《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》第31話 略奪者の末路

ヨハンを守るために裝備なしの狀態で、たった一人で海賊王を足止めしていたコン。ついにそのを切られ、HPを全て失ってしまう。が粒子となって消滅していく中で、コンはその輝きを見た。

の中から巨大な竜が現れたとき、勝利を確信し、不適に微笑む。

「海賊王……アンタの負けや」

***

***

***

ヨハンの視界にメッセージが表示される。そこにはトランスコードによってヒナドラに宿った新たなスキルの効果が記されていた。

【進化召喚・ヒナドラ】

MPを全て消費して発する。召喚者のストレージにある【クロノドラゴン】又は【メタルブラックドラゴン】を特殊召喚する。

「なるほど……バチモンの【進化】をGOOで再現するとなると、この様になるのね!」

本來ならば【上級召喚】を持っていないと召喚出來ないクロノドラゴンを例外的に召喚することが出來る、非常に強力なスキルと言えるだろう。

「という事は……イヌコロにトランスコードを使えば【ワーフェンリル】も呼べてしまうという事よね? え、待って! これはもう神アイテムでは?」

ヨハンの目が怪しくる。

「よし行くわよクロノドラゴン! あいつをボコボコにして、トランスコードをもっとドロップさせるのよ!」

「……」ジーッ

「な、何よその目は……わかってるわよ……私を信じてくれたみんなの為に……必ず勝つ……でしょ!」

「ぐるるああああああ」

クロノドラゴンが雄びを上げる。

(深紅の目、ブラックモノゾイドメタルの黒い外裝、両肩部のシールド……ヒナドラの意匠をけ継いだ二本のツノ……どこから見てもイケメン過ぎるわ……)

「うふふ……私のクロノドラゴン……カッコいいなぁ」

じゅるりと垂れそうになる涎をすする。

「げはははははは」

コンが引きつけていた海賊王が、今度はクロノドラゴンに襲いかかる。クロノドラゴンの長は6メートル程。対する海賊王のは通常の人間と同じ。普通なら勝負にならないが。

「げはははは」

海賊王は高く跳躍すると、クロノドラゴンの脳天目掛けて剣を打ち付ける。爪をクロスさせてガードするクロノドラゴンだったが、敵の攻撃力は凄まじく、その衝撃で後ろに倒れてしまう。

「クロノドラゴン!?」

上級召喚獣はレベル50程度の戦力。流石に一でレイドボスを相手にするのは厳しいのだろう。

「そうよ。これはゲーム。進化してはい勝ったー! じゃないんだ。私があの子を勝利に導かないと」

ヨハンはメニューからクロノドラゴンのスキルを確認する。上級召喚獣の召喚には本來、莫大なMPが必要である。その分スキルは強力なが揃っているはず……なのだが。

「なっ!? スキル一個だけ!?」

中級と同じく、最初は一つのスキルしか使えない。上級召喚を持っていなければ上級召喚獣のスキル解放は出來ない。萬事休すかと思ったが。

「……いえ、これなら勝てるわ」

クロノドラゴンに使えるのは、たった一つのスキルだった。だがそれは、一つであって一つではない。

「行くわよクロノドラゴン……スキル発――【真時空竜皇領域(タイムメイカー)】

その時、クロノドラゴンの背から、が放たれる。それは蝶の羽のように広がって、やがてフィールド全を包み込んでいく。そして上空にはいくつもの時計を模した魔法陣が現れる。地底湖は、全くの異質な空間へと変貌する。

「その効果により、クロノドラゴンはこの戦闘中に発した全てのスキルを発できる!」

クロノドラゴンの能力は、仲間達の思い、そして敵の思いすらもその翼に宿し、未來へと飛翔する。

ヨハンの視界には、この戦闘で使われた全てのスキルが羅列されている。それは、ゼッカやレンマ、ソロやコンが殘した思い。彼らの戦いは今、この瞬間の為にある。

「……でもやっぱり、やられっぱなしってのも……ねぇ?」

ヨハンが意地悪く笑う。クロノドラゴンを沈めた海賊王は天井まで飛び上がると、壁を蹴って加速。そのままこちらへ剣を振り下ろしてくる。

「クロノドラゴン――【オールスティール】!!」

海賊王のを、竜巻のエフェクトが包んだ。

『【海賊王の帽子】がヨハンのアイテムストレージに移しました』

『【海賊王の服】がヨハンのアイテムストレージに移しました』

『【海賊王の指】がヨハンのアイテムストレージに移しました』

『【海賊王の闘剣】がヨハンのアイテムストレージに移しました』

『【海賊王のマント】がヨハンのアイテムストレージに移しました』

「げはははははは……は?」

全ての裝備を奪われた海賊王。最早、ただの金の骸骨だ。

「クロノドラゴン――【トリプルスラッシュ】!!」

ソロの三刀流攻撃スキルで迎撃する。クロノドラゴンは鋭い爪を伴った手刀を三連撃。裝備を失い防力の大きく下がった海賊王に直撃させる。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

海賊王のからアイテムがドロップする。だがそれを拾っている暇はない。これは勝機だ。

「畳みかけるよクロノドラゴン!!」

「ぐるうああああああ」

クロノドラゴンはその巨大な手で海賊王のをつかみ上げると、そのまま巖へと叩きつける。何度も何度も。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

やはり裝備が無くなった事で、相手の防力は大きく下がっているようだ。先ほどのコン達との苦労が噓のように【略奪者の末路】が発する。

そして、ドロップするアイテム數も、10、20、30と次第に多くなっていく。一向に裝備は帰ってこないが。

「思い通りに戦えなかった私たちの気持ちがしは理解できたかしら?」

クロノドラゴンは跳躍すると、手に摑んでいた海賊王を思いっきり地面に叩きつける。

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発されました』

海賊王のHPは、もう殘り1割を切っていた。

「トドメよ。追撃の――【デュアルスラッシュ】!!」

ふらふらと立ち上がった海賊王目掛けて二連撃を打ち込もうとするクロノドラゴンだが。

「早い……躱した!?」

自分のを分解し、攻撃を躱す海賊王。さっきまでとは速さが違う。そしてバラバラになった骨は組み上がる事無く、それぞれがランダムな軌道を描き、こちらに攻撃を仕掛けてくる。その骨の速さはさっきまでの比ではなく、素早い。見てみれば、青いオーラを纏っている。HPが殘り1割を切ったことで、新しい攻撃パターンが追加されたのだ。

「返せぇ……我の寶を返せぇえええええ!!」

地底湖中に海賊王の聲が響く。その聲は本當に地獄の底から生者を呪っているようで、鳥が立つ。

(聲優さん、いい仕事しすぎじゃないかしら?)

と思いながらも対抗策を探る。

「くっ……【ルミナスエターナル】……これでなんとか」

魔法陣がフィールドに広がり、敵の攻撃からを守る。これでHPが0になる心配はなくなったものの。

「このままではクロノドラゴンが……」

骨によるオールレンジ攻撃は、徐々にではあるが、クロノドラゴンのHPを削っていく。しかしそれは、ルミナスエターナルでなんとかなった。だが、MPも問題だ。タイムメイカーの力でスキルを発する際は、カオスアポカリプス同様MPの消費はない。しかし、召喚獣は存在するだけでMPを消費し、0になれば消滅する。

こうしている間にもクロノドラゴンのMPは徐々に減っていく。時間が無い。

「……どうしたら」

「返せ……我の寶あああああああ」

「寶……そうか!」

ヨハンは閃きのままにアイテムストレージを開く。取り出すのは先ほどクロノドラゴンが【オールスティール】で奪った【海賊王の指】。それを取り出すと、地面に投げ捨てる。

「寶……たあああかああああらああああ」

地面に転がした海賊王の指目掛けて、散っていた骨が集結する。海賊王の姿に組み上がると、指を拾い上げ、自らの指に嵌めようとする……。その隙は絶対に見逃さない。

「今よクロノドラゴン! ――【グランドクロス】!!」

ゼッカ最強の技が、クロノドラゴンを通じて放たれる。十字の斬撃は無防備な海賊王に直撃すると、その々に打ち砕く。海賊王のから、ため込んでいたアイテムが滝のようにあふれ出す。

「ぜははあああああ」

それは笑い聲なのか、それとも斷末魔か。やがて海賊王のは黒い霧のようになって、霧散した。

「勝った? 勝った! ゼッカちゃんレンマちゃん、私やったわよ!!」

地底湖に、ヨハンの歓喜の聲が木霊していた。

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