《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》58.ロウリィのやきもち

第七王子ノアが、帝國で大立ち回りを演じてから、數日後。

彼らはカーター領へと戻っていた。

『くぁ~……よくねたっす』

1匹の白貓が、ノアの部屋で目を覚ます。

はロウリィ、こう見えて世界最強の魔神の一角だ。

今はノアの舎弟として、彼に仕えている。

『おはよーノア様……ノア様?』

ふと、ロウリィは、ノアが居ないことに気づく。

『あれ~? どこいったんすかー?』

『どうした?』

部屋の隅っこで丸くなっていた黒い、大きな犬が目を覚ます。

はナベリウス。実は悪魔なのだが、こちらもノアにボコられて舎弟になった。

『あ、ナベちゃんおっはー。ノア様どこに居るか知ってる?』

『さっき起きて、窓から逃げてったぞ』

『ああ、サボりっすね。んも~。またサボる~』

ロウリィがやれやれ、とため息をつく。

『わたしが目を離すとすーぐサボるんすから~。んも~』

『……そのわりに嬉しそうだな』

『いやいやそんなことねーす。わたし、あの人のサボり癖にはほとほと呆れてるんすからねー』

ロウリィはひょいっ、と窓際にジャンプ。

そこからガラス戸を頭で押し上げる。

『どこへいく?』

『ノア様探してくるっすー』

ひょいっと窓から降りて、屋敷の外へと向かう。

『ノア様~。どこっすかー。あんまさぼってばっかいますと、リスタ様が出ますよ~』

もはや妖怪扱いされているリスタ。

ほどなくして、ロウリィは、屋敷の裏手でノアを発見する。

『あ、いたいた。ノア様こんなとこに……って、何やってるんすか?』

ノアのには、1匹の小さな、三貓が握られていた。

「にー……にー……」

「おう、ロウリィ」

『む……なんすか、その貓?』

ノアのの中には、赤ん坊の貓が目を閉じて橫になっている。

それを見て、ロウリィのにもやっとしたが去來する。

「朝からみゃーみゃーうっせえから、様子を見に來たんだ」

『ふーん……迷子すかね』

「だろうな。母親とはぐれたんだろ」

ノアはそう言うと、屋敷へと連れて帰ろうとする。

『ちょ、ノア様……その、どうするんすか?』

「あ? 連れて帰るんだよ」

『えー! どうして?』

「どうしてって……まあ放置しても、寢覚めが悪いからな」

ぼりぼり、とノアが実にダルそうに頭をかきながら言う。

『むぅー……ぐぬぬ』

「んだよ、文句ある?」

『ふんっ。自分でちゃんと面倒見るんすよっ!』

「? おう」

ロウリィはぷいっ、とそっぽを向くと、ひとりで屋敷へと向かう。

『……なんでイライラしてるんすかね、わたし』

小首をかしげるロウリィであった。

晝飯時、ロウリィは、ノアの部屋を訪れる。

『ノア様~。ごはんできたみたいっすよー。食べに行きましょ』

「おう。あとでな」

ノアは自分の部屋で、子貓に哺瓶を與えていた。

もや、とまたに黒いものを抱くロウリィ。

『まーた子貓にかまってるんすか? 午前中からずーっとじゃないっすか』

聲に若干の苛立ちが混じるロウリィ。

一方でノアはそんなの気にせず答える。

「子貓はよ、頻繁にミルクやらねーと、水で死ぬんだよ」

『ふーん、ふーん』

「んだよ?」

『べっつにー。ただ、その調子でずっと赤ちゃんにつきっきりじゃ、大変じゃないのって思って』

「まあ……あと1ヶ月もすりゃでかくなるし、それまでの辛抱だ」

『んなっ! い、一ヶ月!? 一ヶ月もノア様、子貓につきっきりなのっ?』

「しゃーねーだろ。拾っちまった以上、飼い主が責任を持って育てないとよ」

『むー……むぅ~~~~~!』

ノアが自分を見てくれないと、ロウリィは嫌な気持ちになった。

しかも一ヶ月も、この狀態が続くなんて……。

『ふんだ! ノア様のあほー!』

ロウリィは聲を荒らげると、部屋から出て行った。

その日の午後。

『ノア様ー! 新しいボードゲームを、サブリーナ様から仕れたっすー!』

ロウリィは尾にボードゲームをまきつけて、ノアのもとへやってきた。

『仕事なんてさぼって、一緒にあそぼーっすよ!』

「パス」

ノアは機の前に座って、珍しく仕事をしていた。

いや、よく見ると、その膝の上に先ほどの子貓を載せている。

タオルと湯たんぽでつつんで、定期的に背中をさすって、子貓をゲップさせて居るではないか。

一方で、魔法で羽ペンをかし、仕事をしてる。

『な、なんで……?』

「見てわかんだろ、仕事あんど子育て中」

ノアが仕事をしていることよりも、……ノアが自分に構ってくれない方が、ロウリィは嫌だった。

『なんか、あんたらしくないっすね!』

ロウリィは構ってもらえず、つい、意地悪をしたくなった。

「んだよ」

『あかちゃん貓を拾って育てるなんて、あんたらしくねーっすよ。いつもならめんどーだーってほっとくくせに』

ちら、とノアはロウリィを見ると、こういう。

「邪魔」

『~~~~~~~~~~~~~!』

ロウリィは頬を風船みたいに膨らませると、ボードゲームを地面にたたきつける。

「おい、片付けろよ」

『ふんだ! ばーかばーか! ノアのあほー!』

ロウリィは外へと出て行った。

……ナベリウスはうんざりしていた。

『ねー! 聞いてよナベちゃん! ノア様ってばひどいんすよー!』

ナベリウスは庭先でひなたぼっこしていた。

そこへ、ご立腹のロウリィがやってきて、先ほどから文句を垂れている。

『あのバカ王子、ずっとずっと、赤ちゃん貓の面倒見てるんす! わたしがあそぼーってってるのに! 邪魔って! 邪魔ってなんすか!』

『はぁ……』

さっきからこの調子である。

ナベリウスは非常にうんざりしていた。

ロウリィの不満は、要約すると……。

『おまえ、ノア様に構ってもらえなくて、さみしいの?』

『んなっ……!?』

ロウリィが顔を真っ赤にしている。

どうやら図星だったらしい。

『ち、ちち、ちげーし! 別にさみしくねーし!』

『さみしいんだな。やれやれ……おまえも変なヤツだな』

ナベリウスはため息をつく。

『口ではあんだけノア様を馬鹿にしたり、働かないことに文句垂れたりして、いざかまってもらえなくなるとぶーぶー不満垂れて』

『ち、ちが……、わ、わたしはただ!』

『ただ?』

ナベリウスが伺うように、じーっと見つめてくる。

うう……とロウリィは弱気になり、小さくつぶやく。

『……ノア様が、かまってくれないの、やだな』

それが本音だった。

結局この魔神は、ノアを好きなのだ。

ただ素直じゃないから、それが言えないのだろう。

『……やれやれ』

すくっ、とナベリウスが立ち上がる。

『どこいくんすか?』

『ちょっと捜しだ。ロウリィ、おまえも手伝え』

『捜し?』

ナベリウスが何を探すのか言うと、ロウリィは目を丸くして、しかし手伝うことを了承するのだった。

夕方。

『ノア様、つれてきたっすよ』

ノアの部屋に、ロウリィが尋ねる。

「あ? つれてきたって……おまえ、その貓……」

ロウリィの隣には、1匹の大きな雌貓が居た。

ノアのの中で鳴いている、三貓が、嬉しそうにみーみーと鳴く。

『その子の、お母さん貓っす』

ノアはロウリィを見て目を丸くしていた。

『か、かんちがいしないでよねっ! ナベちゃんが、ナベちゃんが勝手にお母さん探してきただけっすから!』

ナベリウスは影を司る悪魔。

影を探知することも可能だ。

森の中にいる全ての三貓の影をおって、一匹ずつ調べていったのである。

無論、ロウリィも手伝った。

は貓の言葉がわかるため、1匹ずつ、子供が居なくなってないかと聞いて回ったのである。

方々探して、ようやく見つかり、こうして連れてきた次第。

ややあって。

ノアは窓の外から、三貓親子が去って行く姿を見ている。

「ロウリィよ、さっきの質問なんだが……」

『質問……? ああ、らしくないってやつ?』

ノアはため息をつく。

「俺はね、別に面倒ごとを率先してやる気はさらさらねーよ。ただ……」

『ただ?』

「目の前で、死にかけてるやつを、ほっとけないだけだよ」

ぽつり、と小さくノアがつぶやく。

……ロウリィは理解した。

彼は、腐っても、二度の英雄を経験している。

その生き様は怠惰そのものであれど、底には、人を助ける英雄の魂があるのだ。

「ほら、人を殺したり、死にそうになってるヤツ放っておくと、恨まれて余計にめんどうだろ? だからまあ、クソ面倒ではあっても、できる限りフォローするんだよ。その方が結局手間がなくて良い」

『ふーん……そーいや、あんた、ひと殺さないっすよね』

そう、カーター領民にしてもそうだ。

ノアはやろうと思えば、領民たちを皆殺しにすることはできる。

付きまとわれて面倒なら、そうやって全員殺して自分は去れば良い。

そうしないのは、彼が、結局は、善人だからに他ならない。

『それ、他の人に言った?』

「あ? 言うわけねえだろ」

『ふーん……じゃなんでわたしには言うの?』

ノアはロウリィを振り返り、こういう。

「お前は特別だからな」

……それを聞いて、ロウリィは……。

『んふっ♡ ふふふふふっ♡』

ものすごく、機嫌が良くなった。

『そっか~♡ ノアッチ、わたしは特別だと思ってるんすね~?』

「なんだよノアッチって、馴れ馴れしい貓だな……」

ノアは腹が減ったのか、部屋を出て行こうとする。

『あー、待ってっすよ~ノアッチ~♡ 一緒にごはんたべよー♡』

ロウリィはノアの腳の周りを、くるくると付きまとう。

「あー、うっざ! 歩きにくいでしょーが!」

『んも~♡ そんなこといって~♡ ほんとはわたしに付きまとわれて、うれしいくせに~♡』

「うっっっっぜええええええええええ!」

……その様子を、ナベリウスは見ながら、やれやれとため息をつく。

『めんどくさい夫婦だな』

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