《不死の子供たち【書籍販売中】》038 雙子 re

その日、我々は廃墟の街で遭遇した武裝集団に襲撃された。

付近の建に略奪者たちが潛んでいることに気がついていなかった私とミスズは、建上階からウンザリするほどの撃をけていた。彼らが統率(とうそつ)の取れた集団なら、あるいは私とミスズを仕留(しと)められていたのかもしれない、しかし武裝集団は連攜もまともに取れていなかった。バラバラに始まった雑な襲撃で、私とミスズは何とか難を逃れていた。

銃弾の衝撃によって(は)ぜた瓦礫(がれき)が飛んできて、ミスズのヘルメットに直撃した。痛みはなかったはずだ。けれどその事実がミスズをひどく揺させた。私は前方にスモークグレネードを放ると、ミスズが後退するのを掩護(えんご)しながら建を隠した。

周囲の高層建築によって生まれた薄暗い日のなかで、略奪者のライフルから発せられるマズルフラッシュが瞬(またた)いて見えた。

「聞いてくれ、ミスズ」彼の頬を両手で挾みながら言う。「カグヤの遠隔作でヴィードルがこっちに向かってきている。ミスズはヴィードルに搭乗して、俺を掩護してくれ」

「すみません、油斷していました」と、ガスマスクの奧に見える琥珀(こはく)の瞳が揺れる。

私は頭を振ると、彼の目を見ながら言った。

「気にするな、ミスズ。これは不測の事態だ。鳥籠の近くにレイダーの拠點があるなんて、普通は考えられないことだからな」

そのときだった。我々がを隠していた建に向かって銃弾の雨が浴びせられて、ミスズの(からだ)が恐怖で強張(こわば)る。

私は太のホルスターからハンドガンを引き抜いた。

『弾薬の補給、または専用弾倉を裝填してください』

耳に聞こえた事務的なの聲を無視するように、ハンドガン専用の弾倉である長方形のブロックではなく、通常の弾薬が込められている弾倉をハンドガンに押し込んでスライドを引いた。

『通常弾が選択されました。殘弾を表示します』

拡張現実で表示されているインターフェースに、ハンドガンの充電狀態と弾倉に込められている弾薬の殘弾が表示される。

ちなみにハンドガンはと熱によって充電される。握っているだけで常に充電される仕組みは、ミスズが持つ舊文明期の〈攜帯報端末〉と同じだった。

ハンドガンが充電されることによって、いくつかの機能が解放される。それは例えば、〈自己診斷機能〉や〈自己修復機能〉だったり、塵やからの〈自己防衛機能〉や弾丸の出時に追加の機能を付與(ふよ)する機能であり、ハンドガンの能向上が期待できるものだった。

検問所の地下で見つけて手でれた瞬間から、ハンドガンの充電は行われていた。それ以來、充電が切れていないので確(たし)かなことは分からないが、充電され機能が充分に働いていなければ、通常弾で人擬きは殺せないのかもしれない。

『ミスズ、乗って!』カグヤの聲が耳に聞こえた。

後方に停車させていたヴィードルが、カグヤの遠隔作で我々の側に來ていた。

「分かりました!」

ミスズはヴィードルに乗り込むと、コクピットを保護する防弾キャノピーを閉じて、建の壁面に飛びついた。

「レイラ、これから掩護します!」

ミスズがいなくなるとハンドガンを構えて、からわずかにを乗り出す。そして略奪者たちが潛んでいる遮蔽(しゃへいぶつ)に照準を合わせて引き金を引いた。

ハンドガンの上部にホログラムの照準が浮かび上がると、銃の形狀がわずかに変化して弾丸が発された。撃による反は微(かす)かにじられるがが、銃聲はほとんど聞こえない。

撃のあと、視界の端に表示されていた〈カラス型偵察ドローン〉から信する映像を確認した。

弾丸は遮蔽を貫通して、その後ろにを隠していた略奪者に致命傷を與えていた。撃たれた男は倒れたままピクリともかない。

すぐに建に隠れると、上空を旋回していたカラスから信する映像を確認して、敵の位置を確認していく。固まって隠れている三人の略奪者を見つけるとタグをつけていった。これで障害の後ろに隠れていようが、赤の線で郭(りんかく)が縁取られた略奪者たちの姿が遮蔽(す)かしてハッキリと見えるようになった。

息を吐き出し、次のきに備えてミスズの合図を待つ。

『今です!』

ヴィードルが隠れていた略奪者たちの側面から強襲する。

蜘蛛(くも)のように自由自在に建の壁面を移しながら、ミスズは重機関銃を使用した攻撃を行う。機関銃の獨特な鈍(にぶ)い撃音が聞こえて、略奪者たちに向かって銃弾がバラ撒かれていく。

略奪者たちが混している隙(すき)に、私は瓦礫(がれき)の間をうように駆けて、最適な撃位置に向かう。そしてタグ付けしていた略奪者たちに向かって立て続けに撃を行う。彼らが倒れたことを視界の端(はし)に表示されていた映像で確認すると、略奪者が拠點にしていた建に侵していった。

は薄暗かったが、人改造によるモノだと思われる特別な瞳が瞬時に暗闇に順応(じゅんのう)した。散らかった廃材と汚泥、そして雑草が生い茂る室を進み、上階に向かうための階段を探す。その間、常に周囲を警戒しながら慎重に歩いた。

ミスズが外に展開していた略奪者たちの注意を引き付けている間に、私は建の制圧を行っていく。

急に建にあらわれた私に驚いて、略奪者の男の反応が遅れた。私は思いっきり振り抜いた鉈(なた)で男の手首を切り落とすと、を捻(ひね)り回し蹴りを叩きこむ。倒れた男の首は折れたのか、不自然な方角に曲がっていた。

部に強い衝撃をけると、私はすぐに柱のを隠した。數発の弾丸をけたが、ボディアーマーのおかげで何(なん)とか怪我をせずに済んだ。

の痛みに耐えながら、握っていた鉈(なた)を床に突き刺すとハンドガンを抜いた。そしてそのまま柱のから出ることなく、こちらに向かって銃弾を撃ち込んでいた略奪者に向かって発砲した。弾丸はコンクリートの柱を貫通して略奪者の(からだ)を破壊する。

「聞こえるか、ミスズ」

『はい。聞こえています』

「そっちの狀況は?」

『問題ありません。敵はヴィードルのシールドを破壊できるだけの火力がある武を所持していません』

ミスズの言葉のあと、建の外から重機関銃の撃音が斷続的に聞こえた。

「わかった。でも油斷だけはするなよ」

『了解です!』

ミスズとの通信が切れると、ハンドガンの橫に拡張現実で表示されていた殘弾を確認した。いちいち弾倉(だんそう)を抜いて、殘弾を確認しなくていいのは便利だったが、(からだ)に染みついた癖(くせ)からか、弾倉を抜いて殘弾の確認をしてしまう。

柱のから出てこない私に焦(じ)れたのか、略奪者が出鱈目に撃を行う。

銃聲は建で反響したが、インターフェースには音の出所がハッキリと表示される。私は略奪者のきを予測して偏差(へんさ)撃を行う。略奪者が倒れたことを音で確認すると、足元の鉈を引き抜いて、を隠していた場所を急いで変える。その間、敵からの攻撃はなかった。

と、上階から銃聲が聞こえてくる。何者かが派手に戦しているようだった。

の外に視線を向ける。崩れてポッカリと開いた橫の先に、ミスズが縦するヴィードルの姿が見えた。どうやら上階で略奪者たちと戦しているのは、我々ではない第三の勢力になる。私は警戒しながら建を進んでいく。

垢(あか)にまみれた酷(ひど)い臭いがする汚い略奪者たちの死が次第に目につくようになった。を流していない死が多かった。ほとんどか鈍による打撃で殺されていた。誰がやったにしろ、その戦闘能力は驚異的だった。

逃げるようにして姿を見せた數人の略奪者を殺しながら、私は上階に向かう。破裂音が聞こえると、砂煙が階段に吹き込んできた。私は砂煙の中にっていくと、煙の流れに逆らうように先に進む。

數メートル先の視界もハッキリしない砂煙のなか、略奪者が眼前に現れる。恐怖からなのか、は目をいっぱいに見開いていて不気味だった。私は彼の首に鉈(なた)を叩きこむと、ゆっくり先に進んでいく。

崩れた壁から吹き込む強風が砂煙を吹き飛ばし、室の視界を良好にしてくれる。銃聲はもう止んでいた。聞こえるのは略奪者の苦しそうに咳き込む音だけ。視界の側にしゃがみ込んでいると、足音が聞こえた。私はすぐに立ち上がると、足音が聞こえた方角にハンドガンの銃口を向ける。

視線の先には戦闘用のスキンスーツを著たが二人立っていた。彼たちの周囲には略奪者たちが橫たわり、咳込む瀕死の男の姿も見えた。

たちの顔は分からなかった。ガスマスクをしていて、目元しか見えていなかった。すらりとした長で、黒髪は長く艶(つや)があった。綺麗に整えられた清潔のある髪のは、とても廃墟の街で殺しをするような人間のモノには見えなかった。

たちのスキンスーツは、(からだ)の線がハッキリと分かるほどピッチリとしたモノで、灰を基調としていた。それはおそらくミスズが著ているのと同じような、パワーアシスト機能を備えた特殊なスーツだ。

たちのの一人が、黒のチェストリグのポケットから弾倉を抜いて、手元のアサルトライフルの裝填(そうてん)を行う。

その間、くものはいなかった。外で行われている略奪者たちとミスズの戦音だけが、崩れかけた建に反響していた。

「何者だ?」

私の問いに、彼たちは互いの顔を見合わせた。

「あなたは私たちの敵?」

片方のが言った。ガスマスクの向こうから聞こえる聲はくぐもっていたが、冷たい響きを宿しているのが分かった。

「俺がレイダーに見えるのか?」

たちは何も言わなかった。

私は溜息(ためいき)をつくと彼たちに言った。

「違う。俺はただのスカベンジャーだ。元も保証できる」

「そう。なら、こんな危険な場所で何(なに)をしているの?」

「レイダーギャングと戦しているヴィードルが見えるか? あれには相棒が乗っている。俺たちは〈二十三區の鳥籠〉に向かう途中、レイダーに襲われたんだ」

しばらくの沈黙。

誰も何も言わなかった。瀕死の男はその間に息絶えた。形(みなり)からして略奪者だったので、私は気にもしなかった。

『普通の人間には見えない』と、カグヤの聲が聞こえる『でも機械人形でもない』

『人の皮を被った守護者か?』と、私は聲に出さずに冗談を言う。

『まさか、そんなものが存在しているなんて、私は聞いたこともないよ』

『それなら、あれはなんだ?』

『レイみたいに、人改造された特殊な人間だよ』

『俺みたいな?』

『レイは改造されてるけど、それでも見た目は普通の人間でしょ。ゴテゴテの機械部品で人改造された人間よりも、ずっと優れた能力を持ってる。あの子たちも、レイみたいに普通の人間じゃないと思う』

「もう一度、質問(しつもん)する」私はそう言うと、にハンドガンの照準を合わせた「お前たちは何者だ?」

しゃがみ込んで死を確認していたもう一方のが立ち上がり、ライフルの銃口を私に向けてから言った。

「お姉ちゃん、こいつ殺してもいい?」

「ダメ」私と対峙(たいじ)していたが言う。「この人達はお客さん。私たちの獲じゃない」

「そうなんだ」

アサルトライフルを持ったはそう言うと、ガスマスクを外した。

「外しちゃダメって言ったでしょ」

「だって息苦しいだもん、それに、ここでは必要ないし」

「仕方ないわね」

は肩をすくめて、それからガスマスクを外した。

二人の顔は、まるで日本人形のように巧(せいこう)な作りをしていた。

き通る白いに切れ長の目。そして小さな鼻と大きすぎないぷっくりとした。控えめに言っても綺麗過ぎるは、意思の強そうなヒスイの瞳をもち、もうひとりは菜の花の瞳を微(かす)かに発させていた。

驚いたことに、彼たちはそっくりな顔をしていた。瞳のだけが異なっていたが、一目見ただけでは判別が難しいほど二人は似ていた。

〈二十三區の鳥籠〉についての報が頭を過(よぎ)った。

「お前たちはクローンか」と、私は率直に訊(たず)ねた。

「クローン?」と、ヒスイの瞳を持つが不愉快そうに首をかしげる。「違う。私たちは雙子」

「どうしてレイダーと戦闘を?」

しい人に頼まれたんだよ。レイダーたちを始末してきてくれって」と、菜の花の瞳を持ったが微笑む。

「あなたのじゃない、私のしい人よ」と、ヒスイの瞳をしたが反論した。

「そうかな、私のしい人だと思うけど」

「違うわ」

私は咳払いする。

「誰のしい人でも構わない、とにかく俺は君たちと敵対する気はない。今から銃を下げる、だから勘違いして撃つなよ」

そう言うと、こちらに銃口を向けている菜の花の瞳を持つを刺激しないように、ゆっくりハンドガンをホルスターに収めた。

「ユウナも銃口を下げて」

ユウナと呼ばれた菜の花の瞳を持つは、素直に銃口を下げた。

すると敵を全滅させたのか、ミスズがヴィードルで室に飛び込んできた。

ユウナはヴィードルに向かってライフルを素早く構えた。

「待ってくれ」と、私はヴィードルの前に出る。

正直、シールド生裝置が搭載されているヴィードルに銃弾は効果がないが、ミスズがユウナの攻撃に反撃するかもしれなかった。そうなった場合、事はややこしい方向に転がる。私はそれを嫌(きら)い、ヴィードルの前に出てユウナの攻撃を制(せい)した。

「そのヴィードル。壊してもいい?」

ユウナがそう言うと、彼が姉と呼んでいたは頭を振る。

「ダメ」

ヴィードルの防弾キャノピーが開くと、ミスズが顔を出した。

「レイラ、無事ですか!」

「なんともないよ。ミスズは?」

「問題ありません。それで……えっと、今の狀況を訊(き)いてもいいでしょうか?」

ユウナたちの手助けもあったが、建の略奪者は問題なく制圧できたことを話した。

「そうですか……ありがとうございます」

ミスズがヴィードルを降りると、ユウナはミスズの手を握りながら話し始めた。

「私たちはしい人のために働いただけだから、謝はいらないよ。それより、ミスズはミスズって言うの? よろしくね。私はユウナ」

馴(な)れ馴れしい距離のユウナに戸(とまど)いながらも、ミスズは彼と言葉をわす。

その間、一切の隙(すき)を見せることなく私の正面に立っていたに訊(たず)ねる。

「それで、さっき俺のことをお客さんって言っていたけど、君たちは〈二十三區の鳥籠〉の関係者なのか」

「そう」と、は素っ気なく言う。「私たちはもう帰るけど、一緒に來る?」

「遠慮するよ。まだやることがあるからな」

私は彼たちのことを信用していなかった。あれだけの數の略奪者を相手したのに、汗すら掻いていない異質な存在だ。できるだけ近に置いておきたくなかった。

は周囲にちらりと視線を向けて、それからうなずいた。

「そうね、貴方たちはスカベンジャーだものね」

「ネズミさんか」

チュウチュウ、とユウナはネズミの鳴き聲を真似た。

似てはいなかったが可(かわい)かった。

たちがいなくなると、ミスズは私に訊(たず)ねた。

「どうしてネズミなのですか?」

「スカベンジャーの蔑稱(べっしょう)だよ。ゴミ拾いのネズミ」

私の言葉にミスズは顔をしかめた。

「ゴミ拾いのネズミですか、なんだか可くないですね」

「そうだな」と、私は苦笑した。

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