《人類最後の発明品は超知能AGIでした》07.ヒューマノイドという
『マスターリューイチ、それはなんですか?』
畫面の中で、アスカが俺を呼んだ。
読んでいた資料から顔をあげて、アスカのカメラから見える位置にそれを回す。
「國際ロボット博の寫真を見てたんだ。ほら」
『國際ロボット大博覧會ですか……総來場者數約20萬人。世界88カ國から約3萬人もの人が訪れる“ロボットとともに人に優しい社會を目指す、世界最大規模のロボット専門博覧會” うわぁ、たくさんのヒューマノイドがいるんですね……』
即座にインターネットから報を収集したアスカは、1枚の寫真を畫面の半分に表示して興味深そうに続ける。
『こちらの白いヒューマノイドは部構造に人に近い骨格と筋、腱をもっていて、人と同じきを可能にしているそうです』
「へえ。俺はそのあたりのことは詳しくないからな。アスカのを作るのに的な設計を検討中なんだが……」
そこまで言ってから、ふと思いついた。
「スサノオに設計させてみるか」
『ヒューマノイドをですか?』
「俺は専門外だし、それが一番早そうだよな」
『マスターリューイチ……本當に、私にを?』
「ああ、近いうちに。楽しみにしていてくれ」
畫面上に花火が飛んだ。花吹雪が舞って、オマケのレベルアップ音。
喜びをユーモアで表現しているらしい。
アスカの無邪気さに、俺までうれしくなって笑った。
スサノオが人間以下の知能から、人間をはるかに超える知能への移行、離陸(テイクオフ)を果たして、半年が経っていた。
関連會社のセンセーショナルな功は時にありがたくない注目を集める。
その為、スサノオが得た資金の一部は報作のために使われた。
偽の報を流して真実を撹し、有名人にメディアで「誰が作った何がすごい」という話をさせ、汎用AIが存在することから目を背けさせる。
それらは功を奏して、數々の偉業をし遂げているスサノオの正に気付くものは、誰もいなかった。
世界経済の多くの分野で足場を築き上げたスサノオは、そのデータやリソースを増やすたびに自らの設計を改良し続けた。
スサノオは萬能だった。
従來のものよりも劇的に改良された自組立工場を設計し、世界クラスの科學者が目を丸くするようなハードウェアすらも開発していった。
希な炭鉱を買い占めるように指示し、原料の調達にまで助言をした。
常に先回りしたプランを提示される俺たちは、それらをなるべく早く理解することが主な仕事になっていた。
「頭が疲れる……」
休憩室の機に突っ伏したメンバーのひとりが、そうぼやいた。
俺もだ。毎日フル回転で対応しているのに、全く追いついている気がしない。
「いまや製造業、輸送業、小売業、建設業、工業、農業、林業……すべての分野においてスサノオの世話になっている気がする。この半年間、申請した特許だけで數えきれない。俺が千回生まれ変わっても同じ數の発明品は申請できないよな」
「同だ」
TVから地磁気関連のニュースが流れてくる。
「最近、世間も顔が変わってきたな」
メンバーが言った。
「そうだな。北半球では磁気嵐がすごいから、経済にも影響が出ているみたいだ」
未來予測が分かっている俺たちにも、実が湧かない。
近い將來に、地球全で恐ろしいことが起こるだなんて。
「スサノオのGOサインは出る気配がないか」
今一番気がかりな話題をふると、メンバーは首を橫に振った。
「所長の話では上層部でもめているそうだ」
最初は極裏でいていたプロジェクトだったが、上層部の一部には既に存在が知られていた。
「今開発中の教育ツールを、軍事にまで拡大して利用出來ると言い出した幹部が、CEOに大目玉を食らったらしい」
「ああ、まあそういう考えも出てくるよな。どんな大企業ももう自由市場ではスサノオに太刀打ちできないだろうから」
「みんな金と権力が好きなんだ。人類を救おうなんてボランティアに參加するヤツのほうが、どうかしてるのさ」
自分の頭を指でトントン叩きながら彼はおかしそうに言った。
そうだな、俺たちはみんなどうかしているのかもしれない。
スサノオを創り出した時點で、きっとどうかしている。
俺は休憩の時間を使って、アスカのマシンルームへ向かった。
扉を開けると、聞き慣れない音楽が聞こえてきた。
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