《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》55.第七王子は闇の組織を敗する
ある日のこと、帝國にて。
俺は帝城にある、大浴場にいた。
「いやぁー楽だわぁ~。ほんと楽だわ~」
ジャグジーという、泡風呂に浸かる俺。
晝間から風呂……なんて贅沢なのだろう。
『ノア様~。このジャグジー最高っすねー』
「だなぁ。うちにも導したいくらいだぜ」
俺と白貓ロウリィは、ジャグジーに浸かりながら、まったりしている。
トロピカルドリンクを片手に、ちゅーちゅーと吸う。
『ノア様、自分にも一口一口~』
「ったく、しょうがねえなぁ」
もう1本ストローを取り出し、俺とロウリィはジュースを啜る。
『熱い風呂に、冷たいジュース。さいこーっすね!』
「ああ、この世の天國だ……なにせ厄介な狂信者(リスタ)も四バカ四天王もいない……最高だ」
その様子を、離れたところから、じとーっと見ている黒犬ナベリウス。
『みんなが働いているってのに、良いご分だなノア様』
『ナベちゃん風呂らないの? きもちーっすよ』
『おまえ……生學上はだろうに、よく男といっしょに風呂れるよな。恥ずかしくないのか?』
するときょとん、とロウリィが首をかしげる。
『え、ノア様とは出會ってから今日まで、ほぼ毎日、一緒に風呂ってるっすよ?』
「ああ。今更恥ずかしがるなんてしないよな?」
「『ねー』」
『年夫婦かおまえらは……』
はぁ、とナベリウスがため息をつく。
『しかしノア様よ、いいのか、いつまでもこんなところで油売ってて』
「いーのいーの。俺はこのポジションが一番おいしい」
『今や皇帝のお悩み相談係っすからね、ノア様』
ロウリィがトロピカルドリンクの添えパインを、尾でつまんで、俺に向けてくる。
もぐもぐ、うめえ。
「領主として働かなくて良い、てきとーに相談に乗ってるだけで、帝城で優雅な暮らしができる。さいこーだね」
『殘された領民達はどうするんだよ?』
「領主代行のサラが上手くやるだろ。はー、いつまでもこの幸せが続けば良いのに~」
『ノア様ー、それフラグっすよー』
と、そのときだった。
『ノア様、客人がお前の部屋に來ている』
「おっと、皇帝陛下が何か問題を持ってきたな」
ざばっ、と俺は浴室から出る。
ぱちんっ、と指を鳴らすと、濡れたからだから水分が飛び、さらにいつもの服裝にチェンジ。
さて、最低限の仕事でもしますかい。
★
「闇の組織(ダーク・ユニオン)を、討伐してしい……?」
俺にあてがわれている部屋にて。
皇帝が神妙な顔つきで言う。
「ああ。先日のガルシア拉致未遂、メイシェンの拐とり代わり事件。帝國の深いところにまでり込んでいる……闇の組織が」
『闇の組織って、あれだろ? ノア様がガルシア皇子拐の際に、自演するときにでっち上げた架空の組織』
『あ、でも襲撃者の魔族は一応いたっすよね。メイシェンさんをさらって、り代わってたのも魔族だったし』
……そう。
闇の組織は、全くの架空の組織って訳じゃないのだ。
「ノア殿、2件続けて闇の組織による被害が起きている。放置すればまた同様の、下手したら今以上の被害が起きるやもしれぬ。そうなる前に闇の組織を倒してしい」
『どうするんすか、闇の組織のリーダーさん?』
思念でロウリィが語りかけてくる。
『あとで雑巾絞りの刑に処す』
『バカ言ってないで、どうするんだ。引きけるのだろう? 倒すことなど容易いのだろうし』
ガルシア皇子襲撃の際に、相手の戦力はわかっている。
一度全員ボコったからな。
『くくく……! ひらめいたぞ!』
『あ、ノア様がまた趣味の無能ムーヴしようとしてるっす』
『よくもまあ懲りずにやるものだ。逆に心する』
ペットどもをダブル雑巾絞りの刑に処す(魔法で)。
「皇帝陛下……任せておけ! このノア・カーターが、鮮やかに、速やかに、解決して見せよう!」
「おお、頼んだぞ、ノア殿!」
俺はペットどもを引き連れて、帝城をあとにする。
『ノア様! どうしてくれるんすか! 尾がねじれちゃったよほらどうすんの!?』
「うるせえなぁ。尾くらいいいじゃねえか」
『よくないっす! ああ、自慢の尾がっ』
『おまえもう完全に貓だろ……。で、ノア様、無能ムーヴするにしても、これから何するのだ?』
俺は黒犬を見下ろしながら言う。
「名付けて、【ノア様VS闇の組織、意外と相手は手強いぞ、倒すのに苦労したぞ】作戦だ!」
『『ふーん……』』
「もっと食いつけよ!」
『つまり、お得意の八百長ってことっすね。どうしてそんなことするんすか?』
「簡単よ。帝國に一秒でも長く留まっていたいからだ!」
『最低の理由どうもありがとうございました』
「よーするに、闇の組織との戦いを長引かせることで、俺は帝國に長く滯在できる。さらに、なかなか敵を倒せないでいることで、いつまでも倒せない俺への評価が下がるって寸法よ」
『いつも思うのだが、よくも次から次へと無能ムーヴを思いつくものだ……』
『でもノア様~。闇の組織との戦いを長引かせるっていっても、ノア様なら楽勝で倒せるじゃないっすか。相手が弱すぎたら、さすがに手を抜いてるってバレるんじゃないっすか?』
「その通り。だから……」
『『だから?』』
「俺が闇の組織を……鍛える!」
★
ほどなくして、俺は闇の組織のアジトに居た。
「よーし、全員正座な」
「「「はい……」」」
とある窟にて、俺の前には、かなりの數の魔族達が居た。
『ノア様はどうやって、こいつらの居場所を突き止めたんだ、ロウリィよ?』
『前にこいつらと會ったときに、魔力の波長を覚えてたんすよ。この人、一度會ったことのある魔力の波長なら、全員覚えてるらしいんで、どこにいても知できるんすよ』
『本當に無駄な力もってるな……』
俺は魔族どもを見回す。
「いいかてめえら……! これからこのノア・カーターが、直々にてめえらの腐ったを鍛えてやる!」
俺は手に持った竹刀(しない)を、ぱしーん! と地面にたたきつける。
「あ、あのぉ~」
魔族の一人が、手を上げる。
「なぜ我々を鍛えるのでしょう……? あなたは敵側の……帝國側の人間ですよね?」
『『もっともな疑問過ぎる!』』
「ああ、その通りだ。だが気にするな。次意見したら発させるからな」
『『理不盡すぎる……!』』
ガタガタ……と魔族たちが震えている。
「てめえらよぉ、魔族なんだろ? 強大な魔法の力を持っている。魔王が生きていた時代、一時期この大陸の覇者だった一族がよぉ。拐なんてみみっちいことしてて、恥ずかしくないのかね? ん?」
ぐっ……と魔族達が歯がみする。
「こんな窟にコソコソと隠れて、人間達に見つからないように逃げて隠れる日々……まったく、こんな姿を魔王が見たらどう思うだろうなぁ。さぞ落膽することだろうよ!」
「我らとて……わかっている!」
にやり。
よーし、食いついてきたぞぉ。
「我らだって強くなりたい!」
「よーし、なら俺の指導をけろ。てめえら全員、強くしてやるぜ」
魔族達は俺に懐疑的なまなざしを向ける。
だが、ガルシア皇子拐未遂事件のときに、參加していた魔族が言う。
「この人は、堅牢で有名な帝城の城壁を、一瞬で消して見せた。その魔法力は本だ」
全員が、俺の前に跪く。
「我らをお導きください、闇の支配者(ダーク・ロード)さま……!」
「「「お願いします、闇の支配者(ダーク・ロード)さま!」」」
だ、ダーク・ロードか。
ふ、ふーん……ちょっとカッコいいじゃない?
『ノア様、出てる、闇の大賢者でてるっすよ』
ハッ……! いかん、俺はそういうの卒業したんだ!
「お願いします、マイ・ロード!」
「我らに闇の神髄を!」
「闇の力を是非!」
「くくく……貴様らに、この俺が直々に力を授けよう……!」
「「「ハッ……!」」」
『おい、闇の支配者の役にどっぷりはまってないか、こいつ?』
『廚二病ってなかなか治らないらしいっすからね……』
俺は魔族どもを見回す。
「ついてこい、闇の眷屬ども! この我(おれ)が貴様らを導いてやろう!」
こうして俺の、闇の特訓が開始したのだった!
★
それから數日後。
「さすがだな、ノア殿!」
「ふぁ……!?」
今日は、闇の特訓を終えて、久しぶりに皇帝の元へ顔を出しに來たところだ。
これから闇の軍勢と、長い戦いになる……そう報告しようと思っていたのだが……。
「え、え、なんだよ皇帝さんよ?」
皇帝は何度もうなずきながら言う。
「見事だノア殿、まさか、あの恐ろしい闇の組織(ダーク・ユニオン)すら、手懐けてしまうとは……!」
「は……? 手懐けるだぁ!?」
すると、音もなく俺の周りに、魔族達が現れる。
「て、てめえら……! どうしてここに!」
「我ら一同、ノア様に忠誠を誓う【影】。ノア様が仕える王を守ることもまた、我らの仕事」
『な、なんすかこれ……どーゆー狀況?』
『おそらく……あの闇の組織の魔族達は、闇の特訓(笑)をするうちに、改心したのだろうな』
『あー……人間にあだなすんじゃなくて、人間(のあさま)に仕える喜びを覚えた的な?』
『そうだ。さらにノア様は自分の作戦(笑)を部下に伝えてなかったからな。よもや、八百長試合をするために、魔族達を鍛えていたなんて思っても居なかっただろうよ』
いちいち(笑)つけるんじゃあないよ……!
魔族の一人が、前にでて、皇帝の前にひざまずく。
「我ら魔族、偉大なる指導者、ノア様のもとで修行し、心をれ替えました! 陛下……これまでのご無禮、お許しいただけるのなら、ノア様とともに、この國をお守りする所存であります!」
魔族に化されたのか、皇帝は涙を流しながら、その肩を叩く。
「貴殿らの忠誠心、立派だ! 我ら帝國の庇護下に貴殿らを置こう!」
「陛下……! ありがとうございます、ノア様! 我らに居場所を與えてくださって!」
「見事だノア殿! 闇の組織を改心させただけでなく、我ら帝國の軍事力を強化してくださるなんて!」
俺は……その場にしゃがみ込んだ。
せっかく……戦いを長引かせて、帝國で安穏と過ごすつもりが……!
數日で解決しちまったじゃねえか!
『はいノア様、大勝利ー』
『ここまで來ると呪われてるな、完全に』
「くっそぉおおおおおおお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおお!」
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