《不死の子供たち【書籍販売中】》031 不死の子供 re
そっと息を吐き出すと、ライフルを構えて照準を覗き込む。人喰(く)いの略奪者が二人立っているのが見えた。カグヤの支援によって視界に適切な狙撃位置が表示される。距離や風の影響がほとんどないため、拡張現実で表示されるターゲットマークは略奪者の(からだ)にピタリと重なっている。狙撃銃の殘弾はこれで最後だった。銃弾を外すわけにはいかない。
引き金を絞ると銃口から火球が出現して、騒がしい銃聲と共に大口徑特有の凄まじい反が肩を叩く。銃弾をけて煙をあげる略奪者を視線にいれながら、ライフルを背中に回すと、もうひとりの男に向かって駆け出した。
仲間が狙撃されると略奪者は驚き狼狽(うろた)えるが、自分に向かって駆けてくる人間の姿を認めると、出來損(できそこ)ないのパイプライフルを私に向ける。錆びた銃の先に、若い男の怯(おび)えた表が見える。その男に向かって間髪をれずにナイフを投げ、ホルスターからハンドガンを抜いた。
ナイフは男の太に突き刺さり、その痛みで男の判斷を鈍らせた。一瞬の判斷ミスが死を引き寄せることになる。ハンドガンから発された弾丸は、男の額に食い込み頭蓋を砕き、脳を破壊したあと脳漿と共に外に飛び出していった。
出口を塞ぐようにして警備していた男たちの死を確認したあと、略奪者に占拠された遊園地の廃墟にっていく。周囲に敵の姿は見えない。上空を旋回していたカラスから信する映像に間違いはなかった。
遊園地の敷地に足を踏みれた私はすぐに立ち止まる。誰かに見られているような奇妙な視線をじる。それは例えば、大勢の人間に囲まれているときに背後からじる視線に似たモノだった。
「カグヤ、この奇妙な覚の正が分かるか?」
『どうだろう……でもこの場所、なんかへんだよ』
カグヤは上空のカラスに指示を與えると、周辺一帯の様子を確認していく。
「なにか見つけられたか?」
『ううん、やっぱりなにもないよ。カラスの索敵にも限界はあるから、たしかな報だとは言えないけど……』
ハンドガンを構えたまま、周囲に視線を走らせる。遊園地の廃墟は落書きと卑猥(ひわい)な絵で、建本來のが分からないほどに塗り潰されていた。赤茶の錆が目立つ巨大な観覧車は橫倒しになり、雑多なゴミに半分ほど埋もれていた。メリーゴーランドの馬はジェットコースターのレーンに頭から突き刺さり、の半分ほどを失っていた。
古臭いデザインの宇宙船を模(も)した乗りの側に屈みこむと、裝備の確認を行う。狙撃銃は殘弾がなく、サブマシンガンの弾倉は三十二発りがひとつだけだった。ハンドガンの弾倉を抜くと、側面についている半明の小窓で殘弾數を確認する。
『きびしいね。撤退を考えたほうがいいかも』
カグヤの言葉に私は頭を振る。
「ここまで來たんだ、最後までやり遂(と)げるよ」
『油斷してないよね』
「まさか。命がかかっているんだ」
『なら、いいんだけどさ』
私はゆっくり息を吐いた。張しているからなのか、息を吐き出すは震えている。それから警戒しながら建にっていく。以前も侵に使用した場所だ。なんとなく見覚えのある通路が見えた。
拡張現実で視線の先に表示される地図を頼りに、薄闇のなかを進む。室に略奪者の姿は見えない。それどころか、人の気配が全くしなかった。時折(ときおり)、多腳戦車から発されるビーム兵が空気を震わせる音が風に乗って微(かす)かに聞こえてくるだけで、建は靜寂に支配されていた。
略奪者たちが食糧庫として利用していた部屋の前にたどり著く。相変(あいか)わらず防火扉は施錠されておらず、簡単に侵することができそうだった。この場所も以前に來たときとなにも変わっていない。気持ちを落ち著かせると、ハンドガンを構えながら部屋にっていく。周囲に戦闘員の姿はなく、天井から吊るされていた人間の死もほとんど殘されていなかった。
部屋の奧に向かい、地下にあるシェルターに続くり口にれる。接接続が終わると、床下に収納されていたり口が姿を見せる。階段を下りて重い鉄の扉の先に向かう。
略奪者が攫(さら)った人間を監するのに利用していた部屋に人の姿はなかった。大量に保管されていた武も、今はほとんど殘されていなかった。戦闘を行うために持ち出したのだろう。前回の侵時に時間稼ぎのために使用し、そのまま破壊されてしまった機械人形の殘骸を(また)ぎながら、略奪者たちが使用してした檻の側に向かう。
錆びの浮いた檻のなかには、悪臭を放つ錆びたバケツやら黃ばんだマットレスが放置されていて、何者かが収監された痕跡が確認できた。
「どう思う、カグヤ」
しばらくの沈黙のあと、彼の聲が耳に聞こえる。
『醫療班がこの場所にいたのは間違いないと思う』
地面に殘された醫療組合の外套(がいとう)に視線を落とした。薄水のドクターコートはその場に捨てられていて、數人分の足跡で汚れていた。
「ずいぶんと慌てて出ていったみたいだな」
何者かの痕が外に続く天井の縦に向かって點々と殘されていた。
『あとを追うの?』
「ああ、そのつもりだ」
『罠だとしても?』
私はうなずいて、サブマシンガンを構える。
天井から崩落していた瓦礫(がれき)の上を歩いて外に出て、橫倒しになった観覧車の裏手に出る。周囲に人の姿はないが、作業用大型ヴィードルが建の側に止められているのが見えた。縦席の扉は開いていたが搭乗者の姿はない。ヴィードルの後部に取り付けられた大きなコンテナは、どうやら人を収監するためのモノで鉄格子の付いた小窓が確認できた。
その小窓から薄暗いコンテナの部を覗き込んでみるが、人の姿はない。ひどい臭いを放つバケツが転がっているだけだった。
『別の車両で連れ出したのかも』と、カグヤが言う。
「どういうことだ?」
『ほら、ヤンが言ったこと思い出して』
周囲のきに警戒しながら橫倒しになった観覧車の側へと向かう。
「……捕らえられた人々は、二臺の大型ヴィードルに収監された」
『そう。この場に人を収監できそうなヴィードルは一臺しか殘っていない。たぶんクレアたちは、戦闘の混に乗じてもう一臺の大型ヴィードルで何処(どこ)かに連れさられたのかもしれない』
「遅かったのか?」
拡張現実の地図が表示されると、カグヤは捕らえられた人々が乗せられているかもしれない大型ヴィードルの移経路を予測する。
『安心して、廃墟の街で大型ヴィードルが移できる場所は限られている。ヤンたちに予測経路を送信しておく。もしかしたら――』
「カグヤ、靜かに」
私はその場でを低くすると小銃を構える。
瓦礫(がれき)のに、ぼんやりとした幽霊のような人の影を見たような気がした。半明で朧気(おぼろげ)な影はひとつだけじゃなかった。
「囲まれているな……迂闊だった」
小聲でそう言うと、を隠せるような場所がないか確認する。
『もしかして、環境追従型迷彩?』
〈環境追従型迷彩〉は周囲の相をスキャンして、類の表層に環境に適応したカモフラージュパターンを瞬時に生する舊文明期の技だ。おそらく敵は環境追従型迷彩に似た何(なに)かしらの學技を搭載した裝備を使用している。
銃弾が飛んできて、私の耳元を掠(かす)めていった。風切り音に顔をしかめて橫に飛び退(の)くと、弾丸が飛んできた方角に向かってサブマシンガンを掃した。けれど手応えがなかった。弾倉が空になったサブマシンガンを手放すと、ホルスターからハンドガンを引き抜いた。
耳元で嫌な聲が聞こえたのは、ちょうどそのときだった。
「やっと見つけた」
■
遠くで誰かがブツブツと話す聲が聞こえる。
「だから言ったんだ」と、聞きなれた聲が言った。「お前がいる世界は、これまでの常識が一切、通じない世界なんだ」
頭痛がした、ひどい吐き気も。
「レイダーギャングが學迷彩に似た裝備を持っていても、不思議でもなんでもない。忘れたのか、連中は教団と手を組んでいたんだ」
頬(ほお)に冷たい汗が流れる。周囲は真っ暗でなにも見えない。
「不死の導き手は武を富に所持していた。そうだろ? でなきゃ〈三十三區の鳥籠〉を襲撃しようなんて考えなかった」
『レイ! しっかりして。ねぇ、お願い。私の聲、聞こえる?』
「ああ、聞こえているよ」
聞きなれた聲がカグヤに返事をした。そこで私はふと気がつく。そうか、今までずっと喋っていたのは私だったのか。
『よかった……』
なんとか重い瞼(まぶた)を開いた。
「よう、目が覚めたか?」
視線を上げると、なりのいい男が近くに立っていた。男の周囲には、薄汚れた格好に不釣り合いな、灰のマントを羽織った數人の略奪者がいる。私に聲をかけた男は、汚れて変した赤いクッションのある豪華な椅子に座る。
「……まるで王様だな」
私の軽口に男は鼻で笑うと、椅子にもたれてタバコに火を點けた。
「お前に拠點を襲撃されたあと、俺たちは必死にお前を探したんだぜ」
「それは知らなかったよ。でも貧乏暇なしって言うだろ? 俺も忙しかったんだ。同じことがないように、次からは連絡先を殘して行くよ」
男は苦笑いを浮かべて、濃いれた髪をかきあげた。彼は〈ジャンクタウン〉で見かけた教団の宣教師が著ていたのと同じ紺のコートをに著けていた。
「この狀況でも強がるか……英雄にでもなったつもりか?」
私はが混じった唾を吐いた。口の中を切ったみたいだ。
「英雄になんて興味はない。まぁ、強くはありたいと思っているけど」
男はの奧で音を立てて笑った。
「強くね……お前、まさか生きてこの場所から出ていけると思ってるのか?」
急に視界が點滅して、顎と後頭部に強い痛みをじた。いつの間にか仰向けに倒れていて、そこで初めて男に毆られたことに気がついた。
空には灰の厚い雲が立ち込めていた。今にも空が落ちてくるような気がして、私はうんざりして溜息をついた。上を起こそうとして腕を持ち上げたが、上手(うま)くいかなかった。視線をかすと、両手首に鉄の枷(かせ)が嵌(は)められていることに気がついた。それは地面からびる鎖につながれていた。
余裕を見せようとして無理に笑みを作り、それから聲に出さずにカグヤに呼び掛けた。
『カグヤ、ミスズたちの狀況を教えてくれ』
『多腳戦車との戦闘を避(さ)けて、今は戦場から離した大型ヴィードルを追跡してる。もうしでクレアたちを確保できると思う』
「気にらないガキだ」と、男の聲がした。彼はタバコの煙を空に向かって吐き出した。「こんな綺麗な顔をした糞ガキに、仲間が大勢殺されるなんて夢にも思わなかった」
「綺麗だって思ってくれているのなら、もう毆るのは止(よ)してくれないか」
顔面に衝撃をじたかと思うと、後頭部を強く打ってもだえる。痛む頬に手をばそうとするが、短い鎖の所為(せい)で手が屆かなかった。
「カルトの連中に売るために捕まえていた特別なは盜られるし、街では仲間を大勢殺された。てめぇは疫病神の類(たぐい)なんじゃないかって思っていたよ」
『レイ、大型ヴィードルを見つけたよ。拐された人たちが乗ってるコンテナも確認した』
カグヤの聲が痛む頭の中で反響する。
「聞いてるのか? おい」
男は私のハンドガンを奪っていたのか、その銃口を私に向けた。
「聞いている」と私は答える。「不死の導き手はどうしたんだ。全員殺したのか」
「いや」と男は頭を振る。「最後まで殘ってた偉(えら)そうな奴には逃げられたよ。俺は気にしてないがな。なんたって、連中には大層な本部があるみたいだしな。そこに行けば俺たちは腐るほど食料を手にれられるってわけだ」
「よかったな」と、私は唾を吐いた。
「それで、てめぇはなにしにこの場所に戻って來たんだ?」
男は怒りを隠そうと、素っ気無く言ってみせた。対照的に私は笑顔を見せながら言う。
「遊びにきたんだ。知らなかったのか? 遊園地は遊びに來る場所なんだ」
男はハンドガンのスライドを引くと、銃口を私に向けた。
「お前を捕まえようとして、多くの手下を鳥籠に送ったんだよ。けど連れて帰った者はいなかった」
「俺だって來たくなかったさ」
「狙いは醫療組合の連中か?」
「そうだ。無駄足だったけどな」
男は鼻で笑うと地面に痰を吐いた。
「はどうした?」と、男はニヤケながら言う。
「? どのだ」
銃聲が響いて肩に衝撃をける。私は顔をしかめて、熱を持つようになった傷口に視線を落とした。
「知らないか、そうだよな。なんてお前は知らない。なら武庫の監視カメラの映像に映っていたのは、一誰だったんだろうな」
男はそう言うと、略奪者たちと一緒になって下品な笑い聲をあげた。
『レイ、よく聞いて』と、カグヤの言葉が頭に響いた。『レイのにあるナノマシンで痛みは制できる。でも傷口の修復には、ナノマシンでもそれ相応の時間が必要になる。その間、止しなければは流れ続ける。だからもうそいつのことは挑発しないで。ミスズたちの戦闘が終わったら、すぐにレイを助けるために遊園地に來てもらう。だからお願い』
男は私の側に屈みこむと、私の額にハンドガンの銃口を押し付けた。痛みはじないが、ぼんやりとした熱を銃口からじた。
「おい、聞いてるのか? さっさと答えろ」
私は顔をそむけながら答える。
「お前は口の中に人擬きでも飼っているのか? ひどく臭うぞ」
『レイ!』と、カグヤが聲を上げた。
男は立ち上がると振り向き、彼のことを笑った仲間の略奪者を撃った。そのあと男はゆっくり私に振り返った。
腹を蹴られた。痛みはないが、の混じった胃を吐き出した。自分で言うのも嫌になるが、ひどい臭いがした。
「どうした? うん? 笑えよ、糞ガキ」と、男は抑揚(よくよう)のない聲で言う。
私は口の中が気持ち悪く、唾を何度か吐いた。
「なんだ、その目は」男はおかしそうに言った。「そう言えば最近、捕らえた人間の中に、そんな目をする反抗的ながいたっけな」
私は黙って男に視線を向けた。いつの間にか降り出した雨が、錆びて折れ曲がった観覧車の鉄骨を叩いて軋(きし)ませていた。
「たしか……赤髪のだったな」と、男はニヤついた顔で言う。
私は立ち上がり男に飛び掛かろうとしたが、鎖に拘束されていた所為(せい)で、そのまま地面に顔を打ちつけるようにして倒れた。
「クレアに何をした」
濡れた土の匂いを嗅ぎながら、私は言葉を吐き出した。
「そうか……クレアっていうのか、あのお嬢ちゃん。いやね、言うことを聞かない反抗的ながいたからな、俺らなりの調教をしてやったんだ」
鎖が軋み、鉄の枷が手首に食い込むのをじた。
『レイ、落ち著いて。そいつはレイのことを挑発して楽しんでるだけ、そいつの言うことは聞かないで』
カグヤの言葉を無視して私は言う。
「何をした」
「想像通りのことだよ」と、男は笑う。「分かるだろ? 俺たちはそういうのが好きなんだ」
力任せに鎖を引っ張ると、右手を拘束していた枷が鎖と共に弾け飛んだ。私が立ち上がると、略奪者たちは私にライフルを向けた。どいつもこいつも憎たらしい笑顔を浮かべている。
「くなよ、糞ガキ。お前を簡単に殺したくないんだ」と、男は指を立てた。「まずは仲間たちに犯させる。安心しろ、ここには男が好きな奴が大勢いる。次に生きたまま皮を剝(は)いでやる。失死しないように傷口を焼きながらな。次にお前の……クレアとか言ったな。そいつにも同じことを、てめぇの目の前でやる。もちろん、それでも俺の気は済まないだろうな。だから――」
太を撃たれると、私は(からだ)のバランスを失って倒れる。
「言ったよな、くなって」
『レイラ、お願い。もうかないで。それから聞いて、ミスズたちが大型ヴィードルを確保した。今からコンテナを開放する。きっとクレアも無事だよ。だから――』
カグヤの聲が頭に反響して痛む。
頼むから黙っていてくれ。
『黙らない。ねぇ聞いて――』
私は足に力をれて立ち上がろうとする。怒りと憎しみでが締め付けられて苦しい。それでも何(なに)かがの奧で渦巻(うずま)いている。それは今にも私のを引き裂いて飛び出そうとしていた。
殺してやる。
全員、殺してやる。
誰も生かしてはおかない。
『うるさい!』と、カグヤが聲をあげた。『レイが黙って。クレアは大丈夫。そいつらも私たちが何とかする。だから――』
私の拳が男の顔面を捉える寸前、私は後方に吹き飛び、壁に背中を打ち付けた。せき込みを吐き出すと、視線を上げた。霞(かす)む視界のなか、ショットガンを構える略奪者のが見えた。彼のショットガンの銃口からは煙が立ち昇っていた。
そうか、撃たれたのか。私はボディアーマーを眺める。至近距離ではあったが、ボディアーマーは散弾をけ止めていた。けれどその衝撃はどうしようもなかったようだ。肋骨が折れているのかもしれない。開いた口から、粘度の高いが滴る
『レイ! 大丈夫なの? お願いだから答えて、レイ!』
ぼんやりとカグヤの聲が聞こえた。
茫漠(ぼうばく)とした意識で、私は思考する。
なんのために私はこんな世界で目を覚ましたんだろうか。
崩壊した世界の果てで、こんな慘めな恰好で死ぬためだったのか?
好きな語があった。英雄の語だ。
彼は孤獨な英雄だった。
私は震える息を吐き出した。肺をやられたのか、ひどく苦しかった。
いや、違うな。彼は孤獨じゃなかった。彼の側には神がいて……俺が死んだら、カグヤは悲しんでくれるだろうか、ミスズは……。
「ミスズは……」と私はつぶやいた。
「なんか言ったか、糞ガキ」
男は私に言葉を投げかけた。けれど彼の言葉は私を通り過ぎていった。
彼は私のすぐ側に屈みこむと、臭い息で言った。
「お前、死ぬのか?」
「死なない。お前を……殺すまでは……」
私の言葉に男は立ち上がり、ニヤリと笑みを浮かべて銃口を向ける。
すると特徴的な鈍い音が周辺一帯に轟(とどろ)いた。
それは男が手に持つ拳銃から発せられた音ではなかった。男の手は閃に呑まれ、ハンドガンと共に融解(ゆうかい)して消失した
男の悲鳴を聞きながら視線をかすと、橫倒しになった観覧車を乗り越えるように、多腳戦車があらわれるのが見えた。
砲が瞬くと閃が発されて、周囲に轟音を響かせる。高出力のビームが発生させる閃が掠(かす)めると、私の目の前に立っていた男のが破裂する。煮立ったを被った私が瞼(まぶた)を開くと、戦車の上に立つ人影が見えた。けれどよく見てみると、それは人ではなかった。いつだったか廃墟で見かけた〈守護者〉だった。
その守護者は、人間の骨格を模(も)した金屬製の真っ白な(からだ)に古びたロングコートを纏(まと)っていた。赤のお面からは表は窺(うかが)い知れなかったが、頭部からびる二本のシカのツノにはたしかに見覚えがあった。
略奪者たちの悲鳴を聞いて視線をかすと、黃いレインコートを著た子供型の守護者が略奪者たちのを引き裂いているのが見えた。文字通り、人間のを軽々と引き裂いていた。
守護者の集団が何処(どこ)からともなく集まってくる。彼らは抵抗を見せる略奪者たちを瞬く間に制圧した。いや、殺していった、が表現としては正しいのかもしれない。
「紛(まが)いモノ風が、不死の子供に手を上ゲるとはナ……」
シカのツノを生やした守護者はそう言葉を吐き捨てると、他の守護者と聞き取れない速度で會話を始めた。それが會話だったと認識できたのは、彼らの何人かが音に反応してうなずいていたからだった。
シカのツノを持つ守護者が周囲の守護者に対して何事かを話すと、生きた骸骨のような姿をした守護者たちは何処(どこ)かに行ってしまう。その場に殘った守護者たちは、雨に打たれながら私を見つめていた。
「葬式には、まだ早い……」
軽口を言おうとするが、私の聲はかすれていて言葉にならなかった。
守護者は私に向かって何(なに)かを口にする。しかし言葉が早すぎて私には理解できなかった。彼は私の側にしゃがみ込むと、私の太に何(なに)かを刺した。それは見たことのない注だった。
「応急処置ダ」
守護者は機械的な合音聲でそれだけ言うと私の側を離れて、多腳戦車の〈サスカッチ〉に飛び乗った。制を失い暴走していた自律型の戦闘車両は、今は別人のように大人しくなっていた。
どうしてだろうか、と薄い意識の表面で考えていると、いつか廃墟で遭遇した黃いレインコートを著た子供型の守護者が私の側にやって來る。
「はい、落とし」
いの子の聲で守護者は言うと、握った金屬の拳を突き出した。私がに濡れた手を差し出すと、小石のようなものが手のひらにのせられた。確認すると変形した鉛玉だった。
「バイバイ」
黃いレインコートの守護者は私に手を振って去っていった。
落としたんじゃなくて狙撃したんだよ。鉛玉は捨てようとも考えたが、せっかくなのでポケットにしまった。
守護者たちがいなくなると、私は暗い空を仰ぎ見る。雨粒がに汚れた顔を洗っていく。カグヤとの通信は先ほどから繋がらなかった。クレアは無事だろうか……。ヤンとリーはどうだろうか?
ミスズは……。
どうしてだろう。傷口から流れるはやけどするほど熱いのに、は凍えそうなほど冷たく震えが止まらなかった。
「レイ!」
のやわらかい聲が近くに聞こえた。
「エレ……ノア?」
彼は私に抱き著くと、傷口を確かめるためにボディアーマーを外そうとする。
「生きてるか、レイ」
聲の主はイーサンだった。彼はミスズやエレノアが著ているような、高価なスキンスーツを著ていた。最初、彼が誰なのか分からなかった。でも別に不思議なことじゃない。傭兵団の隊長が戦地を草臥(くたび)れた背広でうろつくわけがない。
「どうして……ここに」と、私は訊(たず)ねた。
「助けにきたんだよ」と、イーサンは略奪者たちを殺している守護者を見ながら言った。「その必要はなかったみたいだけどな」
「クレアは……」
「クレアの嬢ちゃんは無事だ。ミスズたちが助け出した」
「よかった……」
意識が深く暗い闇のなかにストンと落ちていく気がした。そこには何も存在していないようにじられた。痛みも、怒りも、憎しみも。
不老不死とは私のことです
うっかり拾い食いした金のリンゴのせいで不老不死になってしまった少女、羽鳥雀(15歳)。 首の骨を折っても死なず、100年経っても多分老いない彼女が目指すは、不労所得を得て毎日ぐーたら過ごすこと。 そんな彼女は、ラスボス級邪龍さんに付きまとわれながらも、文字通り死ぬ気で、健気に毎日を生きていきます。 ※明るく楽しく不謹慎なホラー要素と、微妙な戀愛要素を盛り込む事を目指してます。 ※主人公とその他アクの強い登場人物の交遊録的なものなので、世界救ったりみたいな壯大なテーマはありません。軽い気持ちで読んでください。 ※魔法のiらんど様に掲載中のものを加筆修正しています。
8 64「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。
ある日大學中退ニートが異世界に転生! 「最強」に育てられたせいで破格の強さを手に入れた主人公――スマルが、強者たちの思惑に振り回されながら世界の問題に首を突っ込んでいく話。
8 183最強の超能力者は異世界で冒険者になる
8 121創造の力で異世界無雙~言霊使いの異世界冒険譚
目を開けてみるとそこには見知らぬ場所が。そこで創造神やら何やらに世界を調整して欲しいと言われた。そして何かを戴けるそうなので俺は━━━━━━━━ 神様達からの加護で『創造』やら何やらの力(チート)を貰った俺は異世界を堪能しながら調整とやらを行っていった。現実世界でも最強の幸は異世界でも最強のようです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━処女作です。可愛がってください。 誤字脫字等あったら教えてください。逐次更新していきます。 週に1、2回にします。ちょっとキツくなりましたので。 もし、面白いと思ってくれたなら、高評価お願いします!
8 88FreeWorldOnline~初めてのVRはレア種族で~
このお話は今年で高校一年生になり念願のフルダイブ型VRMMOをプレイ出來るようになった東雲亮太が 運良く手にいれたFreeWorldOnlineで好き勝手のんびり気ままに楽しむ日常である
8 195量産型ヤンデレが量産されました
朝起きたら妹の様子が超変だった。 不審に思いつつ學校に行ったらクラスメイトの様子が少し変だった。 そのクラスメイトから告白されて頼み事された。 俺は逃げた。 現在1-13話を改稿しようとしてます 文章のノリは14話以降が標準になるのでブクマ登録するかの判斷は14話以降を參考にしていただけるとありがたいです。 現在1-3話を改稿しました
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