ戻った。

「ノア? 何をしてたのですか?」

「飯と寢床の準備」

「「は……?」」

皇子も、姉上も、目をむいていた。

俺は二人を案する。

「「な、なにこれぇえええええええ!?」」

森の中に、ログハウスが立っている。

「ぼさっと立ってないで中れよ。寒いだろ?」

俺はガルシア皇子たちを、ログハウスのなかに招きれる。

「どういうこと……? ソファもテーブルも完備されてる……こんな小屋が、都合よく森の中にあるなんて」

「え、何言ってるの? 俺が作ったんだぞ」

「「作ったぁああああああああ!?」」

え、なに驚いてるんだろう……?

「木材がそこらに腐るほどあったからな。手刀で木材を切って整えて、いっちょあがりって寸法よ」

呆然とする姉上。

「めいしぇん! べっど! べっどがあるよぉ! シャワーも!」

「ベッド!? シャワー!? どうなってるのです!?」

「え、ベッドは木材や絹を出すモンスターをボコって素材集めて作ったし、シャワーは溫泉を掘り當てて作っただけだが?」

「「…………」」

姉上たちがなんか固まってる。

どうしたんだろう?

『ノア様ってなんで無駄にサバイバル技高いんすか?』

「剣聖やってたころは、遠征なんてしょっちゅうだったからな。自然と鍛えられた」

『……ちなみに、ベッドとかってなんで作ったの?』

「ばかやろう、俺が野宿なんてしたくないからだよ。夜の森は寒いんだぜ? 俺が風邪ひいたらどーすんの?」

『自分のためなんすね……』

當然。飯を作るのだって俺が腹減ったからだ。

俺はキッチンに向かい、鍋を空ける。

「! いいにおいがするー!」

ガルシア皇子が俺の元へやってくる。

鍋には俺がさっきちょちょいと作ったカレーがっていた。

「おいしそー!」

「すぐついでやるから、おとなしく座ってな」

じー……とガルシアが俺を見上げてくる。

「のあさま、りょーりもできるんですね……すごいなぁ」

皇子がうつむいて、ぽつりとつぶやく。

「ぼく、なんにも……できないや」

気落ちする皇子の頭を、俺はチョップする。

「馬鹿野郎。何もできないことを、恥ずかしがるんじゃねえ」

「のあさま……」

「できないことがあって何が悪いんだ。俺たちはゴーレムじゃねえんだしな。不得手はむしろあって當然。恥じる必要なんてねえ」

「…………」

ガルシアがなぜかうつむいて、また泣き出してしまった。

よくわからないが……くく! 子供をなかしたことで、また評判が落ちた気がする!

『ノア様の株がバク上がりしてるんすけどね……』

ロウリィがため息をつきながら言う。

カブ? カブなんか食べたいのかこいつ?

『ちなみに、さっきなんで皇子を勵ましたんすか、珍しい』

「あん? 勵ましてなんかねえよ。なにもできないことが恥ずかしいなんて言われたら、無能の代名詞である俺の存在全否定じゃねえか。」

『ああうん、あんたそーゆー人っすよね……』

その後、俺たちは飯を食って一泊。

翌日には救助隊がやってきて、見事俺たちは救出された。

くくく、今回こそは、俺の評判が落ちただろうな。

なにせ、救助をただ待つだけしかできなかったんだし。

勝った! 第四章……完!

「さすがだな、ノア殿。見事なり」

「ふぁ……!?」

俺がいるのは、皇帝陛下の謁見の間。

ガルシア皇子の父、つまりこの國の皇帝が、深々とうなずいていた。

「い、いやあの……どうしたんです?」

救助された後、俺は帝都でのほほーんと惰眠をむさぼっていた。

そしたら急に、皇帝のもとへ呼び出されたのである。

「ノア殿は、次期皇帝であるガルシアの命を救ってくれたのだ。誠に謝いたす」

「い、命だぁ!? いやいや、俺なんにもしてないっすよ! 救助部隊が來るまで、震えて待ってたし!」

「謙遜するな。死霊山(デッド・マウンテン)で遭難し、生きて帰ってこれたのは、ノア殿がいたからこそだ」

「死霊山……?」

「恐るべき魔がうろつく高レベルのフィールドダンジョンだ。Sランク冒険者ですら、ソロでは生きて帰れない。裝備もなしにったら最後、死ぬしかないとされる恐ろしい場所なのだ」

え、あそこってそんなヤバい場所だったの?

ただの山じゃなかったのか!

「ガルシアはこう言っていた。もうだめかと心がおれかけているなか、絶することなく、生きるために奔走し、そして力強い言葉で勵ましてくれたと……すばらしい!」

「あ、いや……ただキャンプしてただけなんだけど……」

「ガルシアは貴殿の姿を見てしたのだ。そして、自分の無力さを改善すべく、今迄以上に訓練に勵むようになった」

皇帝は立ち上がって、俺の前で深々と、頭を下げる。

「皇子が死ぬかもしれないという帝國未曽有の危機を回避しただけでなく、我が息子に長を促してくださった! ノア殿、あなた様は帝國の救世主だ!」

ああ、目が、目が完全に……信者(あっちがわ)になってるぅ!

『おめでとう、ノア様。皇帝もぶじ、ノア教に見事ご信っす』

「うわぁああああああん! どうしてこうなるんだよぉおおおおお!」

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