《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》エピローグ 遙かな贈り
『というわけで、プレイヤー全員に素材引換券が3枚……レイド參加者に20枚配られるそうです』
電話の向こう側のゼッカが、なんとも言えない聲で呟いた。
ゴールデンウィーク初日の今日、GOOに大幅アップデートが行われる。昨夜からメンテナンス期間にり、今日の17時を過ぎれば、第三層が実裝される。
そしてそのメンテナンス時間を使って、畫配信サイトにてプロデューサーや聲優をえたトーク番組が行われる。そこではクイズなどの企畫や、新報公開が行われるのだが、そこでしだけ、この前の海賊王レイドの問題が取り上げられたそうだ。
ああなってしまった原因は大がゼッカの推理通り。また、海賊王にはアイテムをストレージに溜め込めば溜め込む程防が上がっていき、逆にスピードが落ちる。逆にアイテムを吐き出させ続ければ防力が落ちていき、スピードが上がるという特があったことが告げられた。
本來ならば大勢のプレイヤーが參加することを想定していたが、アナウンスにやや問題があり、プレイヤーが參加を渋る結果となったことを、深く反省するとのこと。
『まぁ、素材引換券なんて渡されたら、當事者以外はみんな許しちゃいますよ。私も、ちょっとラッキーって思っちゃいましたし』
「まぁ、穏便に終わって良かったわ」
圭はほっと一息つく。サービス終了は、圭のむところではなかった。
「失敗を糧に、より良いサービスを提供してくれるようになれば、それでいいのよ。最初から完璧なんて求めちゃいけないわ」
『流石ヨハンさん。やっぱり社會人は言うことが違いますね!』
「ええそうよ。あんな事でいちいち怒ってたら、すぐに老け込んでしまうわ。それで? 私への詫びとして、バチモンの新モーション追加及びバーチャルモンスターズコラボ第二弾の報は発表されたのかしら?」
『あれ……もしかして運営の事、全然許してない!?』
「私もコンちゃんの事を、あまり言えないわね」
『コンさんと言えば……あの話はどうするんですか?』
あの話とは、あの時コンに言われたことだろう。
海賊王レイドの後。やはり自分だけ特別なアイテムを貰うのは申し訳ないと思った圭は、ソロとコンに何かお禮がしたいと申し出た。
そして、ソロには海賊王から強奪した海賊王の裝備一式を手渡した。最初は「け取らねぇ!」と言っていたソロだったが、ついに折れて、裝備をけ取らされた。
「なんだこりゃ、つええええ! 俺、最強の剣士になれたかもしれねえぇええ」
と、海賊王裝備を纏ってみれば、不機嫌だった顔から一変。年のような瞳で喜んだ。
「いや、あんたが海賊王になってもうたらアカンやろ。三刀流のソロやろ?」
とコンが突っ込んでいた。
そしてコンは。
「もし魔王はんがギルドを作るなら……そんときはうちも混ぜて?」
と言い殘し、去って行った。どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。
『それでヨハンさん、ギルドを作るんですか?』
どこか不安そうにゼッカが言う。確かにギルドホームというがあれば、大事なアイテムを預けたり、集合場所に出來たり、々と便利だろう。だがギルドを作るには、最低5人のプレイヤーが必要だ。
もしギルドを作るのならば。今までのように三人だけで遊ぶ……ということは出來なくはないだろうが、難しくなっていくだろう。
だから圭の答えは「保留」だった。
『やっぱり今日はログインできないんですか?』
「ええ、ちょっと用事があってね。これから妹と甥っ子が……あら、來ちゃったみたい」
その時、丁度インターホンが鳴った。それは電話の向こうのゼッカにも聞こえていたようだ。
『じゃあ、切りますね』
「ええ。第三層、楽しんできてね」
『はい! その前に、氷のダンジョンを突破しないといけないんですけどね! くぅー燃えてきた!!』
電話が途切れる。
圭は妹達を部屋に招きれる。
甥っ子は持ってきた怪獣の人形で勝手に遊び始めた。手の掛からない良い子だ。
「お姉。早速本題なんだけど……」
妹は、し張した様子で、それを差し出してきた。それを見た圭の目が見開かれる。
「バチモンじゃない……どうしたのこれ?」
置かれたのは卵形の晶攜帯ゲーム。
そのバチモンはまるで々になったを組み合わせたようなヒビがある。晶は新しくなっているが、何も映し出されてはいなかった。
「これは?」
「これ……お姉のバチモン。あのとき、親父に壊されちゃったでしょ?」
あの日。父に泣きすがる私の姿を、妹は見ていたらしい。そして、ゴミ箱に捨てられたバチモン、私が怖くてとうとう拾いに行くことが出來なかったバチモンを、拾ってくれたのだ。
妹曰く、あの日以來、姉の圭はとても冷たい表をするようになったらしい。圭自にその自覚はなかったが。それで、なんとか元の姉に戻ってしいと願い、自分の手で修理しようと思ったのだ。だが、當時7歳か8歳だった妹がゲーム機を修理するなんて不可能に近く。
「余計……酷いことになっちゃって……治そうとすればするほど……元に戻らなくなって……だから怖くなって……自分の機の奧に隠して……それで……」
そのまま、いつしか妹の記憶から消えてしまった。しょうがない。何せ、妹はとてもかったのだからと、圭は妹を抱きしめる。
「ごめんね……ずっと忘れてた……」
「いいのよ。全部わかるから……ありがとう」
そのことを思い出すきっかけとなったのは、この前ここでVRゲームの機械のセッティングをしている時。その日初めて圭の部屋に上がった妹は、ガラスケースに納められた沢山のバチモングッズを見て、遠い日の思い出が蘇ったという。
泣いてしまった妹の頭をでながら、ふと思う。一最後にこうやって妹を抱きしめたのは、いつだったかと。
「でも、貴方本當になんでも出來るのね?」
姉の圭から見て、なんでも出來る自慢の妹。だが流石にこのような工作が出來るとは思わなかった。
「ああそれねー。旦那に手伝ってもらったの。ほら、プラモ好きだったじゃん?」
「いや、ほらと言われても。知らないけど」
「子供が生まれてからは、ちょっと控えてるの。シンナーだったり、だったり、あとパーツ飲み込んだら……ね?」
「ふふ、優しい人じゃない」
「でしょ? いつか息子と一緒にプラモ作るのが夢らしいよ」
「素敵な夢だわ」
お惚気話を頂いて、圭は改めてバチモンを手に取る。
「その全の割れの跡、消そうと思えば消せたらしいんだけど、旦那が『こういうのは殘しておこう』って言って……」
「なるほど……いいセンスしてるわ」
「でも……やっぱり……どんなに頑張っても、起させることは出來なかった」
妹の顔がる。理的なダメージや経年劣化によって、基板を復活させることは、不可能だった。かといって、別のを買ってきて中を移植するというのも、何か違う気がしたという。
「いいのよ。ここに居たあの子は……今は違う場所に居るから」
「え……それってどういう?」
そんな妹の言葉を遮るように、甥っ子がぶ。
「ああー! 圭ちゃんゲーム持ってる! 見せて見せて!」
妹は「あちゃー見つかったー」という顔をする。
「これ、僕に頂戴!」
「ダメよ。これは圭ちゃんの寶なの!」
と妹がキツく叱るが、出先でテンションの高い甥っ子はそれでは引っ込まない。
「ゲームは子供のでしょ? 圭ちゃん大人なのに? 変なのー!」
「変じゃないわよ。大人でも、大好きなものは、大好きなの」
「??」
圭のその言葉に、以前のような卑屈さはなかった。圭はそっと立ち上がると、引き出しからとあるアイテムを取り出す。
「年、君にはこっちを上げよう」
「やったー!」
「ちょっとお姉!」
圭が手渡したのは、卵型のケータイゲーム機、バーチャルモンスター復刻版。未開封新品だった。
「わーいわーい! ゲームだ」
「あーあこんなにいいやつ渡しちゃって。お姉いいの? ああなったらもう返して貰えないよ?」
「いいわよ。あと5個あるし」
「えぇ……」
起こそしていないものの、復刻品を集めていた圭。開封し遊ばなかったのは、あの頃の相棒に、どこか後ろめたさをじていたのだろう。
「でも、あの子飽きっぽいから、すぐ遊ばなくなるわよ?」
「いいのよそれで。別にバチモンじゃなくてもいいの」
圭は、戻ってきたバチモンを見つめる。
「なんでもいい。多くの語にれて、多くのものをけ取って……その中で、何か一つでもあの子の支えになってくれる語と出會えれば。私はそれでいいのよ」
「……そうだね。お姉にとってのバチモン、私にとってのホホホーホ・ホーホホみたいな何かが、あの子にも出來たら……嬉しいね」
「そうね……ちょっと待って。今なんて言ったの? 貴方の心の支えに何かとんでもない作品名が聞こえた気がしたのだけど?」
「あ、お姉ってばバチモンのブルーレイBOXコンプしてんじゃーん。見よう見よう!」
「ふっ、む所よ。すぐ準備するわ」
「おい息子ー! こっちに來い」
「どうしたのママー?」
「今からお前に神を見せてやる!」
妹は某社長デュエリストのような事を言いながら、甥っ子を抱き寄せた。
「それじゃ、再生っと――」
い子供が、古く、そして新しい語に、これかられる。こうして、語はけ継がれていく。
***
***
***
ゴールデンウィークとは言っても、祝日以外は會社に出勤しなければならない。出社した圭はPCを起し、缶コーヒーをすすりながら、一日の予定を確認する。
それに遅れて、いつもの騒がしい後輩が出社してきた。
「あれー! これバチモンじゃないですか-!」
圭の鞄に付けられたヒビりのバチモンをめざとく見つけた後輩は、大聲で騒ぎ立てる。
「懐かしいなー子供の頃、お兄ちゃんと一緒に見てましたー」
後輩の聲がオフィスに響くと、圭と同年代の男社員達が何事かと寄ってくる。
「ええ、哀川さんってバチモン好きだったんすか!? 俺もっすよ!」
「あのクールな哀川さんがキャラクターもののアクセを……ギャップ萌えだ」
「いや、アクセじゃなくてゲームだって。育ゲーム」
「俺、クロノドラゴンが好きだったわ」
「いや、そこはオメガプライムだろ」
「俺の時は人間の方が強いやつをやってました」
「あーそっちか。あれもなかなか」
オフィス中のアラサーと二十代が沸き立つ。中年世代に睨まれながらも、その熱は止まらない。
「そういや來年の四月から新アニメやるらしーぞ」
「マジか! あれ、俺は二月に映畫がやるって聞いたぞ? 哀川さんは見に行くの?」
「はい。その際は映畫公開期間中、全ての日程で有給を頂こうかと思います」
「ははは、哀川さんも冗談言うんだね……冗談だよね?」
「哀川さん有給殘數カンスト勢だからなー」
それ以降も、まだ始業前なのをいいことに、男社員も社員も、バチモンの話題に花を咲かせていた。その様子を見て、圭はくすりと笑う。
(なあんだ。ずっと自分が異常なんだって思ってたけど……全然普通ね)
盛り上がりは留まるところを知らない。おそらく部長が怒鳴るまで止まらないだろう。完全に會話のにり損ねた後輩が、ちょっと拗ねたように口を開いた。
「でも初代は神でしたけど、V2の最終回糞でしたよね。あとその人間がバチモンに進化しちゃうしー訳わかんないってじで……あれ?」
思わず忌にれてしまう後輩。オフィスが靜まりかえる。
「お前……言ってはならねぇ事を言ってしまったな」
「俺はV2派なんだが?」
「よく見てもねぇのに語るな」
どうやら一部の人達の逆鱗にれた後輩。
「びええええええんんん哀川せんぱああああいいいいたずげでぐだざいいいい。なんがみんながごわいでずうううう」
「あら貴方。今の自分の失言に、まだ気が付いてないの?」
「え、哀川さん怖い……見たことない怖い顔してる……ひいいいいお助けええええええ」
この日、この後輩の中での圭の立ち位置が【仕事を押しつけやすいチョロい先輩】から【ガチで怒らせたらヤベー奴】に変わったという。
***
***
***
「何してるのアンタ」
「卵見てるの」
圭の妹が自宅で家事をしていると、テレビを見ていたはずの息子が何かをじっと見つめていた。
「あらあら、バチモン開けちゃったの?」
「いいでしょ。僕が貰ったんだから」
「いいけど。ちゃんと育てるのよ? 放置したらママが貰っちゃうからね」
「うん。ちゃんと育てて、圭ちゃんに見せてあげるんだ」
妹がのぞき込むと、畫面の中には16×16ドットの卵が映っていて、脈打つようにいている。
「早く生まれないかなぁ……楽しみだよ」
そんな息子の言葉に、妹は昔自分も、姉の後ろからこのゲーム畫面をのぞき込んでいた事を思い出す。なんだか懐かしくなった妹は家事を中斷し、息子と共に、新しい命の誕生を待った。
「はやく會いたいなぁ」
「そうね」
妹は、果たしてこれは何分くらいで生まれてくるのだったかと記憶を巡らせる。一時間だった気もするし、一日くらいかかった気もする。子供の頃の一日はとてもとても長くて、毎日は永遠のようで。今から思い返すと、時間の覚が非常に曖昧だ。
ピ……ピ……ピ……。
その時、懐かしい電子音が鳴り始める。どうやら、もうすぐ生まれるらしい。息子の顔にが燈る。
ピ……ピ……ピ……。
ピピ……ピピ……ピピ……。
……ピピッ。
「やったぁ生まれた!!」
『……もきゅ?』
第一章 An endless tale -完-
お読みいただきありがとうございます。これにて第一章完結となります。
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