《【書籍化】【SSSランクダンジョンでナイフ一本手渡され追放された白魔導師】ユグドラシルの呪いにより弱點である魔力不足を克服し世界最強へと至る。》70.始まりの終焉

――とてつもない速度の拳と蹴りが繰り出される。

圧倒的な速度の攻防。SSSレート魔族と同等の力を持つ人間のそれは、他がる余地のない極地。

「......ッ!?」

しかし、數手のやり取りでレイが気がつく。

――......こいつ、恐ろしく強い......!!!

アルフィルクのき、魔族であるからこその魔力保有量。それによるきの差が明確にレイの力を削っていく。

人と魔族では、に留めておけるオーラに限界があり、それは攻撃防とその両方に大きく影響する。

――......は、速すぎるッ!

レイは目では追えないと判斷し、自の周囲へオーラを押し広げ、オーラ知での回避に切り替えた。

――だが、これはッ......ガードが、回避が間に合わないッ!?

「ほら、どーしましたかッ!? レイくうううんんんん!! ほら、ほらほらほらッ! 先程の勢いはどーしたァ!!?」

ズガガガッ!!!

「――ぐ、ふっ......はあ、はあ、くっ......ッ!!」

レイのオーラの消費量は凄まじく、ユグドラシルからの供給スピードが追い付かなくなり始める。

「『想異重我』の効力は切れてますよ? どうしたんです、そのノロノロなきは!? ほら、本気を出して!? 私がネネモアの仇なんですよ!!? もうちょっと気合いれてくれないとおおおーーー!!!」

続く激しい攻撃にレイの纏うオーラにりが見え始めた。大きく揺らぎだす......レイの心を、揺を表すかのように。

――ま、まずい......このままじゃ、いずれ削りきられる!?

飄々とした印象からは想像もつかぬほどの。その一撃一撃が鋭く、ガード越しに重く響く。

ガッ、ズギャッ!ドガッガガガ――!!

そして、レイの片腕が吹き飛ばされた。

「――ッッ!!」

「あらあらあら!」

アルフィルクは両手を上げ、大袈裟に驚いて見せる。

「腕、とれちゃいましたよ! どーするんですか? レイくん?」

「ひ、ヒール......!」

が傷口へと集まり、一瞬にして消えた腕が現れた。

「おお、おおおお!!! 素晴らしい!! それが創造魔法ですね!?」

アルフィルクは歓喜し両手を天高く上げた。

「素晴らしいッ!!! 君のヒールは!! 回復魔法に非ず!!! 創造魔法で損失したの一部を復元していたんですよ!! ね、レイくん!?」

――そうだ......僕のヒールは、創造魔法。

気味にアルフィルクが続ける。

「それ故にオーラの消費量も多く、莫大な魔力を必要とする!! ......しかし、人のでそれを可能にしているのは! その右眼、ユグドラシルから流れ來るオーラですね!!!」

――僕は、これが創造魔法だなんて知らなかった......オーラが枯渇するのは単純に僕の魔力がないからだと思っていた......ノルンが教えてくれるまでは。

「それに、ユグドラシルから引き出しているオーラは魔力でもましてや神力でも無い......そうですね?」

「......」

レイにアルフィルクの言葉はもう屆いてはいなかった。

この時間でどうすればアルフィルクを倒せるか、それを必死に考え、思考を巡らせていた。

「レイくんが使うオーラは魔力や神力を超える力! 生命力(マナ)!!」

「......な、なんだと」

「え、マナ......!?」

「それでは、レイは......」

「まさか、レイ君......君は」

タラゼド、ライム、リアナ、カノン、その場にいたアーゴン含め全ての者たちが驚き、レイに注目する。

「そうです、マナを扱い戦えるのは『勇者』のを引くものだけッ!! あなた、勇者の筋なんですよね、レイくん?」

と、その時。

上げていた両腕をさげ、だらんと力するアルフィルク。

「......しかし、それだけに。 勿無い、勿無いですねえ、レイくん! 本來であればあらゆるものを創り出せる魔法である『創造魔法』! それなのに、想像力が足りないのか何なのかは分かりませんが、あなたは自分にリミッターをかけている......!! 本當に殘念ですねえ......その伝説級の力を存分に発揮できれば、私とも対等にそれ以上に渡り合えるはずなんですがねえ!!」

――だめだ、何をどうしても......

「ま! 貴方を魔族に変えちゃえばオッケーなんでどうでも良いんですけどね! ......さてさて、それではお喋りもこれくらいに――」

アルフィルクに勝てる方法が見つからない......!

「――しましょうかッ!!」

――ギュアッ!!

そして再開されたアルフィルクの攻撃。

ドドドドッッ!!

大雨が地を穿つかのような激しい連撃。

それは、直撃すればレイでも致命傷となりうる攻撃力だった。

――ズガガガッ!!!

じりじりと押し寄せる、負けという結末の垣間見える攻防と、攻撃一つをも食らえないという大きなプレッシャー。

またたく間にレイの神は大きく削られ、意識は朦朧とし始めた。

――これが......魔王直屬の、死四天魔『アルフィルク』か......今までやり合った敵とはまるで次元が違う......!!

レイを遙かに越える戦闘経験、魔族であるが故の魔力保有量。

それに加え、レイはユグドラシルからオーラを引き出すのに時間を要する。

それは數秒程度のものであるが、アルフィルクとの戦闘においては致命的なラグだった。

更に――

ユグドラシルから引き出しているオーラ、『マナ』は非常に強力な反面、人がベースであるレイのに多くは留めてはおけない。

もし、限界を超えオーラを引き出してしまえば、レイのはたちまち壊れ崩れてしまい......その果てにあるのは勿論、死だ。

――どうする!どうしたら良い!?これ以上オーラを引き出せば僕のは保たない!!......しかしオーラが、足りない!!

「ほらほらほら、どーしました!? へたっちまいましたか!!? れええええーーーいくううううーーーーんんんん!!!!」

「――......ッ」

そこで、一瞬レイの集中力が途切れた。

「――あ」

――一瞬の空白。死が頭を過ぎる。

ヒュオッ――ピタッ

「おや」

気がつけば、アルフィルクの拳は顔の前にあり、直撃寸前での寸止めだった。

「......ふむ、レイ君は頭を壊すのは不味いですねえ。 と、言うか......これ以上めるのも可哀想だ。 えー、あーっと、そうですねえ......ここは一つゲームでもしますか」

......げ、ゲーム?ダメだ......もう、頭が回らない、アルフィルクは何を、考えて......。

「......はぁ、はぁ」

そして、明らかな一つの事実。今、アルフィルクが拳を止めなければ、レイの頭は砕かれていた。

そこらに散らばる死の一つに加えられていたのだ。

――そう、誰の目から見ても、レイとアルフィルクの力の差は圧倒的だった。

その圧倒的な実力差を前にレイは追い詰められる。

が、しかしどうすることも出來ない......何故ならばレイは『人』で、アルフィルクは『魔族』。

超えられない壁がそこにはあった。

しかし――

「さてさて......良いですか? これは、貴方にとっての好機、千載一遇の素晴らしいチャンスです。 しかし、ご注意を......これが正真正銘の、ラストチャンスになりますからね?」

そう言うとアルフィルクは両腕を広げ、笑う。

――え?......な、なんだ?

「――さあ、私の心臓を突くか......もしくは私の首を、そのダガーで切り裂きなさい」

「......は?」

アルフィルクの言った意味を、レイは力が果て、回らない頭で理解しようと考える。

――これは、多分罠だ......そうだ、罠の可能が高い。

僕が攻撃しようとしたところでカウンター......それを容易にする為に隙を曬し、油斷させ

......

いや、違う。

アルフィルクは......僕を油斷させる必要なんて無い。

僕は現に、今、本気で戦って殺されかけていた......

じゃあ、何故?

......アルフィルクは、本気で僕で遊んでいるのか?

僕は奴のオモチャ?

――憎しみ、焦り、劣等、怒り。

嵐のようなアルフィルクの攻撃が止み、思考する時間の出來たレイ。

それにより、心の奧底からドロっとした負のが湧き、溢れ出す。

――......わかった。良いだろう、殺してやる。み通り、殺してやる!!

罠だろうがなんだろうが関係ない、こいつは......ネネモアを殺したんだぞ。

殺してやる、殺してやる、殺してやる。

レイはおぼつかない足取りで、アルフィルクの前まで辿り著く。

「さあ、いつでも良いですよ。私の心臓はここ......やれますか? さあさあ、あなたに私の命を奪えますか? 優しい優しいレイくん?」

トントンとを指で叩くアルフィルク。

そこへ

ダガーをへ突き當てるように當てた。

「さあ、どうぞレイくん。 あなたの、ネネモアの仇である私の命を召し上がって下さい」

「......ッ」

――......け、ない。

なぜ、させ、ない......なんで、どうして!?

アルフィルクは魔力を纏っていない......このまま突き刺せば殺せる、殺せるんだぞ!!

殺せ!!!殺せ殺せ殺せ!!!くそ!なんで......かないんだっ!!!

ネネモアの仇を!!とるんだよッッ!!

『ほらね、君は弱い』

き日の幻影が、耳元で優しく囁いた。

「......レイくんってば、ウブですねえ?」

アルフィルクはトンと、レイの額に指を當てる。

――ズズズズズッッ!!

その瞬間、アルフィルクの魔力がレイに注がれ、能力が発する。

アルフィルクの能力、『想異重我』は想いを核に重力を発現させる他、もうひとつの力があった。

それは記憶の出と注

人の記憶を取り出し、それをまた別の人へと移す事が出來る。

それにより、レイはある記憶を流し込まれた。

その記憶とは......

かつて、ネネモアがこの屋敷に訪れ、味わった苦痛の記憶。

人を魔族へと変える方法は二通りある。

1、頭部や腕など、部分的に魔族のモノと取り変えていく。

2、寄生魔獣に寄生させ魔力回路を強化させる。

――ネネモアは寄生魔獣を中につけられ、とてつもない激痛を味わっていた。

人から魔族へと徐々に変えられる、寄生魔獣によるの変化はレイの想像を遙かに超える激しい痛みを伴っていた。

「ぎぃいいあっあああああーーーーーっっっあああーーーー!!!」

『いや、たすけて! いやああーーー!!』

――その過程で、ネネモアを襲った數多くのまるで拷問にも似た苦しみと痛み、悲しい記憶が、レイの心と神に重い負荷をかけ続ける。

そして気がつく。

を魔族へと変えていたのは、見知った顔の魔族だったことに

「ぎゃああああーーー!」

『痛い痛い痛い!! やめて、やめて!!!』

いたぶられ、なぶられ、ゆっくりと人では無いナニカに変えられていく

――あ、ああ......おもい、だした

あのときの

竜人、族

......ばい、がん

ぐるん、とレイが白眼を剝き、口から泡を噴き出す。

――ドシャッ。

「うん...... よしよし、これで神は破壊できましたねえ! そしてまた新たな虛の記憶を構築すれば我々の兵隊、しかもあらゆる強者を超えた最強の兵隊が出來上がります!! ......あ、そうそう、でもはマナに耐えうる魔族へと変えなければねえ......ま、それは彼自の『創造魔法』で変えれば良いでしょう! まあ、なんて便利なチカラ!!」

タラゼドの部下や、魔族の流したの海に溺れるように、眠るかのようにレイは伏した。

遠退く、意識が......そこの無い闇の底へと、落ちていく。

床に散らばる死が目にはいる。

頭の奧で幻聴なのか、僕の名を呼ぶリアナのび聲が響き渡り

『――本當......バカみたいだな、僕』

そう言った僕を見下ろすき幻影は、泣き出しそうな顔をしていた。

『また、失敗しちゃった』

――また......ああ、まただ。

使えない、使えない奴。

本當に僕は役立たずだ......ロキの言った通りじゃないか。

僕の大馬鹿野郎。

『――あのとき、僕(きみ)がバイガンを見逃さなければ......もしかしたら、ネネモアが酷い目に合わずに済んだかも』

......でも、それは......どの道、他の奴がネネモアを殺したよ。

『村で遊んでないで早く王都へ來たら......ネネモアは救えたんじゃ』

村の皆は、困っていた。見捨てられなかった。

『あの神木主の聖騎士を助けずにさっさと殺せば、逃す危険があってもワーウルフを倒しに行けば......早く王都につけば』

僕が、もっと......

『もっと早くユグドラシルから旅立てば、間に合っていたのにね』

そうだ

そうだよ。

ホントに、そう......なんでこんなにけ無いんだろう。

挙句の果て、あと一歩......踏み出せばネネモアの仇もとれたのに。

それすらも、出來なかった

『やっぱりさ、僕(きみ)には無理だったんだよ......だって、僕(きみ)だよ? 弱蟲で泣き蟲の、僕(きみ)』

――ああ、うん......僕は、僕だ。ユグドラシルの力なんてモノをもらっても、なにも意味のない......ただのちっぽけな、僕。

『それに、いつか言われたよね......フェイルに。 僕(きみ)は優しすぎるって。 心が......脆すぎて、奪った命の重みに耐えられない......その優しさが、自分を苦しめる事になるって』

そう......ネネモアに、君は優しい所が素敵ねって言われたけど......逃げ続けていただけだ。

自分の心が傷ついて、負荷で壊れないように......言い訳ばかりしてさ。

怖くて怖くて、ずっと......

怯えていた。

誰かに必要とされたくて、戦ってはみたけど

ああ

無駄だったな

僕は......絶対的な弱者だった。

もう、疲れたな

『うん。 だから、もう眠ろう......もう良いでしょ。 疲れたよ、疲れた。 頑張っても頑張っても、何も出來ないしさ......』

何も、何も、何も出來なかった。

『誰かを救うなんて、守るなんて出來るハズなかったんだ。 だって僕は......自分(僕)すら、救うことが出來なかったじゃないか』

......ああ、確かに、そうだ。

『さあ、眠ろう。 今度は、今度こそは僕を......救ってみせて。 痛いのは、辛いのはもう嫌なんだよね』

――うん、眠ろう。......もう、ネネモアもいない。

が、意識がゆっくりと、闇に溶け行く

甘い眠りと、幸せな終わり、緩やかな消滅

僕が求めていたのは、これなのかも知れない......

もう、よくわからないや

とにかく、ゆっくりと休もう

――レイ。

――ねえ、レイ。

「――え」

目を開くと、闇の中に......一人のの子がいた。

の彼は言う。

「久しぶりね、レイ」

幻なのか、僕の頭が完全にイカれたのか。あるハズの無い彼の存在に涙が流れ出す。

「ネネモア......なんで」

「なんでだろね〜? わからないや、あはは」

「魂は消滅したはず......君は、幻か?」

「んなっ!? 失禮な〜! レイがおねしょした回數でもあげてみせようか? それとも寂しいって言って一緒に寢た回數が良いか!?」

「え、まってまって! ごめん、わかったよ......この勢いの良さは間違いなくネネモアだな」

「ふん、わかれば良いのよ!」

両腕を組んで鼻を鳴らすネネモア。

「でもま、レイ......ふふ、しばらく見ない間にカッコよくなったねえ。 もう立派になっちゃってさ、私も誇らしいよ」

にこにこと笑みを浮かべる彼は、しく憧れたネネモアの長した姿。

「あ、ありがとう。 ネネモアも奇麗になったよ」

「お、ホントに? えへへ、嬉しい事言うじゃん!」

「本當の事だよ、すごく奇麗になった」

「おーおー、もっと褒めるがよい! はっはっはー!」

......ダメだ。

――堪えきれず、レイの頬にまた涙が伝う。

「僕は......僕は間に合わなかった......ネネモア、ごめん、本當に」

一瞬、驚いた表になったネネモアは、すぐに優しい笑みを浮かべ、レイの頭をらかにでる。

「そんなことない、私は嬉しかったよ。 こうして、最後にレイと會えたしさ......」

――ネネモアの魂が、ゆっくりとになり消え始める。

どうやらもう、別れの時間が來たらしい。

「......ネネモア」

「ん、なに......レイ」

「僕も、すぐにそっちへ行く。 だから......寂しくはさせないよ......待っていて」

その言葉を聞いたネネモアは、笑って首を橫に振った。

「ダメだよ、まだ、ダメ」

「でも......僕は」

口を人差し指で塞がれ、言葉を遮れた。

「......ねえ、最後に一つお願いしてもいい?」

懐かしいネネモアの太の様な、花のような暖かな笑顔。

「......なに?」

「レイといたあの子を......守ってあげて......私たちのような、悲しみがもう生まれないように、彼を救って」

「リアナの、事......?」

は頷いた。

「レイなら......できるよね?」

『出來ない......無理だ』

――幻影が後ろで囁く。

「......僕には」

弱さを遮るようにネネモアが言う。

「出來る、出來るよ。 だって、みてたもん......レイが頑張ってるところ。 レイは強いよ......私は知ってる」

「......」

僕は弱い......無理だ、と心の中で思う。

しかし、ふとリアナの事が頭に思い浮かんだ。

......無理って、じゃあリアナは

リアナが殺されるのをれるって事か?

が、死ぬ?

......それは、本當にれられるのか?僕は。

を――

笑顔が――『レイ、ふふっ、ありがとうございます!』――脳裏に浮かぶ。

――失って良いのか?

――リアナの死を想ったとき、冷たいものが心に降りてくるのをじた。

「......わかった、頑張ってみる」

ネネモアが頷き、笑みを見せる。

「ありがとう、レイ......あ」

ネネモアはゆっくりとの粒となり始めた。

「ごめんね、もう......」

「うん」

薄れゆく、姿......そして

「またね、レイ」

眩しい笑顔だけを殘し、消え去った。

「......さよなら、ネネモア」

殘ったのは暗き闇、一人の孤獨と喪失

殘されたき日の幻影とまた二人きり。闇の中。

『ふっ、あははは! なんだよ、今の? どうやってリアナを救うのさ? 君は弱いんだよ、その弱さでさっきもいいようになぶられたじゃないか! ......どうやって約束を果たす? くく、馬鹿すぎて腹の底から笑えるよ!』

「......」

『......またアルフィルクに遊ばれたいの? やめなよ、もうここらで眠った方が良いんじゃない? あの苦しみをまた味わいたいとか......頭おかしくなっちまったのかな!? 良い合に狂っているねえ!?』

ゲラゲラと笑う幻影。

「大丈夫......僕は、もう逃げないから」

『ふっ......出來ないよ。 魔族と人では本的にの造りが違う......さっきわかっただろう。 君が人である以上勝ち目は無いんだよ! どれだけ頑張っても奴に壊されるか、マナに壊されるかのどちらかしかない、いい加減諦めろよ!!』

「だったら、人でなくなれば良い」

幻影とレイの視線が差する。

『......ああ』

「もう良い......僕は、人を捨てる」

『そう、だね。 どうせ、何もせずにいいように奪われるくらいなら......でも、君のような奴の事をなんて言うか知っている?』

幻影はかなしく笑う。

『愚者(レイ)って言うんだよ』

――レイの欠いた眼に、炎のような紅いオーラが燈る。

「ああ、そうだな」

――良いよ。僕の魂をお前に、全てあげる......

「――僕の......魂を喰らえ、ユグドラシル」

――レイを戦闘不能にし、アルフィルクはバイガンに指示をだす。

「いやあああ!! レイ!! 目を覚まして!!」

「うるさい......あまり騒ぐと殺すぞ

ぶリアナをバイガンが無理矢理に連れて行こうとする。

「うーん、私の能力を発していたら、バイガンさんも近づけませんからねえ。 しかし、喚かれるのもうるさくてかないません......あ、そうだ、バイガンさん」

「はい」

「その子の手腳、カットしちゃって下さい」

「良いんですか? 余計にうるさくなりますよ」

「大丈夫、大丈夫。 その方がバイガンさんも運びやすいでしょう?」

バイガンはアルフィルクの格を知っている。

彼はリアナのびなど、うるさいとも思っていないこと。

むしろ、それに興さえ覚えていると理解していた。

「わかりました、......暴れると間違えて殺しちまうかもしれないから、くなよ?」

背負う大剣を抜き、掲げる。

「ひっ、あ......」

アルフィルクによりダメージの殘るでは逃げることも出來ない。

リアナはその剣が手腳を切斷するのを見ているしかなかった。

「ぐ、おお、あっ!!」

と、その時。見かねたタラゼドがバイガンへと當たりをした。

「! まだ、元気だな、タラゼド隊長?」

「や、やめろ......その子に手を出すな」

「ふ、ふくっ、くく......面白いねえ、タラゼド隊長。 まるで死にかけのハエだ」

バイガンが嗤う。

ドガッ!!

蹴り飛ばされるタラゼド。

「......隊長!」

「く......うぁ」

「た、たい......ちょ」

なすすべなく魔族と部下の死の上を転がり倒れる。

――俺は......こいつらも守れずに、このまま......奴らのむ魔族に変えられるのか

俺は、これ程にも弱かったのか......!

言い様のない不甲斐なさと悔しさがタラゼドの心を埋め盡くす。

「そこで見ていろ、タラゼド......聖騎士ども」

――バイガンが再度剣を振り上げる。

「やめろ......ぐっ、やめ......」

そしてバイガンの手が、リアナの腕を斬り落とすために摑んだ――

その時。

ズチャッ......

塗れの床に眠っていたレイが、そのを起こした。

「......あ?」

「れ、レイ......!?」

隊長は唖然とした表でレイを見つめる。

「......なに?」

アルフィルクが怪訝な顔をし、レイを見つめる。

倒れる前の神崩壊した様子から、二度と起き上がることは無いと思っていたレイ。

しかし、彼はゆっくりと起き上がり......その二つの足で立ち上がる。

「バイガンさん」

「はい......」

「先にレイくんの......彼の手足を落として下さい。 確実に私の能力は発していました......おそらく今のレイ君は無意識にいているだけです。 の頭を切り落としてもしの間きますよね、あれと同じ」

「わかりました」

アルフィルクは理解していた。これは、ある領域を超えた強者にのみじる事が出來るもの。

強者が強者を判別する、その嗅覚を持つタラゼド、アルフィルクがじていたレイの異質。

ヒュオッ!

バイガンは大剣を振りかぶり、レイの右腕を狙う。

しかし、微だにしないレイ。そのまま真っ二つに腕は切り飛ばされた。

だが、確かにその瞬間、バイガンはレイの聲を聞いた。

「お前......次、會ったら殺すって言ったよな?」

右目に炎のようなオーラが燃え上がり、バイガンを鋭く睨み付ける。

――メキッ......ベキベキィッ!!

バイガンの顔面にレイの拳がめり込み、頭蓋骨が砕ける音が部屋に響いた。

バイガンは毆られた衝撃により飛ばされることもなく、圧倒的パワーで頭だけを的確に潰された。

そして、その場に膝から崩れ落ちる。

――ドシャッ

レイは小さく舌打ちをし、切り飛ばされた腕に手を當てる。

「......ヒール」

無くなった腕を復元。その片手間、足元のバイガンをまるで邪魔くさいゴミを退けるように蹴り飛ばした。

「先に言っておくけど、アルフィルク君は......逃さないから」

レイの口許は歪な笑みを浮かべた。それは、先程戦っていたレイとは思えない歪んだ表、鋭い目つき。

まるで別人のようだった。

「......ええ、むところです。 々抵抗してください、貴方の力を魅せてください! ユグドラシルと完全同化したその力、我々の兵として使えるかどうか、今この場で確かめてあげましょう!!」

「......行くよ」

――ヒュオッ

とてつもないレイのスピード。そのきは最早、人は愚か魔族の域をゆうに超えていた。

ズガガガガッ――!!

辛うじて躱すことの出來たアルフィルクは驚愕する。

「......なん、だと!? なんだこのスピードとオーラの量は!? なぜ......それほどのオーラをに宿しながら、ぜないッ!!?」

僅かな隙、一秒にも充たないその剎那、レイがアルフィルクの左手首を摑みグイッと引き込む。

ギュルッ――パァンッッ!!!

そして回し蹴りの要領でボスの顔面にハイキックを叩き込んだ。

「ぶっ、がふッ!!?」

――わ、私が対応出來ないレベルのスピード!!どういう手法を使ったのかわかりませんが、彼はもう人間ではないッッ!!!

摑まれたままの手首をまた逆方向へと引かれ、更に膝蹴りを腹部にれられる。

「ぐっ、がはっ......」

――なんというパワーだ、振りほどけない......反撃すら、出來ない!!

片膝を地につけるアルフィルクにレイは言う。

「おいおいおい、どーした? 僕の力を確かめるんだろ......もうへたったのか?」

「ぐ、くふっ、は、ははっ、いえいえ......弾戦は合格ですね。 ――『想異重我』」

ズシンッッッ!!!と、アルフィルクの周囲が陥沒した。レイはそのまま地面へと引き寄せられ、叩きつけられる。

「ほらねレイくん、私の能力の前では全てが無力なんですよ。 皆等しく地を這う挽きとなるのですッ!! あはっ」

――ズブッ

高笑いを決めようとしたその時、アルフィルクの腹部を金の枝が貫いた。

しかし、凄まじい反速度でそれに気がついたアルフィルクは、素早く後方へ飛び退き大事を免れる。

「ッ......なんだ、これは......? ぐ、がは、ごほっ」

に起こる異変、吐

――こ、これは......オーラを流し込まれた......?

今のは、おそらくユグドラシルのマナ!!

......なんという濃度だ、これ程の力だったのか、マナと言うオーラは!

まるで全てを溶かし盡くす猛毒!それを管、魔力回路へ打ち込まれた様な激痛と衝撃......!!

こんなモノを流し込まれ続ければ、最上級魔族の私のでも簡単に崩壊してしまう!!

そしてアルフィルクは気がつく。

――はっ、レイ君は......彼はこれをに留めながら戦っているのか......!?

この、とてつもない破壊のオーラとも言える力を!!

を起こしたレイの肩からアルフィルクを先程貫いた枝が貫通しその部分が赤く滲んでいた。

――今の攻撃......自らをブラインドにして......自分ごと私を貫いたのか!!

......有り余るオーラ、それにより壊れたを治せる創造魔法......それがあるからこそできる攻撃!!

そして、あれは......あの枝はヤバい!ヤバすぎる!!

ユグドラシルのオーラを同じようにまた流しこまれれば、次は命取りになりかねない!

「......」

「どうした、アルフィルク」

いや、しかし......で、あれば、私の取る戦い方はひとつ!距離をとりつつじわりじわりと能力による攻撃で削り落とせば良い!!

レイがつまらなそうな目でアルフィルクを見やる。

「......こい、『セフィロト』」

ズッ――ドゴオッ!!バキバキメキッ――メキメキ!!

レイがその名を口にした瞬間、背後から金に輝く樹が床から突き出てきた。

「......どうした?」

「え......」

「アルフィルク......僕が怖いのか?」

気がつけば、アルフィルクの腳はがくがくと震えている。

「な、こ、これは......」

突如現れた、とてつもないオーラを包していると思われる輝く樹。逃げろとアルフィルクの本能が痛烈に訴えている。

――が、しかし、アルフィルクにも逃げられない理由があった。

「し、死四天魔である......誇り高き、私、アルフィルクが」

ギリィっと、歯軋りをし、アルフィルクがレイを睨みつける。

しかし、レイはそれを意に介さない。

「なあ、アルフィルク......僕は君をこれから始末するわけだけど、何か言いすことはある?」

「そう、ですね......まあ、勝ち目が無いことは理解しました。 しかし......」

を覆う魔力を消し、戦意の無いことを示してみせた。

「......それで、私を殺したところで、どうするんです? この屋敷の者を全て殺せばあなたは満足するんですか? それで彼が戻るんですか? 復讐は果たされますが......それで満足ですか?」

......まだだ、勝ち筋はある。と、冷靜さを取り戻したアルフィルクは思考を巡らせる。

大袈裟に両腕を広げ、レイへ背を向け......コツ、コツと靴が床を叩く音が、張に支配された空間へと響き渡る。

「あなたは誤解をしている......知っていますか? 我々魔族は元々はこの地に住まいし、人の同胞なのです。 それを荒れ果てた瘴気たちこめる魔界へと追いやったのは人なのですよ......酷いと思いませんか? そして、わかりませんか、我々魔族の悲しみが......苦しみが。 かなこの人間界を追われ、あの荒廃した魔界に閉じ込められた――」

アルフィルクの能力、『想異重我』は人や魔族の想いの力により威力を増す。

この綱渡りのような語らいで稼ぎだした時間、アルフィルクは自の中に蓄積させた魔界にいる魔族の強力な想いの力を引き出す事に功する。

「――我ら魔族の悲しみがーッッ!!!」

そのとてつもなく巨大で凄まじいオーラに空間が歪んでゆく。

ズズズズズ......

「......お待ちいただき、ありがとうございます。 では、殺し合いましょうか」

奧の手であるこの魔力を引き出したアルフィルクは、勝ちを確信した。

の周囲に侵した者は例外なく、潰れ落ちる。この重力場はゆっくりと広がり、やがて屋敷やその敷地に至る全てを飲み込む。

このアーゴン邸周囲には結界師により結界が敷かれている。レイが逃げることは葉わない。

――全て潰れろ。......私さえ、私の命が有りさえすれば......また同胞の為、戦い続けられる。

我らの、悲願を......人間界を、必ず取り戻す。

「終わったか?」

「......なに?」

「死ぬ覚悟は出來たかって訊いたんだよ」

「――え」

ズッ......

――ズドドドドドッッガガガガッ!!!!

アルフィルクの足元の床が割れ、そこから無數の樹の枝が飛び出し、彼のを貫く。

「がばっ!!? ぶふぐぶぶぶぶぶあああっあがぐぐぐぐおッッ!!!?」

腕を、腳を、腹部を、至る所へを這わし、突き出すセフィロトの枝。

そして――

『想異重我』の力が消えた瞬間、その隙を狙い済ましたレイが瞬く間にアルフィルクの懐へと侵した。

「じゃあな」

「――まっ、」

ズブッ

――逆手に持った白きダガーナイフが、アルフィルクの首を切り裂いた。

ブシュウー!!

飛び散る赤。

アルフィルクは立ったまま、首からを噴き出し続けている。

――ダガーに付いたを、ビッと振り払う。

そして

ゆっくりとセフィロトが淡く粒子狀となり宙に溶け始めた。

「さようなら......」

......君の死は無駄にしない、ネネモア。

魔族、奴隷、汚れた國......君を奪った、全てを

――僕が、この歪んだ世界を壊してやる。

これにてとりあえず完結です!(まだ語は続きますが)

沢山読んで応援、ブックマーク登録、誤字字報告をしてくれた皆様本當にありがとうございます!

皆様には心から謝申し上げます。

頑張れ!早く読みたい!気になる!と思った方は、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価とブックマークをよろしくお願いいたします!

ものすっっごく、やる気に繋がります!

◆お知らせ◆

続編、第二部が4月10日から始まります!よければお読みくださいー!

お待たせしてスミマセンでした!

    人が読んでいる<【書籍化】【SSSランクダンジョンでナイフ一本手渡され追放された白魔導師】ユグドラシルの呪いにより弱點である魔力不足を克服し世界最強へと至る。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください